悪夢を越えて
『前回のあらすじ』
レジスタンスの拠点に辿り着いた一行。されど其処に居たのは宿敵、ベーゼレブル・ツヴァイだけ。
突然爆発音が聞こえた為、現場が近い事もあり調査へ。現場のデパートは謎の死因で亡くなった遺体が複数。
急な頭痛と不可思議な現象に襲われ、異空間と化したデパートの中へ。其処にはなんと、ナイトメアゼノが!
アニマに来ている事がバレ、見付からない様に最上階から脱出する悪夢のかくれんぼが始まった。
此方の望まぬ形で始まった、悪夢のかくれんぼ。足音に気を付け、物音にも気を付けながら進む。
漸く見付けた階段。辺りを警戒しつつ降り、壁に張り付いて進行先に何があるか、誰が居るかを確認。
どうしても邪魔になるゾンビに類似した存在だけは、背後から奇襲を仕掛けて倒し、探索しつつ下へ。
「ようこそ。三階へ……ですの」
(嘘ッ!先回りされてた?!)
三階へ降りると、自分達を笑顔で出迎えるアニマ。上の階で出会わないと思えば、先回りかよ。
だが……あの紅い骸骨鎧は身に付けておらず、少女の姿。攻撃してくる様子も無く、無防備。
フォー・シーズンズの冬島、遥との会話に乱入した際に見せた金縛りも使って来ない。
頭に浮かぶ対話の二文字。チラッと二階へ降りる階段へ目を向けるも、シャッターが降りている。
「貴方を少し、試させて貰います……の?」
「何故疑問系──うぉっ?!」
微笑みを絶やさず話し掛けてくる中、紅い眼が怪しく光った。次の瞬間──
今度は酷い頭痛と立ち眩みに襲われ、何かを振り払う様に頭を振り、顔を上げる。
其処にはアニマが居なくなった代わりに、皐月が俯いたまま立ち尽くしている。何か様子が変だ……
「さつ、き?」
「貴紀さん……」
「なっ──皐月!?」
近付かず、一定の距離を保ったまま話し掛けると……俯いたままだが、反応や返答はある。
ゆっくり、一歩ずつ此方へ歩く。警戒して自分も同じタイミングで軸をずらし、フロア側へ後退。
する途中。急に駆け足で距離を詰められ、抱き付かれて思わず、抱き締め返してしまう。
心細かった、不安、恐怖心。理由はあるだろうけど、何故か胸騒ぎと悪寒が止まらない。
「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!?どうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!」
「っ!?」
顔を上げるも眼球は無く、闇が覗き込む目。頬も痩せ細り、骨格が浮き出て外見上は飢餓状態。
悲痛な声の中に怒り声も混ざり、逃げられない状態で問い掛けて来る皐月に、恐怖心を覚える。
「どうしてあたしはこんな世界のこんな時代、あんな家に生まれたの?!ねぇ、どうして!!」
(すげぇ威圧感だ……文字通り、押し切られそうだぜ)
けど……その言葉には彼女が持つ──いや、違うな。人生を悲観し、憎む人達の心があって。
なんて言うか。この異空間そのものから、心に声を届けられている。そんな感じ。
でも、分かる。何故?どうして?そんな当たり前を思うのは、誰しもあり得る。あり得てしまう。
公平なんて無い。不公平が当たり前の人生。ならば自分が今、口に出すべき言葉は……
「多分……理由なんて、無いんだと思う」
「う"あ"ぁ"ぁ"!!」
運がなかった、時代が悪かった。意味があるとしてもきっと、そんな程度だろう。それが現実。
裕福な家庭に産まれ、顔や体型、両親や一族に恵まれた人生。一体、それはどれ程低い確率やら。
親のエゴから子が産まれ、社会や世界から沢山の責任やら苦しみ等が与えられる。
右肩に噛み付かれる中。彼女達の苦痛や悲しみを、皐月が流す涙や異空間が発する声からそれを知る。
(マズイ!コノママ肉ヲ食イ千切ル気ダ!!)
「ヴゥ"ゥ"ッ!」
「だけど……自分は、こう言わせて欲しい」
突き放すのは容易い。それは逃げたり、諦めたりするのと同じ、一瞬あれば出来てしまう。
そりゃあ自分と関係無い人や、例え関係があっても面倒臭いと感じれば、断りもする。
自身を守る、当然の行動だろう。それでも、全員が見ぬ振りをしては、救える命も救えない。
「生まれて来てくれて──自分と出会ってくれて、ありがとう」
アダムとして、一人の人間として……出来る事を、出来るだけしてあげたい。
皐月を優しく抱き締め直し、胸の内にある想いを口にする。有言実行は意外と、なかなか出来ない。
口にするのが恥ずかしい、周りの目が怖い。集団心理は時に、自分達と違う者を強く批判する。
自分と違うだけで何故拒む?何故、虐めや迫害の対象にするのか?そんな想いに紋章が反応して……
「こ、この光は……何故ですの?!何故、あなた達までもが、彼に力を!?」
「が、がぁ──暖かくて、優しい……光」
両手足の甲と胸元、背中に腰、額。八ヶ所に暖かな感覚があり、両手の甲を見てみると。
左手に勇気、右手に友情の紋章が、光輝いている。この異空間から自分に集まる、亡者達の想い。
力が……想いが集まる。体が七色の光に包まれ、気付けば──両腕が白く、手だけが黒い。
「悪夢を越えて……虹が輝く時……古き白騎士、現れん。遥か未来、私達の王が語られた伝説通り」
「貴紀……さん?」
人々の力が集まれば、悪夢の様な時代も乗り越えられる。その先にはきっと……
新しい未来へ導く道として、青空に虹が輝いて見える筈だから。諦めないで欲しい。
元に戻り、此方を見上げ呼び掛ける彼女に対してゆっくりと深く頷き、少し離れる。
左手を掲げれば黒い光が集まり、朔月へ。更に青い光が再度集い、愛の限定三位一体・融合形態に。
「晴らしてあげましょう。この無念を」
「光が……砲身に、吸い込まれて……行──ッ!!」
砲身を真上に向けたまま、集めた光を放つ。その一撃は禍々しい異空間と天井を容易く撃ち抜き。
余波で残った異空間その物を焼き尽くし、太陽の光がスポットライトの如く天井から降り注ぐ。
それが切っ掛けか、それとも先の一撃で力を使い切ったのか?容姿や服装が元に戻った。
「今のは……それに、何か容姿や身長まで違った感じだ」
「その姿と力は、遥か過去から未来まで伝説として語り継がれ……王の名を持つ鎧を装着出来る騎士」
「つまり、貴紀さんが……伝説の、騎士?」
何故か、とても懐かしく暖かい感じがした。ずっと遥か遠い昔から、慕われ続けてくれている様な。
伝説だ何だと言われても、未来を築くのは今を生きる者達だ。自分達みたいな、過去の亡霊ではなく。
けど、先程程度の力じゃ駄目だ。魔神王オメガゼロ・ワールドロードには、勝てない。
そりゃ当然だろう。まだ、完全復活には程遠い。恐らく、先のアーマーが不完全故だろう。
「改めて……貴方に頼みたい事がありますの」
「いや、何でだよ。俺達を散々苦しめたテメェらに頼まれてやる事ってあるかぁ?」
「落ち着け、ゼロ。俺達が知らぬ間に外へ出てるってのもあるが、話を聞いてから決めるべきだ」
「何はともあれ……話せ。同じロリ枠として、聞いてやる……」
礼儀正しく正座をし、自分達に頼みたい事があると話すアニマに、良く思わないゼロ。
宥めるルシファー、外野を無視して話を進める静久。辺りを見れば、他の四人も出てる状態だ。
ただ変に喋るとややこしくなると認識してる為、今は無言を貫いている様子。
「頼みとは、調律者……管理者勢力が作った人工ナイトメアゼノの破壊」
「横から口出し失礼します。人工とは言え、貴女達の同族ではないのですか?」
「では、逆に聞き返しますが……相手のいい様に改造された同族を、放置……しますか?」
調律者姉妹が作ったとされる、人工ナイトメアゼノの撃破。それがアニマからの頼み。
後ろからひょこっと顔を出し、疑問を投げ掛ける絆に、ぐうの音も出ない返答が返される。
頼む・依頼するって辺り、何かしらの事情があるのか。はたまた、漁夫の利を狙った作戦か。
何はともあれ。乗る乗らないにしても、警戒だけはするべきだな。
「自分達で対処出来ないのか?」
「した上で、頼んでますの……アレはもう、王の下を離れ……私達に牙を剥き、同族を殺し貪る者」
素朴な疑問に、顔を曇らせて答えるアニマの様子は何処か寂しげで、悲しそう。
にしても、人工のナイトメアゼノか。調律者姉妹がそんなモンまで作れる様になってたとは……
改造個体。いわゆるチート個体なんだろうけど、同族を貪り喰うとか……ある意味野生だな。
自然の悪夢を喰う人工の悪夢。それが、敵陣営で強制で行わせる蠱毒に思えて来た。
「まあ、いいだろう。但し、此方としても条件がある」
「条件?」
「ソイツを倒すまでわっちらに協力し、お互いの陣営に危害を出さず邪魔をしない。それが最低条件じゃ」
寝首を掻かれる可能性も考慮し、条件を提示……したかったが、恋に先を越され。
続く内容も愛に言われてしまう。考える事は同じって訳か、当然と言えばそうだけどさ。
此方が提示した条件に何か思い悩む事でもあるのか?少しの間だけ目を瞑り、再度開く。
「その条件、承諾致しました。それでは、同行者は私と……彼が行きますわ」
「……それで、人工ナイトメアゼノの名前や容姿はどんなんだ?」
微笑み、条件を承諾。協力者として来るのが──アニマと過去視で視た謎のナイトメア。
調律者姉妹が製作した奴の名前と容姿を訊ねたところ、右人差し指を唇に当て、考え始めた。
「依頼前に外装を破壊してしまったので、今の容姿は不明……ですが、名前はありますのよ?」
「対処した。と言ってたのが、外装の破壊ですか。して、名前は?」
「群軽折軸、ナイトメアゼノ・バグ。何事も、積み重ねが大切であり……脅威ですの」
外装は破壊出来たが、核となるノイエ・ヘァツは逃してしまった。その為、追跡が難しいと言う。
人間で言えば、指名手配される前に、整形で原型が分からない程に顔を変える──と同じ。
ナイトメアゼノ・バグ……バグか。虫や欠陥、パソコンなど電子機器で聞くシステム上の異常だっけ?
また訳の分からん二つ名を与えてるよ。積み重ね云々って、塵も積もれば山となる的な事かな。
「それでは隊長、レジスタンスの拠点に戻りましょう。結局、此方を優先してしまいましたので」
「そうだな。みんなと共有したい情報や、意見も聞きたいし……ん?」
調査は終わり、生存者は謎のナイトメアゼノが連れていった女性陣だけ。
大半が調律者姉妹に下った側の人類なので、対処に迷う。取り敢えず、レジスタンスの拠点に戻ろう。
そう思い、シャッターが降りた二階へ続く階段の方を見ると──大きな穴が空いている。
「この墨、呪術の気を感じる……間違いないわ」
「ご主人様!!魔神王軍、レヴェリーに属する三騎士、コトハがこの時代に来ている!」
周りに付着している墨の前で屈み、手を近付けた霊華は呪術の気配を察知し。
隣で調査する恋と同じ結論に至ったらしく、コトハが現在の時代にいると教えてくれた。
三騎士の存在は流石に無視出来ない。また何か、やってくれる可能性が高い。
嫌な予感を覚えた自分達は、急いでレジスタンスの拠点に戻るべく、デパートから出た。




