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ワールドロード  作者: オメガ
五章・corrotto cielo stellato
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人であるが為に

 『前回のあらすじ』

 皐月一家の問題が済んだのも束の間。今度はネット社会を利用し、オメガゼロと言う魔女狩りが始まる。

 仲間達を先に避難させ、館に残り時間稼ぎを行うも、エックスを疑っていた久遠は館に残っていた。

 火炎瓶を投げ込まれ、燃え盛る館からバイクで脱出。嫌な予感を感じ、育ての母が住むアパートへ向かうと。

 其処には中、高生がヤッている場面に遭遇。怒りに身を任せ倒した後、アンパイアが現れ母子は無事だと知るのであった。



 六甲山。兵庫県南東部、神戸市街地の西から北にかけて位置する山塊。

 昔は電車・バス・ケーブルを経由して、山を歩いたものだ。牧場もあり、食べ物も旨い。

 山頂から摩耶山付近の展望台を見下ろす夜景を、神戸百万ドルの夜景だか一千万ドルの夜景と言う。


「着いた……けど、ケーブルカーは動いてなさそう」


「らしいな。バイクで無理矢理登ろうにも……どの道、此処等で休憩だ」


 六甲ケーブル前に着いたのはいい。が──暗雲から雨が降り始め、バイクを担いでケーブル乗り場へ。

 それを見越した瞬間、雨の勢いが急激に増して身動きが取れなくなってしまった。

 二人並んで木造ベンチに座るも会話はなく、ただ地面へ激しく打ち付けられる雨の音が聴こえるだけ。

 沈黙と冷ややかな空気が場を支配する中、寝てしまおう。そう思い目蓋を閉じようとした時──


「……どうして、あんな奴らと戦ってるのよ?」


「古き友人との約束を果たす為の旅。その寄り道」


 此方を見ず、俯いたまま訊ねて来た。虚ろな眼差しを床に向け、生気の無い顔をしていた。

 右隣に座る久遠とは逆の左側に視線を向け、素っ気なく答える。

 腐った政府から調律者姉妹に支配が移り、抗い続ける内に内部崩壊。続けて人智を超えた怪物の登場。

 正直な話、精神を病まない方がおかしい。寧ろ、よく今まで耐え凌いだと言える。


『き、緊急情報です!!ラジオをお聞きの皆様、テレビをご覧の皆様!今から話す言葉は現実です』


「……何よ、今更。こんな絶望的な状況、もう誰でも知ってるっての」


『い……今現在!原宿にて人間が樹になる異変、秋田県で突然人が消失する事件、様々な異変が発生中!』


「何っ!?」


 突如チャンネルが変わり、緊急情報を伝え始める。久遠は現状に諦めているのか、元気がない。

 諦めと言う絶望へ上乗せする様に、新たな異変が各地で起きていると報道する報道キャスター。

 その言葉を聞き、携帯電話の検索機能で調べる内──とんでもない事実が発覚。


『今回は、この石に封印された妖怪とやらを解放したいと思いまーっす!』


「はぁ……やっぱり、こう言う馬鹿が現状をより悪くさせるんだろうなぁ」


(真実を信じず、嘘偽りと捉えた結果でしょうね。もしくは──ただの好奇心かしら?)


 顔出しYouTuberが自撮りをしつつ、自分達や過去の人達の封印を解き、破壊する動画が幾つも……

 好奇心は猫をも殺す。とは言うけれど、現在起きている異変は──最低でも四つ。

 人は愚かだ。目に見えるモノ、科学的根拠でしか認めようとしない。

 それが今回の大異変を引き起こし、予想だと既に十万人規模の被害者は出ている。


「やはり、人類は自ら好んで滅亡への道を進む……か」


「なんで……なんでこんな事になるの!!私はただ!声優になる夢を追い掛けていただけなのに……」


 自分勝手に解釈していると、久遠が俯いたまま涙を流して泣き叫ぶ。

 ただ夢を追い掛けてた。それが人の醜い欲望と悪意に挫かれ、人類の誤った法による支配・圧力。

 馬鹿な人類によって開かれる滅亡への道。そりゃあ、泣き喚きたくもなるか。


「…………今の世の中は、正直者や真面目な奴が馬鹿を見る。けれど、そんな騙す奴らは救う価値もない」


(勉学トハ馬鹿ヲ見ズ、夢ヲ叶エル為ニ必要ナ知識。社会ニ出レバ、醜イ欲望ト悪意ニ遭遇スルカラナ)


 世の中から、暴力が消える事はない。夢はブレてしまえば欲望となり、悪意に呑まれて堕ちる。

 人が持つ根本的な欲望とは、楽して生きる。その為なら、他人や友人・家族すら蹴落とす。

 その筆頭が詐欺であり、恐喝・暴力・裏切りである。勉強はそう言ったものから自身を救う力。


「さあ、どうする。久遠、君が決めるんだ」


「私──が?」


「自分達と異変を解決して夢を追い掛けるか。夢を諦め、滅びの時を待つか」


 自分の物語は──ドゥームの約束を果たし、副王の依頼たる魔神王を討伐なり再封印。

 勿論、これは自分がやると決めたもの。だから、久遠に訊ねた。君の物語を、どう動かすのかを。

 すると顔を背け、無言の時間だけが過ぎて行く。諦めた……と認識し、バイクに跨がりハンドルを握る。


「諦める……訳無いじゃん。諦められないから、レジスタンスなんてやってるんじゃん!」


「なら、付いて来い。死ぬ可能性もあるが、上手く行けば夢と未来を掴み取れるかも知れんぞ?」


 右腕で溢れ出した涙を拭えば此方を睨み、本心を叫ぶそのやる気に思わず微笑み。

 命を落とす可能性がある事を告げ、右手を差し出す。来るも来ないも彼女次第。

 だけどそんな危険にも関わらず、久遠は自分の手を取り後部座席に座り。


「ピンチはチャンス。アイツが……永久姉が悠を産む前、そう言って私を励ましてくれたから」


「そっか。……近々、お姉さんと仲直りなり本音をぶつけとけよ?明日、生きてるかも分からんからな」


 微笑みながらピースサインを作り、そう言って見せた。確かに、その通りな時はある。

 相手の長所が短所であり、最大の攻撃が最大のチャンスとも言う。

 念の為、悔いが残らない様に永久との仲直りを~と言うも、そっぽ向いて口笛なんて吹く始末。

 内心溜め息を吐き、アクセルを回す。ケーブルカー横の階段へ飛び出し、登る勢いで晴れた空へ跳躍。


「そうだ。一つ、気になってたんだけどさ」


「なんじゃい」


「女性と一緒に禊とか夜の営みって──アンタが存在するのにどう必要な訳?」


 木々の枝を折る音が響く中、後輪から着地し山の獣道を無理矢理走っていると。

 何かを思い出した素振りを見せ、根本的な疑問を投げ付けられた。

 自分がこの世界に存在し続ける為に必要な理由は、幾つかある。余り話したくはないがな。

 でも、一々口喧嘩するよりはストレスを溜め込まなくて済む……か?そう思い、口を開く。


「禊は戦闘で受けた穢れを落とし、繋がりを結ぶ為。営みは繋がりの強化と、呪いの譲渡」


「禊の方は兎も角、呪いの譲渡って何?相手の異性から呪いを貰うって事?」


「そう。親しい仲である程繋がりの力は強く、呪いの力も強くなる。呪いの方は色々と意味があるがな」


 禊は霊力と魔力のバランスを取る為に必要不可欠で、相手との繋がりを通じて夢を知り。

 その夢は形となり、互いの繋がりが強くなる程形を得て、アイテムや武具へ姿形を変える。

 最後に呪い──コイツは人類で言えば、死を望む人へ無責任に生きろ!と言うエゴ、絆と言う鎖。

 パワードスーツに巻き付く鎖・ブラックサレナも、自分が完全なオメガゼロへ堕ちない為にある。


「ふ~ん」


「あっ……興味無いって返事。分かった。もう聞かれても教えてやんねーか……らぁぁ!?」


 ちゃんと教えてやったのに素っ気ない返事で返され、カチン!と来たのでもう教えてやらん。

 そう言った途端。バイクが持ち上げられ、宙に浮いたかと思えば四足歩行で走る動物の振動を感じ。

 下を見てみたら──なんと伏見の山で遭遇した筋肉剥き出しの巨大な犬。……犬判定で良いのかは未定。


「お兄ちゃん。ボク、遺跡、届ける」


「お兄ちゃん?」


「その声……悠!?」


 突如聞こえる幼子の声。その出所を探して周囲を見渡すも、それらしい人物は居ない。

 しかし久遠は声の主を知っている様で、ベーゼレブルが探せと言っていた夢見悠君だと言う。

 発現内容から察して背中から頭部側へ向かえば……首だけ此方へ振り向き、犬の様にバウ!と吠えた。

 だとすると……あの時に聞いた光、消えろ。的な台詞は今までの話を繋げると、欲森横旅の声?


「話……後。お兄ちゃん、余り……時間、無い」


「ありゃ、本当だ。手が透け始めた」


 正面を向き直し、走る速度を上げる獣姿の悠君は此方が存在出来るタイムリットが余り無いと告げ。

 確認してみると──確かに両手が透け始めており、バイクのハンドルも微妙に掴めない。

 魔女狩りの件で禊と営みが中止されりゃあ、呪いの補給も出来ず、姿の維持も難しいって話。


「な、なんとか遺跡まで間に合わないの?」


「分からん。食事で誤魔化してた時もあるが、最近はオメガゼロに寄り過ぎて殆んど食ってねぇ」


 正直、タイムリットがどれ程残ってるかなんて分からない。故に、曖昧な返答は控えたい。

 人と人外の天秤はオメガゼロ側に傾く程、食事や欲を必要とせず。人側に傾けば欲望を持ち易い。

 人に近付く程、現世に留まる行動を取り易いんだがねぇ……久遠は此方に背を向けてモジモジしてるし。

 これは間に合わんか?そんな思考が過る前に、誰かが背後に降り立つ気配を感じ振り返る時。


「そうなると……わ、私がやるしか!?」


「その必要は無い。私が専用の注射を打ったから」


 頭を両手で掴み、正面を向かせると手を離した次の瞬間には左の首筋にチクッとした痛みが走り。

 魔力と霊力が回復しているのを確認。改めて両手を見てみたら、透けていた手は実体を取り戻した。

 両手で顔を隠し、何かを決心して振り向いた様子の久遠だが……背後に居る白兎が否定し理由を説明。


「あぁ……そう」


「そもそも、彼は色んな意味で大食漢。貴女が一人で相手をした場合、壊れる可能性しかない」


「いや、確かにその通りだけどね?なんで知ってるのさ」


 ガッカリしたらしく、顔を隠していた手は糸が切れた人形の様に腕から力が抜け、姿勢も猫背に。

 追加で説明してるんだけどさ。極一部の仲間しか知らない情報をなんで知ってるの?

 ぶっちゃけた話、人間相手に本気でやると精神的な意味で壊しちゃう。だから桔梗とかに頼んでる。

 白兎に疑問を投げ掛けるも、言いたくないのか終始無言を貫き通す始末。


「遺跡が見えた。スレイヤー、今のは少なくとも応急措置。仲間と合流後、本格的に補給するといい」


「本格的にやったら、妖怪相手でも壊しちゃうんですが」


「…………そこまでは、私は関与しない」


 悠君が急いでくれてるのもあり、森や山々の起伏に隠れた超古代遺跡を肉眼で確認。

 本格的にエネルギー補給をしろ。と助言を受けたんだけども……壊しちゃう可能性の方が極めて高い。

 そう伝えたら、白兎から管轄外的な事を言われ、獣状態の悠君から飛び降りて森に消えてしまった。

 大量のご飯か聖光石があれば、多少は相手の負担が減ると思うんだけど。取り敢えず、合流すっか。




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