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ワールドロード  作者: オメガ
五章・corrotto cielo stellato
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拝啓オメガゼロ様

 『前回のあらすじ』

 目が覚めると其処は、よくも悪くも見慣れたあの舞台劇場。さも当たり前に居るベーゼレブル。

 別動した仲間達の勝利を彼の口から聞き、目論見を見抜かれるも狙いは見抜けぬ点を指摘。

 自身らが幾ら頑張っても、人類全体が自らの愚行を正さぬ限り世界は破滅と滅亡の道を辿ってしまう。

 愛刀の破王は今なお行方不明。天皇恋は本来の力を取り戻し、ますます力になる事を誓うのであった。



 夢か現実か。その両方を行き来している今、もはやどっちかすら分からなくなってきた今日この頃。

 腹部に子供位の重みを感じ、少し目を開いて視界に映ったのは……母を探してるナイトメアゼノ。


「……縮んだか?」


 だが──二メートルはある体が幼稚園児程度に退化し、自分の腹部に座っており。

 少し悩んで出した言葉がそれだった。が……気付けば何やら右手に白い封筒を持っており、渡され。

 何事かと思い封筒から手紙を取り出してみると──『拝啓オメガゼロ様』と書き始めてあった。


「拝啓オメガゼロ様。何も言わず突然姿を消してしまい、申し訳ありません……」


(相変わらず律儀よね、あの子)


 この時点で、差出人が分かった。そのまま読み進めて行く中で、日時と指定が書いてある事に気付く。

 本日の午前十時、異質美術館裏にあるオープンカフェの十二番テーブルまで……か。

 霊華の言う通り、本当に律儀だ。今の時間は九時前……余裕を持って向かうとしよう。


「いらっしゃいませ~。一名様ですね?此方の席へどうぞ~」


(言葉ヲ返ス前ニ通サレタナ)


(いいじゃねぇか。丁度都合良く、十二番テーブルだしよ)


 カフェに到着するや否や、手紙で指定られていた円形の小さなテーブルに案内され、座る。

 周りに人が何組か居るも、喋りに来たと言うよりは、メニューを観ているだけ。

 テーブルの位置は横並びや縦並びではなく、網み目模様の様な形。

 自分も分厚いメニューに目を通してみるも、中身は美術館に飾られていた美術品の数々。


「やっぱり、来てくれたね」


「呼び出しておいてその言い草──もしや、来ないと思っていたのか?」


「半分はね。何せ君は、予定された未来すらも破壊して見せる、世界の破壊者だから」


 遠井彼方。彼の声が聞こえ振り向こうとするも、頭に直接「振り向かないで」と声が響く。

 仕方なくそのまま話す中、彼方は少し嬉しそうに自分の二つ名を口にした。

 向かい合わず、背中を向けて話す奇妙な会話。念の為に視線で周りを見るも、誰も気にしてない。


「呼び出したのは他でもない。君に警告する為なんだ」


「警告?」


 彼方は言った。近い未来、この世界は人類が産み出す存在によって滅びる事が確定されている……と。

 その存在は余りにも強大で、この星を文明諸共焼き尽くす。勿論、自分達も全滅させた上で。

 近い未来──と言うが、一年とかではない。一ヶ月以内に起こる最悪の自業自得だと話す。


「ソイツに、自分達が勝てる見込みはあるのか?」


「どうだろう?少なくとも、君が本来の戦い方を取り戻す事は必要不可欠だし、それに……」


「覚醒した闇の力と破壊者の力。その相反する力を両立出来た上で、人類が協力すれば──ね」


 確定された滅びの未来。それを覆す方法、可能性を聞いたところ……疑問符が付いた上。

 本来の戦い方が必要不可欠とまで言い、口を閉ざした辺りで──予想外な割り込みが発生。

 その声は心情桜花、元調律者のトップ。エリネの治療で良かった記憶を対価に払わされた様だが……


「その通り。勿論、心情桜花さんのお力もあれば、この終焉を破壊する確率は跳ね上がる」


「……何が必要なの?」


 気付けば正三角形を描く位置で、背中越しに話す奇妙な関係になっている。

 ウェイターは来ない、他の客達も此方の会話に耳を傾ける様子すら見せない。

 まるで、自分達三人が他者の意識から外されている様な感覚だ。


「極限状態を引き出し、彼の中に仕込まれた種を芽吹かせる為の死闘」


「……成る程ね。破壊者、後で連絡を入れるから準備だけは済ませておきなさい」


 滅亡を破壊する為には何が必要なのか?その答えが──自分の中に仕込まれた種の芽吹き。

 桜花は何かを察したらしく、我先にと席を立ち、カフェから立ち去る足音だけが遠くなって行く。


「僕達は……普通の人達からすれば異端者であり化け物。力を持つとは、そう言う意味だと思ってた」


「…………」


「でも──君と出会い、挑戦して僕は知った。知恵と力と勇気が心にあれば、君みたいに成れると」


 足音が聞こえなくなった後、彼方は言葉を続ける。人は自分と違う事を嫌う性質を持つ。

 それは虫や魚であったり、人など多種多様。特に……異常な力を持つ者にはその傾向が強い。

 例え仲良くなっても、理不尽が続けばそれを口実に喧嘩なり感情に任せ罵声を浴びせたりもする。

 彼は知った。例え世界を破壊する力があっても、使い方と心の在り方次第で変わるのだと。


「羨ましい反面、酷く辛い約束を持っているんだね。君は」


「……何の事だ?」


 正直、何の約束に対してそう言っているのかが分からなかった。ドゥームとの約束?

 いや、酷く辛い約束ってのは理解出来るが、同族殺しを羨ましいと言われてる訳ではない。

 ならば何か?まだ取り戻せていない記憶の中にある、思い出せない約束に対して言っているのか?


「時間は君を焦らせるけど、新たな境地に辿り着いた君は──いや、止めておこう」


(行っちまったな。宿主様)


 本当に頭の良い人は、小学生に物事を説明出来る人……とは聞くが、こう言う謎を残す人もいる。

 確かに短命になった寿命やら、滅亡に魔神王の復活。更には目の前にある数々の問題。

 それを考えると時間に焦らされるのも理解出来るが、新たな境地って何だ?

 立ち去る足音とは違う方向から、近付く足音が一つ。此方の向かい側に来たので、顔を上げると……


「すみません。相席しても、良いですか?」


「ん?あぁ~……えぇ、構いませんよ」


 誰かと思えば、ゲリラ豪雨の時に異質美術館で初めて会った女性だった。

 今回は紫色のワンピースを着て青い帽子を被り、マスクとサングラスは相も変わらず。

 何故相席を?と思い周りを見渡すと、この席以外満席。理由に納得し、承諾すれば向かい側に座った。


「……」


「……」


 お互いに会話が無く、食事用のメニューや美術品の写真メニューを見るだけ。

 気まずい空気が流れ始め。互いに口を開かず注文も出来ず、メニュー表を盾に顔色を窺い合う始末。

 取り敢えず、注文だけでもしよう。そう心に決め、決意が揺るがぬ内に右手を挙げた時。


「あ……」


「えぇ……」


 なんと相手の女性も同じく右手を挙げ、注文をしようとしていた。いやはや……間の悪い。

 挙げた手を下げようとすると、相手も同じ様に下げる直前だった為、余計に動けなくなってしまう。

 すると自然に笑いが込み上げて来て、顔を背けて声を出さない様に笑っていると。

 相手も同じ行動をしていたのもあり、気付けば気まずい空気は何処へやら。


「はぁ~……心からこんなに笑ったの、本当に久し振り」


「此方もですよ。あ、ウェイターさん、注文良いですか?」


「はーい。少々お待ちくださーい」


 緊張感は解けて注文も済み、頼んだオレンジジュースとアイスコーヒーが自分達の元へ。

 長居する気はなかったけど、もう少し此処に居ても良いかな?なんて思ったり。

 ジュースをちびちび飲んでいると、此処に視線を向けるお相手さん。どうかしたのか?


「自分の顔に、何か付いてます?」


「い、いえいえ!ただ、懐かしく思えて」


「懐かしい?」


 疑問を投げ掛けると無意識の行動だったらしく。女性は慌てて否定し、理由を口にした。

 懐かしいも何も、この現代社会ならジュースなんて何処にでもありそうなんだがな。

 そう思い、敢えて詮索はしない方向で……と決めていたら、恐る恐る口を開く。


「アタシ──少し前まで子供が居たの。六歳の男の子がね」


「それは……御愁傷様です」


 声は先程までとは対照的に元気が無くなり、自身に子供が居た事を告白し始める。

 正直な話、第三者の自分からすれば、それ位しか言えない。だからか、会話に少し間が空く。


「悠って名前の男の子でね。好き合って望んで生んだ子じゃないけど、それでも……愛してた」


「…………」


 出した子供の名前で、この人が誰か分かってしまった。この人は──夢見永久さんだ。

 目に涙を浮かべ、サングラスから溢しながらもポツリポツリと話す中に……確かな愛情を感じる。

 同時に、あの上映の最後に映された文字。お母さん達を助けて……と書かれた悠君の想い。

 この世界の鍵となるのは──夢見悠君。彼の遺体なり何なりを見付け出す必要性を思い出す。


「悠が亡くなってからアタシは仕事漬けを選んで、悠の事を忘れようとしたの」


「でも、それは」


「うん。妹もそんなアタシを毛嫌いして、今や家に帰っても独りで寂しくなるから休日は外出してるの」


 辛い出来事を忘れようと、仕事や酒に浸るとは言うし聞きもする。中には、突然外出を嫌う人も。

 でもそう言った行動は、他人を不安にさせたり心配する原因になるのを……当人は知らない。

 知っててやる人もいるが、体と精神を壊すだけ。根本的な解決には程遠い上。

 永久さんの言う様に、一緒に居るのが嫌になって縁を切ったり近付かなくなる人も居る。


「あはは……ごめんなさい。突然こんな愚痴を溢しちゃって」


「構わんよ。誰しも愚痴はあるし、溜め込む方が体と心に悪い」


 男性は対策や解決案を提示する傾向が強く、女性はただ会話を楽しみたかったり、話したい人が多い。

 男女別にしろ、人間とは喋りたい生き物だ。喋って、語って、自分の好きや不満をぶちまけたいのだ。

 それが、自分の心身を守り癒す行為だと本能的に知っているのかも知れない。


「赤の他人だからこそ、友人や家族よりも話し易いってものあるしな」


「確かに……そうかもね。アタシの場合、吐き出せる場所や人も居なかったから」


「まあ、その~……なんだ?自分で良ければ、話位は聞くからさ」


 親しいからこそ、話せない。それは学校や会社で虐めを受けているのを家族や友人、先生。

 もしくは上司に伝えられない。伝えても、根本的に問題が解決しない。そう言う場合もある。

 自分もそうだった。その時に運良く出会えたのが──水葉師匠。そんな自分と重ねたからか。

 右手で後頭部を軽く掻きつつ、そう答えるしかなかった。少しでも、同族を救いたい気持ちで。


「……うん、ありがとう。その時はた~っぷり、愚痴を聞いて貰うから」


「うへぇ……お手柔らかに」


 ただ、そう言った気持ちで引き受けた側が自殺を遂行する時もあるのが……恐ろしい話だ。

 他人の悪口は活動に支障を与える~とか、そう言う話もよく聞く。

 話す側、聞く側も自分の心をリフレッシュする何かを見付けて置くのが、お互いの為にもなるだろう。

 こうして、自分と夢見永久さんは電話番号やメールアドレスを交換した。




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