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ワールドロード  作者: オメガ
五章・corrotto cielo stellato
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線路の内側

 『前回のあらすじ』

 静久と力を合わせ、四方八方や能力を生かした戦法で攻め立てて行く二人。

 幾ら部位破壊をしても即座に再生され反撃を受けるも、遠距離攻撃の汚水蛇はsin・第三装甲が反射。

 新たな技・能力・連携で上手くグラッジを出し抜き、詠土弥の救助に成功。

 しかし呪術反射能力が仇となり、事前に仕込まれた呪術が倍増。変身が解けた瞬間、エックス達は消滅した。



「こうして世界は無事、人類自らの手で滅びましたとさ。めでたしめでたし」


 何処からか聞こえる、ナイア──もとい、アイの声。昔話の口調で話しているが、内容は……

 ちょっと待て……何故アイに声が当てられてるんだ?そんな疑問が浮かんだ時。

 暗めの赤に包まれた黒い球体に吸い込まれるのが見え、飲み込まれると同時に目が覚めた。

 木材の勉強机、薄暗くややひんやりと冷たい感覚、青いカーテンの隙間から差し込む陽の光……

 体や手足を伸ばし、勉強机の周りを見て思い出す。昨日、何をしていたのかを。


「……そっか。仮眠をする筈が、寝落ちしたのか」


 机の上に置かれた三冊のノート。その一枚を開き、記載した中身を確認する。

 作品名、ワールドロード。ブラックホールに飲み込まれた生命体達の意思、命が融合され。

 誕生した終焉の闇、オメガゼロ・ロードことワールドロード。この作品に置ける表のラスボス。

 小学生の頃から宇宙が大好きで、書き始めた夢物語。同時に、人の醜さを毛嫌いする理由の一つ。


(おはようございます。マスターは無理をし過ぎです。もっとご自身を労ってください)


「おはよう、絆。そうは言っても……お母さんや妹の為にもお金を稼いで、少しずつ貯金しないと」


(それはぬし様の選択じゃがな……二、三十万も貸して、返却は数年前の五千円だけじゃぞ?)


 頭の中……と言うか、心の中で話す絆は自分の体を心配してくれる。挨拶を返し、理由を話すと──

 今度は愛が手痛い事実を突いてくる。確かにそうなんだけど、お母さん側にも事情がある訳で。

 多分とは言わず、ほぼ大半は変人や精神か頭に異常のある人物だと思うだろうが……どうでもいい。

 キャラの台詞を考える為に成り切った結果だ。それに、瞑想のし過ぎである意味変にもなった。


(元友人に二万、女に三万、母親に二十数万……詐欺に十万。阿呆を通り越して大馬鹿者過ぎる……)


(まあまあ、三人共。ご主人様だって相手の事を思ってやってる訳だから……)


(それなら尚更だ……狐。利子の一つも無いと債務者の連中……永久に返さん可能性が高い)


 そのお陰か。自分一人では思い付かない思考まで、あれやこれやと出来る様になったのは予想外。

 正直、絆達の言葉は正しい。心の奥底で眠ってる人格も、正論は改善点を踏まえて教えてくる。

 そんな会話に耳を傾けながらズボンを履き替え、歯磨きや身嗜みを整えて家を出る。行き先は勿論──


「漸く伏見稲荷に行ける……最近は電車賃や税金が上がったり、お金の貸し出しで行けなかったし」


運否天賦(うんぷてんぷ)じゃな。こればかりは、ぬし様がどうこうではない)


 家から近い駅のホームに立ち、線路の内側……即ち、白線の内側で電車の到着を待つ。

 たまに観る洋風ホラー映画だと、線路の上や行き止まりの先。線路の外側へ行くのを時々観るが……

 あぁ言うのもやってみたくはある。いわゆる映画の人物に成り切ってみたい!と言う憧れだろう。


『まもなく、各駅停車の電車が到着致します。ご乗車の方は押さず慌てず、ご乗車ください』


 鬱病を患ってから──時々、思う事がある。何故自分は生まれ、苦しんでいるのか?

 霊魂が電車に乗り、あの世へ送られる作品もチラホラ見掛けるからか……たまに、無性に。

 白線の内側から、線路の上へ降りようとすら思う。楽になりたい?この苦しみから解放されるかも。

 追い詰められた人間の視界、認識力、思考。それが理解出来る。そんな奴に、ルールなんて関係無い。


(確かにね。人は追い詰められる程、認識力や思考力は狭まる。愚かで馬鹿な健常者は理解出来ない)


(故に本当の意味で障害者の苦しみを理解出来ず、過剰に反応して正論で叩く。本当に愚か者です)


 健常者は常に健康な者。故に障害者の苦しみなど、想像や話を聞いた程度でしか理解出来ない。

 勿論、中には疑似体験をして理解する人もいる。上級国民と健常者には理解不能な行為だろうよ。

 そう思う内に……この線路が、親に敷かれた人生のレールに見えた。内側でいい様に使われるか。

 はたまた、危険極まりない外の世界に出るべきか。その選択肢を選ぶのは──自分自身。


「ちょっ、危ないって!」


「離してよ!!親や大人の言う事が絶対に正しいこんな社会で搾取され続けるなんて、私は嫌なの!」


 女性の慌てた声に気付き、隣で騒ぐ女性二人組へ視線を向ける。其処には、投身自殺を図る学生が。

 必死に左腕を掴み、線路へ飛び出すのを食い止める友人らしき女学生。

 それを見て思った。友人が『正しいと思ってやってる行動は、本当に正しい事なのだろうか?』と。


(どうだろうね。僕個人の主観的には、自己満足から来る地獄へ落とし入れる手に見える)


(善悪も所詮……人類に都合の良い解釈でしかない。故にこれも、自分自身に都合の良い解釈……)


(国の上に立つ者が暴走すれば国民の支持は離れ、国は滅びる。別の国に移り、同じ過ちを繰り返し続ける)


 過ちは誰にでも起きる。が、一番の問題はその過ちや暴走を力尽くでも止める者の有無──だ。

 王を殴り、過ちや暴走を正せる者は貴重だ。王を殴るだけなら、愚者にも出来る。問題はその後。

 親も子を叱る際、何故叱るのか?何が悪いのかを共に考え、諭し、伝え、対策しなくてはならない。


(ですが、今の人はそれを面倒臭がって、やる人の数は減っていると思います)


(だね。社会でも言える事だけど、間違った歴史や作業方法を正さず、意見を聞いても実行しないのが多い)


(古い人……即ち、年老いた人族に見受けられ易い現象じゃな。新しい風を嫌う、頭の固い連中じゃ)


 線路を見て思う。この線路の様に、自分達の人生は誰かに敷かれたレールなのではないか?

 同時に、国や人類が滅亡へ向かう線路ではないか?そう思えてしまうも、自分には何も出来ない。

 そんなこんなを考えながら電車を乗り継ぎ、稲荷駅へ到着。いつ見ても大きな鳥居を見上げていたら……


「ねぇ。人は、助ける価値があるのかな?助け続けても……歴史は繰り返されるのに?」


「人を愛するって……何をどうすれば、本当に相手を愛する事へ繋がるの?」


「君がやるべき事は、本当は何だろう?言われた事をやるだけが、やるべき事なんだろうか?」


「優しさって、どんな事をすれば……本当の優しさなんだろう?」


 玄武・青龍・白虎・朱雀のお面を被り、白装束を着た子供達が話し掛けてきた。

 前に来た時、偶然見れた神楽をやっていたのかな?そんな疑問を置き去りにする質問を投げられ。

 何も言えなかった。歴史は繰り返される……これは本当に人類の歴史が答えを物語っている。

 人を愛しても相手が拒絶する愛も存在し、本当に相手を愛する行為が何かも分からない。

 やるべき・言われた事、優しさ云々も……心に刺さる。本当に出来ているのか、何が優しさなのかも。


「……ゴメンね?今の自分には──答えられないや」


 子供達の目線位まで屈み、謝罪と答えれない理由を伝え、苦し紛れに微笑んでみた。

 正しい行いは幸せ?と聞かれれば、断じて否と返す。人は善意を歪めて受け取ったり。

 善意を利用して冤罪で訴える腐れ外道も多数。そう言った質問なら、個人的な主観から言える。


「君の友達は……どんな人?本当に君の事を、友達と思っているのかな?」


「正しい事って、どんな事?正しい事をすれば、みんな喜ぶの?」


「それ……は……」


 友達──小学校からの友人と、意見の食い違いや自分の精神的問題で縁が切れたのを思い出す。

 傷付けたくないが故の嘘、SNSでの発言を常に監視されている様な恐怖心。それが……切っ掛け。

 間違いを注意するのは正しい。けど、正論ばかり突き付けたら、相手は疲労し議論から降りてしまう。

 それもあり……自分から縁を切った。正しい行いに恐怖しか感じず、心がまた壊れそうだったから。


「幸せって、どんな事?君の幸せは、みんなも幸せなのかな?」


「君の顔は──どんな顔?自分や他人が思ってる様な顔……なのかな?それとも、それが本当の顔?」


 幸せ──って、なんだろう?欲しいものを得たり飲み食いするのが……幸せ?

 詐欺を行ったりする人は、他人の幸せを踏みにじってまで……自分が幸せになりたいの?

 僕の顔……私が思う本当の顔は、どんな顔なんだ?俺には……わっちには、分かりんせん。

 言われて足下を見れば、道路にある白線の内側に立っている。そう──『安全な白線の内側』に。


「君が本当に進みたい場所は、何処にあるの?それとも、今居る場所がそう?」


「……違う。自分が進みたい場所は……安全な線路の内側には──無い」


 青龍のお面を被る子供に問われ、過去に起きた出来事を思い返し、恐怖に震える手で握り拳を作る。

 本当に進みたい場所。それは──世界の最果て(人生の最終地点)なんだと思う。

 今を生きる人達に、今後産まれる子供達に。身勝手ながらも警告と自分なりの答えを提示する事。


「そう。だから君は深く傷付いてなお、戦い続ける道を選んだ。少しでも良い未来を願って」


「線路の内側……それは周りに合わせ続け、傷付くのを恐れている者達が、足踏みをする場所」


「恥を恐れず訊ね、何事も否定をせず、嫌われる勇気を持ち続ければ……心は成長出来る」


「でも……勇気と無謀を履き違えないで。無知と恥を間違えないで。それは、決定的な間違いだから」


 生きてれば……他人の心無い言葉や否定・批判はある。優しさの時もあるが、それは受け取り手次第。

 受け取る側に余裕が無ければ、優しさや正義感が相手を気付け、死に追いやる猛毒にも成り得る。

 線路の内側で足踏みするのを悪いとは言わない。覚悟を決め、進むのであれば。

 一番悪いのは都合が悪い事を否定し続け、目を逸らし、自分で行動せず周りに助けを求める行為。


「大丈夫。君は……自分自身の過ちを受け入れ、許せる心を育んだ。もう、一人じゃない」


「そうかも知れない。だから、自分が学んだ事は誰かに伝えて行きたい。まだ見ぬ未来の為にも」


 白虎のお面を被った子供にそう言われ、目を閉じて思い返す。

 確かに親しい人との別れは沢山あったけど。また誰かと出会って、別れて……色々な経験を積めた。

 だからこそ。学び得た経験は誰かに失敗談と共に対策も教えれば──少しは良い結果に繋がるかも。


「泣かないで……君の物語はターニングポイントを越え、最後の物語へ近付いている」


「怯えないで。君の弱さは……強さにも成り得るから」


「挫けないで──君は決して、一人で戦ってる訳ではない。大切な仲間達が居るよ」


 泣いても良い。けど玄武の子が言うのは、心と勇気を折られて泣いてしまう点。

 白虎の子が言う言葉は──弱い部分も強みに成り得るから、上手く知恵を働かせようって意味。

 挫けないでと語る朱雀の子は、仲間達と力を合わせて困難を乗り越えようと言う。

 その言葉から、自分が向かうべき場所を理解して伏見稲荷大社へと走り出す。




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