破滅と滅亡の道
『前回のあらすじ』
和歌山に出現した黒いカメレオンタイプのナイトメアゼノを、第三装甲を二つも代償に倒した……筈だった。
しかし悪夢は形を変え、鎧剣士となり再び襲い来る。その実力は恐ろしく、三対一ですら倒せない程。
静久の善戦と残る第三装甲を全て使用し、鎧剣士の頭部にクリティカルヒットを叩き込む事に成功。
一瞬見えたその正体は詠土弥であり、恩返しと称して暴れ狂う。そんな時、煙幕を使い結城飛鳥が助けに来た。
目を開けば其処は──此処へ来る前に来たあの舞台劇場で、自分は赤い座席に座っていた。
何が起きたのかも分からない。確か……飛鳥に助けられ、駄菓子屋に偽装した拠点で寝た筈。
気付けば映像が映し出されており、戦闘場面らしい。寝ぼけ眼と寝起き故回らない頭で映像を見る中。
とある事に気付いた。映っているのは、別行動をしている琴音達だ。でも──何故?
「漸く起きたか。上映はもう、終盤だ」
「……さも当たり前のように居るな。お前は」
右側からあの胡散臭い声が聞こえ、首を横に向ければ……ベーゼレブル・ツヴァイが居た。
LLサイズと思われるポップコーンを左手で抱え、喋り終えると此方の言葉を意にせず貪り始める。
まあ、それは百歩譲って良い。ただ、神父服の内側から取り出した麻婆の素を掛けるな。
そんで取り出した蓮華で食うな。最早ポップコーンか麻婆なのかも分からんのだが?
「お前の目論み通り、別動隊は勝った。だが、肝心の貴様が敗走では顔向けも出来まい」
「目論みは読み取れる癖に、狙いは読み取れないのな。──逆さ。敗走するのが狙いだった」
「ほう。負けず嫌いの貴様が敗走を狙うとは……いやはや、俄然興味が湧いてきた」
此方の目論みを見抜き、琴音達が少し苦戦しつつも、自分も倒した蝿頭に勝利した映像が映される。
勝利と言う白星を得た別動隊に対し、自分達は敗走の黒星を拾う差に、挑発まがいの言葉を吐くも。
今回は徹底的な敗走が目的。不完全燃焼・不服そうな顔をしていたのか、興味を持たれた。
「パワースーツ自体、既に性能的にも限界。そろそろ大規模な改修が必要だったしな」
「確かに、無理矢理底上げをしていたな。その頼みの綱も全て、錆びて砂になったようだが?」
スーツはほぼ初期の時点で、既に力不足。第三装甲も今やほぼ全滅と、一々痛い所を突つきやがる。
涼しい顔をしながら、妙ちくりんなモンを蓮華で食ってる姿はシュールの一言だがな。
「だが、後の事を考えれば必要な犠牲とも言えよう。我々が世界を滅ぼした後の世界には──な」
「……どう言う意味だ」
「何、我々が持つ八つの紋章は全て──世界を破滅に導き、滅ぼす力だと言っているのだよ」
自分が危惧していたのは、全て終えた後の世界。どんな影響が世界に及ぼすかも未知数。
だからこそ、最悪の可能性に対しあらゆる策を打ちたい。自己満足だとしても……
飯を平らげた宿敵は自分達が世界を滅ぼすと言い、意味深な言葉を告げた直後──視界は暗転。
再度目を開けば、其処は──青空広がる空と深紅の鳥居、立派な社が建っている神社。
「摩訶不思議体験は何度もして来たが……慣れたら慣れたで、違和感を持たない事に違和感を覚えるな」
「けれど、人間はそう生きて来て、破滅の道を辿り続けている。過去未来現在を永遠に」
「強き光は濃い影を産み、強き光に虫は近付いては──焼かれて潰える。我々や、人類も」
世にも奇妙な出来事も、繰り返し体験しては日常と変わらないのかも知れない。
されど、違和感を持たない……と言うのは、大問題だ。慣れとは鈍化、鈍くなる事を指す。
社の中から現れた巫女姿の恋と霊華は、慣れを繰り返して生き延び、同時に破滅して行くと語る。
破滅の道へ誘う強き光──それは多分、ありとあらゆる力を指している言葉なんだろう。
「金や権利なんかがその強き光ってヤツなら。アニマが言ってた通り、幾ら自分達が頑張っても無駄だな」
「それに欲望や願望も付け足せば完璧。破滅コース一直線よ」
生命体は欲望を持って生きている。性欲は子孫を作る為、食欲は食べて生き長らえる為。
睡眠欲も生命活動には必須な行動。何だが……度が過ぎれば三大欲求も破滅へ誘う道。
子が多ければ比較が生まれ、嫉妬や妬みが悲劇を生む。食欲も最後は己すら喰うだろう。
睡眠は……言うまでもない。餓死が一番落とし所としてはまだマシな方か。
「欲望と願望が作り上げた現代社会。されど国が国民に先入観を与え、嫌悪感を生ませるとはな」
「普通に生活してたら、気付かないわよね。自分が住んでる国や他国に、自分達が洗脳されてるなんて」
「国が洗脳せずとも。親や社会が、子や他人を洗脳して行くものだよ」
人類の進化は欲望と願望が作り上げたと言っても、過言ではない。寧ろ事実だ。
老人や子供の性欲に嫌悪感を抱き、罪を犯した者の報道を鵜呑みにし、腫れ物扱いする。
これらも国が民に行っている洗脳。何故?と疑問を抱き、深掘りしただけで処刑された人もいる程だ。
「国のトップは洗脳されない国民は不要なんだろうよ。知識は不安と言う泥を払拭する水なのに」
「知識も立派な力さ。純粋な力に善悪の概念は無く、僕らが勝手に決め付けているだけ」
国が欲しいのは未来永劫、馬鹿な国民だけ。目の前に餌をぶら下げられ、走り続けるお馬鹿な馬のみ。
知識があれば不自然に気付き、如何に生き残るかの術を考え、娯楽物すら作って見せる。
力とは純粋無垢なモノ。自分達が扱いを間違えず、世間一般的な犯罪や迷惑行為をしない限りは。
「何はともあれ。自分達がやれる事を、やれるだけやるしかない。破王が無いのは心細いけどな」
「ご主人様、覚えてないのかい?破王は桜花達を初めて追い掛ける中、心情花──無月闇納に折られ」
「次元の狭間に落ちたのよ?多分、回収はもう無理じゃないかしら」
「マジかよ」
他人にどう言われようと、自分達が出来る事をやればいい。静観にしろ、行動するにしろ。
愛刀・破王の行方を恋と霊華に教えて貰ったが……追跡での戦闘で闇納に折られ、行方不明!?
あの刀は凄く大切な物。仕方ない……クソゲーを手土産に、副王に頼んでみるか。
「そう言えば、恋も静久や愛みたく元は凄い存在だったのか?」
「ふふっ、九尾の狐」
ふと気になった疑問。護符や暗器を扱い、モノを生成する能力を持つ天皇恋。
彼女の素体はなんだったのだろうか?と思い訊ねてみたら、かなり大物な名前を誇らしく口にした。
「……だったら、他の三人とも肩を並べれたんだけどね。残念ながら特別な力も無い、ただの野良狐さ」
が──表情は直ぐ様苦笑いへ早変わり。後頭部を軽く掻きながら、申し訳なさそうに真実を語る。
ただの野良狐とは言うが、天狐まで登り詰めたのは素直に驚愕。自力で仙人になった様なもの。
血が滲み気が遠くなる程の努力と結果に、自然と恋の頭を優しく撫でていた。
「ただ……その過程で酷く見苦しいモノも視てきたよ。現代社会の女性達は全く成長しないね」
「ほう。その話、詳しく聞いても良いか?」
「勿論。前提として全ての女性達とは言わないが、昭和時代の思考に悪知恵が働き過ぎてる」
満足感に目を閉じて堪能していたが、うっすらと目を開き、冷たい言い方をし始めたので。
その話題を詳しく聞くと……現代社会の女性は専業主婦希望が大半かつ、子供を産んだら男を棄てる。
男女平等を唱える時は、女性側に不利益がある場合のみの、女尊男卑思考。
本気で婚活をしているのは極一部。残りは選り好みをする売れ残り、即ち行き遅れだと。
「女の武器は若さだ。なのに自分の価値も見えず、高望みする馬鹿が多過ぎる」
「すっごいエッジ……言葉選びがえげつないわね」
「そりゃあ少子高齢化も起きるさ。低い役職なのに高い役職の男性と同じ額が欲しい。なんて言う程だ」
確かに女性の武器は若さだ。RPGで言えば、女性は産まれた時点でレベル十~三十五。
対照的に男性は初期レベル。それだけの差があり、男性の武器は行動と結果で上がり続け。
逆に女は歳を重ねる程レベルは下がり続け、男に求める理想と不利益に対する文句は上がり続ける。
女友達やママ友相手にマウントを取る為、高学歴で高い役職の人を選び易い。
「あぁ~……もう、その辺りでいいぞ?」
「そうかい?言いたい事はもっとあるんだけど」
流石にこれ以上は~……と思い止めたが、まだ言いたい事があるんかい!
兎も角、これ以上愚痴られると霊華にも飛び火が行きそうで怖い。でも実際に調べた事はあるが──
二十代の内に子供を産まないと負担が大きくなったり、障害持ちや奇形児の可能性があると聞く。
「どうせ永遠の愛なんて神に誓ったところで、結局は離婚する確率の方が高いんだ」
「本当よね~。恋は三年、愛は四年って言うし」
落ち着かせようと抱き寄せるも、余程凄まじいのを視たのか?愚痴が終わらない。
霊華も何処か遠くを見るような目で喋り出す始末。女の世界は凄惨とは聞くが……そこまで?
「それは兎も角。此処からは僕も、ますますご主人様の力になって行くから」
「それはありがたい。これからも、頼りにさせて貰う」
抱き寄せられていた恋は自ら離れ、右手を差し出し握手を求めつつ、更なる助力を約束してくれた。
その想いに応えるべく。差し出された右手と握手をし、本当の気持ちで返す。
苦しいけど……少しでもみんなの期待に応えられる様に、頑張って行かないとな。
「早速なんだが、僕が考えた第三装甲の装備や機能を語っても良いかい?」
「お、おう……構わんぞ?」
しみじみ思っていたのも束の間。握手をした右手が引っ張られ、子供が好きな何かを語る様に。
目を輝かせ、新たなる第三装甲の案を語る。正直、ちんぷんかんぷん過ぎてクッソ眠かった。
専門用語やら興味の無い話は脳が疲れ易くなり、休息を求めて眠くなると言うが……これがそうか。
苦笑いをする霊華に見守られながら、体感的に五時間は聞いていた様な気がする。




