夢の形
『前回のあらすじ』
目を覚ませば、またあの劇場に座らされていたエックス。何故かツヴァイやアイ、マジックまでも。
上映される映画は仲間達や知り合った夢見姉妹の光景で、エックスを除く三人は各々の意見を口にする。
仲間達の会話、ツヴァイ達の会話。それは各々の見解・常識・解釈。故に、押し付けるエゴは不要。
マジックの口から語られるこれまでの旅路は、全て人類がエックスを殺害した方法であった。
改めて、目を覚ます。眼に映る天井、首を動かして見える小さな円形の机にタンス、裸の上半身。
床に落ちた緑色の液体が微かに残る点滴袋と管は左腕から外れ……残りはもう、無い。
長方形のカプセルから起き上がり、外に出ようとドアノブに手を伸ばすと──先に開いた。
「……起きた?」
「あぁ。まだ幾らか寝ぼけてて夢見気分だが」
扉を開けたのは女医のニーア。此方の姿と部屋の中を見てから話し掛けて来たが、どうかしたのか?
何はともあれ。現在の体調報告も含め、返答を返す中──何やら険しい顔をしている。
「色々ガタが来ちまってるからな。スーツ無しで、後何回戦えるかは……分からん」
「昔も……スーツを着て、戦ってたの?」
「いや、昔はスーツ無しで戦ってた。何せ、昔の人間達は今以上に夢や希望に溢れてたからな」
握り拳を作るも骨は悲鳴を上げる様に軋み、関節の動きも錆び付いたと思える程に鈍い。
以前より禊を行う間隔が短くなってる……結び付きが解け掛かっているのか。
これは──言うべきではないな。そう内心思っていると、ニーアから質問を投げ掛けられ。
自分の頭を軽く擦って昔と今を思い返し、比較しながら返答を返す。
「昔から他国は他の国を実験台にしているって……父から聞いたけど、本当?」
「本当だ。戦勝国が敗戦国を支配地にする様に、民間人に知られない内に行われている」
上向き気味に恐る恐る国家間で行われる事情を聞かれ、真実を答える。
真実を語り伝える事が、正しいとは限らない。寧ろ逆に余計なパニックを引き起こす原因にも。
だけど……ニーアが求める夢の形には、きっと嘘偽りの慰めにも似た言葉は不要だろう。
知り過ぎれば絶望と闇を産み、呑まれて消える。人類は都合の悪い事は隠す癖がいつまでも治らない。
「ちょっと出掛けてくる。そ~れ~と──ニーア、戻って来たら禊に付き合ってくれないか?」
「……分かった」
「うし。おーっす、桔梗!この前保留にしてたヤツ、今晩頼んでもいい?」
「あぁ~……アレね、了解」
白いシャツと黒いロングコートを着ながら、ニーアに禊の同伴を頼むと、了承を得れた。
扉の向こう。通路側に桔梗を見付け、誘ってくれたが保留にしたアレを自分から誘い返す。
頭を少し擦り、恥ずかしがる素振りを見せつつも承諾。これで必要最低限は保険は出来た。
まあ男性にしろ女性にしろ、良い感情は向けないだろうがな。別に外部に理解は求めていない。
「……サイッテー!」
「最低なのはどっちかね?姉の不幸はそんなにも嬉しいか?なあ、夢見久遠」
「っ!?」
通路を通り、下へ降りる階段付近で壁に凭れ掛け、腕を胸元で組みながらその一言を力強く呟かれ。
久遠を少し通り過ぎた辺りで一度足を止め、
向こう側で観た内容を口にして反撃する。
すると本人しか知らない筈の事実を言われ、目に見える程の動揺として、組んでいた腕を解く。
「まあ別に、自分はそう言うあり方も否定はしないが……オススメもしないな」
「何よ、ゲスな男の癖に!仲間と言いつつ彼女達の好意を利用して、使い捨てにする気で──あぐッ!?」
人の不幸は蜜の味。まあ、世間的にはそうだろうよ。でも、それを好むのは余り良い趣味とは言えん。
他人の意見や主張を押さえる様に言うのは宜しくない。だから否定もしなければ、肯定もしない。
図星を突かれた際の怒る感情に身を任せた乱暴な言葉や、自分の事は別に構わん。
が……仲間達を悪く言われた瞬間目を大きく見開き、左手で久遠の首を掴み、壁に強く押し付ける。
「二度とアイツらを悪く言うな!!アイツらが居なきゃ、俺は此処に存在してないんだからな!」
「っ……何よ。そんなに大切なら、好意に応えてあげたって良いじゃない!」
「応えてやりたいさ!だがな、お前みたいな普通の連中には理解出来ない理由があんだよ!」
自分を侮辱するのは構わない、もう慣れた。だけど、仲間達や家族を侮辱するのは許さん。
上がる怒りのボルテージが、首を絞める左手に力をより一層加えさせていると気付き、少し緩めれば。
大切なら好意に応えろと言われ、頭に来て乱暴ながら本音が溢れ……壁の端へ払い除け外へ。
「隊長、あたしも同行します!」
「混ざってる混ざってる。……オラシオンからの情報は?」
「此方です。二日間昏睡状態の間に資料として纏めてあります」
「ご苦労様」
ライナーからバイクを外に出し、市街地へと行く準備の最中……館から皐月が駆け寄ってきた。
戦闘用装備服を着ているが、口調が仕事時とラフ時が混ざってる。此方の問い掛けに対し──
どれ程寝ていたかの日付と纏めた資料を手に、満点の返答をくれる。余りの有能ぶりに……
「いつも悪いな、隊長が戦闘しか能がなくて」と言うと、ゆっくり首を横に振り。
「私達の夢を形にしてくれているんです。それに、適材適所──でしょ?」
「あはは……こりゃあ、一本取られたな」
夢を形にしてくれている、適材適所だと言われ、後者に至っては自分が行っているのもあり。
皐月の成長を心嬉しく思い、気付けば頭に右手を乗せ撫でていた。
それを終え、受け取った資料に目を通す中……あった。欲森横旅と夢見悠の情報。
先ずはクソッタレ男の所へ行こう。バイクに跨がり、ヘルメットを被りアクセルを回して出発。
「隊……貴紀さん、このビルです」
「あいよっ。にしても、酷い場所だな」
言われて停車した場所は、表通りに在り外見上まだ綺麗なものの、酷い空気を放っていた。
MALICE MIZERの簡易版的を圧縮した様な所で、体が重たくなる感覚の空気がずっと漂っている。
ビルの周囲を見て回り、出入り口や周辺に別のバイクがあるのを確かめ、裏口から静かに潜入。
「皐月、大丈夫か?」
「はい。準備も万全です」
内部は外に居た時より体が重く、背筋が凍りそうな寒気に襲われた為。
小声で皐月に色々と大丈夫か否かを訊ね、頼もしい返答に小さく頷き、忍び足で隣の部屋へ。
何処の部屋も電気は点いておらず、窓は全部黒いゴミ袋をガムテープで貼り、人工の光も通さない。
「日々野明日、登録者数三百名低下。未来過去、登録者数五百名上昇」
「……隊長」
「あぁ、頼むぞ」
パソコンの前で誰かのフルネームを口にしては、低下だの上昇だのと呟いては。
手慣れた様子でキーボードを打ち続け、此方に気付いていない様子。
小さい声で一言二言に抑え、手で簡単な指示を伝え屈んで移動。男の左右に回り込む。
「手を止めなさい!欲森横旅、貴方を殺人及び死体遺棄の罪で逮捕します」
「おやおや。警察でもないのに逮捕とは、随分と他人の厄介事に首を突っ込むのが好きじゃないか」
立ち上がると同時に銃を相手の頭目掛けて構え、皐月は罪を読み上げ捕まる様に促す。
その言葉に奴は手を止め、両手を頭より上に上げ抵抗しない意思を見せつつ席を立つ。
武力で抵抗する様子は見せない。が、言葉巧みに言い返している。確かに、自分達は警察ではない。
「お望みとあらば、このまま頭を撃ち抜いても良いんだがな」
「ふふっ。骨董品のオメガゼロは短気と見え──」
「隊長!?」
奴が皐月に顔を向けているのもあり、後頭部に恋月の銃口を押し付けて脅すも。
自分に対して言うその言葉は、人外の敵対者が使うモノ。故に、遠慮無く頭を撃ち抜く。
突然の発砲に驚く中──欲森横旅は頭に空いた風穴から大量の血を流し、痙攣しながら起き上がる。
「人の道を踏み外したばかりか、人外にまで落ちるとはな」
「人外に落ちた?何を馬鹿な事を。人間は最初から人の皮を被った悪魔だろう──にぃぃ!?」
風穴の内側から青白い細胞が滲み出て、傷口をみるみる内に塞いで行く。
人間は元から悪魔、羊の皮を被った狼と同じだと発言する最中。
五発の弾丸が頭部や胴体に撃ち込まれ、今度は仰向けに倒れた為、右足で頭を踏み潰す。
「今の発砲音は……」
「や、やった……私達の夢を食い物にし、悠を殺した恨み……晴らしてやったわ!」
「夢見久遠」
発砲音がした方へ視線を向ければ、夢見久遠がへっぴり腰のまま床に座り、涙目ながら叫んでいた。
確かにこの腐れ外道は君達姉妹と悠君の仇だが……君が手を汚してまで討つ価値のある奴じゃない。
外にバイクがあったから、もしかしたら……とは思っていたが、拳銃まで持ち出すとは。
「ほう……元声優志望の夢見久遠か。どうだね?君の姉君みたく、もう一度夢を形にしてみては」
「っ!!やっぱりアンタが、アイツを!」
「勘違いして貰っては困る。私は調律者・花様の指示で人気を調整しているのだよ」
頭を踏み潰したのにも関わらず、コイツは何処から声を出し、何故起き上がれる?
始めこそ驚くも恐怖心に負けず、拳銃を両手で構え引き金を引くが……弾切れ。
久遠が持っているのは日本警察が持つS&WのM36、形状はリボルバーに似つつも弾数が五発の代物。
勘違いの部分を訂正する様に答え、両手を雄々しく広げて調律者・花──無月闇納の指示だと発言。
「……成る程。ネットアイドルやライバー、動画投稿者達の人気をお前が調整している訳か」
「その通り。故に、連中達はこの私に媚びへつらい身を売らねば、一生人気者には戻れぬ」
コイツのゲスいやり口が見えた。ネットを通じて活動する者達に一定期間。
お試し感覚で体感させ、被害者が人気者となった快感を実際に与え、今度は最底辺へ落とす。
すると人気者、トップの快感や景色が忘れられず全てを投げ売り、コイツは私腹を肥やすって訳か。
クソッタレめ……人の夢を、形を、人生すらも歪にねじ曲げて高笑いする腐れ外道とは予想外だ。
「勿論、あのガキの死体は花様に調整して頂いた後、処分するつもりだったが……オメガゼロ・エックス!」
「……?」
「あのガキが貴様を追い掛けた為に見失い、同族を食い散らかしてもガキに当たらんのだ!」
感情的に色々と話してくれるのもあり、謎が繋がって来た。先ず第一に、伏見山で遭遇した獣。
アレは悠君であり、自分と久遠をコイツから逃す為に追い掛けていた。
第二の謎、人工ナイトメアゼノと同族喰い。この男、欲森横旅が闇納に調整された人工体であり。
ナイトメアゼノ化した悠君を処分する為、同族喰いを行い、アニマや自分達に倒され続けていた。
「だがもういい。此処で貴様らを全員喰い散らかせば、あのガキも出て来ざるを得ん!」
「全員、外に逃げろ!野郎、変身する気だ」
言い終わると共に奴の体は酷い痙攣を起こすが如く震え始め、周りの機材やビルさえも震え出す。
直感が崩落に飲まれて死亡する未来を見せ、慌てて二人に指示を出してビルの外へ避難。
崩落が始まる中バイクに跨がり、アクセルを吹かし離れれば、隣の道路から此方に寄って来る久遠。
「変身する気って、どう言う事よ!?」
「……バックミラーを見てみろ。あぁ言う事だ」
やや怒り気味に疑問を投げ付けられ、どう答えたら納得するか頭を悩ませていたが。
バックミラーにチラッと視線を向けると、丁度理解し易そうなモノが見えた為。
簡単な指示を伝え、アクセルを回し加速。自分も再度バックミラーを見ると……
特撮で見る怪獣。そのデカさに匹敵する瓦礫で出来た丸い胴体と、蜘蛛の脚で追い掛けて来ている。
「隊長……あの巨体を迎撃する装備は、流石に」
「ロケランでも対処し切れんだろ。アレは……」




