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ワールドロード  作者: オメガ
四章・just believe in your eyes
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それぞれの思い

 『前回のあらすじ』

 トリック改め、無垢なる道化師と持てる手札を使い、激しい攻防を繰り広げる一行。

 サクヤとエックスの連携に押され、合体攻撃のクロス・ノヴァ・ストライクにて終止符を打つ。

 終わり時を狙い、ハイエナに現れる融合系統の核となるノイエ・ヘアッツに、トリックの死体を奪われる。

 手を出さず、決着を見届けてくれた勇者候補生の一人、フェイク達に感謝を述べるも……彼らは去ってしまった。



 トリックを倒し、元の場所──もとい、天空島に在る洋風の庭園に戻ったが……心の中を雲が覆う。

 本当に倒して良かったのか?こうしたら、あぁすれば……そんな結果論の後悔が、心の中で渦巻く中。

 心中を察してか。それとも主を失った天空島の悲しみか。唐突に、大雨が降り始めた。

 胸の奥が締め付けられる感覚。頬を伝う涙を洗い流す様に、第三装甲やパワードスーツも崩れ落ちる。


「やっぱり──ワールドロードとの戦いは、精神的に堪えるみたいね」


「あぁ……欠片とは言え数百、数千万の世界と対峙する訳だからな。今まで通りの痩せ我慢は出来んよ」


 傘も差さず……いや、傘は持って無い。そのまま横に並び、話し掛けてくるサクヤ。

 融合獣やナイトメアゼノシリーズも……最低で二個から数十個の世界を持つ。

 が──融合神や闇の欠片はその比じゃない。最低でも都市一個分から、大陸数個レベル。

 一方的かつ物理的に倒すだけなら、復活されるが人類の総力を注ぎ込めば融合獣までは倒せるだろう。


「本当。ワールドロードとは、よく言ったものね」


「あぁ。心にある世界の王、そして──その世界に道を指し示すモノ。と言う意味も含んでるからな」


 ワールドロード……世界の王。即ち、それは惑星や宇宙規模であり、心と言う世界の王の意味も含む。

 早い話。オメガゼロとなった者の主人格がそう呼ばれ、同族同士の戦いはある意味、戦争も同じ。

 想いをぶつけ合い、勝利すれば敗者を取り込み強くなる。現代風に言えば──蠱毒(こどく)や戦争も同然。

 同族同士で殺り合って吸収し、最後には終焉の闇と同じ存在へ成り、戦う権利を得るゲーム。


「でも……ある意味、助かったな」


「そうね。助かった反面、危険が増したとも言えるわ」


 体から剥がれ落ちたスーツなどは放置し、トリックが居た場所へ歩き──残された円形の鏡を拾う。

 これが無限鏡(むげんきょう)。終焉の闇が世界や時間軸を飛び越え、姿形を変える為に生成した秘宝。

 もっと簡単に言えば、可能性世界・パラレルワールドを映し、出入りの門となる万華鏡。


「これで漸く一つ……か。私達の因縁や、三つのムゲンから生成された秘宝集めも……」


「静久……あぁ、そうだな。残る秘宝は願いを叶える赤い勾玉の夢幻と、境界を取り除く剣・夢現の二つ」


「三つの秘宝を集めなきゃ、終焉の闇は倒せない。面倒な話ね」


「全くだ──っ?!」


 サポートユニットから分離し、隣で無限鏡を覗き込みながら話す静久。

 終焉の闇を倒す為に必要な秘宝は後二つ。記憶が欠如している自分に、確認の意味も含め。

 二人が話してくれるのは助かる。そんな時、回収した無限鏡から、力と記憶が託す様に逆流して来た。


「なんて事をしてくれたんだ、お前達は!!」


 感傷に浸る時間は……そんなに与えてはくれない。雨音が鳴る中、腹から力を込めた男の怒号が響く。

 声の方向へ視線を向ければ、龍神族と人間の他──人魚や魚人、羽翼人(ハーピィ)等々が居た。

 その連中達全員が自分達を鋭く睨み付け、今にも大勢で喰らい付いて来そうな雰囲気。


「此処を良しとしていた連中か……面倒になる前に、さっさと離れるぞ……」


「そうね。まだ仲間達とも合流出来てないし」


 連中に背を向け走り出す二人。俺は──連中と向き合ったまま、離れなかった。

 俺の眼に映る三人の少女。ノエルとデルタが左右から笑顔で、民衆の前へと俺の手を引っ張る先には。

 怒鳴り散らす民衆の前で。声は聞こえないけど、涙を流しながらカーリは満面の笑みで……

 何かを伝えようと口を動かす。その言葉は──「ありがとう。僕達、私達の大切な友達」だった。


「悪魔め!俺達の楽園から出て行け!!」


「貴方達に何の権利があって、私達の夢を奪うのよ!」


「何をしている……!?」


「っ!!」


 民衆の口から吐き出されるのは……どれも心ない言葉や、怒りと憎しみを込めた罵詈雑言。

 拾い、投げ付けられるのは……石やガラクタ、缶や瓶と言った様々なゴミの山。

 体は琴音とシオリに強化されたコートがある為、痛くはない。が──顔に当たるのは別。

 静久からの問い掛けに答える直前。額に握り拳位の石が当たり、思わず顔を背けたら……


「あなた達──ッ!?」


 民衆に向けサクヤが声をあらげた時。激しく打ち付ける雨音よりも力強く。

 大地を踏みしめる音が鼓膜と全身に響き、思わず音がした方向を見てみれば……

 其処には──大斧を持ったジャッジと、世にも珍しい武装・ハンドチェーンソーを装置した白兎が。


「このっ……大たわけ者共めがぁぁ!!」


「同感。あなた達がやってる事は、感情に身を任せて批判や罵倒を吐いている事に過ぎない」


 追い打ちの連続戦になるかと思いきや、民衆達を大声で怒鳴り始めれば、物を投げる手は止まり。

 横に並び立つ白兎からは、自身とジャッジが何に対して怒っているのかを言っていた。


「確かに、息抜きは必要不可欠よ。でも、現在(いま)から目を背け、過去に逃げ続けるのは違う!」


「イヴの言う通り。逃げを情けないとは言わない。苦楽の差や堪えられる程度にも、個人差はあるから」


「だが……お前達の行動はいずれも永続的な、明日の無い逃亡……」


 俺──いや、自分の前に出て、民衆に向けて発言を行うサクヤ・白兎・静久の三人。

 息抜きや逃げるのも、生きていく上では必要な事。また前を向き、歩き出すなら一時の恥で済む。

 苦楽や幸不幸もまた、受け止められる限界を含め絶対的な個人差がある……確実に。

 故に自殺や殺害などに繋がる時もある。だけど!!逃げ続けてちゃ……求める未来には辿り着かない。


「ジャッジ……」


「デドラァ……ッ!!勘違いするな。これは終焉様よりの(めい)、暴走したトリックの件で来たに過ぎぬ」


 民衆から向けられる視線や敵意の盾となる様に、胸元で腕を組む仁王立ちするジャッジを呼ぶと。

 憤怒・憎悪を含ませた声で呼び返され、条件反射で一歩下がった直後──奴は振り向かぬまま。

 漫画とかである、ライバルキャラが見せるツンデレ……を思わせる発言を繰り出した。


「……すまぬ。同胞の暴走を止め、裁くのは我等の役割なのに」


「ジャッジ……お前」


「愚民共に告げる。汝らに死罪を言い渡すと同時に、処刑を行う!」


 ポツリと呟いた言葉の後、民衆に刑罰を言い渡すと……雨にも関わらず、皮膚が痛い程の熱風が吹き。

 何事かと思い、急いで正面を向けば……民衆達は黒紫色の炎で瞬く間に焼き尽くされ。

 炎を吐いた本人──無月終焉に付き従う黒龍と、その黒龍から飛び降り目の前に降り立つ終焉。


「黒龍・月影、並びにジャッジよ。任務、ご苦労。にしても……」


 乗って来た黒龍・月影は頭を撫でられ、ご満悦な様子。ジャッジは少し横にずれて跪く。

 労いの言葉を言った後、此方に視線を向けて予想外だ。と言いたげな顔とその一言で大体は察した。

 何故此処に居るのか?もしくは、トリックを倒されるとは思っていなかったか?と思った矢先──


「よくやった」


「終焉……貴方って人は!」


 よくやった。その言葉は……余りにも意外過ぎて意味は分かるも、理解までは出来なかった。

 その言葉に込めた意味をも理解したと思われるサクヤは、何故か鋭く目を細め終焉を睨む。


「だが──全てが計画通り。と、言う訳ではなさそうだな」


「申し訳ありませぬ。我等では……奴らに太刀打ち出来ぬどころか、取り込まれますが故に」


「構わん。幾らかのイレギュラーは予想の上。寧ろ、予想以上の収穫でお釣りがあった位だ」


 終焉が後ろに倒れる素振りを見せた時。黒龍・月影が背後に回り込み、自らを椅子として支え。

 それに対して何も突っ込まず、さもそれが当たり前の如く話している光景を見るに……

 終焉と月影は、互いに信頼し合い。そしてイレギュラーと呼ぶ存在は、ノイエ・ヘアッツ。

 サクヤ達を見回しながら話した後、再度此方に視線を向け、収穫云々と言う辺り……自分に対してか。


「やはり──計画達成の為には、調律者や異形の悪夢、邪魔者たるお前達も叩き潰さねばならんか」


「終焉様。何卒、我等にジューダス(裏切り者)を裁く許可を」


 腕を組み、計画達成に邪魔な他の勢力や自分達を倒す必要がある。と、再認識した時。

 跪いたまま頭を下げ、自分を裁く許可を終焉に求めるジャッジ。何か、考えがありそうだ……


「……いいだろう。但し、俺が与えたロードの名に懸けて敗走は許さん。それが最低条件だ」


「承知しております。王のご期待に応える為、元々我らに敗走の二文字はありませぬ!」


 終焉は少し何かを考え、条件付きで許可を与え。ジャッジもまた、その条件を承諾。

 ゆっくりと立ち上がれば此方に向き直り……大斧の柄を地面に当て、何やらじぃ~っと見た後。

 何故か自分達に背を向け、戦う様子を見せない。もしや……油断したところに奇襲を掛ける気か?!


「いいのか?アイツを倒す絶好のチャンスだぞ?」


「終焉様……我らは執行人の前に、誇り高き騎士。決闘とは常に両者万全、正々堂々であるべきなのです」


狂戦士(バーサーカー)の癖に……変なところで律儀な奴……」


 疑問に思っていた事を終焉が訊ねると、騎士としてお互いに万全の状態で正々堂々戦いたいと言う。

 確かに律儀と言えばそうだが……逆を言えば、敗けた言い訳も出来ない真剣勝負。

 此方としても、願ったり叶ったりな話だ。奴らと決着をつけるなら正々堂々、真っ向から戦いたい。


「次のステージにてデトラを──貴様ら全員を裁く。賢狼と共に、首を洗って待っていろ」


「分かった。その時は此方も全身全霊、正々堂々と挑ませて貰う」


 首を洗って待っていろ。そう言いながら右手を差し出し、握手を求めて来たので……

 此方も握手を返し、全力全開で挑むと伝えたら、深く頷き離れて行った。


「それでは、終焉様。欠片の力を回収出来なかったのは残念ですが、帰還致しましょう」


「あぁ。戻るぞ、お前達」


 発言から察するにやはり、終焉の闇の欠片たるトリックの力は、ノイエ・ヘアッツに……

 終焉達が瞬間移動か、転移の符かは分からないが……消える様に立ち去った。

 それを見計らってか。龍神形態の絆と遥が傷付いたまま雨雲を吹き飛ばし、自分達の前に降り立つ。


「ご苦労様……ありがとう」


 二人に労いの言葉を掛け──勝てるかどうかも分からないジャッジとの決闘や。

 目の前で燃やし尽くされた民衆の事を思い出す。何も……命まで奪う必要はないのでは?

 と思ったが。言葉の通じない猛獣に何を訴えても、意味はない。だから殺った。

 そう理解したら、不思議な事に……すんなりと納得してしまう自分に嫌気を覚える。




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