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ワールドロード  作者: オメガ
四章・just believe in your eyes
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答えの無い答え

 『前回のあらすじ』

 招く様に、庭園に突如現れた館。脱出へのタイムリミットもあり、その中へと飛び込むエックス達。

 しかし、白兎は館へ入らず、天空島から撤退。導かれる様に進む途中、三騎士のシナナメと遭遇し捕縛。

 館の主たるマキナと再会するも、爆発の時間は刻一刻と迫り、仲間達は既に館の地下へ集めていると言う。

 合流し、脱出するべく地下階段を降りて進む中、崩落によりエックスは分断され、爆発に飲まれてしまった。



 眩い光に無理矢理起こされ、開こうにも閉じてしまう。そんな重たい目蓋を開けた時……

 視界にぼんやりと映ったのは──ナイトメアゼノ・ホライズンだった。

 立ち上がろうとするも、脚が動かない。起き上がろうにも、お腹に力が入らず、動かない。


「リヒト……」


 呼ばれた様な気がして、左手を伸ばすも……炭の如く真っ黒焦げな腕は指先から崩れ落ち。

 右腕を動かしてみると、指が全部あらぬ方向を向いていて、掴む事すら出来ない。

 試しに腹部に右手を向けてみたら──無い。肋骨から下が失くなり、臓器が露出している。


「…………」


 次第に右腕も、溶ける様に付け根から落ちて、文字通り手も出せない状態。

 開いていた目蓋も徐々に重くなり、目を閉じた。それから、どれ程の時間が経っただろう?

 何やら狭い感覚を覚え……再び、重い目蓋を開くと、其処は──


「何処……此処?」


「じっとしていろ。回復が無駄に遅れる」


 ガラクタやジャンク品がうっすらと見え、自分を隠す様に積み上げられているんだと、何となく理解。

 その他、ベーゼレブルの声が聞こえた為、動こうとしたら此方が見えてるのか、釘を刺され。

 何がどうなっているのかすら聞けず、分からぬまま仕方なく黙りを決め込む。


「チッ!!こんな夢も祈りも少ない場所じゃ、回復量はこれっぽっちが限界か!」


「ツヴァ……イ?」


「いや。これこそが奴ら、レヴェリーの目的だとすれば、次に来るのは間違いなく……」


 そんな中。デカイ舌打ちが聞こえたと思いきや、苛立った様子で独り言を呟くベーゼレブル。

 少し気になり、話し掛けてみるも……出る声は弱々しく、ツヴァイには届いていない。

 今先程まで苛立っていたと思えば。今度は急に冷静になり、予想を立て始めた。


「彼を、迎えに来ました……ですのよ?」


「やはり来たか。疑問系で言うのなら、帰ってくれ。アイツは──俺の獲物だ」


 声から察するに、ナイトメアゼノ・アニマが傷付いた自分を連れて行く為に、来たらしい。

 これを予想していたツヴァイは、アニマの目的と欲求を拒否。

 その上で、自身の獲物に手を出すな!と言い放った。こう言うモテ方はちょっと……嫌だな。


「何故です……の?私達の王は、彼を求めている……筈、ではない、のですか?」


「求めているだろうな、間違いなく」


「なら──」


「だが!!お前達働き蜂程度が勝手に妄想する様な、幼稚な内容ではないと知れ!」


 これまた疑問系で聞き返す、アニマの言葉に肯定で返せば、それならば……と食い付くも。

 上の者と下の者、本人と他人が思い描く内容が、全く同じではないと知れ。

 そんな風に受け取れる言葉を叩き付け。何故かその言葉に安心感を覚えた自分は──

 再び重くなった目蓋を閉じ、眠りに着いた。同時に……夢を見た。


「白い……部屋?」


 そう、真っ白な大部屋。床には沢山の絵とクレヨン、色鉛筆にスケッチブックの紙と絵本。

 壁には色々な人物や、将来の夢を叶えたとも思える様な、心暖まる絵が所狭しと貼られている。

 絵本を拾い、中を見てみたら……絵の完成度や似顔絵の上手い下手は別として、これは!


「自分達が進んできた、旅の内容とそっくりだ……」


 全くの瓜二つ。絵本故に、グロテスクな描写は無いものの、内容は自分達の旅と同じ。

 但し、今現在から先の物語は欠片程も描かれていない。つまり、これは……


「そう。これは僕達が体験し、描いて行く──人生と言う名の物語。その絵本だよ」


「君は、誰なんだい?」


 絵本の内容から、それがどう言う事かを少し理解した時──木造扉を開け、彼が入って来た。

 黒いロングコートを着て、フードを深々と被る年若そうな少年に話し掛けられ。

 思わず聞き返した。君は誰なのか?と……今思い返すと、寧ろ何故、そう答えたのだろう?

 此処は何処なのか?壁や床にある絵は何か?そんな疑問より、その言葉がどうしてか出た。


「僕達は君さ。君が見る夢は、僕達の追憶。そして僕達は、夢を見続けている」


「えっ?ちょっと待ってくれ……頭が、理解が追い付かん」


「無理に理解しない方が良いよ。夢や現実、理想すらも、理解すればする程に苦しくなる」


 彼らは自分で、自分が見る夢は彼らの追憶。同時に、彼らは今も夢を見続けている……

 理解に苦しむ自分に向けて彼は、無理な理解は自分自身を苦しめ、夢や理想すらも失くすと言う。

 ……確かにそうだ。変に理解してしまうからこそ出来ない、無理だと、思い止めてしまう事も多い。


「それに──他人(ひと)は理解を求めるけど、理解すればする程、他人には嫌われるからね」


「矛盾、してないか?」


「してるね。けど、命とはそう言うモノさ。矛盾して、それを正す様に正論で人の心を無意識に抉る」


「…………」


 男性は合理性を求め、女性は共感性を求める脳の働きを持つとは聞く。

 仕事でアレやソレと言った曖昧な言葉や、他人の悪口を言い合い、話が弾むのも……

 理解を求める、命の欲求なのだろう。それは分かる。でも、矛盾と正論。間違いと指摘。

 それで起こる無意識な攻撃、言葉を使った殺人などには……何も言えなかった。


「いつの時代も、心による暴走は引き起こされる。矛盾に正論をぶつける様にね」


「そう……だな」


 言葉足らず、欲求不満、承認欲求。色々な感情が、不足しているものが、矛盾の立場とするならば。

 正論とは、それを正そうとする正義の立場なのだろう。他人の傷口に触れたり、傷を作る様な。

 あくまでも、これは自分の認識であり意見。言う立場の者は、これを否定し正論を言うかも知れない。

 それが、他人の心を傷付けるとは……一切考えもせず、自殺に追い込んでいるとも知らずに。


「故に、僕は君に、この言葉を投げ掛けるよ」


 少年はそう言い、自分に振り向いてとある言葉を投げ掛けた。その内容とは……

 「優しさって、どんな事をすれば……本当の優しさなんだろう?」その言葉に、何も言えなかった。

 理解する事が、本当の優しさなのだろうか?助ける事が、本当に……優しさに繋がるのか?


「一方的な理解は、心を無意識に殺してしまう。相手や、自分自身の心すらも……ね」


「そう考えると、確かに──理解とは辛く、苦しいモノだな」


「痛みを知り、共感出来る人程。より辛く、苦しくなるって言うのは……僕達としても、辛いよ」


 一方的は駄目。だからこそ、総合理解をする為にも対話が必要。

 けれど。その対話で傷付いてしまった人や、言葉足らずで互いに誤解してしまうなど。

 傷付け合い、理解を諦める可能性は高い。自分も……理解されるのを諦めた側だから、少し分かる。


「そろそろだね。外で行われている僕達の仕事は、終わったみたい」


「外?君達の仕事って?」


 相変わらず、少年の言う言葉が上手く理解出来ず、理解に苦しむ自分。

 意味と答えを知るべく聞き返すけれど、彼は何も答えない。


「はぁ……黙りかよ」


「無知は罪、知り過ぎれば死刑。何事も、程々が良い。今の君に、真実を受け入れる余裕は無いから」


「自分の心に余裕があったら、答えてくれるのか?」


「勿論。でも、君が僕達から答えを聞く事はないよ。真実はいつでも、君の隣にあるから」


 思わず溜め息を吐き愚痴ると、少年は口を開き、意味深な事を言い始めた。

 確かに無知だと、他人からいい様に扱われる可能性も高く。

 逆に知り過ぎれば、真実を闇に隠す様殺される。心に余裕があれば、彼は答えてくれるらしい。

 言われた通り、自分の心身は疲弊しており。彼は自身が答えずとも、真実は直ぐ傍にあると言う。


「どんな優しさや親切も、時と場合による。確かにその通りだけど、それが一番、難しいよね」


 少年は話ながらその場で屈み、一枚の絵を拾って自分に手渡して来た。

 その絵には、クレヨンで描かれた七色の虹が円形を描いており、その中央には沢山の人物が居て。

 外部から虹に迫る人物もある。これは……この虹が内側の人物達を守ろうとしているのか?


「言葉とは、本人の意思・思惑に反して他者を傷付け、追い詰める諸刃の剣」


「…………」


「人間は、獣の頃が一番良かったのかな?余計な知恵を持たず、日々を生き抜くあの頃の方が」


 何となくだけど、言いたい事は伝わってきた……気がする。言葉には、見えない力がある。

 救い、傷付け、導き、破滅させる力が。それは表現の仕方一つで、顔を変える程。

 獣の頃──即ち、原始時代。確かにあの頃なら、その日を生きるだけで精一杯かも知れない。


「ごめん……少なくとも、自分はそうは思えない」


 それでも、食料の横取りなどと言った、直接的な嫌がらせはあっただろう。

 そんな訳がない!と言う、強い言葉を言えぬまま。彼の考え方と幾らかズレた答えを導き出す。


「構わないよ。僕達からの問い掛けに、明確な答えはないんだ。ただ、自分の頭や心で、物事を考えて欲しいだけだから」


 けど、彼は何も責めはしなかった。首を横に振り、胸の内を明かしてくれた。

 他人や新聞などから情報を得たとしても、それが正確かつ、事実とは限らない。

 曰く、鵜呑みにせず、自分の頭と心で考える力を養って欲しいそうだ。

 何故、頭と心で考えるのか?それは、頭で理解していても、心が体を動かさない時もあるから。


「君の為……と言う言葉を鵜呑みにしないで。例え、その言葉が本心だとしても」


「分かった。気を付けるよ」


「うん。僕達はそろそろ、また深い眠りにつくよ。もっと沢山、色々な夢を見たいから」


 最後に注意喚起を受け取ると、少年はロングコートの袖で顔を擦り始めた途端。

 自分の姿を含め、部屋そのものが酷く歪み、徐々に薄く消え始めて行く。


「ちょっとだけ待ってくれ!君の名前は?」


「僕の名前は、君達の言葉を借りるなら──まお……」


 完全に消える直前、何故か、彼とはまた会う気がして名前を聞こうとするも。

 最後の言葉まで聞き取れぬまま、お互いに消えてしまったが……

 自分達の言葉を借りるなら、真央(まお)?それが彼の苗字なのか、名前なのかは……判断出来ない。




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[良い点] 「優しさって、どんな事をすれば……本当の優しさなんだろう?」その言葉に、何も言えなかった。  理解する事が、本当の優しさなのだろうか?助ける事が、本当に……優しさに繋がるのか? この部…
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