正反対
『前回のあらすじ』
融合四天王・トリックが計画したネバーランドへと侵入した潜入組の五名。
倒した混血仇は複製であり、跡形もなく消滅。覚える能力で計画の情報を幾つか知るも。
それは命を弄ぶ行為に等しい。五人は偽の楽園を壊す事で一致。情報収集にニーアとヴァイスが向かう。
しかしゴミを調べる内、子供による様々な犯罪を思い出し、彼は二人を追い掛けるのであった。
先に調査隊として、ネバーランドの大通りに向かわせたニーアとヴァイス。
右眼で発動中の俯瞰視点で二人を捉えつつ、裏路地から追い掛ける最中──
「久し振りだなぁ。デトラ」
「……っ!」
突然後ろから現れ、並走する形で横にピッタリとくっ付いて話し掛ける来るのは──
俺様野郎のトリック。山積みの荷物が邪魔で通れない道を連続で跳躍。
匍匐前進で通る隙間を、超低姿勢スライディングで滑り込んで通っても。
トリックはまるで横に立てられた鏡の様に、息が合う双子の如く動きを合わせて付いて来る。
「……撒けない、か」
振り切って逃げるのは無理だと理解し、裏路地側に在る夕暮れに照らされた公園へと着地。
鏡と向き合う様、お互いに振り向けば。奴は「漸く諦めたか……」とでも言いたげな。
薄気味悪い、嫌な微笑みを浮かべる。あくまでも、自分達から見た感想は……だが。
「来てくれたのか……デトラ。俺様達の作り上げた理想郷──ネバーランドに」
「あぁ。来てやったぜ。お前達の理想郷を──破壊する為に」
噛み合う会話、相反する返答。誰かの理想は誰かの悪夢。一部の幸せは大勢の不幸。
だから破壊しに来た。大人達の楽園と、子供達の地獄を──跡形も無くする為に。
右眼に映るニーア達に、女のトリックが接触し話し掛けたっぽいな。クソッ……狙ってたか!
「見てみろ、この楽園を!」
『見ないで。この地獄を……』
左眼は男版トリック……タースを。右眼は女版トリックのカーリと二人を映す。
声も左右の耳が半々に聞き取っているっぽいが……何故か言ってる事は真逆。
片や楽園を見ろ!と意気揚々に薦め、片やこの地獄を見ないで……と、物悲しげに言う。
「心無き大人共は消え、純粋な心を持つ子供達だけが住む、この楽園を!」
『心無き大人達が消えても、悪い意味で純粋な心を持つ子供達が住む、この地獄を』
(コイツらは何故……相反する事を喋っている?)
左右の眼が見る二つの光景。男と女のトリックが話す、正反対の言葉。
感覚を共有している為か。奴らに狙われている静久も、何やら違和感を感じている様子。
「哀れだな。純粋の意味を、良い意味でしか捉えられない愚か者は」
『なんでそんな悪い風にしか考えられへんの?子供や大人も、お互いに学び合うもんやろ?』
凝り固まった認識を持つタースを、愚かで哀れな奴だと思う自分。
ニーアと同行するヴァイスは──大人も子供も、お互いから学び合う存在だと発言。
個人的には、その意見に同意だ。人間とは、死ぬまで学び続ける生き物だと思っている。
そこに年齢は関係無く、学ぶとは素晴らしい事であり、馬鹿にするのは余りにも愚かしい。
「昔も今も!我々が担当していた大陸の大人達は、常に働き過ぎている!」
『だからこそ、私達は働く必要が無い様にと。ネバーランド計画を立て、実行に移した。でも……』
『犯罪や仕事は──無くならない。そんなの、至極当たり前の事』
「何故なら。子供だけの世界では、自分勝手な法律や物事を作るからだ」
人類を本気で心配しているのは、こんな計画を実行した時点で分かっている。
それでも、大人は必要なんだよ。様々な家庭・常識・生活の違いによる認識の違いや。
差はあれど、大人は社会を回す役割を持ち。更には子供の認識に影響を与える存在でもある。
肉体的・精神的な子供は存在する。そんな奴等が作る法律や行動を、誰が止めると思ってんだよ。
「肉体の有無に関わらず、人は嘘を吐く。純粋無知故に、命を奪い罪を犯す」
『特に子供は承認欲求が強く、愛情を他者に奪われると認識すれば、人殺しだって平気でやれる』
そう。人は肉体の有無に関わらず、嘘を吐く生き物。生きる為、不安や痛みから逃れる為。
痛みや不安、死から少しでも逃れる為なら。自分が正しい、死にたくないと思えば、罪を犯せる。
ニーアの言葉は、的確に的を射ている。MALICE MIZERの一件も、愛情に飢えた結果の答え。
「知っている。だからこそ調律者の……ヴルトゥームの持つ超科学が欲しかった」
『……どう言う事?』
今度は全く同じ事を揃って言い、タースは昔懐かしいブランコに座り。
対照的にカーリが座ったのは……骨董品屋らしき店の横側にある公衆電話。の手前に置かれた丸椅子。
お互い向き合うトリックに対し、此方も同じ言葉・疑問を返してしまう。
『大人の役割を全て機械で賄う計画だった。けど、貴女達の所為で全部台無し』
「だが、我らの下へシュナイダーが帰還した。即ち、残る邪魔者は貴様だけだ!!デトラ!」
「そうか……分かった」
確かに調律者連中の科学力なら、親の代わりを行う機械は出来るだろう。
だけど、機械に育てられる子供の気持ちは?敷かれたレールを走る人生に、何の価値が?
マキが奴らの下に居て、障害となる邪魔者は自分だけ。そう聞いて、不思議と納得した。
「なら。お前達をしばき倒して、マキともう一度会う」
「会って……どうする気だ?」
マキともう一度会う。その決意と魔力を両手に乗せ、握り拳を作り身構える。
素朴な疑問を投げ付けられたが──真面目に答えてやる義理はないし、答える気もない。
「悪者がお姫様を狙うんだ。そりゃあ、答えは自ずと見えてくるだろうよ」
故に、ひねくれた返答を返した。マキ……例えお前が拒んだとしても、会いに行く。
少なくとも、俺にはマキに会う理由があるんだ。だから──待っててくれ。
「成る程。俺様を相手に撃ち合うつもりか」
「全力でな」
「いいだろう。その言葉、罠と知りつつ乗ってやるぜ!」
パッとで十個の結果は思い付く……が、どれが引けるかは、命を賭けたくじ引きだな。
胸元で両腕を交差させ、更に魔力を充填。チャンスは一度。勝機は奴の意表を突くのみ!
「ライトニング──ラディウス!」
「ロスト・パラダイス!」
此方の考えは読まれていると知りつつ、正拳突きの要領で両拳を突き出し、緋色の稲妻を放つ。
タースも複数の湾曲球から白い魔力を複数放ち、お互いの魔力がぶつかり合う。
最初こそ拮抗したが……あっと言う間に押し返され、押し切られそうな時。
「ゼロ、頼む!」
「応さ!ダイヤルを合わせてスリータァァァッチ!」
大声で指示を出せば、足下の影から生えて伸びる黒く長い手が。
左手首にあるウォッチ。そのダイヤルを緋色に合わせて三回叩く。
今回は音声を無しにして貰い。撃ち合いを自ら止め、両手でロスト・パラダイスを受け入れる。
手に纏った霊力越しに伝わる、高熱と痛覚。吸収した全てをそっくりそのまま、奴に撃ち返す。
「馬鹿め!俺様が何故、MALICE MIZERに居たと思う?」
「まさか……!!」
「そう。貴様がどの能力を取り戻したかを知る為だ!そして、その能力の返し技も既にあるわ!」
意表を突いた。そう思い確信した直後、その言葉を言われて意味を瞬時に理解し。
撃ち返しては駄目だ!思考が全身に危険信号を走らせるも、時既に遅し。
魔力を撃つのに使った湾曲球は残っており、ソレが主を守る様に自ら盾となるべく動き。
返した魔力の軌道をねじ曲げ、八等分にして此方へ返され──俺や周囲に迫る。
『タースはロードのギフトを受けてから、数日で心が歪んでしまったの』
そんな中、カーリの言葉と寂しげな顔が右眼に映り……命中。飛び散り落ちるは、砂埃と俺の体。
落下時に公園の蛇口に背中からぶつかり、壊してしまい、大量の水が噴き付ける。
痛む体に鞭を打って立ち上がり、左眼に映ったのは──
右手の軌道が読めない程に歪められ、伸びると言う常識ではあり得ない光景を視た直後。
「いっ……ッ!!」
「俯瞰視点や過去を見る?どんな魔眼を持とうと、使う前に潰せば良いんだよ!!」
左眼を──うっ……潰され、再び仰向けに倒れて悶え苦しむ内。俯瞰視点が解けた。
確かにどんな力も、発動前に潰せば良いかも知れんが……コイツ、以前とは全く違って容赦が無い。
それに、何故気付けなかった?雰囲気も前は子供が遊んでる感じだったのに。コレは……もう。
「不要だ……不要だよなぁ!俺様の言葉が聞けない奴らは、ドイツもコイツも不要な命だよなぁ!!」
「自身の強大になった力に、心を歪められたのか……」
(王!!解析ハ後ダ!今ハ撤退ヲ最優先ニシロ!)
今のトリック・タースは……自己中心的なサイコパスと化した怪物でしかない。
湾曲──歪めると言う力が恐らく、ギフトの効力で増大し、自らの心にも影響を与えたのだろう。
今はルシファーの言う通り、撤退するしかない。だが……逃がしてくれるか?今のコイツが。
「デトラァ!!てめぇも不要な命だ──!?」
(あれは……撤退するなら、今の内よ!)
邪魔者たる俺を不要な命と言い、襲い掛かろうと右手を伸ばして来た瞬間。
頭上の茜空を切り裂き、飛来した白刃はタースの右腕を容易く切断。
地面に突き刺さると思いきや。勢いを止められなかったのか?天空島を突き破って行った。
「ダークサイド・ビジョン!」
「天弓──雨霰乃集中豪雨!!」
それを合図と言わんばかりに、スレイヤーのスキルでも視界が悪い闇が辺りを覆い。
正面で何かが怒涛の勢いで落ちている様子。何が起きているか、理解が追い付かない中。
誰かに担がれ、闇の中から脱出。残された右眼で確認すると……
「手酷くやられたわね」
「き、桔梗……」
「無理に喋らないの。今、シオリが二人を回収しに向かってるから」
長くて綺麗な金髪を持つ桔梗だ。右脇腹側で抱えられている為、顔は見えないものの。
長く伸ばしたもみあげが見えた。シオリがニーア達を迎えに行ってるそうだが……
あちらには、トリック・カーリが居る。それを伝える前に限界が訪れ──意識を手放した。




