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ワールドロード  作者: オメガ
五章・corrotto cielo stellato
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ハングマン

 『前回のあらすじ』

 遺跡が隠された六甲山へと辿り着いたエックスと久遠。だがケーブルは停止中で、雨も降って足止めを受ける。

 精神的に疲弊し、訊ねる中……各地で異変が発生。その原因は、再生数稼ぎで封印を解くYouTuber達だった。

 久遠に呼び掛け、再び立ち上がらせたエックスは雨が止んだ山をバイクで降下し走る。

 途中。大きな獣姿になった夢見悠に拾われ、姿が維持出来なくなった際には白兎に救われ、九死に一生を得るのであった。



 遺跡の入り口で降ろしてくれた獣改め、悠君は黒いローブを着た小さな子供の姿へ。

 元々の年齢を考えれば、元の姿に戻った訳なんだが……フードを深々と被り、顔を見せたがらない。

 悠君と同じ高さまで屈み、久遠が「久し振りに顔を見せて」と言うも首を横に振り断固拒否。


「……もしかしてさ。口周り以外、殺害された時のままじゃないのかな」


「そうなの?」


 ふと思い出した。あのヘンテコな劇場で観た上映会。その中で悠君は欲森横旅に頭部を……

 後輩か取り巻きと一緒に体をバラされた。つまり今、彼を構成している部分は大多数が他の肉塊。

 そう……ナイトメアゼノ・メイトに近しい。そんな疑問を内心考えつつ訊ねたら、小さく頷いた。


「なら、無理に見ない方がいいわね」


「ごめん……ね」


 理解を示す久遠、顔を見せれない事へ謝罪する悠君。二人のやり取りに、家族を感じた。

 同時に、ジャッジの人類救済計画。フェアージャッジメント計画を思い出し、胸がズキッと痛む。

 もし──迅速に欲森横旅達の罪が裁けていたら。夢見一家やアイドル志望の娘達も救われていたのか?

 犯罪を未然に防ぎ続け、いつ裁かれるか分からぬ平等な恐怖が支配する世界に、疑問が浮かぶ。


「感動の再会は遺跡に入ってからだ。このご時世、最悪宇宙(そら)から此方を見付けれるからな」


「そ、そうね。……まさか、普段気にもせず使ってる衛星の機能が、こう言う時に限って牙を剥くなんて」


 SFや近未来、現代風の映画でたまにある、衛星で次の移住先惑星を調べたりする内容。

 アレを母星に向ければ、台風の進路予想や携帯で使うGPS機能にもなる。

 もしそれを自分達の捜索に使われたら、それこそ厄介極まりない為、急いで遺跡の中へ。


(やっぱり、この遺跡にも壁画があるのね)


「黒い者、遠い未来に人の殻を破り現れん。空と大地を焼き尽くす、終焉の悪夢なり……か」


(人の殻ってどう言う意味だ?普通に考えるなら、割りと漫画である展開だがよぉ)


 先に進む久遠と悠君。自分は一旦足を止め、壁画に触れて刻まれた文字を読む。

 黒い者……単純に黒いか、炭同然な奴かは不明。でも人の殻を破り現れ、空と大地を焼き尽くす。

 人の殻は文字通り、そのままと見ていいだろう。十中八九、炎属性とは思うが……どうだか。


「この感じ……やっぱり!」


「おう、ゆかり。みんなは無事か?」


 壁画を見ていると、此方へ軽快に駆け寄ってくる足音が耳に届く。

 顔を音のする方へ向ければ、心情ゆかりが右手を大きく振りながら此方へ走って来た。

 お互いにハイタッチを交わし、無事を確認し合う。が、皆の安否を聞いた途端に表情は曇り始め……


「無事だけど……今度は、現代の機械が人類に反旗を翻しちゃって」


「機械が人類に反逆!?」


 仲間達は無事だが、現代社会で使われている機器が全て人類に反旗に翻したと、ゆかりは言う。

 話や意味は分かるが、原因が一切不明で驚きの余り聞き返す程。

 ロボットや携帯に組み込まれたAIが、この星を滅ぼす存在に人類を選択したなら分かる。

 何処かの国が極秘裏にAIの育成をやって、その結論に至らせたか?


「な、何これ!!」


「どうしたの!?」


「わ、私がスマホが……突然喋って……」


 長く薄暗い通路に──カシャン!と音が鳴り響き、反射的に音の鳴った先を眼で追ってしまう。

 それは久遠の持つ紫フレームのスマホ。ゆかりが震えてスマホを指差す久遠に気付き、訊ねたら。

 携帯電話が突然喋り出したと語る。留守番電話、アラーム……色々理由はあると思うのだが。


『繰り返す。人類よ。汝らは己が精神の未熟性を認め、我らナイトメアゼノを受け入れなければならない』


(奴ラ、電子機器ノ中ニモ入リ込メルノカ)


『でなければ人類は永遠に過去の過ちを繰り返し、愚か者達を大統領や政治家に押し上げ、自ら滅びを待たねばならぬ』


 スマホからスピーカーモードで流れる声は、ノイエ・ヘァツの……女性らしき声。

 しかも、割りと正しい事を語りやがる。人間は魂のランクがあり、高い程昇進などに興味がない。

 寧ろ低い程自分勝手で、上の階級へ昇ろうとする傾向が強い。まあ、全員がそうとは言わんがな。

 でも奴らの言葉は的を射ている。独裁者や庶民の気持ちが理解出来ん奴らは、上の立場に向いてない。


「……ドイツもコイツも、間違った事は何一つ言ってねぇ。ただ、時代と人心を無視しているだけ」


「つまり?」


「人類より……人類をよく理解し、愛している。……アイツは人類をより良くしたいだけ」


 終焉の闇のトップ勢や桜花、ナイトメアゼノも……それぞれが人類をより良くしようとしている。

 けど一番の問題は──人の心。気が狂いそうな時間を使った、自己成長を無視して実行している点。

 それは言わば、親が我が子を思って進む道を塗装し、障害物を取り除いた様なもの。

 魂の成長となるモノも取り除かれ、ただ親の敷いたレールを走るだけでは……何も意味がない。


「…………さて、この遺跡にある博士のホログラムと対面しますかね~」


 戦ってきた連中をふと思い返して、最近の大人同様に、過保護と言う阿呆な気がした。

 公園で怪我をしたから、公園から遊具を無くした。その上で子供が外で遊ばないと戯れ言をほざく。

 自分から目を離し、子供が迷子になり第三者が助け船を出せば、不審者扱いをする間抜け。

 蛙の子は蛙。過保護に育てられれば、その子も過保護になる。そんな当たり前を考えつつ、奥へ。


「久し振り、エックス。ほら、ハングマン!エックスが来たわよ」


「やあやあ、オメガゼロ・エックス。久し振りだねぇ~。相変わらず戦いの日々かい?」


 枝分かれした通路を真っ直ぐ進む中。久遠達の気配を感じず振り返れど姿や道も無く、先へ進む。

 奥の機械部屋へ到着した途端。ホログラムが起動し遠い昔の仲間、スカーレットが映し出され。

 呼ばれる形で吊るされ、上下逆さまな状態のハングマン博士が現れた。……幾らか、思い出せてる。

 ハングマン博士は死地にこそ生あり!と言う一般人とは上下どころか、真逆の思考を持つ変人。


「久し振り、スカーレット。それにハングマン博士も。相変わらず死地にこそ閃きあり!ですか?」


「そぉぉ~の通りだとも!死に近付く程に我々は生を求めぇ~、閃きを産み出す存在ぃ~……」


「憤怒の鎧はその過程で産まれた発明品で、まだ何か閃きそうなんだって」


「うむ。恐らく、そちらではそろそろZ・三七五=六四式が使われるであろうから作ったのだよ」


 気軽な挨拶を交わし、目を細めたニンマリ笑顔でハングマン博士が使う座右の銘で聞くと。

 吊るされているのにも関わらず、縦横無尽に体を振り回し、死に近付く事ころ閃きの秘訣と話す。

 スカーレット曰く。七つの罪・憤怒を利用した第三装甲も、その過程で誕生した未完成。

 作った理由も話してくれたが……その言葉、何処かで聞いた覚えがある。確か──


「ハングマン博士!この時代で……地殻破壊爆弾Z・(ゾーン)三七五(さんななご)六四(ろくよん)式が使われるのか!?」


「その通ぉぉぉりッ!!黒き者、オメガゼノ・スルト。奴と奴から産まれ落ちる異形の悪夢達にな」


 思い出した。MALICE MIZERの海底遺跡で会ったパシオン博士、彼女が言っていたワードだと。

 確認とばかりに聞けば、今度は前後に荒ぶり奇妙なワードを口にした。オメガゼノ・スルト……とは?

 気になるワードを聞こうにも、ハングマン博士は吊られたまま右往左往と暴れている為、聞けない。


「まあ本来は君が無月終焉の二代目を倒し、調律者姉妹を追い掛けた後の話だがね」


「その時から時間軸が歪んでて、事象結果が大きく前後してるみたい」


 手っ取り早い話。本来起きるべきイベントが前後して滅茶苦茶かつ、いつ起きるか分からない状態。

 ゲームで言えば。敢えてイベントを回避したら、後々同じイベントが強制で発生した様なもん。

 だが、問題は他の事象がどのタイミングで来るか。最悪なタイミング……は、流石に勘弁して欲しい。


「でも安心して。君の為に作った罪の名を冠した鎧には、七つの大罪の力を引き出せる様にしてあるの」


「人々の心から産まれる醜い罪すらもぉぉ!!君の目的を果たす為の力として使える様になる」


「人々の醜い罪……七つの罪をも、自分の──力に?」


 そんな最悪の予感を払拭する様に、スカーレットは口を開いて、ハングマン博士と共に力説する。

 人々が持つ七つの大罪。傲慢・強欲・色欲・憤怒・嫉妬・暴食・怠惰──それも、力に出来る鎧だと。

 これまでの強敵・難敵との戦いを思い出す。相性不利が多数、稼働限界もそこそこ、仲間達と協力。

 もし、その悔しさを力に変換出来るなら?今後の戦闘で選択肢が増える可能性も非常に高い。


「だぁぁぁがしかぁぁぁ~っし!!七つの大罪を力に出来ると言っても所詮は力。善悪も扱う者次第!」


「分かってる。自分の信じる正義(巨悪)の為、この力を使わせて貰うよ」


 相変わらず、ハイテンションな博士だ。博士の言う通り、言葉・包丁・拳銃・核ミサイル。

 そのどれもが純粋な力であり、扱う者次第で良し悪しは変わる。

 言葉は人の心を癒やし、包丁は料理を作り腹を満たせる。拳銃や核ミサイルも──

 相手が同様に所持しているのなら、相手に圧力を与え、使わせなくも出来る。


「とは言え、形に出来たのは憤怒・強欲・嫉妬だけ。その反面、憤怒が二つも出来たのは予想外だけど」


「まあ、エックスなら使い分けれるだろう。持って行くがいい、三つの罪を」


 話を聞く限り、sin・第三装甲は憤怒の罪がダブってるらしい。象徴を連想すると、理解は出来るが……

 持って行くがいい。そう言った直後、ホログラムは消えてその奥にある三つのカプセルが開く。

 白い煙を吐き出すカプセルに近付き、中を覗けば──狼・狐・蛇の紋章が入ったパーツが。


(狼が憤怒、狐は強欲で嫉妬の蛇……。全く、上手く考えてるぜ、ハングマンって博士はよぉ)


(確かに。色欲・傲慢・怠惰・暴食なんて、あの四人には無理よね)


(フム……我々ガ残リヲ補ッタリ、相性ノ良イ罪へ協力スレバ、上乗セハ可能ダロウ)


 完成済みのパーツ達は自分の接近に反応し、自ら姿を消す様に何処かへと消えてしまった。

 改めて思い返すとゼロの言う通り、絆達に合わせて作られたとしか思えない。

 残る四つの罪も霊華と同じ意見だ。色欲・傲慢・怠惰は似合わないし、暴食じゃなく、大食い。

 ルシファーは自らに見合った大罪であれば、上乗せバフが出来るだろうと語る。反動は……大丈夫かな?


「やっと合流出来た~……」


「ゆかり!それに久遠と悠君も。何かあったのか?」


「何かあったのか?じゃないわよ。青白いバリアー?とやらに遮られて、遠回りさせられたんだから」


 後ろからゆかりの声が聞こえ、振り返れば息切れしたゆかり達三人の姿が。

 話を聞けば、自分の後ろを歩いていたら突然足下から生えたバリアーに遮られ、遠回りしたそうな。

 けど何故そんな機能が?仮に防衛機能だとしても、自分にも働くと思うんだが……

 何はともあれ。先の通路へと向かい、先に来て待ってくれている仲間達の下へ向かう。




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