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ワールドロード  作者: オメガ
五章・corrotto cielo stellato
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悪夢は形を変えて

 『前回のあらすじ』

 水葉との懐かしい夢を見、潜り込んだ水葉のラッキースケベにより、嫉妬心から八つ当たりで手を出すサクヤ。

 心情ゆかりと運動中、ゲリラ豪雨に遭遇。避難した美術館で見るからに怪しい女性と出会い、話す。

 異質な美術品を見る中で、一際不思議な印象を受ける絵を見付けた時──緊急警報が発令。

 京都と和歌山からの進行と被害を防ぐべく、ゆかりは女性を避難させ、一行はライナーに戻り迎撃に向かう。



「琴音、現状報告と被害・進路予想を聞かせてくれ。ベビドは討伐と救助班の選定。寧、スーツは?」


 ゼロライナーへ戻ると同時に各員へ指示を出し、慌ただしく動く面々をすり抜け作戦会議室へ。

 琴音の各報告と予想は緊急警報より正確で、京都に現れた奴は兵庫県の六甲山を目指し。

 和歌山に出現した奴が大阪に向けて進撃中。移動速度は京都の奴は早いが、寄り道も多い。

 もう片方は移動速度が遅いながらも被害は大きく、腐乱臭が漂っているそうだ。


「スーツはまだ未完成だけど、使えるよ」


「よし。リグレット、進路を六甲山に変更。俺と静久──シュッツの三名で遅い方を叩く」


 本当はサクヤに同行を求めたかったが……寝起きの件をまだ怒っているのか、自分と顔を合わせない。

 スーツは未完成ながらも使える。此方は転移で、残りの面子にはライナーで向かう方向の考えを伝え。

 倉庫へ向かい、ゲートの前で転移先を俯瞰視点で調整した後、起動したゲートを通り抜ける。


「被害は大きい、と聞いていたが……これ程とは……」


「静久様、貴紀殿。あの液体は触れぬ方が──!?」


 転移した先はビルの屋上。下の景色を眺め、被害状況を確認すると……酷い腐敗臭と黒い泥が尾を引く。

 今は奴の半径二百メートルが黒い泥の範囲。徐々に収縮し、その周辺は草木や瓦礫一つすら無い。

 静久が余りの被害に言葉を漏らし、シュッツは注意喚起を促してくれた矢先──ソレは飛んで来た。

 この被害を生んだ本体では無い。黒いカメレオンたるソイツが口から伸ばす、朱色の舌が。


「距離的に見ても結構離れてるのに、此方を捕捉するとは……しまっ、変し──」


「貴紀殿!」


 静久をお姫様抱っこで抱えたまま隣のビルへと跳び、奴の舌を避けた……までは良い。

 が──その舌の伸縮速度は凄まじく、気付けば左足に巻き付かれ、勢い良く放り投げられ。

 辛うじて変身は間に合い、建物への激突から多少は身を守れたものの、予想外過ぎる。


「静久……無事か?」


「お陰様で……そちらも、幸運に救われたな」


「成る程。アイツの黒い液体は物質を腐乱させて溶かす効果があるのか」


 壁と硝子を砕いたらしく、床に破片が散りばめられており、天井を見るに此処は高層住宅と見た。

 腕の中から離れ、起き上がって言う静久の言葉と視線から千切れたズボンの破片に目をやると。

 黒い液体を浴び千切れたズボンの一部は溶けた。もし、これを体に受けたら……


「来る……!!」


「野郎、どうやってこっちを捕捉してやがるんだ!」


「キャアァァァッ!!」


 ゲリラ豪雨の激しい雨音で外の音は聴こえ難く、黒煙が空を覆い薄暗くて見え難い筈。

 なのに、あのカメレオンは此方を的確に捕捉し、怒涛の勢いで黒い液体で濡れた長い舌を伸ばす。

 コンクリートの壁を瞬時に溶かして破り、迫り来る舌。同時に聞こえてくる女性の金切り声。


「静久、逃げ遅れた人を頼む!」


「任せろ……と言いたいが、アイツとの相性は……」


 悲鳴とは、悲しくて鳴くものではない。眼前に映る死と言う概念が心底怖くて、鳴くのだと。

 水葉師匠に教わった。死より離れれば、人は獣となりその責任を他者に擦り付ける愚者と化す。

 故に、()は見殺しにしろ──と、真夜と似た事を教えてくれた。だから、人は救わない。

 静久に指示を出しせば言葉を最後まで聞かぬまま、奴の舌が開けた穴から外へ飛び出す。


「恋、フォックス・アーマーだ!!トリニティ・フュージョン!」


「承った!」


 高所から落下しつつ、大きな独り言の様に口にすれば、白狐のメカが宙を駆け寄ると同時に融合変身。

 巫女狐を連想する装備を纏い、空中で停止。右手に現れた扇子を上に向けて扇ぎ、竜巻を起こす。

 動きこそ止まったが……ダメージは無く、あの厄介な液体も飛び散るだけで、全く剥がせない。


「ふむ……様々なゴミを集めたナイトメアゼノ擬き、か。少々厄介だな」


「──?」


 天狐の眼で視、気紛れな風の声を聞けば大概は分かる。コイツは人工ナイトメアゼノ……

 されど、疑問がある。僕が依頼を受けた人工悪夢はコイツなのか?それとも、別に存在している?

 何はともあれ。この第三装甲は非接触での対処専用装備、コイツ相手は相性が良いと言えるだろう。

 後ろ腰に付いた四本の尻尾。その先端に魔力と霊力を込めて狐火を灯し──


「受けてみるがいい。九尾を越えた、天狐の狐火を」


「貴紀殿!こんな場所で大技を使われては、被害が!!」


「言われずとも、承知してるよ。五行陰陽・結界陣、天陣噴炎!!」


 右手で宙に五芒星を描き、霊力を込めて巨大カメレオンの足下に陣を形成。

 陣はその場でゆっくりと、されど徐々に速度を上げて回転。捻れた黒き板を呼び、火山の形に。

 左手に赤い火を灯し、尾に灯す金・緑・茶・青。四つの黄色い炎を掴み取り、唯一の穴に投げ込む。

 さすれば──釜の中で五色の炎が円を描き満たした末に、色の混ざった噴火が起きる。


「な、なんと言う威力!黒煙の空をも穿つ程と……はぁ!?」


「成る程。火は無効──と」


 結界陣が消え、結果を目の当たりにしたが……これは正直に予想外だね。火が効かないとは。

 風も足止めが精一杯、水は今も止む事なく降り注ぐゲリラ豪雨でも、嫌がる素振りを見せていない。


「あの液体を対処しない限り、僕に勝ち目はない。何か、粘着性の強いアレを剥がす方法は……ッ!?」


「フシュー!」


 先程と同じく此方に向けて舌を伸縮させ、怒涛の勢いで打ち出してくる。

 宙を蹴り、空に現れた両開きの襖へ飛び込み、駆けながらフェイントと様子見を兼ねて襖を開く。

 やはり的確に此方を捉え、舌を打ち出し続ける。収縮するタイミングを見計らい、飛び出した。

 直後。尻尾の一本を舌が捉え、バランスを崩し落下中に溶かされる尻尾。下はあの液体……くっ!


「貴紀殿ぉぉぉ!」


「シュッ……ツ」


「うおぉぉぉっ!!」


 融合が解け、意識を失った恋を抱き締める。フォックス・アーマーは液体の海に落ち、溶解。

 叫び声が聞こえ、声の方を見ると──高層住宅の壁を落ちながら走り、此方に飛び込むシュッツ。

 空中で自分を掴まえると、跳躍した勢いのまま液体の無い場所へ自身の背を地面に向け滑り落ちた。


「はぁ……はぁ……頼む、貴紀殿。我らが築く未来を──我らの戦いを、見届けて欲しい!」


「シュッツ……やめろ。やめてくれ!」


「一人の英雄(ヒーロー)を生け贄に、我らだけがのうのうと生き延びるなど、出来るものか!!」


 此方を地面に降ろし、千鳥足で立ち上がるなり自分に向けて魂の叫びを上げながら。

 奴に飛び込むも舌の直撃を体に受け、弾き返されて車道に滑り落ち……白目を向き強制変身解除。

 恋は液体の被害を自身だけで受け止めた為、左腕に戻し休息中。風や火も駄目──だが!


「表面が駄目なら、狙うべき場所は……マイマスター!」


「あぁ、トリニティ・フュージョン」


 今度は絆と第一号の融合を果たし、右足で力強く跳ぶ低空ハイジャンプで奴へ突っ込む。

 口が開いた瞬間、当然の様に真っ直ぐ迫り来る舌。直感が見せる映像(ビジョン)に左足が反応。

 歩幅を短く踏み込み、地を蹴り斜め上に跳躍し回避。続く二撃をエアダッシュで前進に進み避ける。

 背中のブースターとバーニアを噴かし更に加速。左胸に装備された剣を右手で抜く。


「フシュー!!」


「クッ……やっぱり、相手の方が早い」


 奴の近くまで届いた。怒っている様子だが、それは私も同じ。後は倒せる量の魔力を注ぐだけ。

 なのに──次の一撃は、圧倒的に相手の方が早い。最善の行動と、最悪の状態。

 例え左腕を犠牲にしたとしても、この一撃は叩き込まなければ。シュッツの為にも!


「──!?!?」


「やれ!コイツは……私が、押さえる……」


「静久──えぇ、頼みます。無限光アイン・ソフ、フルドライブ!!」


 腹を括った時。ゲリラ豪雨が突然止み、代わりに一転集中の水が奴の背中を直撃。

 思わず距離を取る中、すると素人目でも分かる程に酷く嫌がるっている様子。

 それでも、蜥蜴が人間に背中を指で押さえ付けられる様に、全く動けない。これは絶好のチャンス。

 光の力で剣に魔力を注ぎ込み、再度推進力を全開で口内目掛け、剣を突き立てて突撃。


「灼熱爆発・コロナ──バーン!!」


 赤から青へ。完全燃焼された炎を切っ先から全身に纏い、奴の口内へ飛び込み……可燃ゴミに引火。

 内部から大爆発を引き起こし、凄まじい爆発と爆風に押し返され、融合が解けながら外へ押し出され。

 左腕から地面に落下。第三装甲・一号も大爆発を直に受け、焼け焦げた上に空中分解。


「良くやった……」


「はは……恋やシュッツ、寧達と静久のお陰さ」


 一人では敵わなかった、攻略のビジョンすら見えてなかった。覚悟や行動も……出来たか怪しい。

 差し出された右手を掴み、立ち上がる。恋に続いて絆も、暫くの間は休息が必要。

 褒めてくれる言葉に対し、みんなのお陰だと。嘘偽りやお世辞の一つも無い、素直な気持ちを返す。


「し──静久様、貴紀殿。あ、あれは……」


「チッ……往生際の悪い奴め」


 シュッツの声が聞こえ、意識を取り戻したと安堵したのも束の間。指差す方向に視線を向けるや否や。

 あの黒い泥だか液体が一点に集い、身長推定二メートルの、黒い全身甲冑に包まれた鎧剣士を作る。

 いや、正確には甲冑鎧。呼吸の様に黒い霧の様なガスが、黒蛇を模った頭部甲冑部から噴き出て。

 視る限り、武器は緑に淡く光る黒い大剣と──掌から濁流の様に湧き出る黒い蛇だけ。


「恐らく、奴の弱点は……高圧水流。前衛は任せる……」


「っ!?……あぁ、任された」


「お、俺も。静久様、貴紀殿と共に」


 命からがらラスボスを倒し、第二形態が現れた時の主人公達って……こんなにも絶望的だったのかな?

 落下の際に左腕を痛めたらしく、動かせるものの激痛が走る。それでも、奴を野放しには出来ん。

 静久と横に並び、第二形態と成った奴を視ているとシュッツが隣に並び立ち、共に戦うと発言。


「最初から全力で行け……さもなければ、私達が殺られる」


「メインアタッカーは静久だからな。俺達は撹乱と隙を作るのが仕事だ」


「承知した。静久様も、お気を付けて」


 全力で行けと言う通り、不完全な今ではアレに真っ向から勝負しても勝てない。

 静久の高圧水流だけが、唯一の希望。俺とシュッツの仕事は、攻撃チャンスを作るだけ。

 後は回避と防御に専念し、核が剥き出しになった瞬間に打ち砕くのみ。


「愛、トリニティ・フュージョン!」


「うむ。その作戦ならば、わっちに任せよ!」


 本日三度目のトリニティ・フュージョン。正直、体に妙な違和感を感じている。

 それは後でメディカルチェックを受ければいい。ニーアとエリネ、寧とマキナには後で怒られよう。

 灰色狼ロボと融合を果たし、シュッツと共に甲冑鎧剣士へと駆け出す。




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