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ワールドロード  作者: オメガ
五章・corrotto cielo stellato
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破滅へのエゴ

 『前回のあらすじ』

 仮拠点の館と市街地に、突然現れたナイトメアゼノ。現在は協力関係な為、アニマの裏切りと思う仲間達。

 責められるアニマを救い、拠点と市街地の防衛組を分け、行動を始める一行。

 少数の仲間達を連れ、市街地の防衛に動くもフェイク達は人の死を目の当たりにし動けなくなる。

 絆を紡いだ人形遣いの力を借り、自衛隊と協力し防衛に成功。しかし、反動でエックスは倒れてしまった……



 目を覚ました……違うな。妙な点滅、右隣から聴こえる鼻歌に目を覚まさざるを得ないからだ。

 薄く開く視界には、映画館の大きなスクリーン。そんでまた、自分は赤い席に座らされている。


『どうしようどうしよう!!また登録者が減ってるよ!』


「フッ。どうしようもこうしようも無いと言うのに、か」


 聞こえてくるは、映画に映る人物の言葉と慌てふためく行動に対する愚痴。

 ただ、映っているのは夢見永久本人と、彼女の部屋。お世辞にも綺麗とは言えぬ汚部屋。

 アイドル活動で忙しく、掃除をする暇がないのか。はたまた、出来ない人なのか?

 登録者……動画投稿サイトなどで見るお気に入り登録みたいなものか、自分も経験はある。


『桜様、花様……お二人に言われた通り、約束を破ってないのに、どうして』


「現実を見て見ぬ振りはもう終わりだ。哀れな操り人形よ」


「フッ……」


 今の世は正直者が馬鹿を見る。アニメや特撮などでは、悪が倒される展開がメインだが……

 その倒された悪は氷山の一角。切り離された一部を倒す程度じゃ世界は平和にはならない。

 現実に打ちのめされた永久を見て哀れに思う反面、自分の足で歩かなかった愚かさが癇に障る。

 頭上からは現実を突き付ける言葉が。左隣からは、鼻で嘲笑う微かな声が聞こえた。


『お二人に電話しなきゃ!どうしてこうなってるのか、聞かなきゃ!』


「無駄な事を。幾ら蜥蜴と言えど、自ら切り離した尾に未練などあるまい」


「馬鹿な娘。夢を利用され高みに登った所為で、元の生活に戻れなくなっちゃって」


 電話を掛けるも出ない、メールを送っても宛先人無しで戻ってくる始末。

 行動を起こせば起こす程、現実を突き付けられる。社会である所はある、蜥蜴の尻尾切り。

 正直者は馬鹿を見て、夢を持てば利用され、個性があれば不要と否定する。それが世界。


「あら……起きてたのね」


「見てみるがいい。実力主義を作り、自らの首を絞め殺し、破滅へ向かう愚かな人類の姿を」


 映像が切り替わると同士に此方へ気付き、話し掛けてくるマジックとベーゼレブル・ツヴァイ。

 スクリーンに映されるのは、才能・実力・努力不足で会社の上司からクビを宣言されて行く人々。

 才能や実力、努力すら遺伝子で既に決められている。けれど、生を受ける場所・時代・国・親も。

 当然選べない。米国が赤子の遺伝子を操作して~とか言う発言もあったが、それは破滅へのエゴ。


『……アイツ、登録者が減ってる。ザマァみろッての!』


「ザマァみろ?貴女は愚姉以下だってのに、他人の不幸で相手より上だと誤認してる愚妹でしょうに」


 次々場面が変わり、今度は駄菓子屋に扮したレジスタンスの拠点。

 その内部でスマホを見る久遠を映す。どうやら姉・永久の登録者数を見て自業自得的に言うも。

 右隣の席から聞こえる、真夜……じゃない。今の声はアイとして久遠を冷静に判断し、呟く。


「実力主義、それも良かろう。されどそれは新たな差別を産み、繰り返すだけの愚行」


「良いんじゃない?人類とか言う宇宙の害悪、此処で根絶させた方が未来の為よ」


「その人類を創った神々の一柱が言うと、自らの愚行を認めてるみたいね」


 人を挟んで、挙げ句には上の席とも言い合う三人。何、この嫌な正三角形は……

 人類を成長させ、進化させて来たのは欲望と堕落。身勝手なエゴが戦争を引き起こし、混乱を産む。

 善悪と言う概念、言葉を作った人が一番の悪とは大抵思わない。狂った正義を掲げ、吼える為にも。

 ならばアイの言う通り、人類を救わず根絶させるのもありだろう。何も学ばないのであれば……な。


「実力主義が人類に対し、貴様達は何を産むと思う?」


「自殺者と差別主義の増加、幸福度の低下による絶望死。広がる給金の差」


「結婚数・出産数の激減、競争率と犯罪者の増加。本当、人類は何も学べてないわね」


「追加で言えば、人格の形成や家庭問題にも悪影響を及ぼすだろうが──人類は未来より今を重視する」


 ツヴァイの問い掛けに答える二人。より良い人間を残し、良い子孫を産ませる政策。

 パッと見は良いだろう。けど、そこに感情を計算に入れてない時点で、その政策は無駄だ。

 人は感情に左右され易く、堕落し易い。頭が腐らずとも、体が腐って頭も腐る。

 例え今は良くても、腐敗は徐々に侵食し犯し続ける。煙草で言う二次、三次喫煙と同じ様にな。


『……何してるの』


『回答。この世界を襲う破滅に対抗する為に行う、下準備の最中です』


 場面は薄暗いお店へ。部屋には何かを磨ぐ音が響き、久遠が様々な武具を見るディーテに近付き。

 話し掛ければ、両手一杯に多種多様の武具をレジに置きながら返答される。

 手榴弾系の携帯爆弾、小回り重視の短剣や脇差し、ピアノ線やらスタンバトンに盾など色々。


『破滅?何それ?そんな事ある訳……』


『ありませんか?そんな楽観的思考が破滅を招き、責任転嫁による魔女狩りが発生し人類が滅亡する』


『っ!!』


『何故そう思わないのです?例え私が理解し伝えたとしても、あなた方は全く信じないでしょう』


 恐らく質屋で未来の金貨などを換金し、得たであろう札束を店主に渡し会計を済ませる中。

 久遠の言葉が言い終わる前に割り込み、過去に起きたケースを混ぜて例として話し。

 思う所があったのか。一歩引く彼女に袋詰めされた武具を持ち、追い打ちを仕掛けるディーテ。


「全くその通り。そもそも人間とは自身を過大評価し、他者を過小評価し易い」


「女性がそうね。女は上書き保存で男は個別保存?寝言は寝て言いなさい」


「同感。ならどうして都合が悪くなったら相手の失敗を掘り返すのかしらね?馬鹿丸出しじゃない」


 過大評価と過小評価は個人差があり、バラバラだったり真逆な場合も当然ある。

 男が女々しく、女が男らしくなった。そう言われればそうかも知れんが、悪い意味で……が多分大きい。

 マジックが言う通りな点もあれば、女の敵は所詮女って部分もあり、アイの発言通り過ぎる点も……

 高望みし、フィクションの様な三十五億分の一の可能性を夢見る阿呆には、結婚なぞ所詮無理。


「女の賞味期限は三十五歳まで。それ以降も二十代の頃と同じ境遇を求める愚者を見るのは実に愉悦」


「それは激しく同意。自分のエゴで苦しみ、孤独と絶望に落ちて行くのを見るってのは……最っ高!!」


 人間妖怪悪魔に死霊。何でも食べるツヴァイが言うと、前半の意味を誤解し易い。

 這い寄る混沌がそれを言うと、ガチにしか聞こえん。まあ、種族的に本気なだろうけどさ。

 高齢の男性が若い女を求めたり性欲を持つのを見て、女性が嫌気差したりするのも分かるけども。

 それは逆も然りな訳で、口では無いと言いっても本能は求めている。原始的な機能だからアレだけど。


『なんでアンタ達はあんな頼りない男の為に、そこまで女を捨てて出来るのよ!?』


『う~ん……別に、女を捨てた訳じゃないよ?これは私が好きな事だから、やってるだけだし』


『そうそう。それにたっくんは頼りになるし、意外と努力家だからね』


 本人と他人は当然違う。それを理解せず、好き嫌いの判断だけで否定する奴も多い。

 それが虐めの一つでもあり、人間から鶏へとランクダウンする愚かな思考言動でもある。

 何故鶏なのか?鶏も人間と同じく弱い者虐めを行い、最終的に最弱者から死んで行くがな。

 と言うか……お二人さん?好きな事をやるのは良いけど、汚れたらお風呂には入ってね?


「確かに、初見だと頼りない男に見えるがな」


「その発言、私への挑戦状と受け取るけど?」


「フッ──見た目で騙される連中に、破壊者の強さは分からん。我々が執着する意味もな」


 久遠の頼りない男発言以降を聞き終え、答え始めるツヴァイ。それに反応し睨むマジック。

 戦う気は無いと首と両手を横に振り、途中で遮られた残りの言葉を話す。

 コイツ……自分とのバトル中とか最近までは乱暴な口調なのに、なんか紳士的になっとる。


『何が頼りになる──よ!所詮は醜い男!!私達女を利用するだけ利用して棄てる悪魔じゃない!』


『警告。協力関係とは言え、それ以上は禁句。このチーム内にある、暗黙のルールに触れています』


 寧達の言葉が癪に障ったらしく。力強く二人の間へ踏み込みながら鬼の形相で近付き吐露する久遠。

 その間に横から割り込み、更なる接近を防ぐと同時に警告を伝える。

 ロボット故か表情は微塵も変わらず、久遠とは対照的に冷静……いや、無表情。


『何が暗黙のルールに触れてるって言うのよ!』


『回答。今回該当するのは、エゴの押し付け。貴女の意見を、彼女達に押し付けてはなりません』


『ッ……ふん!いつか、痛い目をみたって遅いんだから!!』


 幾らロボット──正確にはガノイドたるディーテに怒りを押し付けても眉一つ変えず回答。

 その正当性・正論に歯を強く噛み締め、負け犬の遠吠え……とも取れる言葉を残しライナーの外へ。

 自分達と同じ体験をして欲しくない。感情的にはなったがきっと、久遠なりの優しさなんだろう。


「優しさと言うエゴは、多種多様な形を持っている。同時に、多種多様な危険性も」


「ほう……太古の魔法使いたるマジックからその様な言葉が出るとは。それは実体験かな?」


「えぇ。貴紀?貴方が辿って来た道は全て、人類が貴方を殺した方法よ」


 忘れていた。耳に心地よく聞こえる優しさと言う言葉・概念も、欲望・エゴの産物だと。

 優しさ──それはサイコパスへの入り口であり、聖人君子への遠い茨道でもある。

 叱る・宥める・褒める・支える・伝える・手を差し出す。色々な方法があり、様々な裏切り方へも。

 良し悪しを決めるのは伝え手と受け取り手だけ。良心を攻撃と認識するのも……な。


「優しさ・信頼・愛情・愛憎・暴走・離反。そして今回、破壊者たる貴方を襲うテーマは……何かしらね」


「もう分かるでしょ?貴方はソレに襲われ、幾度も苦しめられ、この星を滅亡させるモノを」


 自分が旅して来た道が……人類に殺されて来た方法。アイは六つの方法・理由を口にし、今回は何か?

 まるで子供に自分の頭で考え、答えを出させる様に優しく語り掛けるマジック。

 あぁ、分かる。この世界で、人類が自分を殺そうとするテーマが……それは、汚染。

 それはゴミであり、化学廃棄液・排気ガス・煙草──その他にも沢山。


「今回破壊者を襲うナイトメアゼノは、アニマ達から離反せし人工物。同時に、この惑星(ほし)の怒り」


「悔いを残さない様にね。仲間を救うか、光を見せるか、破滅に挑むか……それは貴方の選択」


「心の赴くままに動けばいいわ。私は這い寄る混沌、常に貴方と言う光と闇に這い寄る存在だから」


 ゴミや汚染物質を棄てる人類に、この惑星が人工ナイトメアゼノに力を与えたのだろうか。

 怒りの代行者として?もしそうなら、自分は君と戦わなくてはならない。人類の敵として。

 席から立つ自分に向け、マジックとアイが思い思いの言葉を掛け、背中を押してくれたのもあり。

 自分は舞台に向けて跳び出し、スクリーンへ飛び込めば──水面へ飛び込む様に飲み込まれた。




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