それぞれの思惑
『前回のあらすじ』
悪夢のかくれんぼの途中、アニマに見付かってしまう!されど、争う様子は見せず、何かを試そうと行動。
入れ替わる形で現れた皐月が問い掛ける、何故?と言う答えの分からない疑問。
それに対し、自分自身だけが出せる答えを出すと、八つの紋章が輝き少しの間だけ白い姿へ。
アニマから調律者が作った人工ナイトメアゼノ・バグの撃破を頼まれ、一時的にアニマと謎の子が仲間に。
レジスタンスの拠点に戻って来ると、何処か切なさを覚えるメロディーが流れて来た。
昔クラシックメドレーで聴いた曲の一つだと思い出せた。曲名は綺麗サッパリ忘れてるけど……
「ドビュッシー作、月の光じゃな」
「だね。この静かなんだけども優しく、切なさも感じる良い曲だ」
愛と恋は直ぐに曲名が出たみたい。それは兎も角、店内に入ろうとした途端、絆達全員が何かを察知。
そのまま自分の左腕に光となって帰還。訳も分からないまま、店内へ入った自分達が見たのは──
あの男勇者候補生、フェイク一行と例の盗人女。後者に至っては、此処であったが百年目って気分。
とは言っても、売り払われたフュージョン・フォンの行方が分かる、戻ってくる訳でもない。
「あっ!オメ──」
「ヤナギ!」
「ずらしい……また会えるとは、思いませんでしたので」
フェイク達が此方に気付くと、女僧侶が話し掛ける途中──大声で女がの名前を呼ぶ女戦士。
間に合った、とばかりにホッと胸を下ろす二人。呼ばれた本人も「あはは……」と苦笑い。
それは兎も角……あの盗人女、此方を凄く鋭い目付きで睨んでるな。なんと言うか、見下してる様な。
「……此処は大阪にあるレジスタンスの拠点。で、何の用?」
「いやなに。目の前の盗人に売り払われた携帯を取り戻すのと、現在の世界情勢や情報が欲しくてな」
面と向かって此方を見ず、胸元で腕を組み、横目で睨みながら不機嫌そうに用件を聞かれたので。
売り言葉に買い言葉。自分も相手の犯した罪による紛失物の捜索と、情報が欲しいと嫌み込みで話す。
お互いに一触即発な空気が漂っている為か。フェイク達は言葉を飲み込み、沈黙を貫いている。
「もしかしてアンタ……まだ男が上だと思ってる口?」
「男と女に上も下もあるかよ。良くも悪くも平等で十分だ」
会話と周りの反応から感じる、妙なズレと違和感。前回まで前に出ていたフェイクが今は後方。
僧侶と戦士の後ろに隠れ、コイツの口調も勝ち気と言うよりは当然の態度。何かがおかしい……
その上ベーゼレブルと詠土弥の姿も見えず、絆達全員が唐突に左腕へ戻った反応。……仕掛けるか。
「それとも何だ?女性が支配層で、男性はその奴隷だとでも?」
「それが当たり前でしょ。男性が上って言うのはもう、昔の話。今は完全なる女尊男卑の時代よ」
試しに鎌を掛けたが……見事に引っ掛かった。現代を離れてる間に、昔で言う亭主関白。
それが裏返った──って訳か。まあいい。俺はもう、どの時代の事情にも関与しない。
ただ、俺と私や自分が心に決めた何かを破壊し、古き約束を果たすだけ。
その障害となるならば、誰であろうと、どんな存在であろうと……完膚なきまでに叩き潰す。
「……だけど私達はそんな調律者の押し付けが嫌で、レジスタンスをやってるのよ」
「成る程。それで、奴らに対して勝算はあるのか?」
「現実的に言えば、完全に無い。何せ、向こうに寝返った連中はこの有り様だし」
盗人女は睨んでいた目を閉じ、肩を落とす。すると此方に向き直り、レジスタンスの一員だと話す。
勝算があるのか?と言う問いに対し、夢や空想だけではなく、ちゃんと現実を見ている様子。
寝返った云々の証拠に見せられたのは……とあるライブを映しているスマホの画面。
暗いライブ会場を照らす一筋のスポットライトを浴びる、フリフリなドレス姿の女性が一人。
「結構、人気なのな」
「アイツら……物理的な支配じゃなくて、情報やAIを使ったバーチャルアイドルとかで洗脳してるのよ」
終焉達やナイトメアゼノ勢は物理的なのが多いが……こう言うタイプはどうにも苦手だな。
バーチャルアイドルってのも多分、この時代ならではのやり方だろう。
自分が知ってるのは、音声読み上げソフトって範囲だ。進んだ技術を利用しての洗脳──成る程な。
「悔しいけど。人心を掴むとは、こう言う事なんだって、見せ付けられたわ」
「私達が懸命に呼び掛けるよりも、あのライブ一つで大勢の人達が──」
「俺……何も出来なかった、何も成せなかった!!ただの人間なんだって、思い知らされた……」
ライブやアイドルを利用しての洗脳は、反抗する者達の心をへし折る意味でもあるんだな。
赤の他人が行う懸命な呼び掛けよりも、共通の推しが行う呼び掛けの方が、効果は絶大だ。
それに洗脳装置だか何かを使えば、ライブ活動をするだけで調律者に従う者が増える。
ただそれをするだけで、奴らは軍資金を増やし、支配も進む。平和な侵略の完成って訳かい。
「アンタも──アイツらの下に行く気でしょう?」
「お生憎様。こちとら、あぁ言う奴らとは何度もやり合ってんだ。寧ろ敵だ敵!」
答えは分かっている。そんな雰囲気を漂わせた弱気な声と、半ば諦め気味な表情にイラつき。
コートの両ポケットに手を突っ込み、不機嫌丸出しな態度で言葉を返す。
すると盗人女は大層驚いた顔を見せ、フェイク一行も歓喜の声は出さずとも、喜んでいる様子。
「失礼する。破壊者、貴様に要件がある。付いて来い、外で話すぞ」
「あ、アンタ!よくもアイツを!」
「アルファか……良いだろう。その要件とやら、聞いてやる」
やっと希望が見え始めた。そんな雰囲気と歓喜の表情が四人に広がる中──
店の引き戸が開く音が響き、誰が来たのかと振り向き確認した途端……四人の表情から血の気が引く。
例えるなら、漸く芽生えた小さな希望を早々積みに来た。ってところだろうか。
アルファに誘われる最中、盗人女のアイツと言う存在が引っ掛かりつつも、店の外へ。
「単刀直入に言う。一時的で構わん、我々に手を貸して欲しい」
「断る。と、言いたいが……理由を話せ。先ずはそれからだ」
拠点たる駄菓子屋と車道を挟んだ向かい側。歩行者用通路に到着するや否や、頭を下げての発言。
正直に言えば、断りたい。んだが……チラつく調律者・花の、無月闇納が言ったあの言葉。
調律者・桜の殺害、共通の敵を倒す為に協力しないか?と言う申し出。
それもあり、理由と闇納の発言を照らし合わせてから決めるべきだ。と、ふと思った。
「ならば俺からではなく、提案者たる桜様と直々に話すがいい」
「──っ?!」
返答を返すや否や、アルファは当人から聞けと言い、指を擦り合わせ音を鳴らした次の瞬間。
周りの空間が一瞬にして切り替わり、何処かの庭園らしき場所へ転移させられた。
イングリッシュガーデン、とでも言うのか。咲き誇る花達に囲まれた場所へ案内されると。
純白の小さな丸いテーブルと椅子、金の装飾が施されたティーセットやケーキスタンドがあり。
まさにお茶会。アルファが先に進み、椅子に座り足を組む調律者・桜の後ろでお辞儀をしている。
「こうして会うのは久し振りね、破壊者」
「長居する気はない。要件を持ち掛けた理由を話せ」
「まあ、焦る気持ちも分からなくはない。けど、貴方は長居するわよ?」
紅茶に口を付け、一息吐いてそう言った。悪いが、のんびりとお茶会に付き合ってる暇はない。
要件をさっさと済ませ、あの盗人女が売ったフュージョン・フォンを取り戻さなければ……
此方の心を読んでか、アルファが銀のトレイに乗せて運んで来た物を掴み、テーブルに置いた。
「チッ……此方に拒否権は無いって事か」
「理解が早くて結構。それにこれはお互いにとって、有益な交渉だと思うのだけれど?」
「人の家族を人質にして、よくそんな言葉が吐けるな」
テーブルに置かれた物──それは、売られた筈のフュージョン・フォン。
偽物と言う可能性も否めないが……ここは下手な行動は出来ん。
次元の狭間とでも言うべきあの場所は、トリスティス大陸で見た次元穴から出入り出来る道。
仲間達を助ける為には、アレを取り戻す必要がある。何はともあれ、長居してでも話を聞く他ない。
「先ず、改めて自己紹介を。私の本名は心情桜花、記憶喪失時は心情闇納と名乗っていたわ」
「記憶喪失時?」
立ったままと言うのも礼儀に反すると考え、周囲に映る視覚や匂いなどにも注意をしつつ。
安全を確保してから椅子に座り、疑問を投げ掛ける。記憶喪失時──何かしらあったと言う訳か?
「私も貴方と同じ、別次元の住人。元の次元で娘が行った実験に巻き込まれ、一時的に記憶を失った」
「正確には、桜様は娘様の死を直視した事によるショックで……だ」
桜……いや、桜花は自分と同じ別次元の住人であり、記憶を失った理由を話し始めた。
確かによくある話だ。自己防衛の為、自ら記憶を封印したり記憶喪失となって忘れると言うのは。
逆に言えば、それ程までに娘さんを愛していた、と言う証拠でもある。
「その時よ。心情闇納と言うもう一人の私が生まれたのは。そして意識が戻った時……私達は火星にいた」
「火星にいた?この次元の火星にか」
「そう、体は欠損箇所が多く死に体だった。そんな時、私達を利用しようとしたヴルトゥームが現れ」
「アンタ達を改造し、手駒にしたのか。まあ、裏切られて幕を閉じたけどな」
トリックとの重度は違えど、解離性同一性障害を患い、別人格が行動していて。
記憶と意識が戻ったと思えば、この次元に飛ばされた上に、二人に分かれていて瀕死。
改造され一命を取り留めるも、利用する為と知り、チャンスを待ち討ち取った。
全てを嘘とは言い難いが、全てを真実とも信じ難い。改造やら裏切りは目撃したけども。
「それで、手を貸して欲しい理由に繋がるんだけど……もう一人の私、心情闇納を倒したいの」
「ほう……」
心情桜花は分かれた別人格の自分自身、心情闇納を倒したい。逆に闇納も桜花を倒したい。
お互いの意見は同じ。どちらに力を貸すか、それで大きく結果が変わる予感がする。
しかし、何故自分に頼るんだ?身近な人物だからこそ、お互いに手を知るからか?
これは少し、真面目に考えないとマズイな。迂闊な一言で、水平に保たれた天秤が傾きそうだ。




