結城飛鳥
『前回のあらすじ』
同時進行する怪物を撃破・撃退すべく行動に移す一行。エックスと静久、シュッツは和歌山に現れた怪物へ。
黒いカメレオンで動きは鈍いが、その伸縮性の高い舌と腐食作用を持つ黒い液体に大苦戦。
フォックス、古き騎士の第三装甲を失い、辛うじて撃破……した筈が、黒い液体・泥が集まり第二形態へ移行。
体に違和感を覚えつつもフェンリル・アーマーを纏い静久、シュッツと共に、鎧剣士となった敵へ挑む
足場的な問題は何一つ無い。地を駆け、奴の周囲を執拗に回り、注意を此方に引き付ける。
シュッツもやる気じゃが、限界は近い。ならば少しでも、負担を軽くしてやらなければ……
右手で乱雑に振り回す大剣。左手から繰り出される鋭い爪を全て、紙一重で避ける。
「身動きは──ずぶの素人じゃな……静久!」
「分かっている……ふっ!」
避けるだけを繰り返し、安い言葉よりも目に見える行動で繰り返し、わっちは挑発を継続。
速度は幾らか上がれど、見切れぬ速度ではない。問題は体……短時間で負担が強い初の連続融合。
わっちと奴を挟む形で動き、水鉄砲の如く人差し指から高圧水流を撃つ静久。
「ふん……その泥を固めた鎧も、撃ち抜いてやる……」
「──クッ!」
「何処を見ている。お前の相手は俺達だ」
命中する度、静久の宣言通り泥の鎧は連続で受けた箇所は撃ち抜かれ、左胸に風穴が空きおった。
注意が静久に向いた時、シュッツが奴の右側面より紫色の魔力弾を命中させ、意識を自身に向け。
わっちら三人に意識を拡散させよった。これならば互いに援護し合い、助け合えると言うもんじゃ。
「何故……どうし、て」
「ッ!?」
「厄介な……!」
優位に立った、と思えたのも束の間。右手が突然細く伸び、意思を持ったかの如く襲って来おる。
まるで細い寄生虫……手にした大剣を縦横無尽、不規則に振り回す辺り面倒な事この上ない。
シュッツはウエストポーチから拳程はある瓦礫を掴み、投げ付けたのじゃが──
迎撃にと斬られた途端、朽ちてしもうた。泥の時に持っていた能力は健在……いや凝縮したんじゃな。
「──!!」
「全員……動け!」
左手の平をシュッツに向けた時点で全身が寒気を感じ、身震いを起こす。
言葉より行動。先に動いたのを合図に静久は全員へ呼び掛けた矢先、黒い水が放水されたのじゃが……
左手から離れた水は無数の黒い蛇に形を変え、放射線状に放たれ──戦えば戦う程に後退し。
わっちらや町の被害は増え、遂にはあの異質美術館とやらが在る場所まで、吹き飛ばされてしもうた。
「す、すまない……貴紀殿」
「気にしておる暇があれば、奴の──っ、核を一秒でも早く、見付けんか」
助けながら動いた故、両手足や背中の鎧部分に少々被弾してしもうたのがキツい。
手足の爪パーツは黒い水を少量とは言え浴びた影響で錆び、先端が欠けて攻撃には使えん。
背中のブースターとやらも腐食して、他のパーツ同様に機能せん始末。
左腕の痛みも増し、これ以上の戦闘行為は命が危うい。スピードを殺された以上、出来る事は──
「はぁ、はぁ……もうっ、タイムリミット──か」
「シュッツ……貴紀を何処かへ隠して休ませろ……そろそろ限界も近い」
「承知しました、静久様!」
膝から崩れ落ちると同時に変身と融合は解け、第三装甲・四号の錆びは全体に広がり。
完全に錆びたのを切っ掛けに次々と剥がれ落ち、砕け散っては粉と化し、風に吹かれて何処かへ。
それを見届けた後。視界は赤く染まって意識が朧気になり、耳も遠くなって行く。
恐らくシュッツに担がれ、何処かへと運ばれては冷たく固い場所に寝かされたのだと理解する。
『くっ……こんな、筈では……』
『静久──さ、ま……』
目蓋を閉じ、眠り行く中で見た、倒れ行く仲間達。あの泥鎧剣士に取り込まれる静久……
全身が膿だらけになるシュッツと、自衛隊の人達。そして巨大な影が伸び──この星を焼き尽くす。
「此方ガンマチーム。瀕死の目標を発見、指示を求む」
『完全に殺せ。オメガゼロは、我々人類の脅威である悪だ』
「…………了解」
何も見えない、何も聞こえない。ただ心に、言葉と色の付いた心が伝わってくる。
命令を忠実に遂行しようとする黄色、恐らく通信機越しに指示を出す黒、指示に苦悩する青。
もう、痛みも何も感じなくなった体。赤い何かが、少しずつ抜けて行く……黒衣を纏う髑髏が近付く。
最後は──人類に殺されて終わるのか。そうして、人類は自ら破滅して行くんだな。
「……死亡を確認。周囲の警戒終了後、全隊はターゲット・ナイトメアの攻撃に移る」
「ハッ!」
五つの黄色が遠ざかる中、青色だけが自分の傍に残り、独り言を呟きつつ何かをしている。
「先生が仰った通りだ」とか──「今の上層部は自己保身に走って腐っている」だの。
先生とやらは分からないが……この人は政治家や首相に不満があるらしい。
少しして何かを終えたらしく、青色は離れて行った。あれから、どれ程時間が経ったのだろう?
「行か……なきゃ」
いつの間にか五感が戻り、意識もハッキリしている。握り拳を作ると、力が少し入る……行けるか?
ゆっくりと体を起こした時。美術館の崩落が始まり、上の階から美術品の数々が落下。
タイトルが『贋作の心』の像と、額縁に入った絵が幾つか。目の前に落ちて来たのは……
『破滅の光/終焉の闇』や『真作/贋作』の絵。何かを暗示しているかの様に思いつつ、外へ。
「ま……魔力障壁と鱗で防いだが、それでもキツいとは」
「シュッツ!」
「貴紀殿……すまん。静久様の援護に、向かってくれ」
崩落した出入り口に駆け寄ると。吹き飛ばされて来た誰かが左側に在る白い柱を破し、下敷きに。
瓦礫を退け、弱々しくも起き上がろうとする人物に近付いたら……シュッツだった。
震える右人差し指で示した先には、あの鎧剣士が繰り出す猛攻を的確に避ける長髪姿の静久が居る。
「ちっ……しつこい奴め」
「ジズ──グゥゥ!」
寄生虫が蠢くが如く、縦横無尽に動く右腕と剣。その軌道を的確に見切っては──
ゲリラ豪雨で濡れている足場と自身の能力を利用し、滑り込み、時に舞いながら避けては。
指先から高圧水流を噴射し、相手の鎧が欠けたと思えば、右手に水を纏い回避と同時に繰り出す。
超高圧水流による斬撃。これにより、鎧ごと左腕を切断して見せる。
「左腕を貰った……が、所詮は焼け石に水……」
「イダイ!いたいイダイ痛い異体居たい射たい!!」
「静久!」
着地と同時に鎧剣士は体のバランスを崩し、右へと転倒。しかし切り落とした左腕は生きており。
自らの意志で体と再結合。元が泥な為、切り落とすのも意味は無い様だ。
痛いと喚く中、奴の右腕は更に滅茶苦茶な軌道を描き、静久の背後から首を切り落とす。
「や、だぁ!」
「阿呆……勝利を確信した時こそ……最大の隙が出来る」
その雄叫びは、勝利を確信したモノなのだろうか?発音的にどっちもどっちと受け取れる。
コンクリートの上に落ちた静久の首は弾け、水溜まりの一部となった。
直後。鎧剣士の背後に突如として現れ、超高圧水流の手刀で背中から後頭部までを斬る。
「少し……浅か──!!」
「静久、危ない!」
少し距離を空けて呟く途中で、動きを止めてしまった。それを好機を見たのか。
触手だか寄生虫の絡み付いた大剣が振り下ろされる。そんな時、思わず静久を助けようと駆け出し。
触れた途端──トリニティ・フュージョンが発動。グラビトン・アーマー専用タービンを高速回転。
右腕で受け止めたら……火花を散らす中でタービンが急に減速し、錆びて散る瞬間に距離を取った。
「魔力……急速充填、完了」
「おぉぉおぉ!」
「貰った……!!」
分厚い胸部装甲の内側に、第三装甲・二号に蓄えられた魔力を全て集中……
ダメージがあるかは知らん……それでも、戦いの邪魔もされて挑発としては十分。
馬鹿正直に真っ直ぐ近付いて来た。今こそが最大のチャンス──胸部装甲を開き、渾身の魔力を放つ。
「うっ──行け、静久!」
「すまん……助かる」
アンカーなどの固定無しで撃ち続ける胸部主砲、エクリプスブラスター。
その魔力砲の中を強引に、真っ正直から踏ん張って来ては、咄嗟に閉じた胸部装甲を斬られた。
最後の第三装甲も錆びて散った時、俺の背後から左側面に飛び出した静久がゲリラ豪雨を集めて放つ。
高圧水流が奴の頭部に直撃。ヘルムは砕け散り、素顔が見えたのだが……一瞬で治った。
「詠土……弥?」
「後頭部を見てもしや……と思ったが。やはり、お前だったか」
「恩返じ、ずるぅぅ!!」
なんと、行方不明になっていた詠土弥。何故そんな姿に?と思うも、三騎士・コトハと会っていた。
アイツの呪いでこんな姿にされたのか?静久は後頭部を見た時に、ある程度覚悟はしていた様子。
恩返し。と言い叫ぶも、やっている事はただの暴走。黒蛇になった水は美術館を半壊させているだけ。
「チッ……手が付けられ……!?」
「今の内。付いて来て、お仲間も保護してあるから」
手が出せず、下手な移動も出来ない。そんな場面に放り込まれた丸い塊は濃い煙を噴き出し。
辺りの視界を悪くする。立て続けにガスマスクを被った人物に手を引っ張られ、煙幕の外へ。
案内されるがまま、マンホールの下へ。広い空間の下水道でガスマスクを外し、素顔を見せたのは……
「十八年振り!やっと戻って来てくれた」
「もしかして──飛鳥?結城飛鳥!?」
「うん。イゴーロナクが引き起こした事件の時は、本当にお世話になったね」
結城飛鳥。彼女は十八年前、東京で引き起こされたイゴーロナクの事件で一緒に解決した元婦警。
本当に久し振りな……生死すら分からぬまま別れての再会だからか、抱き付かれたんだが──
左腕が痛む上、無茶して全身筋肉痛故の痛みが……喋る気力すら削がれる。
「何故、お前が居る……」
「何故って、私もレジスタンスの一員だから。新しいお友達もね」
喋れない自分に代わって話し掛ける静久に、レジスタンスの一員だからと話す飛鳥。
新しいお友達、と言って紹介して来たのは飛鳥以上に何故お前が?と言いたくなる人物。
「結城飛鳥。負傷者が多い、一度拠点に戻るべきだ」
「アイアン・メイデン……!」
「そう殺気を立てないで。あの怪物に此処の位置がバレたら、面倒」
飛鳥をフルネームで呼び、意見を進言する女の殺し屋アイアン・メイデン。
もしかしたら脅したり、催眠で都合よく操っているのでは?そんな疑問が浮かび睨むも。
現状を冷静に見、考えている様で、ぐうの音も出ない正論で返され口を閉じる。
「君が心配するのも分かるけど、彼女は味方。君と別れてから、私も色々と冒険した結果なの」
飛鳥の肩を借りて歩きながら、彼女はそう答えた。今は信用するしかない……のだろう。
アイアン・メイデンが担いでいるシュッツは外出血こそ無いが、内出血はしているかも知れない。
自分達は下水道を通り、駄菓子屋に偽装した拠点へと戻れた。その後は……疲れ果てて爆睡だよ。




