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ワールドロード  作者: オメガ
五章・corrotto cielo stellato
232/384

役割

 『前回のあらすじ』

 不思議な劇場で目が覚め、投影される夢見家の映像をみたり、ベーゼレブルと会話をする。

 手渡された新聞から夢見悠の情報を知り、遺体を探せと言われ藍色の鍵を受け取り、次なる世界へ飛び込む。

 早々ポメラニアンに追われる女性を見付けるが……フュージョン・フォンは盗まれ、犬は異形の姿へ変貌。

 追い詰められるも、避けた一撃で運良く水が噴き出し、下流へ流され窮地を脱する。



 時間的に五分も掛からない内に、下へ流された訳だが……全身は水に濡れてボトボト。

 衣服や靴までもが水を吸い、動き難い上にお気に入りの黒髪も顔に張り付いて、気持ち悪い。

 お気に入りで一張羅のコートもずぶ濡れ。これが濡れ鼠と言うやつか……このままじゃ風邪引きそう。


「そもそも、今は何時だ?月や太陽も見えないんじゃ、時間の予想すら出来ん」


(フュージョン・フォンも盗まれちまったしな。コレ……お嬢ちゃん達に間違いなく怒られんぞ)


 改めて空を見上げるも──黒煙に覆われて見えない。現在時刻を確かめようにも、携帯がない。

 現在地は不明、細かい情報も分からない。うぅ~む……これが現代機器に頼ってたツケか。

 何はともあれ、濡れた体や衣服を乾かさなければ。辺りを見渡すと、小さな小屋を発見。

 分社や社……ではない。本当にただの小屋。山の管理者とか、誰か居ないだろうか?扉を開けてみる。


「おじゃましまー……っ」


 中は強盗でも入ったのか、酷く散らかっている。床に落ちている男女の衣服とタンスの棚。

 長方形の机の上には、食べ終えたカップ麺と空のペットボトルの数々。

 台所もあるが──洗う前の食器を無造作に積み上げ、蝿が(たか)り異臭もキツイ……いわゆる汚部屋。


(汚いのもそうだけど──私としては、これも気になるわね)


(あぁ、それは俺も思ってた。やっぱり気になるよなぁ)


(何ハトモアレ。換気シツツ、調査ヲスルゾ)


 足下を片付けつつ、奥にある台所側の窓を開け、何か無いかと辺りを調べてみると。

 乾き切った血痕の付いたノートを発見。何が書いてあるのか?この山に関する記述は無いものか。

 目を通す最中。山に住む動物の記述だったのに、途中から日記に変更していると気付いた。


「2030年1月22日、晴れ。最近、山の様子がおかしくなった為、記録として今後の変化を日記に書く」


(俺達が現代で最後に戦ってた時代から……18年後?!)


 第二の故郷と言うか。懐かしき時代に帰ってきたかと思えば、それ程の時間が経ってるとはね。

 それだけ、色々な時代や次元で戦ってたんだと、しみじみ思ってしまう。いやはや、爺臭い。

 続きのページを捲る内、見逃せない内容が幾つかあった。奴ら……ノイエ・ヘァツの出現だ。

 どうやら此方では2022年11月10日に現れ。一ヶ月半の潜伏期間の後、行動を始めたそうだ。


「2023年1月1日。此処、伏見山や世界各国に出現するも直ぐに消失」


(1月5日、世界中で何かが消失する事件がニュースで報道された。何かって、何かしら?)


「1月8日、消失した何かが分かった。それは物であり、命であり、我々の記憶だと気付く」


(サレド時既ニ遅シ。イヤ、私ハ我々トナリ、新人類トシテ他ノ生命ト融合シ、生キテ行クノダ……カ)


 日記を読んで分かった。この山は伏見の……いやはや、昔から此処には色々と縁があるな。

 導かれ、救われ、文字通り終わり──始まった場所。此方でも縁があるらしい。

 ノイエ・ヘァツに消失事件。まだ生きてるのならまた、アイツらの力も借りなきゃならなそうだ。

 日記を閉じた時、何かが落ちたので拾ってみると、男一人と少女が二人写った写真。裏には……


久遠(くおん)、永久。ミュルに気を付けろ……?」


(ミュルって確か、2012年に私達が倒した融合獣よね?)


 ただ一言、「ミュルに気を付けろ」──とだけ書かれていた。同時に、不思議にも思えた。

 融合獣・ミュル。ノイエ・ヘァツがゴミと融合した怪獣で、ダイオキシンなどを吐く。

 ある種の人類特効な奴。けど……別個体として現れたのなら、話は別。


「久しいな、オメガゼロ・エックス。いや……ジョーカー・エックス──と言うべきか」


「……別に、どちらでも構わん。あだ名や二つ名が多いのも、本来の名前を隠す為だからな」


 背後から話し掛けて来る、あの声。警戒しながらもゆっくりと振り返り、顔を向かい合わせる。

 仮面を被っているものの。ルシファーに似た紫色の魔力が、雰囲気がユウキ本人だと感じてしまう。

 同時に浮かび上がる疑問が、幾つかある。自分を倒そうと思えば、倒せる機会は幾らでもあった。

 なのに見逃し、ブレイブとの密会にグラビトン・アーマーの一件、本当に死者蘇生されたのかも……


「やる気──か?」


「少なくとも、今は無い」


 もしや、此処で戦う気か?そんな疑惑が浮かび、コートの内側からバックルを右手で取り出す。

 すると……「やはりお前の手に戻っていたか。世界最後の希望は」と言い出す辺り、尚更意味不明。

 身構える素振りも見せず、寧ろ話に来たと言わんばかりに灰色の切り株椅子に座り始めた。


「世界最後の希望って、何だよ」


「お前がその手に持つアークバックル。ソレは全ての(しゅ)を乗せるノアの方舟」


(ノアの方舟……神々が大洪水で地上を洗い流す話に出た船の事ね。って貴紀、大丈夫?!)


 聞き返すとバックルを指差され、これがノアの方舟だと言われた。方舟にしては……小さくない?

 そんな疑問が浮かんだ時。掴んだままのアークバックルが突然震え出し、手から離れ自ら腰に装置。

 そのまま体内に浸透する様に吸い込まれてしまった。今までこんな事、一度も無かったのに。


「バックルに(まこと)の主として認められた──か。流石は勇気だな」


「……何処まで、何を知ってるんだ。お前達は」


 何を言ってるのか、正直分からない事だらけだった。真の主とか、勇気だとか!

 自分達が分かる事ばかり述べて、此方には何一つとして伝えない、もしくは遠回しな発言ばっかり。

 憤りを感じ、睨み付けながら問い掛ける。だけど奴は、アルファは……微動だにしない。


「お前は元々一つの力。そこから力を欠片に監視と保険で十四個飛ばし、残りを更に三つに割けた」


(赤い光の伝説の話か。終焉も言ってたな、確か)


「飛び散った欠片をほぼ全て揃えた。だが、お前は元の姿に戻れていない。それは何故か?」


 この世界で埃被ったお話、赤い光の伝説を語り始めたと思いきや。

 自分の話に移り、何故本来の姿に戻れないのか?を話そうと、口を開き。


「鍵が足りないんだよ、お前。鍵の掛かった扉をどうやって開ける気だ?」


(鍵……鍵カ。王、以前──大幅弱体化前ノ旅ト今ノ旅デ、不足シテイル物ハ何ダ?!)


 扉を開ける鍵が無いと言い出し、ルシファーからは以前の旅と今の旅で不足している物は何かと問う。

 仲間は……メンツや数こそ違う。武具?確かにまだ、ムゲンの秘宝は全て揃えれていない。

 それに──愛刀、破王もまだ戻ってきていない。そう考えると、まだ取り戻してないモノはある。


「一つ、忠告しておく。何事にも役割があり、それに善悪を付けるのは人の所業であり、業」


「そりゃどうも」


「時には大切に持つ物を棄てる勇気と決断も、必要となるだろう」


 忠告を伝えると、満足したのかサボりが見付かりそうなのか。

 席を立つと、小屋の外へ出て行った。何事にも、役割がある……その言葉は不思議と、胸に刺さった。

 自分には、頼れる仲間がいる。各々に役割があり、それを全うしてくれている。

 それと、最後の言葉は……仲間を見捨てる行為も視野に入れろ。きっとそう意味なのかも。


(私は違うと思うわ。ほら、御守りとか雛人形って元々は、棄てる物でしょ?)


(御守リナラ一年、雛人形ハ飾ッタ当日ニ川ヘ流ス。吸ワセタ厄ヲ焚キ、流ス基本ダカラナ)


「もし長期間持ってたり、それを他人に渡したりした場合は……どうなる?」


 意見の相違が起こり、霊華の認識やルシファーの補足を聞くと、意外と知らない事実を耳にした。

 神社で購入した御守りとか正月飾りって、一年経ったらお焚き上げをして。

 雛人形や五月人形とかは、人形供養祭や感謝祭でお焚き上げするらしい。初めて知った……

 ふと疑問に思った内容を聞いたら、二人は黙ってしまった。何か、不味い内容だったのかな?


「王よ。物には魂が宿る──それは理解しているな?」


「う、うん。九十九神って妖怪だよね」


 突然自分の内側から三人が飛び出し、語り始めた。あ……これ、ちょっとした勉強会だわ。

 話も長くなりそうに思い、後ろに倒れたソファーを起こして座りつつ答える。


「その中でも特に、人の形をした物は魂が宿り易いの。御守り系は言わば、厄を溜め込む袋としたら?」


「あ──溜め込める許容量が、一年って事か」


「で……だ。そんな厄の詰まった御守りや人形を渡すってのは、相手に呪いを渡すも同然って話だ」


 分かり易い霊華の、解き易い問題。それを渡す意味を語るゼロの顔付きは、真剣そのもの。

 そうか。渡す、渡さないにしろ、一年以上持ち続けた御守りや人形には、厄や魂が宿る。

 御守り系統は呪いが漏れ出し、人形は人の念を受けて……ちょっと待てよ?


「そうなると、美術館とかに飾られた絵はどうなんだ?」


「勿論、人間達の視線、念を受けて魂が宿る。但し、悪い念を与え続けた場合は──人間の責任だな」


 話を聞く程、次々疑問が浮かぶ。展示されてる絵や石像などはどうなのか?

 その答えは、良くも悪くも人間次第……だそうだ。曰く、良い念とは有名な絵と言う認識。

 逆に悪い念とは、学校によくある七不思議的なモノだとルシファーは答えた。


「これも人間の身勝手な善悪の基準や、幻想空想から来る結果だ」


「もっと砕いて言えば。実が引き締まった果実と、時間が経って腐った果実。どっちが美味しい?って事」


 追加の説明で、漸く納得した。新鮮な物、腐敗した物。どちらが美味しく見えるか?

 要は本人の認識。その物事に対し理解があれば良い印象を受け、理解が無ければ悪い印象を持ち易い。

 例えば人物の絵に人食いの噂があれば、噂通りの認識を持って絵を見、絵も自身が人食いと認識する。


「ぎぃぃやぁぁぁ!!」


「──!?」


 自分自身の考え方で納得した矢先、外から男の悲鳴が小屋の中にまで響いて来た。

 三人に視線を向ければ揃って頷き、自分の内側へと自ら戻って行く。

 声の主は誰か、何が起きているのか。それらを知る為、急いで小屋の外へ飛び出すと其処には……


「た、助け……て」


「助けて、って言われても。これは……」


「私は──にん、げん。なの、に」


 何処かで山火事でもあったのか?!声の主は全身が燃えており、文字通りの火達磨状態。

 生身の人間じゃもう助からない。仮に助かっても、地獄の苦しみが続くだけ。

 少しすると勢いの激しかった火は自ら消え、黒く焦げた人の形をした物体だけが残った。


(スンスン……宿主様。コイツ、何か変だ)


「変?確かに、焼かれてるのに綺麗に喋ってたけど」


(ちげぇよ。コイツが人間だとしたら、肉の焼けた臭いがする筈なのに……それが全くねぇんだよ)


 何やら臭いを嗅いでると思えば、違和感を見付けたらしい。自分も感じた違和感を伝えるが。

 どうやら、ゼロが感じた違和感とは違うそうだ。続けて話を聞き、自分も臭いを嗅いでみる。

 確かに……臭いが違う。この焼死体からは、肉の焼けた臭いが全くしない。

 一体、この現代で何が起きている?一度、この山から降りて情報を集めなければ!




 作者のオメガです。更新されているのか分からない、と相棒から意見を頂き。

 誠に勝手ながら、外伝を削除させて頂きました。ただ、外伝は本編終了後。

 再度投稿させて頂きます事、お伝え致します。外伝の更新をお待ちにしていた方には、誠に申し訳ありません。



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