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ワールドロード  作者: オメガ
五章・corrotto cielo stellato
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強欲の罪

 『前回のあらすじ』

 遺跡の中へ入ったエックス達。外の様子を俯瞰視点で見るも、妖怪・怪異達が存在を証明すべく暴れる地獄絵図。

 そんな中。十八年前に倒した魔人ブリッツが次元穴を通り、時間を超えて現在に襲来。

 過去と今を生きる亡霊同士、再び激突するもブリッツは無月闇納に強化改造され手強い相手に。

 ピンチに陥った時、バックルが赤い靴システムを強制起動。ブリッツを倒し、コトハの誘いを受けて地上へ。



 静久を抱き抱えたまま、脚に魔力を込め天井に空いた穴へハイジャンプで一気に跳躍。

 地上に出た其処は予想外な事に、摩耶山側にある六甲牧場。チーズ館とめん羊舎の中間に在る広場。

 こんな異変が起きてなけりゃ。母さんや義妹に、自慢の仲間達を紹介したかったな……


「──!?」


「ンははははは!!!こんな見え見えの罠に引っ掛かるとか……んん~?」


 突然足下近くで起こった六連続の爆発。けど、それにいち早く気付いた静久が水の球体を作り。

 爆発から自分達を守ってくれた。周りの草原にも引火し煙が立つも、防御に使った水を解いて鎮火。

 コトハの馬鹿笑いが聞こえていたが……自分の姿を見て、眉をひそめているのが見えた。


「蛇に助けられても、グラッジの能力を前に物質は敵わないってわっかんねぇーんですかねぇ~?」


「ほう……試してみるか?」


 分からなかった。何故自分がそんな言葉を吐き、右人差し指を何度も手前に曲げ、挑発するのか?

 ただ……意識が闇の中に落ちない様に──ゼロ達が自分の両腕を掴み、引き上げてくれている。

 その事実を噛み締め、今の状態を理解すべく俯瞰視点で見てみるが、これは……


「ジズグ──ノォォォッ!!」


「人工ナイトメアゼノ……少し期待したが、所詮は贋作の紛い物。この程度か」


「……っ」


 大きく振り上げ、雄叫びと共に叩き潰す勢いで繰り出された、黒い大剣による渾身の一撃。

 これを左手で受け止め、涼しい顔でこの程度発言。今自分の体を操っているコイツは……誰だ?

 ゼロや霊華、ルシファーは自分を引き上げる最中だし、絆達は警戒して下手に動けない状態。


「命中した対象を腐乱・錆び・朽ちさせ、生命は膿で腐らす能力。まあそれも、所詮は当たればの話」


「いやいやいや!!触れてるのにどうして……」


「触れてはいない。そしてコレはモノですらない。寧ろコイツは……奪う側」


 グラッジが持つ能力を解析するも、コトハの疑問に素っ気ない態度で返し。

 能力を受けていない理由として、右手から闇を溢れ出させて見せ──同時に、黒い大剣を腐蝕。

 液体から固体となった大剣は形を保てず、自ら砂と化して崩れ落ちた。


「特定の属性しか効かないなら、虚無を叩き込めば良い。虚無・アイン」


 驚きを隠せない面々を余所に技名を口にし、開いた右手に集う闇を握り締めれば──

 黒い稲妻の剣と化し、横に一閃。するとグラッジの胴体は真っ二つになり、崩れ落ちる。

 属性や自分が使いたがらない技を斬擊に乗せるなんて……全く考えもしなかった。

 防御もそうだ。自分が意地になければ、仲間を護った上で倒し易くなっていたかも知れない。


「此度の夢見は実に良い。目が見え頭も回る。以前は遊んでいる途中で深い眠りに落ちたが……」


「何を訳のわかんねーこと言ってンですか!!」


 本当に訳が分からない。発言は理解出来るものの、何に対して言っているのかがサッパリ。

 それはコトハも同じらしく。喋りつつ両手で円を描きながら呪力を集め、一つに統合。

 怨嗟の声すら聞こえてくる呪力の大玉を此方に向け、苛立ちを乗せて撃ち放つ。

 が……それに対して自分の体を操る存在は全く動かず、左人差し指で大玉をなぞると──


「……は?」


「練りが甘いな。繋ぎ目が荒過ぎて簡単に裂ける……クソッ、またか」


 死霊の白い顔と怨嗟の声が聞こえる黒い大玉は突然裂け、空気中に散って行く。

 コトハの唖然とした表情からお気に入り、もしくは自慢の大技だったのだろう。

 それを容易く破られ、入り乱れる感情の処理も追い付かず、ただ呆然と立ち尽くすだけ。

 けど、またか。と言う言葉を残し、主導権が戻って来た。……そう言えば以前もこんな事、あったな。


「っ……」


「どうした……!?」


「さっきまで自分の体を操ってた奴……魔力と霊力を殆んど使い果たしやがってた」


 自由を取り戻した矢先、全身から力が抜けて地面に尻餅を着く。

 心配して静久が駆け寄り、訊ねてきたので理由を話すが……マジックが補給してくれた直後だぞ?

 それをあの三分間で使い切る寸前とかどんだけ~!!って話……は、後だな。コトハがニヤリ顔しとる。


「くひひひ……あの変な状態は切れて、ガス切れ寸前。さっきの屈辱、晴らしてやんよ!」


「チッ……狐!」


 勝機見付けたり!コトハからすれば、そんな感じかも知れん。此方は自分が予想外過ぎるガス切れ。

 対して向こうはまだまだ余裕あり。先程の屈辱を思う存分晴らせるとばかりに、やる気も満々。

 手のひらサイズの石に筆で何かを書き、此方へ投げるのを見て、静久は舌打ちの後──恋を呼ぶ。


「静久。僕を呼ぶの、流石にギリギリ過ぎないかい!?」


「参加させるだけ、ありがたく思え……」


「コール。第二装甲及び第三装甲、アウト・オブ・スタンダードフォックス──変身」


sin(シン)fusion(フュージョン)


 静久(白蛇)(天狐)。仲良く喧嘩しな。とは言わんが、せめて戦闘中はもう少し緊張感を持ってくれなんし。

 恋の腰にアークバックルが現れ、画面が黄色く光るスマホを右腰に装着後。

 バックルが反応し、自分と恋が黒と白のエネルギーに包まれ……恋主体の変身が完了。

 続けて肩・胸・腰・脚・腕に巫女衣装の装甲が追加された──直後、投げられた石が爆発。


「ギリギリ、間に合ったね」


「この感じぃ……あの巫女とさっきの神気臭い狐ぇ!?」


 白い冷気の中で黄色く光る眼。立ち上がり、右手で煙を払う様に振れば風が吹き、コトハへ返す。

 神気臭いとか言うけど。彼女も僕も、神に近しい領域まで努力して登ったんだ。そりゃそうさ。

 さて──色々と欲しくなってきた。あの苛立ってる顔を叩き潰したら、どんな顔を見せてくれるのかな?


「狐……グラッジから詠土弥を引き剥がす。手伝え……」


「手伝う前に盗んじゃっても良いんだよね?」


「あぁぁ~……イライラするぅ!!呪法・呪術大砲!」


 強欲の罪を着込んだ僕に手伝え……かぁ。まあ欲しいモノの内には入ってるし、いっか。

 先に盗んじゃうのもアリだけど。それはそうと、コトハの苛立ってる声と怨念を強く感じれる。

 これはご主人様の体を操ってた存在が、練りが甘いとか言ってたヤツだね。

 右袖の中に左手を入れ、普通の筆を取り出して迫り来る怨念の塊に向け、宙に分散の文字を書く。


「うわー……真似とかマジ萎えるー……」


「そうかい?僕の方が、君の上位互換に思えるけどね」


 書いた文字に当たった怨念の塊は空中分散して消滅。僕を真似と言うけど、君のそれも所詮は真似。

 そしてこれが文字と言葉の力。人殺しにも、人命救助にすらも成る太古から続く方法。

 僕の方が上位互換だと言う理由は、コトハのやり方は文字が染み込むまで約一分のタイムがある。


「狐……!」


「ヤグに、だづぅぅぅ!!」


「おっと、これはマズイね……はいチーズ」


 呼ばれて右横に視線を向けたら、ホースから放水する様に黒い蛇が飛んで来てる。

 仮に静久の役に立つと言うのなら、フレンドリー・ファイアは止めるべきだね。

 何はともあれ。汚水で汚れるのは勘弁だ。変身に使ったスマホを右手で取り外し、横向きにして撮影。

 すると黒い蛇の汚水は消滅。今度はコトハに向けて撮影し、消滅した筈の汚水蛇を送り返してやった。


「狐……お前、その能力……」


「あぁ、これかい?七つの大罪が一つ、欲しいモノは何でも奪う強欲の罪さ」


 逃げ惑うコトハを余所に聞かれたから答えるけど、正確にはスマホの撮影で切り取ったが正解。

 強欲故にあらゆるモノを求め、奪うのが強欲の罪。今の僕は言わば、北欧神話のロキ的な立ち位置。

 けどまあ。ご主人様達と融合してるから、悪戯とかは出来ないんだけどね。


「ジズグのデギィ、倒ズゥゥ!」


「それから……これが融合形態で唯一使えるのも、僕だけの特権」


「仙人が力に溺れ、傲慢になった程度にしか、私には思え……」


 胴体を復元後。右手で大剣を振り回し、左手の鋭利な爪を僕達の方へ向けながら暴れるグラッジ。

 元々僕専用の第三装甲は、接触・接近禁止系統対策用。その上、規格外な機能まで発現している。

 静久の言う通りかもね。でも、強欲は傲慢とは違う。勝利・生存と言う欲の為なら、この力だって使う。


「グオゥゥゥッ!?」


「挽・回──夏祭り和太鼓」


 そう。融合形態の中で、僕だけが……ご主人様と同じく、挽回を使える。

 夏祭り和太鼓──これは和太鼓打ちに成りたかった、憧れた者達が叶えられなかった(呪い)

 僕の衣装もお祭り衣装になるけどね。この力の有効点は、直接触れずバチで衝撃を打ち込む事。

 例えるなら段ボールで作る空気砲。威力は重鎧の外見をしたグラッジを吹っ飛ばす程に桁違いだけど。


「チートじゃん!!そんなの!」


「最初に変身する時から言っただろ?Out() of() standard()って」


 辛うじて汚水蛇を振り切り、僕達の前に現れてチート云々言うけど……君達が言えた義理ではないね。

 それに、敵に対応して装備を変えるって言うのも立派な戦術だ。能力者対決ともなれば尚更。

 それはそうと──遺跡に繋がった穴から、巨大な魔力が此方に向かって飛んで来るのを感じる。


「ほほう……これまた、随分と遊べそうな力を手に入れた様じゃないか」


 その正体は……赤錆色の甲殻を纏い、悪魔の翼を生やしたベーゼレブル・ツヴァイ本人。

 やはり、大罪の力を纏ったご主人様に引かれて来たか。数の優勢は相手側に移るが、やるしかない。

 ご主人様と融合してるから分かるけど、こう言うタイミングで来るコイツは……本当に鬱陶しいな。


「……静久。ある意味想定内の乱入者だけど、どうする?」


「一々聞くな……やるしかないに決まっている。……にしても、インサニアを捕食してくるとは……」


 僕達にとっては、ある意味想定内の出来事。コイツはご主人様が力を得る度、試す様に挑んで来る。

 それを知るが故に、静久は一々聞くなと返した。今度は魔人昆虫とも言えるインサニアを喰ったのか……

 あの甲殻、本当に面倒臭そうだ。スマホと袖から取り出した筆を元の位置に直し、降り立つ奴を睨む。


「アタシの援護に来たつもりぃ?」


「勘違いするな。私──俺の目的はあくまでも成長した破壊者のみ。邪魔と判断すれば容赦はせん」


「へいへい……」


 疑心暗鬼どころか、完全に信じてないと言うジト目で訊ねるコトハに対し。

 ベーゼレブルはキッパリと断り、目的は僕達だと宣言。戦術を上手く組み立てれば利用出来るかな?

 分かり切ってた返答を受け、ジト目の呪術士と獲物を狙う悪魔、操り人形が此方に視線を向ける。

 強欲って言うのも辛いね……。欲しいモノの為に、こんな面倒臭い奴らの相手をしなきゃならないなんてさ。




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