アインスト・フューチャー
『前回のあらすじ』
仔犬から変貌したナイトメアゼノの追撃から運良く、噴き出した水に流され助かったエックス。
携帯電話を盗まれ、現在地や時間も不明。そんな時、見付けた小屋に入り情報を探る。
日記から現在地が京都の伏見山である事、ノイエ・ヘァツの襲撃と山の異変を知った時。
アルファが現れ、情報と助言を残し立ち去る。続けて悲鳴が聞こえ向かえば、燃える人物を発見し、謎が増えた。
「……何処からに降りるべきかねぇ」
山を降りようとするも、知ってる道がない。いわゆる整備された参拝道では無く、完全な獣道。
何度もこの伏見山には参拝に来ているが、通るのは必然的に人が通る事を想定した道な為。
現在地が分からない。理由としては、自分が学業の成績が最下位な他に、もう一つ。
現代に戻って来るのが久し振り過ぎで忘れた上、あれから18年後と言う浦島太郎状態。
「仕方ない……スキルを使うか」
(宿主様。心配性なのはいいが、慎重過ぎるのは別の意味で問題だぜ?)
(軽率過ギルヨリハマシダ。過去ニ王ガ犯シタ失敗ノ再来ヨリハ……ナ)
渋々、能力を使うと決める。この心配性が問題なのは重々承知してるし、認めてもいる。それでも……
一つの間違いで、娘と可愛がっていたイリスを融合神にさせてしまった上。現場──
その場に居た都市に壊滅的な被害を与え、イリスをこの手で殺めた記憶を取り戻しつつある今。
あの辛い記憶と……心臓を抜き取り殺めた感覚を思い出しつつ、ウォッチを回してスキルを使う。
「ッ!?──全く」
覚える能力を使えば相も変わらず、頭痛に襲われる。対価故に致し方無しとは言え、慣れない。
この辺りの地区や現在地に関する出来事を覚え、降りる方角、あの盗人女の現在地も把握。
ただ、悔しい事もある。この伏見山……観光客が来るのは分かるが、チラッと目をやると。
不法投棄されたゴミが幾らかある。自然と人の共存は、まだ遠い夢物語なのだろうか?
(ムッ……コノ感覚ハ──来ルゾ!)
「まさか!」
体が命の危機を感じ取り、振り向くと──先程目を向けた不法投棄のブラウン管のパソコンと。
群がる蝿にノイエ・ヘァツが取り付いた上、暗雲の空や下に見える町から黒紫色の闇や電気を吸収。
目の前で融合獣・ミュルに……いや、違う。ミュルでもなければ、融合獣ですらないコイツは!
「融合獣じゃない。この背筋を凍らせる感覚……ナイトメアゼノ?!」
「時の揺り籠、零れ落ちた……」
(相変わらず何を言ってるのか、理解に苦しむ奴らよねぇ~)
ガラクタの塊になったかと思えば、吸収した闇が球体となり、殻を破る様に蝿頭の怪物が出現。
一つだけ、分かる事がある。コイツは絶対に、この時代で倒さなければならない!
それだけの脅威、確信が心を震わす。産まれたばかりで……なんて言う罪悪感は持たず、飛び込む。
「キュイィッ!」
「な──?!」
飛び込む最中、産声を上げると同時に赤い複眼から黄色のビームを放たれ。
咄嗟に両腕で顔を守るも。踏ん張りすら出来ぬまま押し飛ばされ、獣道へ転落。
起き上がる時、それに気付いた。左腕が……さっきの一撃が原因なのか、痺れて動かない。
(宿主様、俺に変われ!相手がガラクタの集合体なら、俺に分がある)
「よし。頼んだ」
動かないのは左腕だけ。ゼロの主張を飲み、右手でウォッチを操作して交代。
するや否や、ナイトメアゼノに殴り込みに行くが。自分の時と同じく、目からビームを撃ち迎撃。
されど怯む様子すら見せぬまま、胸にチョップや蹴りを叩き込み、逆に相手を怯ませて後退させる。
芋虫に短い手足が生えたと思わせる体は、黒く澱んでおり……殴り蹴った箇所から。
黒緑色の、如何にも有害そうな液体が飛び散っている。まるで、水風船に穴が空いた様な見た目だ。
「ぐ、おぉぉおぉっ!?」
「愚かな奴……め」
(ゼロ、私に変わりなさい!ソイツを直に殴るのはヤバいわ!!)
突然左脚を震わせ、苦しみ始めたゼロ。何事かと思えば、連打で打ち込んだ蹴りの時に。
奴の体液が付着した様子。強酸に漬かったかの様な溶解する音と、鼻を突く臭いが広がる。
昔の職場で何度も体験したこの臭い……酸!?慌てた様子でゼロはウォッチを操作し、霊華と交代。
「触れないなら、距離を取ったまま攻めれば……きゃっ!?」
した次の瞬間、奴の姿は消失。何処へ行ったのか?それを探知しようとすれば。
足下から勢い良く現れ、霊華は打ち上げられるも空中で体勢を整えて着地。
「ねぇ……アイツ、私達の戦闘スタイルを把握してない?」
(同ジ事ヲ思ッテイタ。此方ノチェンジニ対応出来過ギテイル)
(接近すれば酸による防御、距離を取ればビームと穴を掘っての奇襲かよ。クソッ!)
恐るべき対応力、ほぼ全ての距離に適応した攻守。それは自分達を倒す為に備えた能力にも思えた。
余りこんな予想はしたくないが、ナイトメアゼノシリーズは、もしかしたら……
話や予測の最中。奴の突撃に少しばかし反応が遅れ、あの幼虫に短足が生えた外見からは予想外で。
異常な速度による突進を受け、主導権は霊華から自分に強制変更され、大きく吹っ飛ばされた先は……
「っ~!!」
(幸か不幸か。山を下った大社前に吹っ飛ばされたみたいね)
地面に激突する際、ルシファーが自ら飛び出し自分を布の様に包んでくれたのもあり、怪我は無い。
立ち上がったのを見計らってか、奴も大社の方へ飛んで来た。それもジャンプとかではなく。
羽虫の様な薄い羽を震わせ、追撃の体当たりでUターンし、胴体に頭から突っ込んで来やがった。
「胴体が酸に守られてるなら……複眼はどうだ!」
「キュイッ!?!?」
力を満足に使えない今じゃ、踏ん張ってもコイツは止められないし、決定打になるかも怪しい。
胴体の酸に触れず、反撃をする方が一つだけある。頭……それも比較的柔らかい目なら!
生物的な賭けに乗り、両拳で奴の複眼を両方同時に叩いてやった。
すると急に上昇し、社の屋根目掛けて急流滑りも真っ青な垂直落下を始めやがる。
「このっ!!離せ──!」
複眼や頭部を叩き、引き離そうとするも離れない。このままじゃ、屋根から床まで貫くコース一択。
そんな時、バイクのエンジンを吹かす音が聞こえた。そう思った矢先、眼前にバイクが跳んで現れ。
ナイトメアゼノを引き離す。操縦する誰かの手が素早く自分の手を掴み、瞬く間に地面へ着地。
「隊長!救援物資をお持ちしました」
「ナイスタイミングだ、リグレット!」
自分の手を掴んだ人物。それは──如月皐月の名を自ら棄てた、リグレット・ナッシング。
救援物資を持って来た。と言い、乗って来た紅くスタイリッシュなバイクを自分に手渡すと。
背中に背負ったポンプアクション式ショットガンを手に取り、自身が注意を引くとばかりに発砲。
「それは隊長達専用に、皆さんで調整したマシンです。絆さん達が居なくても、隊長のお力になります!」
「そうか……みんなの想い、受け取った!」
ハンドルを握ると同時に、流れ込んでくるみんなの姿と込められた想い。
例え戦場で一緒に戦えなくても、戦いでは足手まといでも。別の事で力になるんだ!
そんな気持ちが自分の心を震わせ、力が沸いてくる。それに反応してか──
「マスター登録を開始。魔力・霊力・パルスの確認OK、指紋・細胞・声帯・DNA・魂の確認完了」
(成ル程。盗難防止機能……本当ノ意味デ、王専用マシント言ウ訳カ)
「アインスト・フューチャー、各種機能のセーフティを解除」
バイクから電子音声が鳴り、自分からデータを読み取り登録を始め出す。
そして自ら使えと言わんばかりにバックルが腰に出現。必殺技を使う為、決まった手順を踏む。
「WILD ability、No.02!!Desutorakushon victory!」
(これで決めるわよ。貴紀!)
「あぁ!」
バックルから流れる電子音声を確認した後。バイクに乗ってアクセルを回し、Uターンして逆走。
少し距離を空けて助走をつけたら再度Uターン──直後に後輪を上げて逆ウイリー走行で前進。
スリップも同然の高速回転のまま後輪で四度叩けば、バイクを降りて遠心力を利用し振り回す。
「魔お──」
「ナイトメア・ブレイクゥ!!」
今度は回転する後輪で二度轢き、トドメに振り回しているバイクを上から叩き付け、爆発させ撃破。
文字通り、上からバイクで押し潰しての勝利な訳だが……寧は兎も角、マキナには見られたくない。
怒られるか、呆れ果てられるのが目に浮かぶからだ。そう言えば、最後に何か言おうとしてたな。
「流石ですね、隊長。初めて乗るマシンを使いこなすとは」
「お褒めの言葉は嬉しいけど……寧達、こう言う使い方を元々想定してたのかな?」
「その様です。何せ隊長は破損した武具や物ですら、武器として扱うのですから」
褒められた事に対し、恐る恐る本音を言うと想定外な返答が返って来て、思わず苦笑い。
自分をよく理解してくれて嬉しい反面、当然の事に言われると、やっぱり何処か申し訳なく思える。
そんな気持ちもありつつ、何故か倒した筈のナイトメアゼノの残骸から視線が離せない。
「隊長、どうかしましたか?」
「……コイツは何故、わざわざガラクタに取り付いたのか?って思ってな」
そうしてるとリグレットに話し掛けられ、胸の内にある疑問を話す。
此処には狐や馬の石像、墓石に野生生物も存在する。なのに、ノイエ・ヘァツは今回。
ガラクタ、スクラップ、ジャンク。そう呼ばれる物に取り付き、融合して襲ってきた。
何と言うか……実験をしている。そんな印象、憶測が頭を離れない。
「今あれやこれと考えても、憶測の範囲を出ないと思われますが」
「そうなんだよなぁ。……皐月、他の仲間達は?」
「ハッ。他のメンバーは……た、隊長?!」
リグレットの言う通り、終わった事への確かな回答は憶測の範囲を出ない。と言うのが大半。
それは自分も理解している。その傍ら、此処現代でコードネーム的な呼び方は痛々しいだろう。
そう思い、久方振りに本名で呼んでやると。普段は見せない程慌てた様子で、顔を赤らめていた。
「此方側で向こう側の呼びは変に思われるからな。此方に居る限り、お互いに名前で呼び合おうか」
「は、はい」
改めて取り戻した記憶を思い返せば、リグレットの本名を呼んだのは、迎え入れる時以来か。
自分の言葉に返答を返した後。皐月は気持ちを整える為、深呼吸を何度も繰り返している。
ふむ……こう言うギャップも良いな。新しい扉を開きそうだ。




