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ワールドロード  作者: オメガ
四章・just believe in your eyes
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障害

 『前回のあらすじ』

 ゼロライナーの医務室で目覚めたエックスは、ニーアと話し現状と、奇跡を越えた奇跡の代償を知る。

 本気の力が一瞬しか使えなくなるも、今まで敵対関係だった筈のDT-0が調律者の勢力から抜け、味方に。

 DT-0から提供される情報から、三勢力の狙いが魔神王の完全復活だと知る一行。

 女勇者候補生・ルージュの仲間、Rから自身の名がリバイバーだと教えられ、記憶喪失だと伝えられる。



 ディーテが仲間に加わった翌日。ライナーの外に一歩でも出ると、眩しいまでに降り注ぐ日光。

 片や辺り一面に広がる白い砂浜と、青く綺麗な海。その反対方向には、密林と言うべき緑。

 いわゆる南国の島そのもの。仲間達の大半は水着に着替え、一時の平和を堪能している様子。

 そんな楽しげな声が響く中。銀色の刀身が空を切り、仕返しにと鋭い切っ先が眼前に迫る。


「ッ!!」


 頭を右に倒し、寸前め避けながら左足を素早く、相手の足の間へ動かす。

 空いている左手で、小太刀を持つルージュの右手首を掴み、密着して攻撃を封じつつ。

 自身が持つ小太刀を逆手持ちに切り替え、喉元に押し当てた時──ホイッスルの高い音が響く。


「そこまで!この勝負──引き分けだな」


「引き分け?」


「そっ。引き分けだよ」


「子供の玩具とは言え、ガチでやり合うな。見ててハラハラするぞ」


 勝ったと思った勝負は、引き分け。大将には悪いが、判決にやや疑問を持っていたら。

 後ろ首を硬い何かで軽く叩かれる感覚を覚え、ルージュから離れてソレを見てみると。

 右手に持っていた刀は無く、左手に持ち変えられていた。そうか、密着した時に右手から左手へ……

 お互いにプラスチックの刀を降ろすと、大将はスキンヘッドの頭を擦りながら此方へ近付く。


「にっひひ~。密着して動きを封じて王手!の考えだろうけど、ピンチはチャンス。それはお互いにね」


「また引き分けぇ~?」


「腐らな~い腐らな~い。今の君は頭しかない状態。力が全部戻るまで、生き残らなきゃ」


 ルージュ……彼女は自分の愛した女性、サクヤであり、彼女本人ではない。

 なのに──その太陽の様な満面の笑みは、不満や不服と言った負の感情を、優しく溶かしてくれる。

 そんなルージュに今はもう、心引かれてすらいる。誰にも届いてはいけない、赤く穢れた手。

 それを知らないからか。彼女は此方の頭を背伸びしながら撫で、子供をあやす様に言う。


「ルージュ、もう一回……」


「貴紀さ~ん!食糧の確保を手伝ってくれないか?」


 白黒つけようと再戦を申し込む直前──間が悪く港側からリバイバーに大きな声で呼ばれ。

 仲間の数が増え、生活に必要不可欠だと理解している事もあり。

 行き場のない苛立ちを晴らす為、頭を乱暴に擦る。そんな心情を察してか……


「ならさ!ボクと釣った魚の数で勝負しよっか」


 そう言った。個人的にさっきの続きが良いんだが……我が儘を言うのも申し訳なく、頷いて承諾。

 リバイバーから釣具を受け取り、U字型の港へ二手に分かれて釣糸を垂らす。

 港と言っても龍神達は空を飛べる為、船は無い。遥曰く、単に魚釣りを楽しむ娯楽場所だとか。


「なんか……すみません。再戦の邪魔をしちゃったみたいで」


「別に。今までもこう言うの、何度もあったし」


「ナッハッハ!!そう言ってる割りには、随分と不服そうな顔をしてるじゃないか!スレイヤー」


 左側にルージュと恋、愛に遥の四名。右側の此方は自分と絆、リバイバーに大将の四人。

 正確には静久も居るのだが……自分が着ているコートの内側で白蛇の姿になり、熟睡中。

 幾ら休息中とは言え、警戒は解けない。なので、気配に敏感な静久を懐に抱えている。

 間が悪い事なんて何度もあった。けど、言われるのなら……やっぱり、顔に出ているのか。


「貴紀さんはこの戦い──旅が終わった後の世界は、どうなると思いますか?」


「知らんな。ただ……障害者断種法みたいな法律が再度成立されれば、今度は」


 旅が終わった後の世界に正直、興味はない。正確には、持たない様にしている。

 だけど本当に、障害を持つ者が子供を作る行為を国が悪と決め付け、強制的に避妊手術をさせるなら。

 自分は再び、立ち上がるだろう。国や世界に対して反逆の牙を突き立てる為に。

 そう言う意味では──龍神族の過激派組織、レギオンと大差ない。そんな気持ちが、口を閉ざす。


「反逆するのか?」


「……あぁ」


 国や王も、時には間違える。だからこそ、それは間違っていると指摘し、反逆する存在も必要。

 大抵は聞く耳を持たず、仮に聞いても根底を曲げない奴も居る。

 命とは、自身の主張や思考が正しいと信じれる者程、行き過ぎた正義や正論を掲げるのかも知れん。


「俺も、自分自身の意見主張が常に正しいと信じていた頃が、昔にあったな」


「大将さんも?俺は……分かんねぇ。昔の記憶、忘れちまったから」


「ナッハッハ!!今はそれで良い。昔の記憶が障害になる時もあれば、背中を押す時もある!」


 目を閉じて昔を思い出し、頬を緩め語る大将の言葉に、リバイバーが食い付き。

 記憶喪失故、自身がどうだったか分からないと言うも。大笑いで返され、彼が困惑する中……

 昔の記憶が良くも悪くも働く事は、十分にある。そう言われ、何やら考え込んでいた。


「要は解釈の問題だ。過去の行動を悔やみ、反省して前へ進むか。反省せず、突き進むか……とかな」


「貴紀さんは、どっちなんですか?」


 何が正しく、何が悪いのか?世間一般の解釈と個人の解釈が異なる場合もある。

 どの道を選ぶかはその人次第。自分は──ある意味、両方だな。だけど……


「さあな。それを他人が見てどう解釈するかすらも、その人次第だ」


 何故?どうして?そう思えるのは、とても素晴らしい探求心であり、自分が守りたいモノ。

 その探求心が生み出す想像力、推理、空想、考察。答えを知らないが故に、無限に膨らむ。

 それを執拗に聞かれ、幼き自身を棚に上げて鬱陶しく思う人も居るだろう。

 だからこそ。自分はその解釈を──彼に委ねた。自分の答えが、誰かの答えではないのだから。


「…………」


 静久が何かに反応したらしいが……何も教えてはくれないまま、自分達は釣りを続ける。

 必要分の魚を釣り上げ、夕暮れになった後。青龍の遥から(みそぎ)を出来る場所を聞き。

 案内して貰ったのだが……意外や意外。ゼロライナーが停車している密林の近くだった。

 ただまあ。禊とは本来、水浴行為を意味するんだけど──夏島の常時高い温度故か、水がお湯に。


「風呂と一緒に行うって考えれば、まあ良いのかねぇ」


 浸かっているお湯は適度に温かく。場所も秋島に近くも夏島寄りなので、紅葉すら見える。

 天然の露天風呂なのに、周りには動物の気配が感じれない。物音一つ無いのは、逆に不気味だな。


「まだ他の連中は飯の準備中だろ?勝手な単独行動は己のみならず、周囲にも死を招くぞ?」


「……静久の反応が気になってたから、鎌を掛けたが。やはり、お前が食い付いたか。ベーゼレブル」


「当然だ。俺の目的は完全体……いや。究極の姿を取り戻したお前と行う、真剣勝負だからな」


 誰が釣り針に食い付くかなんて、端から分かっていた。

 故に敢えて視線を秋島の紅葉に向け、近付いてくるのを誘っていた。必ず来ると信じて。

 予想通り、一人分の間を空けて湯船に浸かっているベーゼレブルと、当たり前の会話を交わす。


「……本当は、どう思ってるんだ?この世界を救った後の事は」


「どうもクソもねぇ。人が人を許さない限り、理解し合い、歩み寄ろうとしない限り──未来は無い」


 何処で話を聞いていたのか。そう考えれば、港での会話を、水中で聞いていたんだろう。

 だが、襲う様子が無かった。だから静久は、静観を決め込んだ。それが自分の予想。

 自分の回答は──人類全体の精神的成長が無い限り、滅びの道を歩む。そう考えている。

 

「もしかしたら魔神王は自ら巨悪を演じ、人類全体の成長を促してるのかもな」


「仮にそうだとしても。親御心子知らず、だろうよ。つまり、何も変わらない」


「痛みを伴わない経験は身に付かない。されど、命は痛みを死と繋げ、逃げる選択を取り易い……クソが」


 ハッキリ言って、こう言う本音は味方陣営にゃあ話せないし、話したいとも一切思わない。

 必然的に敵陣営や中立の陣営にこそ易く。そう言う意味でも、正義の味方には向いてない。

 背中を預け合う仲より、殺し合う仲の方が気が楽で助かる。死人に口無しって言う、口止めも楽だ。

 ……コイツとマジックは不老不死だけど。それでも、そんな呪いを受けた者に、安心感すら覚える。


「けどまあ、俺は不老不死だからよ。何時の時代にでも現れろよ。俺だけは、お前を忘れねぇから」


「本当かぁ?肉体は不老不死でも、精神まで不老不死の奴は遭遇した事もねぇぞ~?」


「ナッハッハ!!俺はデトラの頃やアインの誕生も見届けてるからな!安心しろ」


 思い出せる記憶の中。自分が覚えているベーゼレブルとのファースト・コンタクトは──

 終焉の闇のデ・チューンたるアインの頃。楽園追放の切っ掛けを作ったのが最初……なんだがな。

 どうやらやっこさん。それよりも前から知ってるらしい。本当、何歳なんだ?コイツ。


「だからテメェが本当にヤバい時は、俺が助けてやる。俺自身の為にも、障害を排除してやるさ」


「よく言うぜ。散々乱入なり、相手の強化とかしてる癖によ」


 親しき仲にも礼儀あり。そんな言葉を忘れてしまう程、自分達はお互いに殺し合いを通じ。

 理解し合った。だからこそ、立場上は敵対関係だとしてもギスギスしないし、笑い合って話せる。

 お前はそう言う奴だよ。アバドンやDT-0、ゲミュートの時も、お前が居なきゃ……被害は大きかった。


「さて。俺はそろそろ上がらせて貰おうか」


「もう少し、話してても良いんじゃないか?」


 もっと話していたい。そう思った矢先、会話を切り上げて湯船から出て行くベーゼレブル。

 呼び止めてみるも……「湯冷めさせてくる連中が、俺に敵意を向けてるからな」と言い却下。

 あっと言う間に着替えを終え、神父姿で正面に展開した闇の中へと消えて行った。


「……トワイ、静久、遥。居るんだろ?」


 湯冷め──と言うワードから冷却や水を連想し、ふと頭に浮かんだ名前を呼んでみると。

 近くの茂みが揺れ動いたり、小枝を踏み折る様な音が聞こえて来た為。やっぱりか……と思った。


「真夜……少年の少年をビデオに納めた。これは動画編集して売るチャンス……」


「お馬鹿ですか!こう言うのはモロより、チラッと一瞬だけ見える方が妄想も捗──」


 予想外なのは、湯船の中でスタンバイしていた邪神達。ベーゼレブルが去ったのを好機と見てか。

 息継ぎをする様に湯船から姿を表し、思春期男子みたいな会話をし始めたので……

 無言のツッコミを入れた後。逆さ向きで砂浜に埋め、足だけ天を衝く様に立ててやった。


「幸せな世界……か。チョコレートの如く甘い世界じゃ、こっちが胸焼けするわ」


 ちょっとした愚痴をこぼしながら、湯冷めしない内に静久達を連れ、ゼロライナーへ戻る。

 誰かの幸せは、誰かの不幸。そんな障害すらチョコを溶かす様に、簡単に出来ればな……

 優しく、幸せな世界ってヤツは、やってくるのだろうか?

 ふむ……無限の可能性ってヤツに、賭けてみるかな。




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