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ワールドロード  作者: オメガ
五章・corrotto cielo stellato
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負の遺産

 『前回のあらすじ』

 会話の途中で小さな女の子を見付け、保護に近付くも彼女は爆弾にされており──目の前で爆発。

 されど故人であるサキ、ルナの牧場姉妹に救われ無事。彼方から警察などは機能せず、裏稼業が増したと聞く。

 噂をすれば影と言わんばかりに奇襲を仕掛ける、殺し屋の女。コードネーム、アイアン・メイデン。

 アイテムで変身し、電脳空間とネットを利用した戦法に押されるも、倒した筈の怪物が乱入し勝負は白紙に。



 余程疲れていたのか、気付けばいつの間にか寝ており。目を覚ますと……薄暗い天井が見える。

 敢えて言おう。此処は何処?私は誰?とまでは続かんがな。別に記憶喪失でもない訳だし。

 何はともあれ。体を起こしてみたら、縫った後の目立つ布団で寝かされていた。


「起きたか。お~い、春子(はるこ)。デトラが起きたぞ~」


「はいはい、秋雄(あきお)さん。そう急かさんでも今向かいますよ」


 軍服と帽子を被った男性は此方に気付くや否や、大きな声で春子さんなる人物を呼ぶ。

 すると負けじと大きな声で返事を返し、スリッパを鳴らす若い女性が部屋に入り、近くに座る。

 何処かで見た覚えがある年若い二人に、部屋の間取りと配置された物の数々が全て懐かしく感じた。


「積み上げられたゴミ袋の山で倒れとったけど、大丈夫なんか?デトラ」


「あぁ……だが、リトルボーイの投下ポイントを市街地の中心から外すのが精一杯だった。すまない」


「そんな!市街地に落ちなかっただけでも、凄く助かりましたよ。ねぇ、秋雄さん」


「本当にその通りだ。お陰で長崎市は、最悪の事態を免れた」


 此方の両肩を掴んだ状態で近付き、眼を見つめながら体は大丈夫か?と話し掛けられ。

 答えようとするも、自分の意思に反して言葉が出る。それにこの声……ディストラクションの声か。

 何だろう……触られるのが、不思議と嫌じゃない。それどころか返答が嬉しくて、涙が出そうだ。

 そんな二人だからか?それともこの不思議と懐かしい匂い故か。思わず口が開き、言葉を吐く。


「何十、何百年経っても。何故世界から争いや戦争は無くならないのか……って思ってしまうな」


「戦争っちゅうんはな。主に、二種類の戦争があるんや」


 ふと出た愚痴・疑問に対し秋雄さんは肩を掴む手を離し、付けているメガネの位置を直す。

 持っている水筒を後ろのちゃぶ台に置いてから、此方に向き直って力強く語り始める。


「一つは国民の為を思うて、他の領土を奪う戦争。もう一つは……私利私欲の為の戦争や」


「大陸続きやと他の部族も攻め込み易いから、平和や繁栄には、私は向かんと思うわ」

 

 二人の話はある程度想像し易く、実際の世界観と重ねて考える事が出来た。

 簡単に言えば、国民を飢餓や戦争から守る為と言う者、天下を手に入れ支配する為!と言った者。

 だけど秋雄さんは──「どんな大義名分を掲げようと、誰かの幸せや領土を奪う事に代わりはない」

 悲しそうな表情でそう言葉を続け、タンスの上に飾られた一枚の写真に目を向ける。


「あの写真は?」


「あぁ、あの写真はですね。秋雄さんが戦争に行ってた頃、現地で仲良くなった人だそうです」


「集団心理とは恐ろしいもんだ……例えその行動が悪い事だとしても、正義と捉えてしまう」


 自分の視線が勝手に動き、写真を見る。軍服姿の秋雄さんと、汚れた白シャツに短パンの子供だ。

 小さな子供は現地民らしいが、靴や靴下も履いてない。髪もボサボサで、清潔感は皆無。

 そんなボロボロな格好に、幼い頃の自分もそうだった……と、重ねてしまう。


「人間は素晴らしい物を作る手で、助け合う心を持ちながら……非道にもなれる。俺はそんな人間が恐ろしい」


「集団心理と、曖昧な正義か」


 人は様々な物を作る手を持ちながら、人を殺める。それは口であり、手足であり、心である。

 心が個人的な善悪を捉え、口や手足で行動を起こす。それこそ、受け捉え方一つで変わる程に。

 納得・信用・解釈など、行動原理や心情を細かくすれば理由は多岐にわたる。

 集団で行動し続ければ自主性が失われ、否定される事を酷く恐れて、主張すら失くなってしまう。


「デトラ……俺達人間は、何処で道を間違ってしまったんだ?!騙し、争う事が……人間の本質なのか?」


 隣に置いていた歩兵銃を手に取ったかと思えば両手は震え、俯きながら今にも泣き出す程悲痛な声で。

 眉間に皺を寄せ、行き場のない怒りと悔し涙でグシャグシャになった顔で問われるも。

 デトラは……自分は、答えなかった。否、答えれなかった。違う!と言いたかったが──

 人類の歴史が物語る様に、人間と戦争は切っても切れず、人の心と欲望が戦争を繰り返させる。


「答えてくれ。頼む、頼む!」


「秋雄さん」


 此方に答えを求めて泣きすがり、そのまま崩れる秋雄さんと、目に涙を浮かべ寄り添う春子さん。

 広島と長崎に落とされたリトルボーイ。またの名を──原子爆弾。落とされた理由は一般的に。

 日本との戦争の早期終結。ならば、何故二発も落としたのか?それは威力を試す為、戦争後の世界を。

 自国が中心となり支配する為とも言われている。世界に残された負の遺産であり、戦争の爪痕。


「知らんな。所詮──『この俺』には関係のない話だ」


「っ……!!」


「デトラさん!」


 人間の本質なんて分からない。日々を生きる為に他の命を狩り、喰らい、協力し時に奪う。

 それが昔から続く、野生の生き方であり本能。だが、人間は野生の道に新たな道を見出だした。

 多岐にわたる底無しの欲望(願望)。それに規制を掛ける形で、自分達の人類救済計画が始動。

 デトラは秋雄さんを突き放す言葉を吐き、出入り口となる玄関。そのドアノブに触れた時──


「三分割した俺の魂。その内の一人なら、もしかしたら自身の答えとして言えるかもな」


「そ、その方は、今何処に?!」


 そう答えた。光たるアダムではなく、闇である自身でもなく──光と闇を一緒に(いだ)く。

 人の心を持った自分になら……自分自身の答えとして、伝えられる可能性があると。

 余程早く答えが欲しいのだろう。振り返り、居場所を聞くも。その頃の自分はまだ、肉体が無い。


「さてな。だが──アイツは必ず現れる。輝ける()と、棄てられた()を抱いて」


 そうだ。自分を構築する今の体は……オメガゼロとなった際に得た無数の魂と、夢で出来ている。

 叶える為に光輝く夢、志半ば叶えられずに棄てられた呪いと言う名の闇を孕んだ夢。

 その二つと願いがある限り。自分は何度でも立ち上がり、強くなれる。それが……人間だから。


「まあ、俺達の存在は過去と未来から来る連中には不都合極まりない。だから、全人類に伝えて来る」


「な、何を伝えるんですか?」


「決まってるだろ?戦争をする人類を救済する為に──人類選別を宣言してくるんだよ」


 少しずつ、思い出してきた。過去の勢力(終焉の闇)未来の勢力(調律者姉妹)が攻め込む。

 って言うのは終焉の闇No.01ドゥームから予知で見聞きした内容を、あの約束の後に聞き。

 人類を圧倒的な脅威から救う為、共通の敵と成るしか手がなく、自ら敵対行動を取った。

 これは確か、組織を抜け出す前。丁度デトラの人類救済計画が採用された、少し後の話だっけか。


「たい……!隊……、隊長っ!!」


「──!?」


 途中。何度も自分に呼び掛ける声が聞こえ、意識が覚醒して行く最中。

 此方が見えているのか否か分からないが、デトラが自分に向けて握り拳を作り。

 まるで……頑張れよ。そう言いたげな程満足げに微笑み、扉の向こう側へ出て行った。


「ご無事ですか、隊長」


「うん?あぁ、すまん。少し、眠ってたみたいだ」


 先程まで聞こえていた叫びは何処へやら。内緒話でもする様な、か細い声で喋る皐月。

 此方も寝起き故か普段通りの声が出ず、か細い音量に。寝ぼけ眼で辺りを見渡せば。

 膝を曲げれば寝るのには十分そうな、大型ゴミ箱の中。勿論、中身は空っぽ。


「外の状況」


「人に変装した機械兵が三十体、我々を探して周回中。しかし、此方の攻撃はすり抜けて通用しません」


「現在の武装」


「あたしのショットガンは弾切れ、隊長の匕首(ひしゅ)が三本と拳銃二丁。戦力的には、圧倒的不利です」


 簡単で短めな質問に対し、欲しい情報をくれる皐月。現状の武装で機械相手に有効なのは……

 考えるまでもなく、ショットガンで頭脳部分を撃つのみ。けれど、肝心の弾薬が無い状態。

 装甲に魔力を弾く対魔力コーティングも予想される以上、朔月と恋月が効くかも怪しい。

 足音が近付いてくる……だがおかしい、何かが変だ。でもヤバい、蓋が開いて行く!逃げ道は無いぞ!?


「チェックしま──」


 行動は一瞬、覚悟も一瞬。機械兵がゴミ箱の蓋を開け覗き込む瞬間──

 直ぐ様両手で相手の目に指を突っ込んで強引に引き抜き、視覚を奪うと同時に手放す。

 スキル・スレイヤーの効果で弱点を見抜き、その一部たる顎下を匕首で刺し機能停止へ。

 そのままゴミ箱の内部へ引き込み、周りを見回す。


「皐月、攻撃がすり抜けた理由が分かった。コイツは斥候型だ」


「斥候型、ですか?」


「あぁ。コイツはホログラムを投影し、視覚を欺く。つまり皐月が撃ってたのは、虚像って訳だ」


 誰もいない、足音一つすら聞こえない。念の為に警戒だけは解かず、ゴミ箱の外へと出て。

 攻撃が効かなかった理由を伝え、外へ出て来る様ハンドサインで示せば。指示に従って出て来た。

 しかし何故、咄嗟に初見タイプの機械兵に的確な行動が出来たんだ?それも、手慣れた感覚で。


「やはり、スキルが成長していますねぇ~。それでこそ、我々邪神が選んだだけはあります」


「はぁ。情報は搾り取れたのか?」


 唐突に聞こえる声。それに合わせてマンホールが震え、開けたコルクが飛ぶ様に吹っ飛び。

 下水道へ続く穴から、腕を胸元で組む仁王立ち状態で浮上してくる這い寄る混沌の真夜。

 アレか?ブラックホールと融合した宇宙怪獣と戦う気なのか?


「モチのロンです!ですが今回の旅も色々と人間の闇に触れますので、火中天津のお覚悟を」


「甘栗拳とは言わんのかい。まあ、人の闇に関してはいつも通り……この機械兵みたいなモンだろ」


「えっ?!」


 死語に加えネタも混ぜた注意をする辺り、触れる闇の内容はいつも通りって訳かい。

 降って来たマンホールの蓋を右人差し指一本で爆砕するのを見せる為、そのネタか。と自然に分かる。

 和みつつもゴミ箱で横たわる機械兵の後頭部を左手で鷲掴み、力を込めると顔のパーツが割れて落ち。

 絶叫した様な顔の人間が現れる。けど、痩せ干そって半ばミイラに近い。


「隊長……調律者が使うのは、機械兵じゃないんですか?」


「機械兵だけじゃコストが高い。だから恐らく繁殖力が高く、戦闘向きな人間を改造したんだろう」


「それに関して、話ながら進みましょう。レジスタンスの拠点も近いらしいので」


 調律者姉妹の技術力は恐ろしい程に高い。それこそ、人類が何十世代も掛かる位には。

 故に高性能な反面、コストが響く。ならば安くする方法は何か?人類もよく使う混ぜ物だ。

 様々な物で混ぜる様に、機械と人間を混ぜたり、人間を生産・改造する方が安価と見たんだろう。

 真夜は自ら先頭を歩き、自分達を案内してくれる。進む先は地獄か?それとも奈落か……どっちかな。




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