新時代の凶器
『前回のあらすじ』
大阪方面の町に出た二人。されど、此処も人気が無い。テレビを見付け、見てみると其処には……
皐月の両親が、調律者に反逆やら従えと夫婦で真逆の演説を行っていた。
そんな時に話し掛けて来たのは、かつての旅で挑戦状を叩き付けて来た男、超能力者・遠井彼方。
彼の協力もあり、フュージョン・フォンを盗んだ女を見付けるも時既に遅し。売られた後だった。
話をしていると、シャッターの閉まったお店の前で俯き、膝を抱える女の子を見付けた。
太陽光も無く、夜になろうとしているのか、徐々に気温も下がり始めている。
このままでは子供が凍死してしまう。手の届く距離に、場所に救える命がある。走って近付くと──
「ごべん、なざい……」
「──!!」
彼女が顔を上げ、突然謝ったかと思った次の瞬間……女の子は何の前触れも無く大爆発。
爆風と皮膚が変色する程に熱い爆炎に飲まれる時、自分は後ろへ弾かれ仰向けに吹っ飛ぶ。
体を起こし、何が起こったのか目の前を確認すると……シャッターは爆発で穴が開き。
少女の姿は何処にもなかった。否──無数の肉片となり、四方八方に散らばっている。
「子供が……爆発した!?」
「これが調律者に世界の大半が支配された、この時代の常識。役立たずは賭け事の駒」
「た、隊長!!ご無事ですか?!」
目の前の凄惨な光景が、過去の記憶をフラッシュバックとして呼び起こす。
第二次世界大戦やベトナム戦争での戦術特攻の他、自爆テロ。果ては時限爆弾などを利用したテロも。
皐月に呼び掛けられて意識を取り戻す中……融合神・イリスとの記憶を最後に収まった。
「あぁ……サキさんとルナちゃんに助けられたのもあって、思った程の被害はない」
「その方々は、故人なのでは?」
「今は──な」
黒い爆煙が舞う場所を見ながら無事だと伝える中。
背中に届く長い茶髪の姉妹が、此方に向けて微笑む。待ってろよ。この旅を完走するまで……
そんな決意を心の奥底に納め、差し出された皐月の手を取り、立ち上がる。
「当然──こんな時代だ。警察の大半も買収されたり脅されたりで、殆んど機能してない」
「まあ……そりゃあそうだろうな」
表舞台は綺麗事や誠実で塗装されても、その裏は汚職と不誠実で塗り固められている事実。
学校は名誉を守る為に虐めを隠蔽し、社会は汚職や真実を隠すべく敢えて濁し、話さない。
犬は餌で、人は金で飼える。文明の発展イコール汚職や犯罪の向上……とも言える世界。
歴史は物語る。事実を知れば抹消……魚は頭から腐るとは文字通りって訳か。
「そして同時に──良くも悪くも、裏稼業の人達の需要が増してしまってね」
「た、隊長?!」
彼方の話が終わった頃を見計らってか、自分に向けて撃ち込まれる銃弾。
額に受けるイメージを直感で読み、魔力コーティングされたロングコートで防ぐ。
流石に物理・魔力・霊力対策の防御が施されているだけあり、そこらの防弾ガラス以上に弾く中。
皐月に撃ち込まれるのを直感で読み取り、引き寄せて抱き締める形で守る。
「殺し屋や胸糞悪い政治家系統の常套手段と同じか。こう言う方法は」
「此方だ。早く!」
「助かる!」
守ってるだけでは勝てない。違う……生き残れない!生き残れば、自分の勝ちなんだ!
何故かそんな生き残る為の思考と、泥臭くても生にしがみ付く感情が沸き上がる時──
コート越しの右腕に、天に吠える青い獣の紋章が浮かび上がるのを確認した直後。
彼方に呼ばれ、急いで路地裏へと逃げ込む。銃撃が止んだ……此処は射程圏外らしい。
「どうやら、最悪な殺し屋が君を狙っているらしいね」
「最悪な殺し屋?こっち側で指名手配された時より面倒臭い相手なのか?」
「鉄の処女と呼ばれる、冷酷冷徹な女の殺し屋でね。殺るか殺られるかだよ」
「そりゃあ、何とも物騒だな」
野生の紋章が輝いているから……なのか。今話に聞く殺し屋、鉄の処女と思わしき人物。
ソイツの動きと言うか、気配がハッキリと分かる。此処に射線が通る場所へ移動している。
オメガゼロの力を欲したお偉いさん達や調律者、警察に指名手配された時より面倒臭い相手だわ。
「皐月、コートを頼む。ちょっくら、本気で行ってくる」
「はい。隊長……いえ。貴紀のご無事と帰還を、心より信じております」
着ているロングコートを皐月に着せる形で渡し、信頼を受けて路地裏へ姿を消す様に移動。
建物の間に向かって跳び、左右の壁を蹴る一瞬に魔力を脚に込めて登って行く。
悔しいけど……自分に化けたホライズンの一瞬の魔力連続発動が、今の自分には使い易い。
屋上まで登り切ると──居た。腰にまで届きそうな白髪、スーツ姿で表情一つ変えない女が。
「アンタか?拷問器具の名前が付いた殺し屋ってのは」
「らしいわね。でも、他人が言う呼び名に意味なんて無いと思わない?」
話し掛けても、見付かった事を全く気にしない様子で堂々としている。
こう言うのは余程の馬鹿か──経験豊富な凄腕ってのが定石。なんだが……コイツはヤバい。
殺気が、感じ取れない。無表情で感情も読めず、肩や脚の動きから次の一手二手先を読むしかない。
「……自分達に何か用事か?」
「えぇ。オメガゼロと呼ばれる誘拐犯を探してるんだけど……貴方は違うみたいね」
「そうかい」
静かに深呼吸をし、問い掛ける。すると本当に殺し屋か?と思う程、あっさりと答えた。
だが、油断は出来ない。気を緩めてはいけない。本当の殺し屋なら、一瞬の隙が命取り。
考えろ……誘拐犯扱いなら、皐月の両親?それとも、調律者姉妹が嘘八百でも並べたか?
「その違うって言う根拠は、何処から来たんだ?」
「根拠は調査の結果。貴方が本当に誘拐犯なら、彼女に銃弾を弾くコートを渡す意味が薄い」
「どうだかな。誘拐した相手を、手懐ける為かも知れんぞ?」
手すりに腕を置き、身を預けて此方に背を向けて語る鉄の処女。
油断させる罠……の可能性も否定出来ない。あの姿勢なら、服で射線を隠して撃つのも可能だしな。
受け取った会話のキャッチボールを、警戒しながら続ける。いつ、何処で襲ってくるか分からない。
敢えて自分の印象を悪く思わせる発言をし、様子を伺うも……首を横に振り、髪を靡かせる。
「言ったでしょ?根拠は調査の結果って。ま、結城飛鳥から聞いた話だけど──」
「っ!」
全く信用も出来ない相手の言葉。此方に振り向き、左右のポケットから何かを取り出す。
それは、携帯用のCDプレーヤーと……MDディスク?自分としては懐かしい代物だが、それで何を?
そう思っていたら、腰にプレーヤーを押し当てるとベルトに早変わり。蓋を開いてMDを挿入後。
蓋を閉じ、ベルトのスイッチを親指で押すと──殺し屋は背後に現れた鉄の処女に処刑された。
『チェンジ、アイアン・メイデン』
「調律者に屈しつつある世界の科学力。日常に潜む当たり前の恐怖を……貴方に教えてあげる」
と思いきや、体型に合ったパワードスーツになった!?聞こえた電子音は恐らく、奴のベルトだろう。
その上、気になるワードを口にしながら襲い掛かってきた。手を刀の様に伸ばし、狙ってくるのは……
首・心臓・鳩尾・股間、どれも人体の急所。胸から上は上半身を捻り、下は確実に手や腕で防ぐ。
「流石はスレイヤー。でも、恐ろしいのは此処から」
「何だと?」
『電脳フィールド・オン。ツイート、配信機能、同時展開』
急所への攻撃が全て防がれ、避けられる為か。アイアン・メイデンは自ら距離を取り。
ベルトとなったプレーヤーの蓋を開け、今度は調味料や薬味を乗せる小皿程度のCDを挿入。
再度蓋を閉め、ボタンを押すと……ベルトから不思議な空間が広がり、自分達を包む。
パッと見、外の空間とは遮断され、電脳空間とやらは円筒形で一面青色。
「なんだ……この空間は──っ!?」
(上だ、宿主様!あの枠にあるアイコンと文字から、俺達に光弾が飛んできやがった!)
今までに体験した事の無い、不思議空間。突然の展開に辺りを注意深く見ていたら。
背中に鋭い不意打ちを受け、急いで振り返ってみるが……誰もいない。
のだが、ゼロに言われた斜め上に視線を向けた先に、白い枠が一つだけあった。
それには黒い車のアイコンと「間抜け野郎」と書かれた文字があり、ソレが攻撃してきたと言う。
「何だよ……アレ?」
「現代社会では一般的に使われるアプリ。その中で不特定多数に発言する事を、ツイートと言う」
(知ってるぜ。テイッターとかディスルコードって言うヤツだ)
説明を受けるも、余りよく分からん。後、ゼロが言ってるのは何か違うと思う。
まあ簡潔に言えば、無限に使える掲示板みたいなもんか。アレも言葉を書いて残すヤツだしな。
そう勝手に理解した矢先。今見ている枠の周りに別の枠が開き、次々と文字から光弾が放たれる。
(フム。書イテアル文字ハ全テ、悪口ヤ否定的ナ言葉ダナ)
「これがこの世界の民衆、そして民度の低さ」
(これは最悪ね。陰口もそうだけど、こう言う文字を見るだけでも気分を害するわ!)
「更にはこの配信を、調律者にすり寄った富豪が余興として見、賭けをしている。こんな風に」
やれ「さっさと殺られろ!」やら「メイデン様に近付くな!!このブザイク!」等々多数。
民度の低さは国が腐っている証拠。そもそもな話、悪口などは相手の気分を害する他。
やる気を下げ、最悪死に追いやる。それは文字であろうと一緒だ。
あまつさえ、これを賭けの余興として配信している。そう思っていたら、奴の手に赤い棒が一つ。
「何だよ。それは──っ!?」
「凄い威力でしょう?一回で送れる中でも最高金額の、五万円を突っ込んだ悪口スーパーチャットは」
赤い棒は形を小型ミサイルに変え、自我を持つかの如く此方に向けて飛来し……大爆発。
ツイートやら五万円のスーパーチャットだの……訳の分からん話ばかりしやがって。
けどまあ。五万円でこの程度なら、今みたく魔力防壁で十分防ぎ切れる。服も焼けてないしな。
「予想外な低威力だな。寧ろ、爆発の炎がありがたい位だ」
「そう?それじゃあ……って、地震?!」
爆炎の中から歩き出て、燃え盛る熱と光から残り僅かなエネルギーを回復。
これで少しはやり返せる。ってな時に、足下が大きく揺れ始めた。これも奴の仕業か?
と思いきや、相手側も困惑している様子。演技にしては自然過ぎるし、読み切れないでいると──
「見ィィィ付ゥゥけぇぇたぁぁぞぉぉ!!」
「嘘だろ?!マジかよ!!」
地面と言っていいのか分からない足下を掘り出て、伏見神社で倒した蝿頭の怪物が頭だけ再登場。
その複眼から赤い光線を電脳フィールド全体に撃ち続け、隔離された空間内で起こした爆発により。
自分達はフィールドの外へと吹き飛ばされ、戦いは引き分け。奴がどうなったかは知らんが。
自分が吹っ飛ばされた先は……狙ってなのか、それとも不運なだけか。ゴミの山へ落とされた。




