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ワールドロード  作者: オメガ
五章・corrotto cielo stellato
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憤怒の罪

 『前回のあらすじ』

 襲い来る巨大なナイトメアゼノ・コクーン。倒すには武器も人手も足りず、足止めと撤退しか出来ない中。

 ディーテを通じて応えてくれる者達。黒刃を手に挑もうとするも、目の前に立ち塞がる三騎士・コトハ。

 ならば先に……と挑むも、コトハが自身に宿す呪神・珠沙華(じゅしゃげ)が表に現れ大苦戦。

 されどエックスの中に眠るアダムが目覚め、撃退。しかし今度は岩石のナイトメアゼノ・コクーンが立ち塞がる。



「おぉっ!?」


 意気込んだものの、ピンボールさながら建造物に弾かれ、加速した怪物の体当たりを体全体に受け。

 吹っ飛ばされてはカフェの硝子壁を豪快な音と共に、背中で砕きながら滑り込む様に入店。

 床に落ちて何気無く首を動かすと、逃げ遅れて机の下に隠れた大学生や親子連れの客と目が合う。


「ひっ!」


「っ……助けが来るまで、此処から下手に動くな」


 動く度に酷く痛む体へ鞭を打ち、油が切れ錆びたロボットの様な、ぎこちない動きで立ち上がる。

 息を切らし、平時より速く脈を打つ鼓動。痛む後頭部を右手で擦りつつ歩き。

 扉へ右手を伸ばせば、赤く滑る液体が付着していた。いつもの事だとそう自分に言い聞かせ、外へ。


「人類は──誤った進化の道を辿っている。故に我らと融合し、過ちを正さねばならぬ」


「融合して一個体の生命体になる事が……過ちを正す、唯一の方法とでも言うつもりか?」


「然り。何故ならば人類の精神年齢は余りにも幼く、自己中心的で愚かが過ぎる生命体故に」


 出て来るのを待っていた怪物は唐突に喋り出し、人類は誤った道を辿っていると話す。

 正直、それは正しい。時代が進み、科学が進歩して行くにつれ、人の愚かさは増す一方。

 その解決法を口にするも、それはこの星に封印した原初の闇と同じ内容。

 人類をボロクソに評価する怪物だが、ぶっちゃけると自分も似通った評価な為、言い返せない。


「だからと言って──あなたの解決案が採用される訳でもありませんのよ?」


「同感。かく言う私達の解決案も自己満足かディストピア、ポスト・アポカリプスな訳だけど」


 左足から力が抜け、無理の祟った体に電流が走る程の激痛で地に膝を着け、動けなくなった瞬間。

 怪物を構成する岩石の体から放たれる誘導式のレーザー弾幕。なんとか動こうとした時……

 上空から目の前に舞い降りたアニマ、桜花の二人が二枚の髑髏盾と空間を歪ませ、弾幕を全て弾き。

 その解決法が採用される正しい物でもなく。かと言って、自身達の解答も最悪な物だと言う。


「貴方は少し休んでなさい。そしてコイツを退けたら、貴方の計画を教えなさい」


「えっ?」


「私も……貴方の進める計画に、興味がありますの」


 弾幕が止み、空間湾曲は消え髑髏盾がアニマを守る様に周囲を浮遊する中、二人はそう言った。

 聞き間違いではない。自分の進める計画に、興味を持っている。理由までは分からんが。

 話すだけ話し、愛用する刀を手に怪物へと一直線に飛び込み、切り込むアニマ。

 桜花は右側へ跳び、滑り込んで着地すると同時に裾を捲り、右脚のホルスターから拳銃を抜き発砲。


「真の王は言った。ホライズンを含む古き種は放棄。人類と融合し、新たな種を産み出すと」


「そんな……我らが王は、そんな事は求めていない!」


 左斜め下から右斜め上へ、握った刀を一気に振り上げる──も、刃は奴の右腕に……いや、違う。

 刃と右腕の間に半透明の波紋を広げる歪んだ空間があり、それを突破出来ず防がれていた。

 コイツとアニマの言う王は全く違う存在と思うも、見ず知らずの相手を話から想像するのは難しい。

 桜花の撃つ弾も半透明の波紋に止められ、援護射撃だとしても、意味を成させない恐るべき防御力。


「マイマスター、援護に来ました」


「恋に愛、静久の三人は?」


 二人が引き付けてくれている間に、絆は自らの赤い翼で滑空し、滑り落ちるも駆け寄ってくれた。

 他の三人は何処か?そう訊ねたら「新たなる第三装甲の研究が佳境を迎えていますので」

 と言われ、後は三人のデータだけだそうだ。即ち、絆の分は終わっている。もしかしたら……


「絆、自分のスーツや君専用の第三装甲は使えるか?」


「はい。ただ、エイド・マシンやサモン・サーヴァント形態は未完成で、今の性能は約四十%ですが」


「使えるだけ十分だ。行くぞ、融合だ」


「はい!」


 訊ねてみれば、絆専用の第三装甲は完成し残るはサポートユニットの完成を待つのみ。

 現状でも戦えると言うのでもう一度痛む体に鞭を打ち、絆の差し出す左手を受け取り立ち上がる。

 が……何故か勇気と絆の紋章が輝き、気付けば紅絆の中で普段の逆。紋章も龍が鎖で拘束された形へ。


「コール。第二装甲及び第三装甲・ドラゴンエンペラー……変身」


sin(シン)fusion(フュージョン)


 自分専用のアークバックルが絆の腰に現れ、フュージョン・フォン……では無く。

 画面が赤く光るスマホを右腰に装着後。バックルが反応し、黒と白のエネルギーに包まれ変身完了。

 外見に大きな変化は無いが、続けて上半身・腰・脚に真紅の装甲が追加され──

 龍の仮面の眼が紅く光る。パッと見、動き易さ重視かつ、腰の装甲から膝まで伸びる赤い衣が特徴。


change(チェンジ)……Seven(七つ) Deadly() Sins(大罪)Dragon Sin(憤怒の罪)


「さぁ──エンペラータイムと行きましょう」


 黒い第二装甲に龍を模倣した真紅の第三装甲は、俯瞰視点で見ても威圧的で息を飲む程。

 バリアごとアニマを払い除け、体内放電らしき青白い雷を周囲へ、無差別に飛ばし走らせる。

 雷の一本が絆の左頬を触れるか否かですり抜け、後ろに在る喫茶店へ伸びようとした時。


「民を護るは王の務め。勿論、癌となる民は切り捨てますが……民を狙ったその罪、憤怒に値する!」


「何故だ。同胞、同類たるお前達が何故、我らの邪魔をすると言うのだ」


「同胞・同類だからこそ邪魔をし、殺すのだと理解しなさい!!我々は不要の存在なのだと!」


 雷を左手で掴み、右足に力を込め一気に間合いを詰めて右拳を顔面へ叩き込む。

 されど例の白いバリアに阻まれ、届いていない。何故邪魔をするのか?その問いに対し──

 理由を口にしつつ、バリアに弾かれた勢いを利用し、徐々に加速しながら怒濤の殴打を繰り出す。


「辛い、怖い、苦しい。その苦痛を消滅させるべく、我らと人類は一つと成り、真なる永久の安らぎを」


「……何も分かってないわね。人類は苦楽を経験し過ちに気付く、成長の遅い植物と同じなのよ」


「そう言う意味だと私達は、人類と言う盆栽をどう整えるか?を、議論している様なものです……ね」


 痛みを伴う全てを無くすのが目的と言うも、少し間を空けて右側から二丁拳銃で撃ちまくる桜花。

 人の肉体的な成長は早い。が──内面的な成長は個々あるものの大抵は遅く、育ち難い。

 怪物の背後に立つアニマへ向け殴打する腕の加速は止まらず、バリアを殴り続ける。

 人類を盆栽に例え、各々の計画を議論と笑顔で言い換え……背中に突き刺した刀が腹部まで貫く。


「これにて……御仕舞い」


 刀から怨嗟の雄叫びをあげる死霊が溢れ出したまま、刃の向きを下から上に変え──斬り裂いた。

 裂けた死体からは紫色の液体が次々と溢れ、地面に広がって行く光景に……寒気を覚える。

 終わった。そう思いスマホに右手を当てた瞬間、何かが飛来して来る映像が脳裏に走り振り返ると……


「っ……アルファ、そっちはどうなってるの?!」


『此方アルファ。被験者・欲森横旅は暴走中。ナイトメアゼノ・コクーンを大量に生産、射出中』


「そう……了解。そのまま奴を可能な限り拘束して。紅き罪をそちらに向かわせるわ」


 今さっき倒した怪物が、今度は此処へ三体も着弾。桜花はアルファに連絡を入れ、此方を見る。

 自分達を向かわせると相談もなく伝え、電話を切るなり近付いて来ては……


「今話した通りよ。コクーンは私達が引き受ける。あなたは人の道を違えた欲森横旅を討つ、いいわね?」


「要するに、貴女達の尻拭いと素直に言えば済む話しでしょうに」


 適材適所と言わんばかりの言葉を並べるも、絆の言う通り、桜花と闇納の尻拭いが正しい。

 ド正論で図星を突かれ、顔を青ざめ胸に手を当て、言い返そうにもその通り過ぎて何も言えない。

 しかし絆はあのデカいコクーンが居る方へ顔を向け、コンクリートに足跡が残る程の跳躍力で飛ぶ。


「ツンデレは空想やお話の中では良くても、現実ではただ単に面倒臭いだけ……ですよの?」


「貴女、変な言葉を学んじゃってるのね……」


 下に見える戦車が玩具に思える程高く跳んだのだが、何故か二人の会話が聞こえる。

 スキル・スレイヤーで標的の位置を見定め、浮遊状態から一直線に降下。

 巨大コクーンが纏うビルの外装を跳び蹴りで破り、三メートルはある青い球体の場所へ到着。


「成る程。完全に取り込む訳ではなく、無くそうとする苦の感情を利用している訳ですか」


「お前達は何故(なにゆえ)足掻く?この星は人類自らの手で滅びる。我らは滅びを回避させる者」


「滅びを回避させる?違いますね。私達オメガゼロが長く居る場合、世界は滅びへ向かうのですから」


 目の前に映る光景。それは、青い球体に下半身と広げた両腕を取り込まれた欲森横旅の姿。

 苦を無くすと口から吐いた言葉で、苦痛を利用して先程の量産型コクーンを作っている現状に。

 政治家やら首相がよく口にする、増税しません減税します!と言いつつ真逆をやる姿を思い出した。

 確かに、腐ったトップや他国の介入などでこの星は滅びるだろう。だが、自分達が長居しても同じ事。


「我々は言わば、宇宙を最低一つは内包する者。そんな存在が知的生命体の星に長居すればどうなるか」


「知的生命体は我々の力を求め、殺し合う。故に我らは与えるのだ。その星の者達と融合する事で」


 何か、遥か遠い昔を思い出しそうなやり取りだった。自然を見守る者と、干渉し与える者。

 その違いこそあれど、お互いに正しいと思う行動をただ単に行っているだけ。

 話し合いは通じない。互いに譲りはしない。故に欲森横旅の肩を掴み、無理矢理引き剥がした。


「無駄な事……既に闇の種は世界中に蒔かれた。種は宿主の闇を増幅し、我が下へ自ら来る」


「ならば!今此処で破壊してしまえば……!?」


「此処は我らが纏う外装の中。消えろ……光!!」


 取った行動を無駄な行為だと言いたげな様子で、冥土の土産ばりにペラペラ喋る。

 だったら今此処でコイツを倒せば……と行動に移すと同時に足場は酷く揺れ動き。

 四方八方の壁が中央に向かって凝縮されて行く。当の本人は聞き慣れた言葉を発し、外装から脱出。


「何はともあれ、私達も脱出しましょう。ふぅ……ラース・インパクトォォ!!」


 討伐対象に逃げられた上、圧縮死の罠を起動された。けれど絆は至って冷静に物事を考え。

 足下を右手で触って行く中で何かを見付け、深呼吸。集中力と火山の噴火を思わせる憤怒を発揮。

 普段の絆からは聞けない、力強く怒気を含んだ叫びと右拳の一撃は足下に一直線の穴を開けて脱出。


「すぅ~……はぁ~……久し振りにスッキリした気分です」


「お、おう。それは……良かったな」


 地上に降りると、直ぐ跳躍して少し離れたビルの屋上へ着地。スマホを抜き、自ら融合を解除。

 両腕を大きく広げ、再度深呼吸してからその一言。絆は溜め込むタイプだったのかなぁ?

 もぬけの殻となった巨大コクーン──だった大量の塵を見て、素直に喜べない自分が居た。

 五十メートル級に圧縮されたビル群の残骸。それをただの一撃で塵に変える程の憤怒……か。




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