カーリタース
『前回のあらすじ』
捕らわれた巴達を救おうとした途端、突如現れた黒く細い手の群れに終焉の地へと、引きずり込まれた。
其処に現れたトリックと話すも、方言や言語が滅茶苦茶。戦いに持ち込むも、解離性同一性障害……
即ち多重人格やウェンディゴ症候群と言った病を上手く利用した戦法に、次第に押されて行く。
再生させた左眼で見たトリックの過去。人面瘡を利用した分裂・分身。更には歪める能力の前に、ピンチを迎える。
連続爆発に飲み込まれる。そう確信すると条件反射的に目を閉じ、両腕で身を守ろうとすれば。
轟く爆発音が何度か聞こえた後。押し飛ばそうとする衝撃に続き、爆炎に飲まれ吹っ飛び。
バウンドも交え転げ落ちた先は──陸地の端っこ。もう少しで黒い液体の海へ落ちるところだった。
「チッ……不必要な命共が、俺様達の邪魔をしやがって」
舌打ちと苛立ちを含む言葉を耳にして、ゼロ達が助けてくれたんだ……
と自己解釈しながら起き上がると、其処で倒れていたのはゼロ達──ではない。
「クッ、ソぉぉ……対魔力の盾でっ、防ぎきれねぇのかよ……」
「魔力に……関しては、防げた様ですがっ。問題は、爆発の方──ッ!!」
視界はまだ歪んでいる為、声から察するに元勇者候補生のフェイク一行だと理解。
……それはそうと、何故此処にアイツらが?しかも俺を守ってくれた様な言葉もチラホラ。
そんな酷く歪んだ視界に、歪んでいない人物が一人。その子は此方に近付き……
「泣かないで……」
小さなその手で俺の右頬に優しく触れ、そう言った。正直、分からない事だらけ。
言葉の意味や、青龍のお面を被ったこの子の存在も。呆気に取られていると、ゆっくりと離れ……
「必要以上に、自分自身を責めないで……失敗を、恐れないで」
「待ってくれ!君達は一体──何者なんだ?」
必要以上に自身を責めず、失敗を恐れるな。それだけを言い残し、立ち去る子供に問い掛ける。
すると──いつの間にか停止した時間の中で足を止め、此方に振り返ってお面を取り外す。
けれどその顔は逆に、俺に何故?と言う疑問やどうして?!と言った衝撃を与えた。
「私達は……あなた達を待っていた。ワイルドカード、ジョーカー・エックス」
トリックが使う女性の姿、カーリと瓜二つ。違いは身長が低い事と、ロングだけど黒髪な点。
更には誰にも教えていない、俺達の役職と真名すら言い当てた。流石に警戒心を覚え、身構える。
「何故、それが俺の名前だと?」
「当然──知ってる。私達は、同族。それはトリックやイブリース達も、同じ」
「……成る程。で、アンタはどちらの味方なんだ?」
此方の問い掛けに対し、彼女は『同族』と答えた。同族……即ち、彼女達やトリック達も。
俺達と同じ『オメガゼロ』と言う事。つまり──終焉を迎え、新たに生誕した存在。
そうか……それなら過去に倒した筈の四天王が復活したのも、納得出来る。
それはさておき。カーリに酷似する君は敵か味方か?その答えを訊ねれば──
「止めたい。魔神王と呼ばれてしまった、ワールドロードを。だから……」
返答を聞いた直後。彼女の足下から青い粒子に変換されながら、俺に入り込む形で吸収された。
成る程。俺達に取っても、帰る前に回収すべき迷い子達って訳か。
時間停止もそろそろ終わりそうだな。此方としても、調整する時間は稼げたし万々歳だ。
「Ready」
「痛っ!!」
「いぃっ!?」
距離的に一番近いのは……フェイクの頭を潰そうと踏みつける、成人女のスノードロップ。
続いて女僧侶の首を掴み、締め上げるサイコパス男のロベリア。最後に女戦士を地面に組伏せ……
両手に持ったダガーで突き刺そうと振り上げてる少年のセキチク。それらを近い順から──
顔面に右回し蹴りで始まり、左足後ろ蹴りで腹に、飛び膝蹴りで背中を蹴飛ばし。
終わりに地面を強く踏み締めると、ブーツから地面に緋色と黒の稲妻が走る。
「き、貴様……女の命とも呼べる顔に、ほっ──本気で蹴りを入れたな!?」
「成る程な。お前達は常に『狩る側』の腐れ外道、その集まりって訳──か。なら、尚更だ」
受けた箇所を手で押さえながら起き上がるトリック達。
文句もそこそこに、再度襲い掛かろうとしたんだろう。だが……体が上手く動かない。
そして口を開いた瞬間──奴らの頭は水風船が破裂したかの様に弾け、赤い液体を周囲にばら蒔いた。
常に優位な武装・距離・装備で獲物を執拗に狙う一方的なハンター。そんな奴らに、情けは無用。
「さて……と。同族相手に手加減も容赦もねぇ。完全に破壊してやるから、さっさと起きろ!」
「お、おい。頭を殺られたら、もう終わりだろ?!」
「終わりって言うのは……跡形も無く消し飛ばすか、破壊した時だけだ。コイツらはまだ生きてる」
頭部や上半身を失い、倒れ伏した三体のトリック達に向けて良い放つ。
するとフェイクが横から話し掛けて来て、もう終わりだろ?と訊いてきた。が……
コイツらを完全に倒す為には、頭だけじゃ足りない。文字通り跡形も無くするしか無い。
「流石だね。でも、ボク達を一撃で倒せなかったのは、致命的なミスだよ?」
「自ら一部を破裂させ、体への被害を防ぐか。相変わらず、人を騙すのが得意な奴だ」
頭の無い体が動き出し、念話と言う人類が何百、何千年の時を迎えて会得する術で話し掛けて来る。
しかし、言われた事は正しい。それを証明する様にロベリアの肉体に集合。
激しくミミズっぽい動きでうねりながら、一人のトリックへ戻って起き上がった。
「こ、コイツ……普通じゃないよ」
「普通じゃ……ない?それは貴様らの物差しで測っているからだろうが!!」
「ふぅ──来いよ、トリック。お前の全てを、俺達にぶつけて来い!」
そんな常識外れの現象を目の当たりにした女戦士が、ポツリと呟いた言葉を耳にした途端。
トリックが小さく呟けば、次の瞬間には憤怒の勢いで叫び始めた。
気持ちが分かる故に、深呼吸を一つ。気合いを入れ直し、俺達にヘイトが来る様に挑発。
「助太刀は感謝する。だが今はただ、俺達の決着を見届けてくれ。フェイク」
コイツらだけは、俺達が倒さなくてはいけない。倒さなきゃ、コイツらは報われない。
だからこそ、フェイク一行には見届け人を頼んだ。すると少し思い悩み、仲間内で相談した後……
「分かった。お前が完全に敗けるまで、俺達は手を出さない」
「何か、深い事情があるのですね。私達で良ければ、見届けさせて頂きます」
「伝説に聞くオメガゼロの戦い。今後の参考にさせて貰うからね!」
全てを話さずとも察し、俺達から大きく離れてくれた。
右ズボンのポケットからフュージョン・フォンを取り出し、専用バックルへ装着。
左手で右腰へと移動させ、今度は右手で太股に向けて押し込めばスイッチが入り。
転送されて来たパワードスーツが、自動的に体に装着される。後は全力でぶつかるのみ!
「一人の人間として──トリック。いや、カーリタース、お前の暴走を止める!」
「俺様達を……止める?止める必要が何処にある?!子供を愛し守るは親の務めだろ!」
互いに走り出し、両手を掴み合い力比べに移行。全力で押し込むも、拮抗状態で動けない。
一分、または十分?体感的にそう感じ、苛立ちを覚え頭突きを繰り出す──
が……それはトリックも同じらしく、俺達は頭突きを繰り出し合う。
「テメェが親だとでも言う気か!」
「そうだ!!子供を殺す親、親を殺す子供、子供を殺す子供が世の中には居る!ならば……」
「おいおいおい。コイツ、マジか!」
互いに額をぶつけ合ったまま、互いの意見・主張を言い合う中……トリックは叫ぶ。
愛情の有無で起きる、子供と親同士による殺し合いが世の中には存在する事を。
そんな出来事に対する怒りがトリックに力を与え、手を掴み合ったまま頭上に持ち上げられた。
「答えろ、デトラ!!何故人間は、命は!己の子すら平気で死なせてしまう!!」
そのまま地面に振り子の様に、擦りつける形で俺を何度も叩き付けつつ。
抱えているであろう疑問、何故!?と思う憤りと苛立ちを吐き出してくる。
垂直に叩き付けられる瞬間、先に地面へ足を着けて衝撃に耐え抜く。
「欲望だよ……他人であろうと、家族であろうと。欲望が勝れば他を蹴落とす事など、容易な話だ」
「欲望……だと?私達が子供を愛する気持ちも、欲望だと言うのか!」
俯きながら、問い掛けに対して答えた。欲望──それは心身を動かす原動力。
人を助けたい、怒りをぶつけたい。それも欲望が引き起こす現象の一つ。
生も死も、欲望が引き起こす。それを否定しようと再度頭突きを繰り出すトリックに対し。
「その通りだ!!でなきゃ、命は進化しなかった。求める限り、欲望が尽きる事はない」
「ならば、子が子を殺す理由とはなんだ!!何故その様な、残酷な行動を行える!」
現実を突き付けると同時に、カウンターで顎に右膝蹴りを叩き込んでやった。
仰け反りはしたが……掴み合った手を離す気配が一向にない。そして気が付けば──
視界は暗雲を映し、直ぐ様背面への痛みで何をされたか理解した。
「っ……!!人間の子供は……愛情を受けなきゃ死んでしまう。だから、一人っ子に妹や弟が産まれた時!」
「き、貴様!このパワーはいった……いぃ!?」
「親を奪われない為には、下の子が居なくなれば愛を一身に受けられると考え、実行に移すんだろうが!!」
手を掴み合ったままブレーンバスターとか、どんな腕力だよ……それは兎も角!
此方も魔力で全身を強化。腹筋の要領で上半身を起こすと同時に。
向かい側に在る黒い海面に、トリックを叩き付けた。子供とは良くも悪くも、我が儘なんだよ。
「それは……親がキチンと面倒を見ないからではないのか?!」
「しまっ──」
暫く黙りを決め、気泡も止まり終わった……と思わせたつもりだろうが。
スレイヤーのスキルに死んだふりは通じない。攻撃を警戒した矢先、海中へと引きずり込まれた。
真っ黒な海中は暗視効果も通用せず、ただただ痛い。だがそれは至極当然。この黒海は酸だからな。
何はともあれ。フュージョン・フォンにある緑色のボタンを押し、静久と第三装甲を呼び込む。
「トリックとの決着か……良いタイミングで呼んだ。私も力を貸そう」
「よし。三位一体身魂融合、トリニティ・フュージョン!」
第三装甲や静久と沈みながら融合──グラビトン・アーマーを纏い、海底へと一気に落下。
まだ、トリックは海底に降りて来ない。だが、此方からは奴の魔力を感じられる。
先手必勝。先に砲撃を撃ち込んでやろうとしたら、そんなの分かってると言わんばかりに。
上から魔力の砲撃が降り注いでくる。お見通し……いや、同じ考えだった訳か!




