ネバーランド
『前回のあらすじ』
遂に発見した融合四天王・トリックの居城──天空島。其処で行われている、ネバーランド計画。
緊急のメンテナンスも終え。寧が残してくれたバックルを受け取り。
桔梗・シオリ・ヴァイスの三名を連れ、天空島へとダイブ。途中、終焉に仕える黒龍に襲われるも。
遥と絆に任せ、次に来た混血仇を取り戻した幻想の力で返り討ち。湾曲空間を破り、ニーアも含め中へと侵入。
何はともあれ。着地した先は運が良いのか悪いのか……予定地点から遠く離れた天空島の端。
それもゴミ収集場。ゴミのクッションに寝転がり、白目を向く混血仇に近付くニーア。
首や手首に触れて脈拍を計り、胸に耳を当て心拍数、口に手を近付け呼吸をそれぞれ確認。
最後に目を開けて瞳孔の確認を済ませると立ち上がり、暗い顔で首を横に振った。
「うん……息絶えてる」
「貴紀。死体から素材を剥ぎ取る?」
他者の死に心痛めるニーアと、狩人としての認識を持つが故か。
ウエストポーチから携帯用ナイフを取り出し、確認目的で訊ねて来るシオリ。
「死体から剥ぎ取りって、何を考えてるの?!」
「仕留めた相手から剥ぐのが、相手への礼儀でしょ!?」
「……シオリ、今回は剥ぎ取りじゃなく物色だ。ニーア、環境故の相違だから変に食い付くかなくていい」
前回はエリネと医療方法の違い故、口喧嘩になってたが……今回はシオリと環境故の相違か。
二人の気持ちが分かるのもあり、会話に割り込んで口喧嘩を止め、ニーアに注意を促す。
「ニーア。生きるとは、良くも悪くも数多の命を使わせて貰う事だ。スマンが……理解して欲しい」
「まあ、無理にとは言わないわよ。それが私達百鬼夜行と──貴紀の間で決めたルールだし」
自分の指示通り。混血仇の所有物を物色するシオリに軽蔑の眼差しを向けるニーア。
サバイバルや極限状態を体験すれば、理解や納得も出来る……が、未体験ならそんな反応だろう。
理解の有無は二の次。桔梗にフォローを入れて貰いつつ──体を起こした混血仇の頭部に向け。
朔月を抜くと同時に、暗黙のルールを伝えつつ頭を撃ち抜き、確実に仕留めた。
「スレイヤーのスキルで仮死状態とは理解していたが……以外と行動が早かったな」
「知ってたなら……いや。変に言うとコイツが不用意に動かなかったか」
「何もそこまで……」
仮死状態だと知っていたが故に、剥ぎ取りではなく物色を勧めた。が──
まさか本当に動き出すとはな。幾ら紅一族と黒族の混血龍とは言え……うん?これは──
二人と話してる内に、物凄い速度で死体が老化?シオリも此方を見て、指示を求めている。
「此処で一回目か。まあいい。出し渋るといつまで経っても使わんからな」
ウォッチを回し、緋色でワンタッチ。覚える能力を使い、混血仇に何が起きているのか調べると……
これは予想以上の予想外。確かにそれなら、永遠の子供と言えるかも知れんが。
まさか奴らの技術力がそれ程とは……いや。調律者連中の技術を一部得ていたが故か。
「貴紀、何か分かった?」
「あぁ。シオリ、ソイツはレプリカだ。此処で自由に行動してる大半の生命体はな」
「複製って事よね?でも、どうやって?」
自分が驚いた様子を見たシオリに訊ねられ、どうやって複製されているかを手短に話す為。
幻影龍の中で見た出来事や、それを利用して複製されているのだと話した。
言わば──対象者の懐かしい記憶を探り、その頃の自身を複製すると言った方法。
「だが、複製された連中の寿命は極めて短い。恐らく、一年か二年そこらだ」
「……それって、アンタ達オメガゼロ計画の被害者よりずっと短い寿命よね?」
「あぁ。ネバーランド計画とは、上手いネーミングだよ。全く」
桔梗と話している間にも混血仇・レプリカの老化は進み……ミイラ・白骨・粉塵・消滅。
そしてまた複製され、過去の複製体がどうなったかも知らぬまま、過去を繰り返す様に過ごす。
その上、仮に本体が衰弱なり突然死を迎えても幸せな悪夢が記憶し、永遠に複製を行う。
これがお前の考えうる、最大最善の人類救済計画だとでも言うつもりか?トリック……
「兎に角。此処で考えてても仕方ないし、探索しない?」
「同感。アンタ達もそれでいい?」
シオリと桔梗の会話に同感しかない。黙って聞いていたのだが──話を振られた為、頷いて返答。
それに対し、ニーアとヴァイスは……精神的に効いたのだろう。俯いたまま、返事すら返せない。
「キツイなら隠れてろ。自分達が今から行うのは、複製の全滅と、トリックの打倒だからな」
変にトラウマを植え付けるべきではないと言う思いの他、好意を持たれない様にしたい。
そんな考えもあり、突き放す様な口調と台詞を選ぶも──二人は首を横に振り、此方を見る。
「そんなの……私の方から願い下げ」
「ウチもや。こんな偽物の楽園なんか、ブッ潰さな気がすめへん!」
「同感。こんな命を弄ぶ行為、医師としても認められない」
そんな自分の気持ちを押し返す様に、二人は顔を上げて胸の内を吐き出す。
心の成長を微笑ましく思う気持ち半分。それはフラグじゃねぇかなぁ?と心配する気持ち半分。
そんな自分の考えを知ってか。背後から肩に手を置かれ、振り向くと桔梗が微笑み。
──「人の成長は私達が思うより早いわ。だから、ちゃんと視てあげましょ?」そう言われ、頷いた。
「分かった。が……自分達全員で見て回るのは、流石に目立つな」
全員での行動は目立つ上、此処は仮にもロリショタペド大好き野郎のネバーランド。
自分達高身長組が表通りを歩くのは、自殺行為に等しい。そうなると、調査隊の適任者が……
「……私が、私が見て回る」
「ウチも……一緒に行くわ!」
言い渋っていたら、ニーアとヴァイスの二人が勇気を出し、自ら名乗り出した。
確かに身長が百五十に満たない彼女達なら、早々に怪しまれる事はない。
それに──運良くか悪くか、二人はトリックと一度も遭遇していない。ワンチャン、賭けてみるか。
他の意見も聞こう。そう思い、桔梗とシオリに視線を向けてみたら……二人は頷いた。
「失敗してもいいからやってみなさい。もし何かあれば私達がフォローしたり、助けに行くから」
「ヴァイス。オラシオン候補生じゃなく、貴女自身の力を試す時よ。やれるだけやってみなさい」
勇気を出したとは言え、恐怖心や不安感は拭えない。そんな調査隊の二人に対し。
アドバイスを送る桔梗達を見て、感情を暴走列車の如くぶつけるにしても。
事前にこう言った助言やフォローがあれば、ぶつかった後も幾らかは安心出来るのかもな。
「ちゃんと『視てる』から、変に緊張せず行ってこい」
最後に自分からも、二人の背中を押してやった。魔神王の半魂として覚醒途中の今。
自分が使える視点は日常生活で使う通常、第三者視点の俯瞰。最後に過去を視る視点。
そう言う意味での視てる発言。過去視点はまだ扱い切れないけど、上手く使えば心強い。
(静久、聞こえるか?)
(聞こえている。当然……何を頼むかも──いいだろう。私に任せろ……)
口や顔にはなるべく出さず、心の中で呼び掛ける。すると即応答に応え。
かつ左腕に一体化してると言うのもあり、此方の考えを理解し、頼み事を快く引き受け。
仕掛けるその時を待ってくれている。さて、ニーア達は出発したな。いつ頃仕掛けようか。
「桔梗、シオリ。此処を仮拠点とする。周囲の警戒と調査を行うぞ」
「「イエス・マイロード」」
なるべく早く行動拠点の安全や欠点を見付ける為、二人に指示を出すものの……
こう──なんか嫌悪感を抱く返事を返され、居心地が悪い自分を見て笑う辺り、確信犯だ。
まあいい。その内やり返してやるから。そう思いつつ調査の傍ら、右眼で俯瞰視点を発動。
「なあ、二人とも。此処に棄てられたゴミを見て、何か思う事はあるか?」
「ネバーランドと言うだけあって、壊れた玩具やお菓子の袋が多いわね」
「私も桔梗さんに同感。でも、ゴミ袋の中身次第だと──何か変な臭いの物もあって、気持ち悪い……」
先ずはゴミ袋を調べてみる。漁ると後々面倒臭い為、外見から見るだけ。
幸いな事に透明なゴミ袋が多い上、量も少ない。大抵は壊れた玩具と、食べ終わった菓子の袋。
されど中には、黒いゴミ袋も幾つかある。それらは共通して、嫌な臭いを放っている。
男は慣れてる人も居るだろうが……処分する方としては、中々に嫌なスメル。
「シオリ、それは放って置け。後──『俺』はニーア達を追う。予想通りヤバいかも知れん」
「アンタが俺って言う一人称を使うって事は……本気でヤバいのね?」
子供──と言う定義はどの辺りで括られるのか?法律的には十八歳か二十歳辺り。
両親からすれば、いつまでも子供。つまり自分が本気でヤバい……と直感的に思ったのはソコ。
最年少の出産記録は確か、五歳七ヶ月と二十一日。最年少の殺人記録は二歳から。
「あぁ。ちょっくら、本来の与えられた設定とは真逆なやり方をしてくる」
「……やり過ぎないでよ?」
「例えやり過ぎても、金太郎飴みたく新しいのが出て来やがるさ」
性への目覚めは誤差こそあれど、最年少の性犯罪だと三歳児による女子同級生への行為。
すっかり忘れていたが、この男性が持つアレの臭いが籠ったゴミ袋で理解した。
おいおい……トリックよ。純粋なショタロリペトを好きになったのかも知れんが。
コイツはお前の理想郷を破壊する爆弾だぞ?!其処まで目を向けてるか否かは──知らんがな。
「貴紀、急にどうしたの?」
「誰が来ても、警戒心だけは解くな。そう言いたいのよ」
黒コートのフードを被り、先に行った二人の後を追い掛ける。
最悪の展開になっていたら……十中八九、この天空島を下のフォー・シーズンズに落とすだろう。
そうしない為、そうならない様。夕焼けが照らすネバーランドへ忍び込む。
「クソッ……もっと早く気付くべきだった!」
右眼は真上からの視点で、二人とその周辺を捉え続けている。
間に合え、間に合ってくれ!裏路地を一歩一歩跳躍して進みつつ、そう願う。
純粋──そう。子供は良くも悪くも純粋なのだ。残酷な程に無慈悲で、恐ろしいまでに。




