罪を継ぐ者
『前回のあらすじ』
地下の超古代遺跡、天井に空いた穴から出た先は六甲牧場。早速コトハの先制攻撃を受け……エックスに変化が。
当人らしくない言動・不可思議な言葉や力を使うも途中で意識が戻り、魔力と霊力はガス切れ寸前状態に。
静久の呼び掛けに応じ、飛び出した恋主体の融合でコトハの呪術を込めた爆発から、エックスを守り抜く。
規格外の名を持つsin・第三装甲と強欲の力は凄まじいが、同時にベーゼレブルをも呼び込んでしまった。
此方が跳び上がると、奴も同時に近いタイミングで跳躍して此方に近付き手を伸ばす。
迂闊な接触を危惧すべき相手。ヴェレーノの実を食して化けた人族。それを喰らったとなれば尚更。
アレは元々毒の実。人間界で言う煙草や大麻と大差変わらない汚染・中毒物質。
自分達にとっても、毒以外の何でもない。ハッキリ言えば、身近な不発弾と同じ代物。
「悪いが、お前と遊んでる時間は無いんだ」
「俺を視認し、強欲の檻から出れる程狐が弱ったか?それともお前の欲が強まったか。ほれ隙あり!」
「ッ!?」
腕を掴もうと伸ばす右手を左手で払えば、今度は右手。空中で何度もその攻防を繰り返し。
地に足が着くまでの間、言葉も交わす。自分が相手をしなきゃ、コイツは気を引く為に静久を襲う。
言われてみれば恋が主体の融合なのに今、表に出てる人格は自分。恋の気配は感じるが、弱々しい。
手にばっかり意識が向き過ぎて、右足による顔面狙いの回し蹴りに反応が遅れ……直撃。
「何を遊んでいる……!」
「別に……遊んでる訳じゃ、ない。時間の経過と共に、力が徐々に抜けて行くんだ……」
右顔面から草が覆い茂る広場へ落下すると同時に、挽回が強制解除しながら滑り落ちる。
駆け寄る静久から叱責を受けるが……絆の時とは違い、意識が交代してから徐々に力が抜けると伝える中。
グラッジの左手から汚水蛇が飛び出し、静久が渦巻く水の盾で防いでくれるも……旗色は悪い。
「くひひひ!呪式・トラバサミ!!」
「チッ……中二病の方は任せる……!」
動けない此方に視線を向け、コトハが両手を叩くと同時に自分達の真下に大きなトラバサミが出現。
自分が立ち上がった刹那、直感が訴えた。左右から首に刃が食い込み──即死だと。
自由に動かない体。直面する死の恐怖に勇気が呑まれ、太陽を模様した勇気の紋章が黒く染まる。
生きたいと言う欲望。自身や敵に対する憤怒の怒りに、仮面の下で思わず、涙を流す。
「ぶっほ!!!直撃!!直撃してやんの!」
「…………七つの罪、それに連なる存在と連鎖してゲヘナが開くか」
直撃を受け、首の肉に食い込むトラバサミ。辛うじて脊髄が千切れず、ポロリと首が落ちない。
途切れない意識。死ねない苦しみと苦痛が、ただただ怒りと欲望を産み続けて行く。
笑ったのは誰だ?殴り倒したい。嘆きを、惨めな命乞いすら嘲笑う様に踏みにじった上で。
顔面を殴り潰し、内臓を引き裂き、生きたまま十字架に張り付け!鳥葬の刑に晒してやらねば!!
「ふ……ふふふ。礼を言う、三騎士コトハ。お陰でご主人様は、憤怒と強欲を取り戻す事に成功した」
「はぁ?死に損ないの分際で……ひぎぃぇぁぁあああ?!?!」
「黒い太陽──地獄の最下層第七層に住む暗黒神を象徴するもの……フッ」
神経を切られた首を動かし、背後に居るコトハに視線を合わせて俺の代わりに喋る恋。
最初こそ眉を歪め、喧嘩でも売ろうと言う顔だったが──足下から這い出る罪人の遺体に右足を掴まれ。
心地よい悲鳴をあげ、無事な左足で懸命に死体の半分白骨化した頭を蹴り、四つん這いで離れて行く。
するとバチンッ!!と高い音を鳴らし、トラバサミが弾かれる様に口を開き、体が自由になった。
「静久、文字の力でご主人様の命を繋ぐ。その間、奴らの足止めを頼んだ」
「……最近は本気が出せず、鬱憤と嫉妬が溜まる一方……纏めて掛かって来い。相手をしてやる……」
恋は左袖から筆を取り出し、静久に足止めを頼んで治癒の二文字にじっくり力を込め、書き始める。
頼まれた側は文句の一つもある──と思いきや、憂さ晴らしには丁度良い。的な不適の顔で返し。
体を横に向けたままコトハ、グラッジ、ベーゼレブルの三名に首を向け、右手で来いよ。と挑発。
「強い言葉を使う奴程弱く見えるってなぁ!!呪式・火焔焼死!」
「……こんな種火風情で私が焼け死ぬか……阿呆。此処で火事を起こすな……雨乞いの矛」
「雨──いや。これはもはや、嵐の域……」
一対三でも強い言動を取る姿に苛立ったらしく、何も書いていない護符に筆で文字を書き。
呪符として発動。静久の体が突然発火するも当の本人は涼しい顔を崩さず、右手を頭上に掲げれば。
暗雲を突き抜け、手に収まるは柄に白蛇が巻き付いた矛。直後に雷鳴轟き豪雨が降り、渦巻く突風。
「轟け雷鳴、降り注げ天の恵み……。我は汝らを従え、汝らは我らに命の恵みを与えん──」
「魔法の詠唱だが、聞いた事のない呪文だな」
「ッ!?ま、まさか……」
雨乞いの矛を掲げたまま詠唱を唱える静久。暗雲の雲は渦を巻き、雷鳴は鳴りを強め閃光を発し──
吹き付ける風が足を止めさせ、叩き付ける豪雨で視界が奪われ……詠唱は妨害されずにほぼ完了。
顔を三人に向け、右手と矛を振り下ろした瞬間──渦巻く雲に流されていた雷の閃光は中心に集中。
「自然を恐れぬ愚かな人類に、天の裁きを……カタストロフィック・シフト!!」
最後の詠唱を唱え終えた直後。渦巻く嵐が円を描き三人を捕らえ、中央に豪雨と落雷が降り注ぐ。
外に出ようとすれば嵐に刻まれ、棒立ちすれば豪雨に濡れ電導性は上昇、落雷の威力も跳ね上がる。
これが……本気を出した静久の力。蛇は豊穣を表す存在で川を象徴し転じて水神、雨を呼ぶ雷を象徴。
大自然の進化や生態系に人類が手を出す今へ対する怒り……って、こっちにも雷が降って来たんだが!?
「あばばばばばばば!?こ、こうなったら……虫の息のアイツだけでも──」
「グリード・チャージ!」
呪術や魔力障壁、グラッジを盾に使って幾らか防いだものの、感電したコトハが此方に目を向ける中。
恋は書いた治療の文字を首に押し当て、強欲充電の言葉と共に両手を掲げ始め。
強欲の力で落雷を自身とバックルへ誘導。落雷の膨大なエネルギーを魔力と霊力に変換し、全回復。
「流石は俺の好敵手。概念の上乗せか……面白い力だ。が……このまま勝ち進んでも良いのか?」
「百も承知さ。結末を知った上で僕達は、ご主人様と一蓮托生の未来を歩むと心に決めたからね」
「フッ……我が名はベーゼレブル。暴食の罪を継ぐ、黒き蛇なり。最後の一時まで、楽しませて貰おうか」
「僕の名は天皇恋、強欲の罪を継ぐ者。へぇ……アダムとイヴに禁断の果実を食べさせた本人とはね」
胸元で腕を組み、此方の復帰を見守っていたベーゼレブル。
口を開くなり筆の効果の一つを見抜き、忠告を言うが……恋は自身達の選択に後悔は無いとばかりに発言。
それを聞き満足げな様子で名乗りを上げる二人。お互い右手に光や闇から刀を召喚し構え──
「「いざ──参る!」」
ハモる声、全く同時に駆け出す二人。その動きはまるで……舞台劇を見ているのかと誤解する程。
首を斬らんと迫る刃に、背に届く長い白髪を揺らし屈み避け、切り返すべく柄を握り振り上げると。
返し刀で即座に振り下ろしへ繋がれ、打ち合う。響く金属音の後……片や宙に舞い、片や地に刺さる。
「打ち合う寸前、平面に当たる様角度を変えたな?」
「ご明察。刀の弱点は平面と峰が脆く折れ易いからね」
折れた刀を各々光と闇に戻し。お互いに力比べだと言わんが如く手を掴み合い、押し合う。
その最中、刀を折った・折られた理由を話し合う。これは製造過程と構造上からくる弱点。
話ながら仮面にある口の部分が上下に開き、深く息を吸い込み……白い息を吐き出す。
季節的には春。なのに出る白い息には疑問しかない。恋達は煙草の類は酷く嫌うからだ。
「白い息?煙が下に降りない辺り、高温らしいが……」
「開け──胸部装甲!!」
「な──!?!?」
その疑問はベーゼレブルも同じ。下に落ちる煙ならドライアイス。けど、これは上に昇る。
温度を口にした瞬間。声に反応して胸部の第三装甲が左右に展開、フル稼働する粒子砲が見えた直後。
裸眼で直視出来ない程の光を放ち、力比べの最中で逃げられないベーゼレブルを包む形で直撃。
昆虫魔人の頑丈な甲殻すら容易く融解させ、掴んだ両手を残し……奴は消し飛んだ。
「阿呆……そんなのを使わずとも、勝てただろうに……」
「ヤグに、ヤグにダヂダィィ!!」
「チッ……流石に動きを止めなくては、詠土弥を引き剥がせん……か」
その光景を、連続バックステップでグラッジの持つ大剣や爪から逃れつつ見ていた静久。
確かに少し時間と手間は必要なれど、手堅く勝てる方法はあった。まあロマン砲には禁句だけどね。
役に立つ、役に立ちたい。その本心と行動は真逆であり、グラッジは攻める手を一向に休めない。
「ッ?!ウッ、ウエェェ?」
「……無茶をする」
そんな時。上空から緑色のレーザーが飛び、グラッジの膝裏を連続で攻撃。
思わず引っくり返り、静久も暗雲の空を飛ぶ小さな戦闘機を発見し援護だと理解。
寧とマキの他、サクヤが操る小型戦闘機・ナイチンゲールは高く上昇し、降下と共に攻撃を再開。
「邪魔……!ジズグの手伝イ、出来ない!」
「丁度良い……おい、狐。こっちも手伝え」
「はいはい。持ちつ持たれつ、個人間では付かず離れずが友達として最適ってね」
仰向けのまま大剣を振り回して暴れ、突き出された大剣に被弾しそうな時。
ナイチンゲールは三機に分離し、左右上の三方へ回避。そのまま再度上昇し、一時離脱。
倒れてから起き上がるまでの間。静久に呼ばれ、掴んでいた手を引き剥がし棄て。
開いた胸部装甲を両手で閉めながら恋が近付くと、静久がジト目で睨んでいた。
「消えた包帯女の警戒と……奴の動きを止めろ……」
「お安い御用さ。でも、確かに警戒は解けないね。僕達の戦いでもちょっかいは出さなかったし」
「話はここまでだ……来るぞ……」
いつの間にか消えているコトハの警戒を緩めず、視線をグラッジに戻し動きを止めろと発言。
白い狐耳を左右に動かしつつ返答を返すが、ベーゼレブルとの戦いで何もしなかったのを疑問に思う。
グラッジが起き上がった時点で話を止め、此方を掴もうとする左手を二手に分かれ、左右に避ける。
「……もう少しだけ待っていろ……詠土弥」




