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ワールドロード  作者: オメガ
五章・corrotto cielo stellato
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共に進む者達

 『前回のあらすじ』

 公園で寝落ちし、超古代時代の懐かしき夢を見るエックス。目が覚めれば目の前には、マジックが……

 されど戦う意思は無く、少女の注意に暴力で返す青年を処分。しかし、エックスの行動に意味深な言葉を残す。

 続く言葉を遮る形で人喰い妖怪・桔梗の奇襲を受け首を落とすも、全く問題無く逆に組伏せて見せる。

 みんなの命を拾う為、能力などの制御に使うウォッチをマジックに渡し、その場を乗り切る事に成功した。



 オラシオンの面々と桔梗に連れられ、ゼロライナーを駐車している町外れの棄てられた館へ移動。

 パワードスーツに残った戦闘データを見たらしく、心配して駆け寄ってくる仲間達。

 勿論心配だけじゃなく、無茶をするなとの注意や説教などもあった。

 喜怒哀楽。様々な表情を見せるみんなを見、改めて大切なモノの尊さを痛感しながら個室へ。


「…………下手くそ」


 洗面台にある上半分が割れた鏡の前で、笑顔の練習をしてみるも、思うように口角が上がらない。

 両手人差し指で口角をあげてみるけど、不自然な笑みしか出来ない自分に、真顔で一言呟く。


「ねぇ。聞いても、言いかな?」


「……何をだ?」


 突然鏡に映り、振り返れば其処に居る玄武のお面を被った子供が、質問をしても良いか?

 そう問い掛けて来た。答えられる範囲ならば……と思い、どんな質問かを訊ねてみる。

 この子は以前、人は助ける価値があるのか?そう問い掛けていた。今回は何だろうか。


「正しい事って、どんな事?正しい事をすれば、みんな──喜んでくれるのかな?」


 正直、言葉に詰まった。何が正しくて、何が間違いなのか。それは、社会か個人かで変わる内容。

 それに……自身が正しいと信じて行動した結果が、誰かを不幸にする結末になる展開も多々ある。

 自分の旅もそうだ。正しいと思い行動してるが、敵対者や周囲のモノを不幸に陥れた。

 繰り返す悪夢、比較の海、人間牧場、ネバーランド計画。今回はアイドルやライバーの夢を……


「お……、……い、しっかりしろ!!」


「き、桔梗──ッ!!」


 肩を掴み揺さぶられた上、何度も呼び掛けられて意識を取り戻し──視界に映った桔梗に抱き付く。

 理解されない苦痛、身勝手な価値観から来る言葉と視線。倒した、死に行く相手が見せる表情。

 そのどれもが怖かった。平気な振りして強がらなきゃ……そう思う度、恐怖で抱き付く腕が震える。


「……アンタは、よく頑張ってる。それは私達が──よく知ってるから……」


 お互い床に座ったまま優しく抱き締め返され、耳元で囁く肯定的な言葉に涙が止まらない。

 新聞を通して正体がバレ、ヴォール王国から撤退した理由は頼って欲しくなかったから……の他。

 逃げ出したかった。あの視線や言葉から来る精神的な重圧や、向けられる期待と失望から。

 個室扉の向こう側にみんなが居るのに。情けない声で泣き喚き、いつしか眠っていた。


「……ごめん。みっともなかった」


「別に、気にしてないわよ。アンタは昔から溜め込んで、自分で解決しなきゃってタイプだったし」


「……桔梗が此方に来てくれて、本当に良かった。まだ本音を話せる相手、あんまり居ないから」


「私が此処に来れたのは、アンタがコレを未練たらしく手放さなかったからよ」


 目が覚めるまでずっと抱き締めてくれていた様で、色んな意味を込めて謝罪するも。

 共に幻想の地で殺し合いを通じ、絆と理解を深め合い続けた──いわゆる夫婦を超えた関係。

 時間と空間を越えた来訪、再度共に戦ってくれる等々。諸々を込めて本音を伝えると……

 自分が着るコートの左ポケットからロケットと指輪を取り出して見せ、繋がりの奇跡だと言う。


「みんな、アンタの帰りを待ってる。英雄でもない、オメガゼロでもない。人間のアンタを」


「でもさ、桔梗。自分は……」


「知ってる。アンタが旅を終えたら、私達や世界にどう影響があるのかも。その上で待つのよ、私達は」


 みんなが自分の帰りを待っていると言われ、嬉しくて表情が一瞬晴れるけど……直ぐに曇る。

 戻れない理由、事情がある。それはあの地で絆を紡いだ相手に伝え、承諾を貰っているのだが。

 それを理解した上で待ってると言われ……安堵の余り身を委ね、胸の中で目蓋を閉じる。


「だから振ったんでしょ?人魚(ムピテ)からの告白を」


「うん。桔梗達と恋仲や恋人、夫婦関係になった時はこんな結末(悪夢)になるとは知らなかったから」


 何気なく振られた話題へ流される様に、自然と答えて行く。

 この長く険しい旅の終点が、結末がこんなにも胸を締め付けるだなんて、思いもしなかった。

 仲良くなる事が怖い。でも力を取り戻す為には絆を紡いだり、お互いに深く踏み込む必要もある。

 告白をする側も振る側も、勇気や覚悟が要るけど……最悪の結末を増やすのだけは──避けたい。


「……する?」


「…………今は──止めとく」


 少し間を空けて意を決し、幾らか羞恥を含んだ声で誘われた。嬉しいと言えば嬉しいが……

 最悪に対抗しうる手札は何枚あっても足りん。誘いを後日に伸ばし、自分の意思で離れ立ち上がる。

 守りたい、愛した相手がいる。その為にやれる事をやれるだけ、やり続けなきゃ。

 そう思った時、フュージョン・フォンにメールが届く。宛先人は──マキナか。


「寧、マキナ、アナメ。呼ばれて来たが、何かあったのか?」


「何かあったから呼んだの」


 館からライナーの倉庫へ戻り、ノートパソコンと向かい合う寧とマキナ。

 二人の護衛に立つアナメへ疑問を投げ掛け、返答と右人差し指で示す先に視線を向ければ……

 明るく照らされた倉庫内のパワードスーツ設置場に、白三割と黒七割の繭があった。


「繭だな」


「繭よ。パッと見はね」


 大きさ的に二メートル近くはある繭をアナメと見る隣で、寧とマキナがパソコンに集中している。

 チラッと画面を覗いてみるも、赤・青・緑・黄色のゲージが伸び縮みしているとしか分からない。

 ただ、この不可思議な繭の中で何かが起こっている……とだけは、理解出来る。


「装甲に触れた身として言わせて貰うけど。アレ、本当に装着してて大丈夫?」


「大丈夫だよ。コイツは自分を喰わない。正確には、喰えない……が正しい」


 繭と成ったパワードスーツに不安を覚えるアナメに、自分は喰えないから大丈夫だと伝え。

 近付き、右手の指先で触れて分かった。悔しくて怒ってるんだ……性能を引き出し切れない自身に。

 コイツも自分と同じく、負けず嫌いなのか。なら、繭に成った理由も分かる。


「それより、新しい第三装甲は出来そう?」


「急ピッチでやってるんだけどね」


「どれも人の形が扱うには遥かに難しくなっててね。完成しても特訓無しに動くのは先ず無理だ」


「と言う訳で、この動きが出来る様になって欲しいの」


 あの鎧剣士──操られた詠土弥に斬られ、錆びと化して無くなった第三装甲。

 新型を急いで製造中と寧が言うも、続けてマキナは以前のを遥かに凌駕する扱い難さと断言。

 アナメより動作に必要なモノを記した紙を貰うも……直感で無理と感じ、絆達の居る部屋へ。


「絆、恋、愛、静久。居るか?」


「今開けます、マスター」


 軽く扉をノックし、呼び掛けるとほんの少し間を空けてから返事があり。

 扉を空け、出迎えてくれる絆。話があると伝えると、部屋へ迎え入れてくれた。


「新たな第三装甲に求められるモノ……ですか」


「最低でも、これは必要不可欠だそうだ」


 案内されるがまま床に座り、四人が揃っているのを確認してから内容を話し、紙を見せる。

 まだ仮名の一号・リーゼなら翼や尻尾の動かし方、二号は軟体生物かと思う程の柔軟性。

 三号、四号は四足歩行の滑らかな動き。先ず大前提として、人間に求める性能を遥かに凌駕している。


「これは──人間に全く出来ない動きを、ご主人様に求めてるね」


「ハッ……私のヤツなんか、全身骨折で死ぬレベル……」


「わっちのは文字通り、肉体が分解するんじゃが?」


 そう。例え仮に最悪の結末まで間に合ったとしても、使えない可能性が限りなく高い。

 使う奴のベースが人間なのに、完成形が人外用と断言しても問題無いレベル。

 一号・三号・四号は経験が無く、神経系が混乱したり追い付かない、もしくは地・空で肉体が分解。

 二号はもう、フルスペックは無理。全身骨折で死ぬし、空間認識能力が圧倒的に足りん。


「…………マスター。新たな第三装甲に関して、寧様達とお話してきても?」


「あぁ、構わんぞ。寧ろ何か案があるなら助かる」


 考える仕草のまま悩んでいた絆は、何か思い立ったのか?意見を求めて来た。

 断る理由も無く、要求を承諾。四人で案でも話すらしく、自分と一緒に部屋を出て行く。

 次はオラシオンの面々を探して廃館を歩き回る内に、何やら声が聞こえたので聞き耳を立ててみる。


「やっぱりコレ。生まれたと言うより、呼ばれたって見るべきじゃないか?」


「これはどう見ても、そうだよね~」


「ふむ……とすれば、前提が変わるのぅ」


 ルージュとRを筆頭に、机を囲んでベビドと話し込んでいる様子。

 会話が気になり、扉をノックしてから空けて入る。此方に気付いた三人を他所に机を見てみると……

 超古代遺跡にある壁画の写真が何枚もあり、どうやら。議論している話題はコレらしい。


「もう大丈夫なのか?」


「あぁ。それで、さっき話してた話題はコレと見ているんだが」


「うぬ。この壁画に描かれた内容を話しておってな」


 Rの心配に返答と頷きで応え、話題の中心たる写真に話を持っていく。

 写真の束をベビドから受け取り、撮された壁画に次々と目を通す。

 人々が両手を上げ、人魂?を歓迎している様にも見える。別のは光に祈りを捧げている様子か。


「俺はこの人魂と光を、当時の人々に呼ばれた──と見てる」


「ぬぅ……儂は生まれた、と考えたんじゃがな」


 これはどう表現を受け取るか?が、問題だろう。ルージュに目を向けるも。

 此方の視線に気付くや否や、そっぽ向いてしまう。……まだ怒っているんだろうか。

 気付けば最後の写真を持っており、その写真には──街で暴れる大きな人魂に対し。

 小さな人々と大きな光が立ち向かう壁画。この写真を見た直後、脳内にフラッシュバックが起こる。


「っ……呪神・珠沙華(じゅしゃげ)、封印を受け持った巫女の一族……内部崩壊」


「もしかして、過去の記憶が戻ったのか?!」


「断片的に……だがな」


 呪神の名前、封印を受け持った巫女の一族、内部からの働きによる役割の崩壊。

 壁画の写真を通して理解する。Rは記憶が戻ったのかと聞くので応えるも。

 これが本当に、自分自身の記憶なのかも怪しいのは……伏せておこう。

 呪神・珠沙華。姿や声までは思い出せなかったが、奴が解き放たれた……と考えるべきか?




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