ただあなたの瞳を信じて
『前回のあらすじ』
パワードスーツの改修を行うも失敗続き。暴走を阻止するも、内部温度にエックスは医務室へ運ばれる。
様子見に来た仲間達を追い返し、ニーアから聞いた体の状態は普通なら即死しているレベルと断言。
夢か幻か。不思議な舞台劇場でゼロ達に秘密を打ち明けた後、ベーゼレブルから外の現状を聞き目を覚ます。
ニーアの体を張った制止、告白に真っ向から本音で答え、戦闘許可を貰いホライズンの下へ向かう。
ゼロライナーから外に飛び出し、爆発音や振動の鳴り響く秋島の方へと走り出す。
すると其処には──アナメとシュッツがアイ・アインスを除くオラシオンをライナーへ運ぶ中。
ナイトメアゼノ・ホライズンに背後へ吹き飛ばされるリバイバーとサクヤ、真夜の姿が見えた。
「つ、強いなんてもんじゃねぇッ。今の俺達とじゃ明らかに、強さの次元が違う!」
「私が完全な状態なら。こんな敵、圧倒出来るのに……」
「例え圧倒出来たとしても、コイツを完全に倒せるのは──おわっとい!」
背中から滑り落ち、敵の強さが身に染みた直後。追い討ちにと、連続で撃ち込まれる鋭く細い矢。
螺旋を描く様に捻れたソレは、左右に寝っ転げて避ける三人の居た場所を、的確に抉る。
その威力は地面を易々と穿つ辺り、生身で受けた際のイメージは……余り想像したくない。
「限定三位一体・融合」
幸いにもまだ、紅葉の木々や茂みに隠れている此方には気付いていない様子。
茂みに隠れたまま背後に回り込み、右腕に絆と第三装甲・一号を限定融合。
右腕の紅龍ヘッドから銀の刀身を出し、繰り出す横一閃が見事、ホライズンの首を跳ねる。
「見・付・け・タ」
「──ッ!!」
融合が解ける中、呆気なくも遂に殺れた。心の何処かでそう思い、油断していたのだろう。
地面に転がる頭が此方を向き、見付けた……確かにそう言った。その言葉を聞いた時。
背筋がゾッとして、二歩三歩と下がる。生きていた──なんて理由ではなく、まるで。
夜の学校から帰る時。背後から肩を叩かれ、耳元で小さく囁かれた……そんな恐怖感に襲われた直後。
「貴紀さん?!」
「真夜!」
「私に命令すんなッ!!って話ですよ!」
素早く落ち葉を踏む足音に気付けば、既にホライズンの体から鋭くも力強い右蹴りを胸部に受けた。
その一撃はリバイバー達の声や姿が遠退き、意識を失わされ、体も後方へと吹き飛ばされる程。
以前戦った……いや。遊び未満の時より滅茶苦茶強い。レベル、ランクを超えて次元が違う。
一瞬飛んだ意識が戻った時。真夜が自分を羽交い締めの形で、キチンと受け止めてくれていた。
「真夜、スープレックスジャイアントスイング!」
「合点ッ、承知のすけ!」
ホライズンが此方に右腕を向けていると知った瞬間。細かい説明を放棄し、プロレス技で説明。
すると真夜は此方の意図を完全に理解。一撃必殺の矢が迫る中、羽交い締めから腰へ腕を回し。
低い姿勢で弧を描く途中、眼前を矢が通過。頭が地面に当たるより早く両手を着け、受け身を取る。
それが合図となり、今度は両足を掴まれ、姿勢を戻しながら横に大回転。そのまま奴に放り込まれ──
「自殺、行為……か」
「一瞬しか力が使えなくとも。自分には……いや、俺達には絆がある!」
「──?!」
自殺行為と読み、此方に右腕を向けて矢を放つ。パワードスーツを着れない今、当然回避は不能。
されど、放たれた矢は空振り。正確にはカーリタースから覚えた能力、トリックを発動させた。
放り込む時に一瞬だけ投影。幻影はそのまま、俺自身は地面をスライディングで滑り懐へ潜り込む。
「深き闇に……」
「遅い!」
呪文を詠唱し始めるも、俺は右指を擦り鳴らすアクションに魔力を込め。
瞬間的な閃光で目を眩ませる。しかし通じない様で、叩き潰す意思を表す様に振り上げられた左腕。
「無駄──ッ?!」
「例えその言動が無駄だったとしても。人は、過ちを正して行ける」
「白兎……アナタが、どうして」
振り下ろされると思われた左腕は、肘関節から切断されて地面に落ち。
サクヤ達の所へ滑り落ちながら着地すると、首だけ振り向いてホライズンに対しそう言い放った。
が……サクヤ達の言葉には全く耳を傾けず、返事も無い。俺は真夜の隣へ戻り、距離を空ける。
「──っ!?」
「深き闇に囚われし魂。浮世を妬み、生者を呪い焼く雨となれ」
「あ、あれは……じゅ、呪文?!」
詠唱が始まった瞬間、俺達は三方向に分かれホライズンに攻め込む。
だけど奴に届く直前。強烈な重力に体は地面に押し付けられ、全く動けなくなった。
その間に呪文詠唱は終わり、地面から浮き上がってくる無数の黒い炎は空に昇り。
一つになった次の瞬間──拡散して雨霰と言わんばかりに降り注ぎ、着弾と共に爆発を繰り返す。
「こげなもんッ!」
「私達も行くわよ」
爆煙の中から俺とリバイバー以外の三名が、各々片腕を盾代わりに飛び出し。
ホライズンへ向かう中、奴の全身が突然泡立ち始め、粘土を捏ねる様に変化する不気味さを見せるも。
サクヤ達はそれすら意に介さず、各々武器や拳を叩き込む──その瞬間。
「うぁっ!」
「なんとぉー?!」
「コイツ……そんな能力まで」
三人は瞬く間に反撃を受け、後方へ吹き飛ばされた。背中から落ちる白兎、顔面から落ちた真夜。
滑り落ちながらも器用に着地し、嫌そうな顔でそう言うサクヤ。此方に振り向く奴の姿は……
ゼロの肉体を借りている俺、紅貴紀の姿に瓜二つ──いや、完璧に俺そのもの。
「LOOK……この体──の、使い方。教え……て、やる」
「上等だ!」
「貴紀さん?!あぁ~もう……俺も行きます!」
右手でピースサインを作り、両目の下あたりを指差し、見てろ的な挑発したかと思えば。
続けてゆっくりと右手の平を上に向け、此方に来い……と手首を振り、言葉付きで挑発の上乗せ。
っ……いいだろう。その見え透いた挑発──いや、挑戦に乗ってやろうじゃねぇか!
苦しくなってきた胸を左手で鷲掴み、深い深呼吸を一つしてから駆け出す。
「hand shot」
「技までっ、俺の真似か」
挑発ジェスチャーをした右手を捻り直し、指先を真っ直ぐ俺に伸ばしたと思えば。
黒い魔力弾を一発だけ発射。牽制技程度と思い、右手に魔力を瞬間的に込め、弾く。
刹那──直感から逆に右手を弾かれた上、胸元を貫かれ即死する未来を見せられるも、時既に遅し。
前へ踏み込んだ右足に力を込め、魔力弾に触れる箇所を斜め下に変更。同時に身を大きく捻り……
「うわっ?!」
「Well done」
回した独楽が勢いを失くし、ぶれる様な状態へ持ち込み、バランスを崩し右肩から転げ倒れ。
後ろのリバイバーも間一髪左側に避けたら、次は直立姿勢で魔力弾をマシンガンさながらに連射。
危険を感じ、屈んで頭を隠す様に右腕で耐え凌ぐ中……予想以上にも周囲に当たり、土煙が舞う。
「た──っ!!」
「brainless。勇気と無謀を、はき違える……とは」
「勇気と無謀をはき違える程に愚かな……だって?」
「you don't understand。彼と言う存在を」
恐らく俺の名前を呼びそうになったが──心配より、信じて前に進む方が良いと判断したのだろう。
駆け出す足音に対し、知ってか知らずか。ホライズンからの否定的な言葉に。
リバイバーは兎も角、サクヤ……ではなく、何故か白兎までもが続けて答える。
「俺達は──信じてる」
「believe?」
「Exactly。だから我々は、貴紀さん……」
言葉を耳にする度、倒れ伏した体が、指先が電流でも走ったかの様に……一瞬だけ動く。
まだ動ける、まだ戦えると知らせる為に。言葉だけじゃない──何かが力を、手を貸してくれて。
まだ諦めたくない、立って走れると。心を振るわせるソレがまた俺を立ち上がらせ、走らせる。
「ただあなたの瞳を信じて、共に歩むと決めたのよ!」
真夜の言葉に続き、叫ぶサクヤの想いを聞いた時。懐から結晶を取り出し、鷲掴みで砕く。
走行中にバックルを腰に当てて装備後、左斜めにある木へ素早く跳躍しつつ。
バックルの左右を軽く引き、周囲からエネルギーを内部へ瞬間的に吸収。
「WILD ability!!trinityHeart Destiny!」
「お前達の暴走を止められるのは──俺達だけだ!」
木に右足を着け、直ぐ様ホライズンに向けて力強く跳躍する最中。
引いたバックルの左右を同時に閉じ、充填完了。今までとは違うゼロの台詞に違和感を覚え。
リバイバーが攻撃の連続で注意を引く瞬間──左右に現れたアダム、デトラの姿が俺と重なり。
此方に気付いたホライズンの胸元へ、右拳を押し込む様に叩き込み、奴の真後ろへ吹き飛ばす。
「やった……初めて、貴紀さんの攻撃が通じた!」
「馬鹿。喜ぶのは、まだ早い」
「全くですよ。攻撃が通じた──と言う事は、憎いあん畜生も本気を見せる可能性がアンデルセン」
初めて奴の防御力を超え、通った一撃。その結果にやや遅れて歓喜の声をあげるリバイバーだが。
白兎の言う通り、喜ぶのはまだ早い。攻撃が通じるってのは、敵と認識される可能性が高い上。
今まで出さなかった技、本気をも警戒しなくてはならない。仰向けに倒れたホライズンを見ると……
「融合係数……85%、シンクロ率83%」
「その数値は!」
何事も無かったかの様に起き上がると。殴り飛ばされた胸元を左手で触り、何かを確かめ。
ポツリと呟いた言葉が……ソレだった。俺とリバイバー以外は何かを知っているらしく。
大層驚いていたが。続くであろう言葉を、ホライズンの次なる行動で遮られた。
「な──なんだよ。この、背筋がゾワッとする感じは!!」
「Nexus……passing line。Go to the next stage」
「しまった!」
物真似を止めて異形の姿へ戻ると、右手を上げて悪寒……寒気を感じる程の魔力を一点に集め。
向けた視線の先がゼロライナーの方面だと白兎の言葉で気付き、撃つのを阻止ようと思うも。
理解する。今の俺じゃ、発射は止められない。ならばどうすべきか?
先回りをし、最低でも可能な限り被害を防ぐ。出来るなら弾き返す。その一心で飛び出す。
「trust me trust me」
サクヤ達もうゼロライナーの方へ到着したのを見届けたからか?ホライズンは何かを呟いた。
その意味は全く理解出来なかったし、マキナやニーアに言った守りたいと言う言葉を貫く為。
必死に走っていたのもあり、みんなの方へ向け放った魔力……いや、ブラックホール擬きを見た時。
右手を掲げて黒刃を召喚。魔力を拡散させ、無力化を狙うべく、ライナー前で突き出す。
「なっ──す、吸い込まれ……」
「貴紀、手を伸ばして!」
迎撃した瞬間……擬きとは思ったものの、サッカーボール程度の魔力弾は十倍以上に膨れて口を開き。
俺達は黒紫色の激しい渦の中へと飲み込まれ、分断を危惧したサクヤの呼び掛けを受け。
掴もうと懸命に伸ばしてくれる左手に対し、此方も左手を伸ばし──離れない様に掴んだが。
そんな希望を引き裂き、試すかの如く俺達は渦の中に消え……フォー・シーズンズを後にした。




