全ての黒幕
『前回のあらすじ』
桜花からの依頼を受けるか否か真剣に悩むエックス。されど彼女の口から、驚愕の事実が語られる。
「もう管理者と言う勢力じゃない」と話し、闇納が生み出した人工ナイトメアゼノ・バグの破壊を依頼されるも。
桜花は生き地獄を味わう様、四肢と腹を撃ち抜かれ、瀕死の状態へ。其処に現れた闇納を力の暴走で仕留める。
ニーアとエリネの力で桜花の治療に成功するが、トラウマを消すのにアルファとの記憶を失う桜花であった。
最悪の結末は防いだが、別の意味で最悪な結果を起こしてしまった。そんな申し訳なさもあり──
自分達は、あの空間から元居た場所に転送して貰った。原因たる天使・エリネは今も満足げな笑顔。
人間と天使の……違うな。色んな意味で、加害者と被害者の心境だった。当の本人は気付いてないが。
「ふぅ~……何はともあれ、みんなを此方側に引き戻そう。あの空間は精神的に悪い──し」
「御主人ちゃま、どうちたんでちゅ──かぁぁぁッ!?」
「エリネ、五月蝿──!?」
何はともあれ。次元の狭間からみんなを此方側に戻すべく、フュージョン・フォンを操作する時。
目の前に現れた存在に驚いて動きは止まり、続く言葉も大きく間が空いてしまった。
此方の動きが止まった事に気付き、振り返ったエリネは驚愕の余り叫び。
釣られて振り向いたニーアは文句を口にする途中で絶句。二人の行動は当然とも言える。何故なら……
「なっ、ななななな……ナイトメアゼノ・ホライズン!?」
「落ち着いて落ち着いて落ち着いて──先ずは深呼吸をして、冷静に物事を考えないと」
怯える余り、自分の後ろに隠れるエリネと、現状を如何に切り抜けるかを思考するニーア。
下手に動けず、右腕をゆっくりと降ろしたのを見届けた瞬間。ホライズンの眼が紫色に光る。
「漸く……ここまで力を取り戻したか。エックス」
「まあな。とは言え、降り注ぐ火の粉を払ってただけだ」
自分達二人以外の時間が止まったのを肌で感じる中、流暢に話し掛けてくるホライズン。
正確には、古き友・ドゥームの魂を宿した人形。察するに、他の面々には知られたく無いと見た。
疑問は幾つかあるが、余計な話をしている暇と時間は無いのだろう。時間停止は、そう言うもの。
「人類がゴミを棄て続けている。確かに生きる以上、発生する必然的な現象だが……これは駄目だ」
「教えてくれ、ドゥーム。奴らは──いや、人類が何をし始めているのかを」
「人類は境界を破る気だ。未来が豊かになると信じ、人類滅亡の道を……自らの手で舗装している」
ゴミを棄て続ける行為を危惧し、苦悩する我が友・ドゥームの姿がホログラムの如く目の前に映る。
白く短い髪、黒シャツに真っ白なコート。ズボンは黒いジーンズで上下色と生地を揃え、白い靴。
人類が自ら境界を破り、人類滅亡にも繋がる道を舗装している?正直、理解が追い付かない。
「人類は大地・海・宇宙・電脳空間・次元の境にすら、ゴミを棄て続けているんだ」
「──そう言う事か!確かに、人類はこの惑星や宇宙への進出でゴミを棄て続け、放置している」
「それに目を付けたのが……闇納だ。彼女は既に僕の手を離れ、三つの勢力を手中に納めようとしている」
この惑星や周囲の宇宙にまでゴミを棄て続ける他、ネットワーク世界にもゴミを増やしている。
次元の境ってのは……俗に言う、瞬間移動の実験か?そう納得した矢先。とんでもない情報を耳にした。
闇納──ハーゼンベルギアが、三つの勢力を手中に納める!?ちょっと待て、そう言えば自分は……
桜花の別人格たる闇納を倒した時、あと二人と口走った。それはもしや、これの事を言っていた?
「魔神王軍──いや、終焉はそれに気付き、対策を打ち続けている。僕も対策は打ったけど、遅過ぎた」
「遅過ぎた?先を読んで行動している君が?」
ドゥームが口にする後悔の言葉に、疑問が浮かぶ。良き結果を求め、先読みを行い実行する。
そんな友が遅過ぎたと言うのは、余りにも不可解。どれ程遅過ぎたのか?何処で見逃したのか?
思考を張り巡らせるも、自分が取り戻した古い記憶の中では、そう思える部分は全く無い。
「最初からさ……僕はNo.01、つまり『一番最初』に誕生したと認識した。でも、それは間違いだった」
「まさか……嘘だろ!?」
最初から間違えており、知った時に打った対策では駄目だったのか?誤認が一番の問題点だと?
そう思った時、頭の中で散りばめられた点と点が線で結ばれ、ある一つの結論が導き出された時。
自分の旅や、紅い光と終焉の闇の激突も全て……奴の手の上で踊らされていたんだと気付く。
だからドゥームは『俺』を離反させ、極秘裏の作戦で黒幕の手から遠ざけてくれたのか!
「頼む。僕達を倒し、黒幕・No.00、無月闇納の野望を完全に破壊してくれ!」
古き友から改めて頼まれる約束。終焉のナンバーズを全て倒し、闇納の野望を完全に破壊。
それは裏を返せば、ドゥーム達を倒したら闇納の野望・計画は破綻すると言う意味であり。
終焉──違うな。原初の闇との因縁を終わらせる、最初にして最後のチャンス。
「闇納を倒す為、沢山の紋章を集めるんだ。紋章は心の成長と共に──覚醒する力だから」
「……ありがとう、ドゥーム。我が古き親友よ」
最後に紋章の情報を伝え、蜃気楼の様にゆっくりと消えて行った。
本音を言えば、もっと話したかった。こんな話じゃなく、最高の仲間達を紹介したかったけど。
それは自分達全員の物語に黒幕として君臨する無月闇納!奴を倒してから、ゆっくりと語るべきだ。
見えなくなった友に感謝の言葉を送ると同時に、止まっていた時間は動き出す。
「き、消えたでちゅ!?」
「ニーア、エリネ!直ぐにみんなを呼び戻し、作戦会議を始める。異論は無いな?」
「私は無い。それより、情報共有は早めの方が対策を打ち易いから」
二人の視点からすれば、突然現れたと思えば消えたと言う、訳の分からない展開。
フュージョン・フォンで呼び戻す操作をしつつ訊ねると、何かを理解した様子で肯定。
更には遠回しに早く作戦会議を始める様、言葉で背中を押され、早々に仲間達を召喚。
列車の中へ入ると仲間達から心配され、軽く大丈夫と伝え、会議を始めた。
「以上が此方で得た情報と結果だ。各々意見や勝手な言動に言いたい事があると、重々承知している」
「貴重品を盗まれ、度重なる単独行動に独断で敵勢力と一時休戦。正直、頭が痛いわよ……」
「ごめん……琴姉」
離れ離れになった後に起きた出来事をある程度噛み砕いて説明し、批判と文句を覚悟するも。
そんな気力も失くなった琴音は苛立った様子で目を閉じ、右手で頭痛に苛まれる頭を擦る。
他の面々も「だけど」や「それでも」などと互いに意見を出し合う。
「全員落ち着きなさい!過ぎた事を悔やみ、嘆く暇は無いわ」
『過程と結果は理解しました。改めて、最終目標と方針を教えてください』
騒がしい面々を一言で黙らせ、結果論を言う暇は無いと発言するアイン。
それに続く形で、トワイから最終目標などを聞かれた。分かってはいるのだろう。
多分、答え合わせをして明確にしたいのだ。自分達が何と戦い、どう進むべきかを。
「自分達の最終目標は──オメガゼロ・ワールドロードの撃破。その為には、皆の協力が必要不可欠だ」
「その……ワールドロード。とやらは、如何なる存在と見てよいんじゃ?」
「完全平和の為、文字通り全てと融合を果たさんとする、史上最大にして最狂の生命体だ」
倒すべき敵、その為には皆の協力が必要不可欠と伝えるも……名前だけでは脅威が分からない様子。
兵士長・ベビドから質問を受け、誇張無しにありのままを伝えた。すると再び飛び交う意見。
誇張している、話が大き過ぎて逆に実感が湧かない、本当にそんな奴を倒せるの?等々。
予想通りと言えばそうだが、自分達はそんな奴らと何度も死闘を繰り広げ、勝利を掴んで来た。
「今の姿はコレで名前は無月闇納、本名はハーゼンベルギア。コイツが後、二人存在している」
「──!!」
だからこそ、今の姿を写した写真と名前を提示した。実感が湧き易くする為に。
すると写真を見た仲間達は一斉に驚きの声をあげ、コイツだ!と言わんばかりに指を指す。
「ハイエルフの私に、変な種を飲ませてダークエルフに変貌させた外来人!!」
『雪女たる私の領土に人間を差し向け、外に出ざるを得なくさせた張本人です!』
「コイツは!!儂ら兵士や衛兵は時代遅れと新聞で罵り、不穏な噂で調査を遅らせた輩じゃ!」
激昂するシオリ、トワイ、ベビドの三人は各々怒る原因を口にする。
種族を変えられ、住み処を追われる原因であり、都市伝説・ノゾミさんの騒動や兵を罵った人物。
年代や場所も違うのに、アイツはあちこちに現れ、実験や嫌がらせの他、調査の邪魔もしていたのか。
「ウチの四肢をもいで、右眼にナイフで傷を付けたヤツやん!」
「あたちを天界に在る医術学校で、下界に突き落とした虐めっ子でしゅ」
「アタシの両親を……前魔王のお父様とお母様を殺した、両親の仇!!」
続けてヴァイス、エリネ、琴音が話すその内容は──ピンキリとは言え、予想外過ぎた。
何故その場所に?どうして両親を?疑問が浮かぶも、共通点として疑問なのは……
現オラシオンメンバーや仲間を、協力者として仲間入りする前に狙ったのか?と言う部分。
まるで倒しに来い!と言ってる様なモノ。完全平和を実行する奴にしては、行動が矛盾している。
「もしかして、大将や巴さんもコイツと何かあった?」
「被害は無かったんだが……ギルドを建てる際、何故か料金が先に払われてな。振り向くとコイツが居たんだ」
「私は貴紀さんに渡したペンダントを、この方から購入したんです」
二人の話を聞くと、尚更訳が分からなくなった。シオリ達に被害を出したと思えば。
大将と巴には善行と言うか……プラスになる行動を取っている。この違いと共通点はなんだろう?
いや、ちょっと待て。違いと共通点──戦闘向けか否か?違う、エリネは非戦闘員だが被害を受けた。
「今は調律者・桜として活動していた闇納が生み出した怪物、ナイトメアゼノ・バグの退治が最優先だ」
「あれ?貴紀さんが倒されたこの、ナイトメアゼノらしき生物ではないのですか?」
謎解きは後に回そうと思い、今現在最優先する目標を伝えるも、ある意味想定内な返事を貰う。
確かに倒した。が……今思い返せば、フィニッシュ時の感覚が微妙に違っていた。
蜥蜴の尻尾切り、みたいな感じで。だからあの殺し屋と対峙していた際、再び現れたと理解出来る。
「十中八九、核は体が爆散する前に逃げた。もしそうじゃなかったら、複数体存在するのかも」
「ふむ……もしそうであれば、儂らの力が必要不可欠。と言う訳じゃな」
「あぁ。そして闇納を倒す為、みんなには心を成長させ、紋章を獲得して欲しい」
もしかしたら核は爆発前に逃げた可能性もあり、複数体いる可能性も否めない。
どの道、みんなの力と協力が必用なのは変わらない。一人で出来る事なんて、たかが知れているのだから。




