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ワールドロード  作者: オメガ
五章・corrotto cielo stellato
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親子

『前回のあらすじ』


 消防隊の撤退時間やカフェで逃げ遅れた民間人を助けるべく、ナイトメアゼノ・コクーンの注意を引くエックス。

 今は協力関係故にと救援に駆け付けたアニマ、桜花の二名と紅絆。何とか倒す事に成功するも、第二陣が襲来。

 新たな第三装甲・憤怒の罪の性能で巨大コクーンの内部へ侵入し、核たるノイエ・ヘァツと会話。

 核に捕らわれた欲森横旅を救助後、ノイエ・ヘァツは意味深な言葉を残し逃亡。エックス達も脱出するのであった。




 怪物を倒した後始末と避難で、三列で移動する人々をビルの屋上から見下ろす。

 知的生命体は脅威に対し、一致団結し易い。本当の問題はその後に起きる出来事だと再確認後。

 ビルの出入り口より出て、賑わう声と人々の群れから遠ざかる様に拠点へと戻る最中。

 懐かしくも今すぐ声を掛けたい人物が視界に映り、口を開くも……今の現状を思い出し、立ち去る。


「本当に宜しいのですか?マスターを育ててくださった母君が、あの列にいらっしゃったのに……」


「限りなく近く遠いんだよ。自分達とお義母さん達が住んでる世界は」


 此方の僅かな表情から察し、確認も含めて聞いてくる絆に内心感謝を覚えつつ。

 二重の意味で、自分達は限りなく近く遠い世界に住んでいる。いわゆるパラレルワールド。

 寧曰く、六軸移動やらクオリアの移動云々と説明された挙げ句、クオリア次元論とか言ってたか。


「まあ何にしても。第三者や敵に関係を知られると、面倒臭いハメになるからな」


「そう……ですね。それは過去の旅で、我々は痛い程痛感しましたから」


 右手で頭を擦りながら左隣へ振り向き、精一杯の作り笑いと共に本心を伝えた。

 すると過去の旅──光闇戦争で体験した経験を思い出したらしく、表情を曇らせて話す絆。

 家族・友達・親友・同僚。それらは自分達を敵視する者達からすれば、都合の良い駒。

 そんな過去に起きたあれやこれやを思い返しつつ、戻って来たバイクに乗り館へ戻ると……


「……やっぱり、こっちにも来てたか。まあ、もう一方の連中はある意味予想通りと言えばそうだが」


「やはり救済計画など捨てて、選別からの駆逐に移るべきではないですか?」


「おいおい……例え冗談でも、言っていい事と悪い事があるぞ」


 ナイトメアゼノ・コクーンの死体が、館の周辺に無数転がっていた。これは単なる予想だが……

 寧の歌が持つ力を危惧しての行動だろう。過去に三つのムゲンを触媒に使い、この星を再生させた。

 もう一方は死体も混ざってるが、生命機能以外を麻痺され倒れ伏した状態の──各国の軍隊。

 ソイツらを踏みながら真っ直ぐ進み、館の扉を開ければRが絆の言葉に対して注意を促す。


「叱責。敵を斬れず、足手纏いだった貴方に言う資格はありません」


「いやいやいや。相手はただの人間だし……」


「人間は自分達が護る価値を見出だした個体の総称。それ以外は人だ、それだけは間違えるなよ?」


 が──口にした注意は内容を変えて、ディーテからR自身にも降り掛かり弁解するも。

 自分達の間で使う人間と言う言葉は、護る価値があると認識した個体を指す。

 それ以外は人であり、種族名である。その点だけを指摘し、館内へ入り扉を閉め寧の居る研究室へ。


「襲撃があった様だが……みんな、無事か?」


「おぉ、貴紀殿!ウヌ。儂らも幾らか傷は受けたが、既に治療は終えておる」


「補足。国外の軍隊は我々の捕獲を目的に、コクーンは歌の阻止に現れた模様」


 研究室に入るとベビドが居り。チラッとマキナを見れば、鎖付き鉄球の仕上げ作業をしていた。

 他にも遥やベーゼレブル、ヴァイスも居て、トワイや大将に包帯を巻いている様子。

 尋問なりして口を割らせたのか。ディーテは国外の軍隊の目的を口にし、コクーンは予想で話す。

 仲間や家族に被害が出ているならば、やはり攻め込んできた国を潰すのが先決か?そう思った時。


「案ずるな。国外の軍隊には私と魔王達で直々に手土産を渡し、丁重に母国へと帰らせてある」


「……了解。その件は後々詳しく聞くとして、コトハと詠土弥の行方は追跡出来てる?」


 ベーゼレブルが自分の左隣に立ち、小さい声で耳打ちをした内容もあり、先程の思考を停止。

 周りに感付かれない様、ディーテの言葉に返す形を取りつつベーゼレブルにも返答を返し。

 パソコンとにらめっこをしながらもキーボードを打つ寧の右隣に近付き、問い掛ける。


「予測地点は計算済み。後の問題は残る三つの第三装甲と……エイド・サーヴァントマシンの材料かな?」


「憤怒は予備の第三装甲・一号の魔改造だし。追加で言えば、オプションの材料も色々と欲しいね」


 予測地点は……か。贅沢を言えば新たな第三装甲などが全部完成した後に挑みたいが、時間が惜しい。

 と言うか、騎士をモチーフにした装甲を、よく龍の装甲に魔改造して完成させたなって思う。

 今のところ、性能は良くも悪くも一点豪華主義。憤怒の怒りで力を引き出すって感じだな。

 そう思っていると、何やらロビーから聞き覚えの無い声と皐月の声が微かに聞こえ、足早に向かえば。


「皐月、お父さんの方へ来なさい!」


「駄目よ皐月。お母さんの方に来るのよ!」


「い、痛い……は、離して」


 スーツ姿の男性と女性が名前を呼び、逆三角形の形で左右から腕を引っ張られる皐月。

 苦しげに、弱々しい声で話すも二人は頭に血が上っているのか。全く応じる気配がない。

 まるで離婚した夫婦が親権を奪い合う姿にも見え、昔を思い出して憤りを覚えたのもあり──


「ストップストップストォォップ!!ご両人、娘さんが痛がるのも目に入らんのかい──っ!?」


「す、すまない……」


「ごめんなさい……」


 文字通り間に割って入り、やや怒気を孕んだ大きな声で二人の肩に触れ、引き離した時。

 頭の中に様々な映像がフラッシュバックの様に、鮮明に流れ込んで来た。

 言われて気付いた様で、我に返ると同時に皐月へ謝罪の言葉を投げ掛ける二人。


「理由は伝えたのですかな?もし何も伝えず連れて行くのは──余りにも強引過ぎではないかね?」


「そう……ですね。まだ、伝えていません」


 タイミングを見計らったかの様に、神父姿のベーゼレブルが扉を開いてロビーへ入り。

 斜め下に向けて両手を小さく広げ、諭す真似事をしながら此方へ近付いてくる。

 皐月の父親・如月睦月は頭に上った血が下がったらしく、反省した様子で話す。

 母親・如月弥生は苦虫を噛み潰した顔でそっぽを向き、何も話そうとしない。


「私はレジスタンスに援助を行い、皐月が洗脳され利用される前に助けだそうと此処に来たんです」


「洗脳して利用しようとしてるのは貴方の方でしょ!?私の方こそ娘を引き取り、守る為に来たのよ」


 双方の主張は子煩悩と言える程に我が子を想い、心配していると受け取れた。

 男女で違う脳と思考による方向性やゴールは違うがな。取り敢えずまあ、引き取りに来たと……

 チラッと皐月に眼を向けると此方の視線に気付き、短く首を二回横に振った為。

 応える様に頷き、左手で背中を優しく叩く。自身の意見を両親に伝える勇気が出る様に。


「ごめんなさい……あたし──お父様お母様の下に帰るつもりはありません!」


「さ、皐月!?」


「何か、弱味を握られているのね。なら、アイアン・メイデンに追加の依頼を出して仕留めさせるから」


 謝罪と一礼から始まり、右手を胸に当て真剣な表情で本心を吐き出す。

 睦月さんはその言葉と意味に大層驚き、弥生さんは何か誤解をしている。にしても……

 アイアン・メイデンの名が出た辺り、自分に殺し屋を差し向けたのはこの人かい!


「違う!あたしは親が決めたレールじゃなく、あたしの意思で決めたレールを走りたいの!」


「馬鹿を言うんじゃありません!そんなの、お母さんは許しませんよ!」


「許して貰う気はありません。あたしは──お父様お母様の操り人形じゃないんですから」


 理解されず涙を滲ませたまま、母親の言葉を強く否定し、自身の意見・主張を口にするも。

 反発されたのもあり、再度頭に血が上った弥生さんが怒りを全面に表した声と表情で猛反対。

 否定から始まった母親の言葉にも真っ直ぐ向き合い、親の敷いたレールから離れて行く。


「あの気弱で泣き虫だった皐月が……分かりました。私はもう、皐月を連れ戻しません」


「ほう。大金を注ぎ込み探し続けた娘さんから随分とあっさり、手を引かれるのですな」


 意外や意外。父親の方は皐月を見て何やら呟いた後、何が分かったのかは知らないが。

 皐月を連れ戻さないと自ら手を引いた。ベーゼレブルは捜索に大金を注ぎ込んだのを知ってるらしく。

 それを問い詰めたら此方に視線を向け──何かを理解した様に目を閉じ、ゆっくりと開き。


「誘拐犯だと思っていた方が皐月の思い人で、立派な人間にしてくれた恩人なのですから」


「誘拐犯……そうよ!コイツが娘を拐ったのが全ての原因じゃない!」


「お母様、そうじゃなくて……」


 皐月の想いを察し、手を引く理由を話す睦月さん。反対に弥生さんの誤解は解けておらず。

 今の状態になっているのは此方の所為だと主張。皐月が理由を話そうとした時──

 「まだ分からないのか!!」館内に響いた。とさえ思える睦月さんの大きな怒号が放たれた。


「皐月は愛情に飢えていた。それは私達が仕事を優先した為だ!だから家を飛び出し、彼の下へ行った」


「だとしても……」


「それに、皐月はもう──立派な大人だ。大きく、立派な人間としての心を持ってくれた」


 自らの気付き・過ち・理解。それを口にし、まだ理解していない奥さんへ伝えるが。

 まだ納得・理解出来ず、口ごもる。優しい眼差しを我が子へ向け、右手で頭を撫でながら話す。

 満足したのか。愛娘の頭を撫でる手を止め、そして再度此方へ向き直り、礼儀正しく頭を下げた。


「親として未熟者な私達に代わり、娘を成長させてくださり……誠にありがとうございます!」


「……自分はただ、彼女の意見・主張を汲み取ってあげただけ。後は彼女本人の成長ですよ」


 自身の未熟さに心が痛み、今にも泣きたいのが伝わる程に真剣で、真っ直ぐな言葉に胸打たれ。

 何をしたか?成長は皐月自身の行動・結果だと伝え、右手を差し出す。

 その意図を察したらしく。ガッチリと握手を返され、暫くして漸く頭をあげてくれた。


「それに……とても素晴らしい才能を持った娘さんには、何も助けられていますので」


「ッ──娘を……宜しくお願いします!!」


 本心と本当の事を伝えたら、何故か突然涙を流して再度頭を下げられ。なんと言うか……

 皐月の結婚相手として見られている様な、そんな感じに受け取れる言葉を返された。

 確かに皐月やみんなの好意には気付いてるし、一部を除き友達以上恋人未満なお返しはしている。

 だけど、ご両親から娘さんを差し出されると言うか。そう言うのは……初めてだな。


「もし何か協力が必要な時は、此方に電話をください。出来うる限りでお力になりますので」


「あ……ありがとう、ございます」


「皐月。いい人と出会えて、良かったな」


 一枚の名刺を渡され、社畜時代の癖で取り敢えず受け取ってしまった。

 爽やかな笑顔と言うのもあり、要りませんとすら言えなかった。まあ、貰っておこう。

 皐月に言葉を伝えると。未だに何か自分の正統性やら言い訳を呟く弥生さんの手を引っ張って行った。


「にしても、珍しいな。お前が他人の家庭に口を挟むだなんて」


「そうか?まあ──家庭を持つと言うのも悪くはない。そう思えたんでな」


 本当に珍しかった。自分達を除き、人類や他の生命体は食い物って認識だと思っていたのもあり。

 他人の……それも家庭の事情に口を挟むなんて幻想の地で戦ってた頃とは大違い。

 自身の変化に気付いているのかは知らんが、まるで本当に家庭を持った、持っている。

 そんな経験がある風に話す横顔は何故か──時に見守り、手を差し伸べる優しさを感じた。




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