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ワールドロード  作者: オメガ
五章・corrotto cielo stellato
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魔女狩り

 『前回のあらすじ』

 巨大なナイトメアゼノ・コクーンを倒し、避難する人々の列に育ての母を見付けるも、敢えて接触せず。

 仮拠点の館へ戻れば、倒れ伏した各国の軍隊や等身大コクーン達の残骸が。襲撃を受けたと語るディーテ。

 問題は次々と発生し、如月皐月の両親が娘を各々連れ帰る気だったが、心身共に強くなった本人の発言で解決。

 ベーゼレブルの助太刀に疑問を感じ問い正すも、本人も無自覚だった様子。




「──!!」


 皐月一家の件が終わり、漸く禊が出来る。そう思った矢先、頭に遠井彼方の声が届く。

 「逃げて。人類による破滅への魔女狩りが始まる。ノクターンが鳴り響く時が来た」……と。

 また頭が痛くなると同時に。自分じゃない存在の記憶が次々と脳内を駆け足で過ぎ去って行く。


「ニーア、禊は中止だ。緊急警報。今すぐ全員に必要最低限の荷物を纏め、ライナーへ乗車し遺跡へ向かえ」


「っ……貴方も、ちゃんと来てね?」


 禊の中止を伝え、ズボンのポケットからフュージョン・フォンを取り出し緊急警報を発令。

 返ってくる言葉に対して深く頷き、ニーアが外に停車しているライナーへと走って行く。

 その後、まるで煙でも焚いたかの様に次々と出て来ては、ライナーへ乗車して行く仲間達。

 開いたままのドアから外の景色を見ると、夕暮れを背景に音を鳴らさず出発し、空を走る。


「幾ら便利な時代になっても人は──過ちを繰り返すんだな」


(そんなもんよ。悪を叩く為に掲げる正義感ってものは、悪魔すら凌駕する程の邪悪)


(イツノ時代モ、人ハ正義感ト言ウ悪魔ヲ宿シテイル。ソノ活動範囲ガ拡大シタニ過ギン)


 携帯電話を開き、Twitterを起動。アイアン・メイデンと戦い、ツイートなるものを初めて知った。

 ずらっと並んだツイートを眺めれば#オメガゼロ、#魔女狩りってハッシュタグが大半付いてる。

 引用リツイートされた動画では、救出した欲森横旅がスーツ姿でテレビ番組に出、自分を悪者扱い。

 怪物を引き寄せる悪魔、悪魔の仲間や家族を根絶やしにしろ!なんてツイートで溢れている始末。


『ではこの方がオメガゼロと言う、世界を滅ぼす悪魔なのですか?』


『えぇ、そうです。人間の見た目ですがコイツらの仲間や協力者達も悪魔で、夢見悠君を殺した真犯人です』


「保身の責任転嫁……か。どっちが悪魔なんだか」


 リツイートされている動画を再生すると、司会者とスーツ姿の欲森横旅が対談しており。

 救出してくれた自分達を悪魔呼ばわりな上、過去に犯した自身の罪さえ平然と擦り付けてくる始末。

 何も知らない第三者達は嘘の言葉を鵜呑みにし、悪魔と変わらぬ罵詈雑言や暴言を吐く。


「さて……そろそろ来る頃合いかな?」


(この特定班って奴ら、すげーな。俺達の仮拠点や家族関係、学歴とかまで特定してやがる)


 携帯を弄り終えれば閉じてポケットに直し、夕陽が落ち行く先を見れば……来た。

 大小ある懐中電灯と各々打撃系・包丁などを手に、自分が居る館を囲う様に動いている。

 これが──人の暴走した正義感。自分が正しいと思った事の為なら、他を平気で傷付ける悪魔の姿。


「籠城するホラゲー主人公達の気持ちが分かるな、こりゃあ」


 右眼の俯瞰視点を閉じ、館の中へ戻って鍵を閉め少しでも多く引き付け時間を稼ぐ。

 すると拳位はある石が投げ込まれ、高い音と共に窓ガラスが砕け散る。

 何故そんな事をするのか?その理由が幾つか思い付いた時、追加で投げ込まれる布入り硝子瓶。

 先端に火を灯したソレらが床に落ちた時。木造建築の館に火が燃え移り、文字通り大炎上。


「燃え上がるのは恋心とキャンプファイアだけにしとけってんだ」


「けほっけほっ!アツっ熱っ!!」


「……脱出するぞ、久遠」


 二階へ上がる階段にも火が付き、階段下から出て来る夢見久遠。

 何故命令を無視してまで残ったのか?それは分からない。だが、此処で死なせる気はない。

 差し出した右手を掴み、四つん這いの状態から立ち上がるも、そっぽを向いて何も言わない。

 すると天井をぶち抜き、館内へ響く音を鳴らして眼前に現れる愛車──アインスト・フューチャー。


「ヘルメットは無い。髪を焼きたくないなら自分のコートに頭を突っ込め、嫌なら髪を焼かれろ」


「……分かった」


 館が燃え盛る中。二人でバイクに跨がり、乱暴な言い方と理解しつつ呼び掛ければ理解を示し。

 自分が着ているコートの内側に上半身を突っ込み、腰に両腕を回し離れない様に固定していた。

 それを確認後、半ドーム状のバリアを展開しアクセルを吹かして館の壁をぶち破り脱出。

 そのまま走らせ、魔女狩りに来た民間人達の中へ突撃。轢かれたくない為、各々自ら避けて行く。


「何故指示に背き、館に残っていた?」


「……私達を囮に、逃げると思ったから」


「ハッ。そんな外道が平然と出来るんなら、あんなにも素晴らしい仲間達に恵まれてねぇよ」


 先の戦闘もあり、人が居ない街をバイクで走行中。コートに上半身を突っ込んだままの久遠に問う。

 申し訳なさを感じてるのか?声は普段より低く、落ち込んだ印象を受ける。

 答えてくれた言葉に対し、最初こそ馬鹿にする笑いを出すが、続ける言葉は全て本心で返す。


「…………悪い。寄り道して行く」


「何処に?」


「Twitterで特定班のツイートを見付けてな。杞憂で済んでくれれば……良いんだが」


 素晴らしい仲間達。その言葉を口にした時、ふと脳裏を過る──二人の母の顔。

 何処へ寄り道をするのか?そう訊かれるも、何処で誰が聞いているかも分からない。

 場所は敢えて言わず、理由を口にして本来は真っ直ぐ進む所を右折してルートを変更。

 微かな記憶を頼りに、母の住むアパートへ到着。バイクから降りて慌てて二階の一室へ向かうと。


「鍵が、開いてる」


(……覚悟ハ、イイカ?)


 右手でドアノブを捻り軽く引くと……開いた。同時に、最悪の展開が頭の中で次々と浮かぶ。

 ルシファーの言葉に戸惑うも頷き、中から聞こえる声に対して深呼吸をしてから一気にドアを開く。

 其処では……強制的にお楽しみを行う男性が六人、来訪者を判別・迎撃する男女のペアが二組。

 それを視た時。糸の切れる音が頭に響き──命乞いや静止も無視して、ただ殴って蹴っていた。


「駄目!それ以上やったら、その人達死んじゃうって!」


「ハァ、ハァ、ハァ……うおぉぉぉッ!!」


 男や女子供も関係無い。歯や鼻が折れ、顔が変形して血塗れになろうが、全く気にしない。

 急所や腹も執拗に蹴っては、徹底的に踏んづけてやったから、二度と使い物にはならん。

 復讐・報復・仕返し。そんな感情と共に、原始的な何かが沸き上がり、腹の底から吼えた。


「ひ、ひげほ!ひょいひゅ、ほんほょののばへぇもんひゃ!!」


悪魔(外道)の首を噛み千切る為なら、化けモンで上等だ」


 物理的に勝てないと痛感し、鼻血を流し顔もボロボロのまま部屋を出て行く一行。

 ……中学生や高校生も居たが、己が正しいと信じた事の為なら不法侵入やレイプすら平然とやるのかよ。

 虐めも人数を増やし、集団だと強くなったと誤解し強気に出るが──それは、魔女狩りも同じだな。

 久遠は先程まで襲われてた人達の様子を見てくれている。こう言う時、異性との同行は助かる。


「睡眠薬を大量に飲まされたみたい」


「そんなの、分かるのか?」


「うっ……そりゃあね。あんだけ騒いでも起きないんだから」


 後ろから声を掛けられ振り向いて近付き訊ねると、嫌悪感を表した表情で少し後退り。

 左手で口と鼻を覆いながら答えた。改めて自分の両手や服を見たら……返り血でベットリだ。

 十中八九、顔もそうだろう。遺跡で待ってくれているみんなの所へ戻る前に、洗い落とさなくては。


「……見て行く?布団には寝かせてあるから、顔位しか見えないけど」


「そう、だな」


 台所で顔や手に付着した血を洗い流し終わったのを見計らい、話し掛けてくる久遠。

 今回の失態を心に刻むべく、提案に乗り案内されて被害にあった母や妹の顔を見ようとしたら──


「違う……母さん達じゃない!」


「えっ?」


 そう。被害者の女性三人は母でもなければ、妹でもない。全く知らない人達。その言葉に久遠も困惑。

 そんな時。小さくもガチャッとドアが開く音が聞こえ、振り向くと同時に朔月を構える。

 だけど、構えた銃口は直ぐに降ろす事になった。何故なら、母さんと妹が寝かされていたから。


「お久し振りです。おや、新しいお仲間さんですか?」


「……アンタが、助けてくれてたのか」


「えぇ。私もこの方々には用事がありましたので。あぁ、話でしたら外でしましょう」


 玄関で母と妹を寝かせている預言者・アンパイア。盲目なのに、相も変わらず此方を正確に捉え。

 久遠の存在にも気付いている。疑問を投げ掛ければ、悩む隙や間も見せず即答。

 用事があった──即ち、もう用は済んだと受け取れる。此方の心でも読んでいるのか、自ら外へ。


「戦いとは戦士が行い、女は家事育児に重きを置くと認識していましたが……世界は変わりましたね」


「多分、悪い方にな。今や人の欲望が世界の平和を壊し、誰かの人生すらも破壊してしまう世の中だ」


 玄関を外に出た通路で横に並び、向かい側にある公園を見ながらアンパイアは話し始め。

 自分も……今まで見聞きして来た経験から、幾らか言葉を選んで答える。

 公園では此処に届く程「魔女狩り最高ぉ!!」と大声を上げる男が、組み伏した女性に暴行を行う。


「預言者・裁定者として私は、正義と悪。どちらが正しいのか……迷っています」


「正しさや嘘も人を傷付け、例え真実だとしても『正しい』と受け入れなきゃ、嘘扱いとなる」


 街のあちこちで聞こえる老若男女の悲鳴、嘲笑う男性と声高に笑う女性の声。

 鳴り止まない赤子の鳴き声。それを掻き消す大人や子供達の罵詈雑言、防犯ブザーの音。

 魔女狩り──魔女と認識されただけで、火炙りにされたり殺害されてしまう愚かな行為。

 何が正しいかなんて分からない。受け入れなければ、真実も嘘扱いだからな。


「成る程、良いお話を聞けました。では、私から情報を一つ」


「なんの情報だ?」


「紋章は体の一部に宿す事で、紋章に応じた効果があるそうですよ」


 何やら自分の言葉に思うところがあるのか二度頷き、紋章の使い方による情報を言い。

 アンパイアはアパートから出て行き、公園やあちこちで防犯や窃盗、犯罪行為を独自に裁いて行く。

 まあ、オプラートに包んで裁く。と言う言葉を使っている訳だから、見てる側は慣れがないと吐く。

 自分達も寄り道を終え、六甲山に在ると聞く遺跡へ向けてアクセルを再度吹かす。




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