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ワールドロード  作者: オメガ
五章・corrotto cielo stellato
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破滅への前奏曲

 『前回のあらすじ』

 エックス宛に届いた一通の手紙。拝啓オメガゼロ様と書かれたそれは、遠井彼方からのものだった。

 指定された場所へ向かい、別々の席で背中合わせに話す二人とそれに混じる元調律者のトップ、心情桜花。

 一ヶ月以内に起きると言う終焉を破壊する為、各々が出来る行動へ移る。

 二人が離れた後。夢見永久と再会し、ちょっとした良心から愚痴などを聞くと言う理由で電話番号などを交換した。



 夢見永久さんと別れた後。別動隊のみんなや桜花から携帯に連絡が来るまで。

 近くに在る公園のベンチに座り、携帯電話を弄りながら昨日の出来事や、その被害を検索していた。

 していたんだが……いつの間にか、夢を見ていた。自分の手に出来ては潰れた血豆を、癒す女性の夢。


『どうして、みんなの所に居ないの?』


『彼らが求めているのは、闇に対抗しうる私の力のみ。ならば余計な交流は不要だろう』


 やや幼さが残る顔に、幾つかの擦り傷や切り傷。自身の傷より此方を優先し、両手で奇跡を施す。

 素朴な疑問を投げ掛けられ、視線を横に向ければ……勝利の宴でも始めているのか。

 賑わいを見せている街に住む人々。これが人と化け物の境界線故、自然と離れてしまう。


『それならさ。また、私とセッションしようよ』


『いいだろう。人類が生み出した呪いの神・呪神を封印した記念に、君から貰ったこの笛でな』


『あっははは~、そうだね。それじゃあ私達で奏でよっか。愚かな人類に捧ぐ、破滅への前奏曲(プレリュード)を』


 少しずつ思い出して来た。超古代の人々も自分を闇に対抗する戦力・人形兵器だと認識していた。

 海よりも深い青い瞳、生まれつきと言う背中に届く白銀の艶やかで真っ直ぐな髪。

 家族以外には良く思われず、扱われない彼女と自分は──一緒に居るのが当たり前になっていた。

 人類が持つ恨み妬みが闇に利用され、生まれた純粋な呪いの神・呪神の封印記念に、音色を奏でる。


『私の家系ではね。他人に楽器や武器を送る事は、プロポーズを意味するんだよ?』


『……そうなると、私は二度もプロポーズをされた訳か。だが、私は守るべき人類に殺されるんだぞ?』


『だから約束。いつの日か、貴方の旅が終わって生き延びた暁には──』


 そうだ。彼女から横笛と愛刀・破王を貰い、二度のプロポーズを受けた事実をこの時知らされ。

 この当時から理解していた。闇封印後、自分は守った人類に殺されると言う未来(結末)を視たから。

 それを伝えると、彼女は微笑んで口にしたその約束は……余りにも酷く、辛いモノだった。


「スカーレット……?」


 鼻をくすぐる心地よい匂いと、大好きだったフルートの音色に目が覚め──彼女のあだ名を呼ぶ。

 されど視界に映ったのは……黒い服の上からでも分かる、当時の彼女よりもご立派な南半球。

 なんか最近、同じような光景を視た気がするんだが?それは兎も角、当たらない様に体を起こす。


「遠い昔の夢でも見てたのかしら?」


「あぁ……そうだな──っ!!」


 まだ思考が回り切らぬ頭に左手を当てる中。ごく自然に声を掛けられ、返事を返した後──

 その声と姿を目と耳で確認し、慌てて距離を取る。何故コイツが此処に?どうして膝枕を?

 浮かぶ疑問、高まる警戒心が戦闘と認識して思考をフル回転させる。


「元気そうで何より」


「マジック……終焉の命令で調査にでも来たのか?」


「さあ?どうかしらね」


 寝起きからの機敏な動きに対し、そう言った言葉を投げ掛けるマジック。

 潜入調査なのか?いつもの水着と見間違う鎧ではなく、本当に極々普通のワンピース姿。

 此方の問い掛けに対して曖昧な返答を返す辺り、全く意図や思考が読めん。


「破滅への道を自ら進んでいるとは知らず、人類はいつの世も歴史を繰り返すのね」


「……あぁ、そうだな。人類が自分を殺したのは仕方ない事だとしても、過ちすら繰り返すとはな」


 戦う意思や動きは全く見せず、公園を眺めながら呟くその言葉を耳にし、周りを見渡す。

 立ち入り禁止の花園を平気な顔して歩くカップル、樹から伸びる花を手折る老婆。

 空き缶やパンの包み紙をさも当然の如く棄てる青年。注意をしようと若者に話し掛ける少女。


「ダメですよ!なんでゴミを路上や自然のある場所に棄てるんですか」


「なんでゴミを路上や自然に捨てるのかって?別に誰も見てないし、他もやってるじゃん」


「それは犯罪だって、お母さんとお父さんが言ってました」


「うるせぇ!ガキは黙ってろ!!」


 少女の注意に最初は適当に言って追い払おうとするも食い付く為か。

 苛ついた若者は空き缶を少女に投げ付け、追い払おうとした。当然少女もその行動と怒鳴り声に怯え。

 条件反射的に両腕で顔を守ろうとする。だが……投げ付けられた缶は若者の右手に戻り直撃。


「さあ。世界を綺麗にする為、ゴミを処分するとしましょうか」


「やべぇ!」


 怯む若者とマジックの右人差し指を見、一瞬で若者の前に移動したのを視認した瞬間。

 何が起きたのか?これから何をするのかが理解出来た。マジックは……『時を戻した』のだ。

 更に時間を静止させ逃げられなくした状態で右手を若者に向け、何か手の平に集め──握り潰す。

 咄嗟に駆け出し、少女を抱き抱えて公園の入り口へ移動。追加で歩道側を向くように置き、戻る。


「……流石は破壊者。自分が今何をやったか、理解してる?」


「アンタの行う処分をあの子が見ない様に動いた。ただそれだけだ」


 此方の行動を見ていたのに、何をやったか理解してる?と、問い掛けて来た。

 分かってるさ。マジックが時を止めて、動けない少女を避難させて戻って来た。ただそれだけ。

 なのに口角を上げ、満足げな笑みを浮かべたまま自分を見つめている。何がおかしい?


「ねぇ、私と──」


「貰ったぁ!!」


「桔梗!?」


 右手を此方に差し出し、何かを言い出そうとした瞬間の出来事だった。

 暗雲が空を覆い尽くしやや薄暗いとは言え、背後を取った桔梗は長く綺麗な金髪を靡かせ。

 真っ黒で重々しい大剣を両手で横に振り切り、マジックの首を撥ね飛ばす。

 が……仕返しとばかりに首の無い体は差し出した右手で桔梗の手首を掴み、流れる様に組み伏せた。


「あ……相変わらずの化け物っぷり……ね!」


「このまま一本ずつ、骨をへし折り続けてもいいのよ?」


「──っ!!」


 人食い妖怪の桔梗を簡単に組み伏せるその圧倒的強さは、超人の領域に容易く踏み込んでいた。

 魔法使いで、柔術の使い手……そう理解し名前を呼ぶ時、酷い頭痛襲われて地に膝を着ける。

 紡いだ絆が当時の記憶を走馬灯の如く駆け巡り、幻想の地で過ごしたみんなを思い出す。


「忘れるかよ……みんなと紡いだ絆を。幻想・夢幻泡影!」


「な……っ!!」


 もう──誰も失いたくない、忘れたくない。長く戦い続けて来て、同時に沢山の何かを失い続けた。

 そんな我が儘を込め、振り上げた右手で地面を強く叩けば……桔梗は夢幻(ゆめまぼろし)の泡となり。

 上に乗っていたマジックは地に落ち、何が起きたのかと辺りを見回しては、冷静さを取り戻す。


「再確認完了。自身や仲間の危機にはセーフティが外れる……それが貴方が持つ最大の弱点」


「アンタ、どう言うつもりよ!」


「何の事かしら?さあ、此処で命を拾う為に何を差し出すか、差し出さず散らすか……選びなさい」 


 マジックの恐ろしいところは、その膨大な魔力や時間にすら干渉する魔法ではない。

 その精神性と観察眼。的確に相手や物事を見抜き、数手先をも思考する頭脳だ。

 現に此方の弱点を看破し、桔梗の怒号すらさらりと流したその上で、選択肢を投げ掛ける。


「貴紀!こんな奴の言う事なんか聞く必要ないわよ!」


「…………」


 桔梗の言う通り、聞く必要はないだろう。だが、未だにマジックの時間操作に対抗する術がない。

 もし本気を出されたら、今の自分は文字通り手も足も出ない。これが遊びにしろ、本気にしろ……な。

 それを分かっているのもあり、左手首に付けているウォッチを取り外し、投げ渡す。


「ちょっ、アンタ!!それは能力を自在に引き出す為のモンじゃ……」


「構うもんか。こんなモンで桔梗や、みんなの命が拾えるなら、喜んでくれてやる」


「……確かに、受け取ったわ。それじゃあ、これがお釣りの代わりよ」


 慌てふためき、その重要性を改めて言われるも。みんなの命がこれっぽっちで助かるなら安い位だ。

 この行動は予想外だったのか。少しの間ウォッチを見つめ、顔を上げて答え。

 お釣りの代わりに赤と白、合わせて五本の薔薇と封筒をくれた。中身は紙が幾つか入ってるだけっぽい。


「それと──周りに隠れてるオラシオンと力を合わせても、私は倒せないわよ」


「チッ……コイツ、どこまで見えてるのよ」


 顔を背けたと思いきや、潜伏していたオラシオンの存在を言い当て。

 その上、力を合わせても勝機は無いと言い放ち、瞬間移動で姿を消した。

 それを確認してから、オラシオンの面々が茂みや木の上などから姿を現し、集まる。


「あの人が融合四天王のマジック……ウチ、全く動けんかったわ」


「魔王たるこの私が、何も感じ取れないなんて……そこまで実力に差があるって言うの!?」


「トワイ。もし仮に全員で戦ったら、勝てたと思う?」


『シオリ様、それは無理です。あの方はまだ、本気の片鱗すら見せていないのですから』


 ヴァイス、琴音、シオリ、トワイの会話を聞く限りでも、マジックの発言は本当らしい。

 スカーレット……君に貰った笛や破王は必ず見付け出す。破滅への前奏曲はもう、鳴り終わったけど。

 鎮魂歌が終わる前には、君と交わした約束を思い出さなきゃ。

 と言うか、アイが笑顔のまま怒気を放ってるんですけど……なんかあったんだろうか?


「御主人ちゃまは知らなくてもいい事でちゅ」


「心なしか、エリネも怒ってね?」


 ぷく~っと頬を膨らませ、拗ねた様な言い方をするエリネは何処か、怒ってる印象がある。

 聞いても教えてくれないし、霊華はほぉ~って感じ。ルシファーは「大胆ダナ……」としか言わない。

 それに気付いた他の四人も薔薇の色と本数を見て、各々リアクションを取っていたが……なんで?




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