ハウリング・ペイン
『前回のあらすじ』
不思議な夢を夢を見た後、目を覚ませば桔梗が傍に付き添っており、まだ眠っている様に言われて眠る。
桔梗との出会いを夢に見て思い出す中。本来は無い言葉を言われ、それが複製を作る行程だと理解。
改竄しようとする匂いを破壊し、目を覚ますと今度は大将こと小山太郎に担がれており。
巴を救って欲しいと頼まれ、原因の下へ向かう一行の前に、三騎士と複製達が立ち塞がった。
「此方ですわ!」
「くひひひっ!」
「邪魔……纏めて、斬る」
三角形の陣を描き、連携のれの字すら見せない攻め方に予想は六割外れ、不意も突かれ。
顔や体にはミミツから受けた小さい掠り傷。コトハやシナナメの攻撃は全て避けても。
精神的な疲労を幾重にも積み重ねられ、体力を奪われる始末。
「マズイな……三騎士相手に武術が悪手とは」
(そもそも、端から連携する気が無い分、余計に行動が読み難いのよね)
武器持ちとは理解しているが──文字を書かれたらアウトのコトハはまだギリセーフでも。
斬られたらアウトのシナナメは、刀のリーチも当人の身長位長くて、迂闊に近寄れん!!
その上味方を巻き込む攻撃も多く、互いに邪魔をし合ったり、連携に繋がったりで判断がムズい!
「此処で無駄な足掻きをする必要が、何処にあるんですの?」
「くひひひひっ!そうそう。所詮、百年ちょっとで死んじゃうんだから!」
「早いか遅いか……違いはその程度」
次々と入れ替わる様に、時には邪魔のし合いを行いながら三方向から攻めてくる三騎士。
そんな中、ミミツの──人外故の認識違いから来る発言や。それに続くコトハとシナナメ。
二人の発言を聞いた途端……様々な年代の人々が、家族や友人との死別に泣く姿が脳裏に浮かぶ。
「ふざ……けんなっ!!」
(ふざけるんじゃ……ないわよ!!)
心が……胸の奥が深い悲しみに締め付けられ、侮辱し嘲笑う言葉に怒り、声高に叫ぶ。
その感情に呼応する様に、腹の底から吐き出した言葉が……ソレであり。
悲しみと怒り。二つの感情が心の奥底にある何かに触れ、覚えた技を呼び覚ます。
「いつか訪れる結末を……心に響く痛みと怒りを思い知れ!ハウリング・ペイン!!」
息を大きく吸い込み、足下へと向けて放つ叫び。地面を反射し、周囲全体に影響を与える。
近くに居た三騎士は咆哮に吹っ飛ばされ、複製達も耳を塞ぎ、足を止めて踏ん張る程。
同時に──周囲と標的の位置を把握したが……成る程な。これは思わぬ収穫だ。
「ッ……だから、どうし、た」
「影が掻き消されましたが──この程度、問題ありませんわ!」
「クッソ……三騎士相手にぁ、この技は力不足か」
しかし、期待していた程の効果は見受けられず、少しの足止めが精一杯。
だが……動きが若干遅くなっている。思い切りが無くなった。とでも言うべき感じだ。
二人の猛攻を避け切った時。コトハが攻撃して来ていない事に気付き、視線を向けると……
「……ッ!!」
(あの子。震えてるっぽいわね)
足を止めて、自身の体を抱き締めながら恐れる様に顔を歪め、震えるコトハ。
もしやこの技は……そう言う効果か。使い方と相手を上手く選べば、予想以上の効果にもなる!
「見付けたぞぉぉおお!!侵入者めぇぇ!」
「この声は──ッ!?」
怒号を孕んだ野太い叫び声が耳に届き、声がする偽の茜空を見上げれば。
赤黒い龍神……突入時に倒した混血仇が此方に飛び掛かってくる。んだが……
少し──老けたか?三、四十代位に見えるんだが。されどそんな考えを遮る様に肩を捕まれ。
飛び掛かる勢いもそのままに押され続け、チラッと見えたモノの側で姿勢を整え巴投げ。
「運良く三騎士の陣形から抜け出した上、コイツを取り戻せるとはな」
オトギリソウが咲き誇るエリアに投げ込んだ後。ウォッチとパーツを拾い、左手首に装着。
ルーレット……まあ、ダイヤルか。ソレも拾うと裏面にも色があるのに気付き、見てみると。
表面と同じ配色に加え──緋に頭部と胸、黄が右半身。青は左半身で紫に下半身が描かれている。
試しに裏面で嵌めるも、問題なく入る。操作をし黄に設定するが、何も反応がない……どう言う事だ?
「下等な侵入者風情が!!この楽園を穢しに現れおっ──な、何故……だ?!」
「我らの任務……その邪魔をした」
「ふひひひっ。アンタ──うざい」
「それでは、仕上げは私が」
花達を踏み付けて意気揚々と出て来るも、味方と思っていただろうシナナメに刀で斬られ。
続け様にコトハに大筆で何か文字を書かれ、トドメにミミツの影に取り込また……
何度か三騎士とは戦っているが、こうして間近で能力を見るのは初めてだな。
「貴様の概念。私が斬った」
「ンははははは!!アタシ特製、精神と心を蝕む呪術をタァ~ンと味わいなぁ!」
「その醜いお姿、私が作り替えて差し上げますわ。誰にも思い出される事の無い恐怖を添えて」
三騎士全員の能力を受け、呑まれた影から吐き出されて来たのは──幼い少女と言うべき存在。
……あれ?この子は何故、ミミツの影から吐き出されて来たんだ?取り込まれたのは確か……
誰だっけ?記憶にモヤと言うか、濃霧でも発生したような感覚だ。思い出せない。
「な、何ですの?!この、か弱い姿は!」
「adieu。貴女には、オニユリとキンセンカの花束を送り付けて差し上げますわ」
何故か自身の姿に驚き戸惑う龍神の少女に、ミミツは二種類の花を包んだ花束を投げ渡す。
意味は確か……前者が嫌悪、後者は失望と悲観。永遠の別れを意味するadieuと何故言ったんだ?
「次は──貴方の番ですわ」
「悪いな。キャラメイクは間に合ってるし、もう変える気は無いんだよ!!変──身!」
影の魔女に指を指され、宣言されるが……それを真っ向から否定し、理由を言い拒む。
フュージョン・フォンを右腰に差し込み、両手でバックルを左右に押し広げ、展開。
バックル・ウォッチ・フォンが一斉に起動。パワードスーツと第三装甲が自動的に装着される。
のだけど……第三装甲は右半身にのみ装着され、三位一体融合まで済んでいるのか。
「何なんだ?この、限定的な装着は」
「はっ、半端な装備でやんの!!ふっ、ふひひひひひっ!」
「例えどの様な姿でも。私達が手を抜く事はない」
通常とは違い、最近の限定融合腕を連想させる右腕だね。
狐の頭部を真似たコレは、どう言った力を発揮するのか。それすら未知数……不安はある。
けど、不安や周囲の声に呑まれてたら、ただ良いように利用されたり、巻き込まれて死ぬだけ。
「死ぬのは──嫌だなぁ。リトルボーイに焼かれたり、戦争に巻き込まれて殺されるのも」
「くひひっ!遂に頭がイカれたっぽい?」
「その発言は理解に苦しみますわ。戦意を失ったのであれば──えっ!?」
死ぬのは……誰だって嫌な筈だ。それでも死にたい奴は、何かしらの理由があるんだろう。
僕は……僕達は、生きたい。魔神王に会う理由があり、泥を浴びても成すべき事がある。
さて──と。言葉による足止めも済んだ事だし、仕上げと行こうか。
「さあさあ、お手を拝借。狐による狐釣りは、一本締めで幕引きと行こう。いよぉ~……ポン!」
「──ッ!!」
三騎士に向けて両手を広げ、頭の上でケモ耳が動く仕草を見せてわざと気付かせる。
三人が頭を触れば狐耳が、腰からは尻尾が生えれば仕込みは完了。
一本締めで両手を叩けば、狐に化かされた三騎士は即縄に縛られ、身動きが取れずダウン。
「狐は狐媚や狐狸が得意でね。狐と悪夢の化っかし合い」
戯けた言動で三人組の周りを飛び跳ね、右腕の狐頭──その口から出た大きな筆。
跳ねる内に筆先から墨の代わりに狐火が零れ落ち、円形に並んで行く。
狐火で作った円の真上に、狐尾筆で特定の陣を描けば……はい。狐と巫女の合同転移陣の出来上がりっ!
「こ、こんな……戯けた輩に、影の魔女たる私が負けるだなんて!!」
「狐につままれた。と思って諦めるんだね」
「……次はあの悪魔、ルシファーとの戦いを望む」
「そうだねぇ~。それなら今度は一人で来るといいよ。お互いに邪魔されるのは嫌だし」
余程悔しかったか、屈辱だったんだろうね。泣き喚きながら転移されて行ったよ。
シナナメはルシファーと戦いたいっぽい。初めて戦った時の決着をつけたい……のかな?
「この術ッ──くひひっ、決ぃ~めた。巫女と狐のアンタ達は……絶対、アタシが呪い殺してやる!!」
強制転移に抗い、僕と霊華に向けて呪殺すると宣言をした後──
巫女堕ちコトハは僕達の前から姿を消した。……救うにしろ倒すにしろ、僕達がやるしかないね。
バックルを閉じてフォンも取り外せば──よし。大将を助けないと……えぇ~?
「おう。そっちも終わったか!」
「たいっ、大将ぉ~……マジかぁ……」
不確定要素と不利を乗り越え、やっとの思いで三騎士を退けたのに対し。
大将は桔梗やシオリの複製達を無傷で捩じ伏せ、此方を観戦していたらしい。
思わず落ち込んでしまったが……そんな事をしてる場合じゃない。立ち上がり、目標の所へ向かう。
「コレか?」
「あぁ。パッと見は他と変わらんが──魔力を感知すると分かる。根が他に比べて太い」
無数の欲望の花が咲き誇る中。目立たない様に一つだけ小さく、弱々しい花がある。
魔力を探知すると……かなり深い位置に株があるっぽいな。乱暴に茎を握る様に掴み──
破壊のエネルギーを流し込む。根を辿り株へ届いた瞬間、大きな揺れに襲われた。
「ヤったのか?」
「一応な。後は大株から他の小株にエネルギーが行き渡れば、この楽園諸共崩れ去るだろうよ」
「なら、崩壊するまでの間に決着と救助をするだけだな!」
これは感覚的なモノだが……欲望の大株。コイツ、この天空島を支える役割もあるっぽい。
小株は大株からエネルギーを分け与えて貰ってるから、仮に根を切り離しても衰弱死は確定。
後は大将が言う通り──桔梗達を救い、トリックをしばき倒し。マキともう一度、会うだけ。
タイムリミットは恐らく……一時間が限度。それ以上は脱出に支障が出る。
「恋、大将!仕込みをするから、手伝ってくれ!」
次は必ずトリックに勝つべく。コートを脱いで小道具をぶちまけ、恋も呼び出し。
小道具全てに手分けして仕込みを行う。今回持って来た小道具は──匕首が十本。
護符が二十枚、そこら辺で拾った小石が少々と、今しがた小さなゴミ袋へ詰めた砂が五袋。
これに所持金と装備品で奴を攻略するしかない。……金貨は勿体無いから銅貨だけ使お。




