君の心、私の心
『前回のあらすじ』
夏島で玩具の刀で模擬戦をするエックスとルージュ。しかし、勝負は引き分け。再戦も釣り勝負に変更。
リバイバーや大将こと、小山太郎と旅を終えた後の世界がどうなるか?と言った話をする。
夕暮れ時。禊を行っている最中、ベーゼレブル・ツヴァイが乱入。されど、戦闘は無く会話のみ。
お互いに本音を言い合う。ツヴァイはエックスが本気で危ない時は助けてやると言い、立ち去って行った。
禊をした日の夜。五両車目の待機用車両で、みんなと雑魚寝をしていたんだが……
ふと目が覚めた。同時に──何故か誰かを求める心細さ、孤独感に襲われ、車両から出て砂浜へ。
空を見上げればまだ、赤と白の双子月が浮かんでいた。……君の心と、共鳴──したのだろうか?
「共鳴したんだと思うよ。私の心も、心細さや孤独感を感じてたから」
「マキナ……」
後ろから声を掛けられ、振り向けば……終焉の闇No.03、マキナが此方に向け歩いていた。
サクヤも同じ番号を持っているが。正確には本人の承諾無しの為、マキナが正当なんだとか。
「魔神王はまだ、全ての世界を平和にしたいと思っているのかな?」
「……多分」
「そっか。相変わらず、自分とは相反してるんなぁ」
アイツが願い、叶えよう実行しているのは──他者の意思も意見すら聞かない究極の世界平和。
良くも悪くも一直線な、同胞が封印された双子月を砂浜に座り、二人で見上げる。
それから少しの間、会話は全く無かった。話題を切り出そうにも、何を話していいのか分からない。
「月が──綺麗だね」
話し掛けるタイミングを掴もうと、沈黙が続く中。マキナは後ろに眼を向けた後。
何やら口角を吊り上げ……愛の告白を言い放った。さっきの笑みが何を意味するのは知らんが……
なんと返せば良いのやら。好きか嫌いかで言えば、勿論好きだ。顔や容姿も良く、声や性格も良い。
それこそ、自分には勿体無い程。だけど、自分は可能な限り、ハーレムや彼女は作りたくない。
「…………」
「……ハーレムは、嫌?」
「幾らかな。それ以上に、悲しませたくない。色んな意味で」
「ふふっ。独占欲が人一倍強いもんね、君は」
彼氏彼女の関係や、ハーレムが生み出す問題の数々もあり、返答に困り果て沈黙を続けると。
此方に寄り添う様に抱き付き、上目遣いで問い掛ける。マキの時はこれ程積極的じゃなかったが……
取り敢えず無難な返答を返すも、心の内を読まれた。いやまあ、デトラの頃からの付き合いだし。
「そうだよ。手に入れたモノは可能な限り手放したくないし、人物なら嫉妬深くなっちまうからな」
「って事は、私の事も好──!?」
分け合う心は持っている。けど、本当に大切なモノは手放したくない。
それは物であり、誰かでもある。マキナは自分をからかう様に微笑み、顔を近付けて来たので。
仕返しとこれが答えだ。そう行動で示す為、顎を右手で掴み──問答無用で唇を奪ってやった。
「あぁ、好きだよ。だから俺は手に入れた大切な宝を守る為、最前線で戦う。これからもずっと」
好きだからこそ、守る為に命懸けで戦う。魔神王の求める平和は、俺の宝物を奪う行為。
最初は意見の食い違いだけだったが、今は違う。壊したい程に愛おしく、大切なモノがある。
顔を離し、改めて戦う理由を答える。愛し過ぎる余り、壊してしまうかも知れない。
そんな恐怖心に震える弱い心と腕で、壊れ物にでも触れる様に、優しく彼女を抱き締めた。
「うん。それなら私達は、そんな君の心を支えてあげる。優しく抱き締めてあげるから、もう、泣かないで?」
肯定する様にそっと抱き締め返してくれた嬉しさに。胸の奥に響く言葉に。
気付けば目頭が熱くなって、自然と……涙を流していた。独りじゃない。
そう教えてくれる声や温もりが──泣き叫びたい程に、とても嬉しかった。その翌日……
「えぇ~っと……」
ゼロライナー・第三車両の倉庫では、三徹目の寧とマキナが横に並び。
物凄い速度でキーボードを打つ音が、車内に響く。夕食にと、おにぎりを持って来たが……
渡せる雰囲気ではない。何と言うかこう。創作家には付き物の、締め切り間近って空気じゃないんよ。
「やっぱり今の状態だと、何回試行錯誤してもパワードスーツは使えそうにないねぇ」
「肝心な本人が力不足な状態。簡単に言うと、電気の通ってない機械」
話は通じてるし、会話も成立してる。けど、この居心地の悪い空気は……そう。
夫婦喧嘩とか、仲の良い友達やカップルが酷い喧嘩、別れをした様な感じだ。
兎にも角にも、原因を探って解消しよう。時間が解決するとか、忘却力が高くねぇと無理だし。
「あ、あの」
「挙手。一つ、提案を宜しいでしょうか?」
とは言え、こんか険悪な空気の中に飛び込む勇気は持ち合わせていない。
が……こんな空気を継続させて良い訳がない。意を決し、呼び掛けようとした矢先。
横から声がし、振り向くと──ディーテが右手を挙手していた。いつの間に……
「「何!?」」
「報告。お二方のバイタルに異常を感知、上質な睡眠が必要不可欠と認識」
「頼む、二人とも。今は……休んでくれ」
「…………分かった」
苛立ちを隠さず、腹の底から吐き出される怒号。されど、心持たぬ機械人形には効かず。
ただ冷徹に、機械的に的確な情報を伝える。二人がこんなにも感情を剥き出し怒鳴り合うのや。
睡眠不足で倒れられるのは正直、自分も心苦しい。そんな訴えは長い沈黙の後、受理されたのだが。
「警告。昨夜の言動、一部始終は見られていたと報告」
「あぁ……やっぱりそうか」
二人が左右別々の車両へ行ったのを確認後、ディーテは警告として報告をしてくれた。
けど、不思議と分かっていた為、別段驚きは無い。力が思う様に使えなくなった反面。
心の共鳴……とでも言う現象を、より強く感じ取れる様になっていたのもある。
「ありがとな、ディーテ。お陰で、確証を得れた」
「疑問。何故感謝をするのか?理解、不能」
「今はそれで良い。いつの日か、自分なりの答えを見付けて、その回答を飲み込める日が来るさ」
感謝の言葉を言い、外に出ようとした時。感謝を伝えた事が疑問だと言われ。
自分なりの答えを伝えた。分からないなら聞くのが正しい反面、聞いて行動するだけなのは間違い。
自分の頭で考え、答えを導き出す。それを自身の意見や考えとして伝えるのもある意味、正しい。
「巴さんが付いてくるのはまあ、良いとして。トワイと遥が付いてきたのは……意外だな」
『暑くとも、仕事ですので』
「例え暑くとも、Close To You──ですわ……あら?」
浜辺へ出掛ける矢先、付いて来た三人。人間の巴は兎も角、雪国関係の二人に夏島の高温は辛い。
それでも付いて来る辺り、思う事があるんだろう。日傘を差してなお、二人が猫背になる中。
遥が何かに気付き、疑問符の言葉に自分達も不思議に思い、視線の先を見ると……
「本当に、私は……黒一族と紅一族の混血児で」
「嘘を言うな!!紅一族は最後の生き残り、王族にして長の紅心様だけだ!」
あの娘は──天空島で三騎士、影の魔女・ミミツの影から吐き出された娘。
黄・青・黒の各龍神達に話し掛けている様子だが、必死な言い分すらも嘘と決め付けられ。
一方的に嘘吐き扱い。邪魔だ!とばかりに力尽くで跳ね退けられ、尻餅を着いていた。
「本当なんだってばぁ!」
「彼女も龍神の様ですが……力は殆んど無く、空を飛ぶにしても翼すら未成熟な様ですわ」
子供の嘘に構ってられるか!そんな風に悪態を吐き、立派な竜の翼を広げて飛んで行く。
少女も追い掛けようと翼を出すが──余りにも小さい。人間の背に蝶々が止まった位しかない程に。
それ程に小さな翼では飛ぶ事も叶わず、何度も跳ねながら、泣きながらも必死に呼び掛けてる。
(宿主様。俺、アイツを助けてやりてぇ)
「助けるって言ったってなぁ……?!」
珍しく、ゼロから誰かを助けたい!と申し出て来たが、あの娘をどう助ければ良いのか?
それすら分からない。そんな時、突如左眼があの娘の──アイツの過去を映す。
『本当に……ごめんね。貴方に、母としての愛情を注いであげられなくて』
『俺が奴らの気を引く。お前はもっと洞窟の奥へ隠れるんだ。そんな深手じゃ、戦えねぇ』
黒い頭に赤い体の女龍神は、自身の卵を抱えながら洞窟の壁に凭れながら、千鳥足で歩き。
黒い男龍神は鉄の剣と鱗の盾を持ち、重症の女性に洞窟の奥へ隠れる様伝える。
女性の体が赤いのは恐らく……血。赤い法被の如く流れている量からして、長くはない。
『私達が、間違っていた……紅一族を、あの一族の力と存在感を妬む余り行った、呪術がこんな悲劇を』
『過ぎた事を悔やむな!畜生っ……同士討ちだけをする筈が、俺達にも』
『貴方を耐久卵に一人残す私達、両親を許して頂戴。混血、仇──いつの日か、黒一族の復活を』
知らなかった真実を、過去を視る左眼が次々と映す。紅一族が滅びた……その理由を。
一族の復活。その希望を我が子に託した辺りで、過去を視る映像は途絶えてしまった。
同時に、あの娘の──いや、アイツに関する記憶を取り戻した。クソッ……マジか。
(紅一族を、自分の血縁者を滅亡に追い込んだ一族を助けたいって……本気か?!)
(本……気──だ。確かに殺意すら湧くけどよぉ!!親や一族の罪を、アイツが背負うのは間違ってる!)
自分も、紅一族にはお世話になっている。この体や、父親の紅心。絆にも世話になってるけども!
そんな彼ら・彼女らを妬み、呪術を掛けて暴走させ、同士討ちをさせて滅ぼした奴らを助けたい?
そう言うゼロに強く問い詰めたら、絶対に許せねぇ!!そんな気持ちや殺意すら感じるも。
そう言った負の感情を振り切り、当事者の罪を子に向けるのは、間違っていると発言。
「……おい、そこの娘」
「なっ、何よ!」
『貴紀様?』
自分は腸が煮えたぎる程、怒りたい。でも、ゼロの言った言葉が怒りに蓋をする。
呼び掛けると漸く此方に気付き、弱味を見せない様に……なのか?強気な態度で返事を返す。
「何処か──行く宛はあるのか?」
「行く宛なんか、無いわよ」
「それじゃあ、私達と……貴紀?」
行く宛があるのか否かを訊ね、無いと確認したら。可哀想に思った遥が「私達と一緒に来る?」
そう言い切りそうだったので、申し訳ないと内心思いつつも右手を向けて言葉を遮る。
「君の親と一族が犯した罪は計り知れず、その罪と償いを君に押し付ける輩も現れるだろう」
「貴紀さん、何を言ってるんですか?」
この娘と同じ高さまで腰を下ろし、諭す様に話し掛ける中。
事情やミミツの能力で記憶に干渉を受けた遥達からすれば、何を言っているのか分からぬ余り。
巴が自分に対し、何を言っているのか?と、問い掛けるが、今は返答を後回しに。
「だが。それをどう感じ、何を思い行動するかは──君が、君の心で決めろ」
「私の……心?」
「もし真実を知っていのるなら、尚更な」
言葉をそのまま受け取れば、辞書に書いてある通りの意味を持つ。されど、其処に心が加われば?
皮肉や嫉妬が付与され、刃として相手を苦しめる。言葉と言う発音、文字に善も悪もない。
語り手、受け手の心次第で言葉・文字・真実は、薬や毒にもなる。どう感じるか?何を思うか?
何が正しく、何が間違っているか?個人的、世間一般の解釈も……全く違う時もあるのだから。
「……ありがとう。これ、あげる」
「──?!」
「これって、貴紀さんが集めてると言う……結晶?」
暫し俯いて考えた。かと思えば顔を上げて感謝の言葉を述べ、押し付ける様に何かを渡された。
ソレは……七色に輝くオルタナティブメモリーの結晶。あの娘が持っていた、と言う事は恐らく。
ミミツの能力が、あの娘の記憶に対する干渉を防いでいたのかも知れない。
あんな幼い姿に、自分達が何をしたのか。どんな罪を背負っているのかを……知ってしまっているのか。
「達者でな」
立ち上がって姿を探せば──もう既にその姿は遠く、小さく見える程。
また何処かで会おう。その時は……一族云々は無しに、君の心を教えて欲しい。
自分の心も、君に教えてあげるから。そんな気持ちで、夕日に消えて行く後ろ姿を見送った。




