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ワールドロード  作者: オメガ
五章・corrotto cielo stellato
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悪夢の思惑

 『前回のあらすじ』

 レジスタンスの活動を真夜から聞きながら進む中、誘い出す様に姿を見せる調律者・妹の花。

 銃口を向けて問い掛けるも、不敵な笑みを浮かべるだけ。その正体は、終焉の闇勢の無月闇納。

 魂を分割させ、別行動させていた。何故接触してきたのか?それは、交渉を持ちかける為だった。

 しかし乱入した詠土弥により阻止され、闇納が立ち去った後に妨害した理由を聞き、共に同行する事に。



 木を隠すなら森の中、敵を騙すには先ず味方から。そんな言葉に反逆でもしたのか。

 レジスタンスの拠点とやらは、裏路地を通り抜けた先にある小さな屋根付きのお店。

 看板に書いてある店の名前は……駄菓子屋・駄菓子菓子(だがしかし)。本気かジョークか、それが問題だ。


「フィフティーフィフティーではないですかね?」


「英語で、半々と言う、意味」


 そんな此方の心情を察してか、はたまた心を読まれたのか。意見を出してくれるのはいい。

 が……ツッコミを入れる前に詠土弥が発言してしまったのもあり、タイミングを逃してしまった。


「兎も角。レジスタンスのリーダーに会うぞ」


「イエス、マイ・マジェスティ!」


 深い深呼吸の後。意を決して引き戸を開け、罠の可能性も視野に入れて店内を覗き込む。

 左右には多種多様かつ、懐かしい駄菓子が棚に並べられている。だが、食べている場合ではない。

 正面。レジと奥に和室が見える辺り、本当に古く懐かしきお店と言える。但し……


「ハフッハフッハフッ!!」


「………」


「ズゾゾゾゾッ!」


 レジ係と言わんばかりにレジの前に座り、夏の炎天下に居るかの如く顔から汗水を流し。

 激辛麻婆三種混合中華を懸命に蓮華(れんげ)で豆腐と茄子を掻き込み、箸で春雨を食すベーゼレブル。

 それは良いんだけど……いや、良かないけど。離れてるのに香辛料と唐辛子の匂いで目と鼻がいてぇ。

 なので取り敢えず──引き戸を閉め、用事なんて何もなかったかの様に踵を翻す。


「あんな奴が因縁の相手とは……頭が痛くなる……」


「静久、大丈、夫──?!」


 何度も死闘を繰り広げ、仲間達よりも相互理解が深い仲ではあったが……これは本当に予想外過ぎる。

 カオスな現場を見たからか。静久は酷い頭痛の余り、アイツが自分達のライバルだと言う事実が。

 より一層、頭痛を酷くさせているらしい。詠土弥が心配して話し掛けてる時……

 突然近くで大きな爆発音が鳴り響き、引き戸や窓のガラスが震えて音を鳴らす。


「音から察するに、随分と近いな」


「近くにある渋谷区大型デパートヨコセヨだ。あそこは調律者の傘下になった人間達の店だからな」


 爆発場所が現在地から近いと口にし、内心何故分かったのかが不思議で仕方なかったのだが……

 此処は大阪だと突っ込むか。それとも、麻婆で口周りを汚した上、食いながら喋るなと言うべき?

 さも当然に隣へ立ち、器を手にしながら答えるライバルに返す、的確な言葉が見付からん。


「……行ってみるか」


「隊長、私も同行します」


「詠土弥……戻って来るまで、此処の警護は任せた」


「ん。静久も、気を付けて」


 ある意味逃げる。と言う意味も込め、爆発音がしたデパートへ皐月と静久を連れて向かう時。

 ちょっと待て。と言わんばかりに左肩を掴まれ、何事かと思い振り返ると──

 先程までのシリアスブレイクな雰囲気は何処へやら。口周りも綺麗にし、真剣な表情。


「呑まれるなよ。アレは、人が行き着く先の果てだ」


「お……おう」


 呑まれるな。即ち、相手や雰囲気に圧倒されたり威圧されるな……と、そう言う意味だ。

 それ程の存在が、そのデパートに存在しているのか?もしそうなら、此処からでも感知出来る筈。

 人が行き着く先の果て?そう言えば、考えた事なかったな。遥か先、人がどんな進化を辿るのかを。


「序でに助言を一つ。探し物は常に心の中、自分自身の軌跡を思い出しな」


「……?」


「日常の中に答えはあるって事だ。当たり前に疑問を持ち、頭と心で考えてみろ」


 助言を伝えるや否や、ベーゼレブルは自分の右肩を掴んで反対方向を向かせ、背中を押す。

 疑問に再度思い振り返るも、さっさと行け。とばかりに払い除けるジェスチャーをしつつ。

 補足を聞き、答えが見付からないままデパートへ。辿り着いた場所は……


「此処が……爆発のあった……場所?」


「流石に異臭が酷いな。皐月、自分の後ろへ。それからハンカチで口と鼻を押さえるんだ」


「は、はい……」


 爆発後の真っ黒に焦げたアスファルトが数ヵ所。だけどそれ以上に、異臭が酷い。

 焼死と言うよりは腐敗。なのに被害は爆発による死因ではなく唐突な人体の沸騰。

 いや、沸騰の表現は違うか。泡が残っているしな。クソッ……ニーアやエリネなら分かるか?

 警戒心は店内へ入る前からMAX。スキル・スレイヤーに反応は無い為、全て死体で間違いない。


「──ッ!?」


「た、隊長!あ、頭が……痛い」


 突然鳴り響く耳鳴りと襲い来る頭痛。痛みを抑え、違和感の侵入を阻止すべく両手で頭を掴む中。

 いきなり視界が横に傾き、重力も横に。まるでデパートが自分達を招き入れる様に、店内へ落下。

 自動ドアが開き、動く洗濯機のドラムの如く回転したかと思えば天井に落下し、すり抜けて最上階へ。


(王ヨ。大丈夫カ?)


「大丈夫な、訳……ねぇーだろ」 


 壁に落ちたと思えば洗濯機の中みたく振り回されて、オマケに壁をすり抜けて天井に倒れている。

 正直、頭がどうにかなりそうだ。それに──この空間、間違いなく異空間だな。

 じゃなきゃ、床や壁や天井までもが錆びと血が付いた悪趣味極まりない世界なんぞ、誰が求める?


「そうだよな。店内にも、犠牲者はいるよな」


(買い物客かしら?にしては、物騒な物も持ってるみたいだけど)


(まあ、何かしらに使えるだろ。貰って行こうぜ、宿主様)


 首を上に向ければ、手を伸ばせば届く頭上の位置にスーツ姿で男性だったであろう死体を発見。

 外の死体と違い、顔全体に巻かれた包帯を留める形で茨の鉄線が巻き付いている他。

 体の状態は酷く、前面の皮膚がゴッソリ持っていかれて筋肉が丸見え。

 多分、力尽くで剥がれたのだろう。右手にある起爆装置は使えそうだ……ゼロの言う通り、頂こう。


「店内は……まあ、普通じゃないわな」


(コレガ普通ト認識出来ルナラ、精神科デノ診察ヲ勧メルゾ?)


 起き上がり、改めて店内を見回す。陳列棚は何処にもなく、あるのは工場などで見る重機。

 プレス機や切断機、挙げ句の果てには手斧やメイスまでもが壁に吊られている始末。

 気色悪いが、死体から過去を覗けば、何か分かるかも。左眼に意識を集中させ、遺体を視ると……


『準備完了よ。調律者の奴らに管理された連中に、人生の選択を放棄した罰を受けさせてやりましょ』


『あぁ。俺達レジスタンスが示す反逆の意志と覚悟、今こそ思い知れ!』


 見えた。どうやら二人一組で行動中らしく、相方の女性が時限爆弾を設置し、先程合流。

 両手に起爆装置を持った男性は話を終えると同時に、先ずは左手のスイッチを押す。

 怒濤の如く鳴り響く爆発音、崩壊寸前の如く揺れるデパート、パニックになり走り回る客達。

 外で聞いた爆発音は、これだった訳か。残った右手のスイッチを押そうとした時──


『あがっ、あがががが……!?』


『どうしたの……ゴボゴボッ?!』


 突然口から血の泡を吐き、目からは血涙が絶えず流れ、皮膚も血の泡を噴き出して倒れた。

 二人の遺体に近付く赤いローブを纏った人物が一人。男性を見るや否や左手──触手で頭を絡め掴み。

 人の原型を残した右手が男の顔を掴み……変装で着ていたスーツの上から下まで皮を強引に剥ぎ棄て。

 他の客を含める女性だけは触手で絡め取り、来た道を戻って行く。コイツがこの場所をこんな風に?


『マァァァ……マァァ……』


 酷く低い声が多重化し、何処か悲しさすら覚える。母親を探してるっぽいが。

 女性を連れて行く理由はそれか。となると、皐月と静久の安否が心配だ。急ぐとしよう。


「この拷問場から抜け出さないと。二人は何処へ飛ばされた?」


(こう言う時は探索よ。感知はどうもこの空間から嫌な気配が邪魔してて、上手く働かないし)


(ダガ、警戒ダケハ怠ルナ。コノ雰囲気、終焉ノ地ニ近シイ。常識ハ通ジン、スキルヲ過信スルナヨ)


 飾られた拷問器具の所為で、重機までもが処刑用に思えてしまう。

 感知能力で静久と皐月の魔力を探すも、歪められて正確な位置が分からない。

 そうなるとルシファーの言う通り、スキルも効果が歪められている可能性も高いかも知れん。

 油断はせず、見敵必殺。幸いにも武器は補充出来そうだし、幾らか持って行こう。


「さぁって……どう突破すべきかな」


(この大人数だと、様子を見ての突破が無難じゃない?)


 暫く探索して分かった──此処は現実と人間の精神的世界が混ざりあった、異質な場所。

 この異空間では内部に居る存在達からトラウマなどを引き出し、具現化させる効力がある。

 現に二人の捜索中、ゾンビや類似した奴らに遭遇。生者を見ると無条件に襲ってくる始末。

 幾らか始末したが。曲がり角の先には奴らが集まっている。クソッ、階段はこの先なのに……


(静カニ。何カガ空間ヲネジ曲ゲテクルゾ)


「うふふ……大成功、ですの。レジスタンスと調律者。双方を争わせ、私達の戦力として取り込むのは」


(おぉっと。コイツはやべぇ相手が出て来たもんだ)


 注意を受けた途端。青い炎が円を描き、その中から転移して来るナイトメアゼノ・アニマ。

 ノイエ・ヘァツと何か、関係があると読むべきか?それより今は、生きて情報を持ち帰るのが優先だ。

 気付かれていない内にゆっくりと後退し、他の階段を探すべくルートを変える。


「そして。予想外の大物も、私達の網に引っ掛かってくれてますの。だから……逃がしません、のよ?」


(やべぇ!アニマの奴、俺達の存在に気付いてやがる)


(だけど、私達の位置まで把握してるのかしら?それが問題よ)


 此方の存在に気付いている。それを耳にした時、背筋に寒気が走った。

 パワードスーツは修理が終わってない為に使えず、魔力の残りは少なくて激しい戦闘は出来ない。

 捕まったら、何をされるか分からん。霊華の言う通り、自分達の位置を把握してるかが問題か。

 少し様子を見つつ、物音や足音に気を付けながら移動するも、此方へ一直線に来る様子はない。


「悪夢のかくれんぼ……開始、ですの」


(隠れながら階層を移動しつつ、二人を探し出して脱出するしかないわね)


 クスクスッと可愛らしく笑い、発言した言葉がソレって言うのは正直……勘弁。

 捕まらず、隠れながら仲間と合流して脱出。相変わらず、無茶を言ってくれるよ。

 でも、やるしかない。あわよくば、手掛かりの一つでも持ち帰れたら儲けモンだな。




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