突入
『前回のあらすじ』
ゼロ達を取り戻すべく、幻影たる龍神の内部へと侵入するも……其処は不可思議な舞台劇場。
優しい悪夢に取り込まれた霊華達は、懐かしいと言う幸せの時間に囚われ、抜け出せずに居た。
されど紅き光の力を強く持つゼロだけは悪夢に囚われず、相棒と力を合わせて救出&脱出。
フォックス・アーマーの力もあり、ミミツの奇襲もアッサリ阻止。トリックの居る拠点へと移動する。
負と闇に呑まれていた体とゼロ達を取り戻し。その序で──多少無茶なパワーアップも出来た。
今はトリックのネバーランド計画。その拠点へゼロライナーで向かっている最中。
「……診察完了。何処にも異常なし」
「こっちもメンテナンス完了。とは言え、私は鍛冶屋が本職だから、装甲関連だけね?」
それと平行して、医師・ニーアと鍛冶屋・アナメの協力の下。
必要最低限の身体検査や、パワードスーツのメンテナンスが完了。
その時間を計算してか偶然か。Dr.リバーサルが二両車・会議室兼医療室に来訪。
「予想外のパワーアップをした様だが──それでもまだ、本来持ち得た力には遠く及ばん」
「そん位、否が応でも分かってるさ。まだこの姿じゃ、終焉やホライズンに勝てない事も」
「確か遭遇当時、君の全力を受けて絞りカス程度の力って言ってたんだよね」
光も闇も、元は混沌と言う存在。だからこそ自分や終焉達も──
お互いに力を吸収し、より強くなれる。光は闇を生み、闇は光を生む。但しそれは……
両者が互角に近い場合のみ。片方が強い場合は、膨れ上がるのみ。言わば天秤。
終焉達は闇、自分はやや均等。ホライズンの発言は、光に傾いてた昔と比べてだろう。
「傾き過ぎると性格にも出るからな。ホレ、機械好き娘からだ」
そう。どちらに傾くかで、性格も変わる。光なら正義感、闇なら背徳感……とかな。
そんな話の後に軽く投げ渡され、受け取ったのは……無限郷時代に使っていたバックル。
日常生活で見る物ではなく、某ライダーが使う様なタイプ。
あの頃は力をカードし、強過ぎる力をバックルで制御していた。が……何やら少し形状が違う様な?
「二千年時代。終焉との決戦で大破した中央部分を強化改修したそうだ」
「第三装甲の開発とか、結構時間も無さそうだったのに……ねぇ?」
「まあ……そうだな。目の下に隈を作ってまで、開発をしてくれてるからな」
いつの間にか、寧はバックルすらも強化改修してくれていたらしい。
アナメもいつそんな時間があったのか?と疑問に思う様で、話し掛けられたが……
自分が思うに、連日徹夜だろう。まさか──マキを知らず知らず警戒してたのか?
「何はともあれ──今度は他者の願い、願望を打ち砕く事になるだろう」
「何、いつもの事さ」
メンタル的な心配をされるも、そんなのはいつもの事。誰かの願いや願望が叶うとは。
誰かの願いが打ち砕かれるも同然。ただ、叶えた側がそれを気にする事は余りない。
仮に気にした所で、打ち砕かれた者からすれば侮辱の上塗り。良い気はしないだろうよ。
「敗者への哀れみは侮辱だ。勝者は敗者の恨みや妬みを背負って生きて行くもんだ」
『貴君~!そろそろ目的地上空に到着するで~?』
「ふむ。同行者はどうするのだね?」
「同行者はヴァイスとシオリ、桔梗だ。聞こえたな?名を呼ばれた三人は準備を済ませてくれ」
勝つ事が良いとは一概には言えん。そう話す中、車内放送で目的地に近付いた旨を聞けば。
リバーサルから同行者は誰か?と問われ、車内放送用マイクを取り、三人の名前を呼ぶ。
「……大人から解放された子供は大抵、欲望に従う獣も同然。正論は通じず、暴力で返すのが当たり前」
「人の本質ってヤツだな。よく知ってるよ」
不安があるからこそ安定を求め、理性があるが故に欲望を制御したり、調整も出来る。
けど、人とは目先の見える結果を求め易い。それは数字であり、容姿や待遇もそう。
先を見据えた未来の構想より、今を生きる政治を求めたり。それも不安と安定が生み出す結果。
怪我や風邪が早く治れば、その効果を認め良く思うのと同じ。子供はそれを求め易いのかもな。
「そうか。では気を付けて行きたまえ。獣には慈悲より殺意が丁度いい」
ちょっとした助言を受け、席を立ち先頭車両と二両車を繋ぐ中間ポイント。
其処から先頭車両へ続くドアノブを掴んだ時──後ろからコートの裾を誰かに引っ張られ。
何事かと振り向くと……ニーアが裾を引っ張ったまま、俯いていた。
「何だ?恨み言なら、帰れたら聞くぞ?」
ニーア・プレスティディジタシオンが何を言いたいか、理解に苦しむ。
ただ、変に好感を稼ぐ発言などは控えたい。別れが辛く、苦しいモノになってしまうから。
故に敢えて振り返らず、素っ気なく気遣う気すら無い言葉だけで返す。
「…………」
「悪い。それは無理な話だ」
自分の背中に頭を押し当て、霞む様な声でニーアは呟いた──「行かないで……」と。
彼女の制止を振り切り、五両車目へと向かえば、名を呼んだ三人が準備を終えて待っていた。
「ヴァイ……ヴァイス・アイリス、以下三名──違う違う!!以下二名。準備完了です!」
極度の緊張故か。噛んだり間違えながらも、敬礼をしたまま報告をするヴァイス。
チラッと視線を彼女の後ろに居るシオリに向ければ、手で三角を作り二回頷く。
オラシオンとしては、もう少し現場に慣れましょう。的な点数なのかな?
「よし。目的地を防護する歪みを破り、突入する。命令はただ一つ──無事に生きて戻れ。以上!」
「「イエス・マイロード!」」
「了か……い、イエス・マイロード!」
命令を受けた三人の内、桔梗とシオリは不思議と息が合い、左手で行うグッドサインを。
テンパったヴァイスは返事と行動を間違え、二人との違いに気付き慌てて訂正。
少し微笑ましく思いつつ。最後尾の扉を開け、そのまま周囲を眺める。
「まあ、スカイダイビングをするには……丁度良い高さか」
「成る程。確かに此処なら、龍神達も下手に近付けない……か」
地上からどれ程、離れたのだろうか?白い雲に隠れて見え難いが──
肉眼では、食玩の玩具位にしか見えない。その上に……天空に浮く島が一つ。
バ○スって言ったら落ちたり、三分間待ってくれる眼鏡のオッサンとか居ないだろうか?
「重力と空間湾曲で浮いているのか。ほぼ全ての攻撃を歪め、反射する攻守一体のフィールドだ」
「リバーサル……」
「だが、君の破壊する力や白き刀なら、容易く破れる。行きたまえ」
「言われずとも!」
聞いてもないのに島を包み、浮かせてるのが球体状の重力と湾曲空間だと話し出す。
攻守共に優れているが、自分なら突破出来ると背中押してくれたのもあり。
心置き無くトリックの計画した楽園へ向けて降下。流石に肝っ玉がヒュン!とするけど……
「グオォォン!!」
「黒い……龍!?」
「終焉に従う黒い龍。って事は……あの天空島に、終焉が?!」
飛んだ後を狙った様に、天空島から終焉が従える黒き龍が此方に飛翔して来る。
以前はゼロライナーを墜落させられたが、今回は自分達が狙いらしい。
口を大きく開け、口内に燃え盛る炎を吐き出さんとした時──
「この者のお相手は、私が引き受けますわ!!」
「アチチチッ!!まさか……遥!?」
頭上から吹き付ける、白く冷たい息吹が黒龍の燃え盛る炎と激突。
高温と低温が衝突した事による、水蒸気の白く熱い煙が周囲を包む。
その熱をものともせず寄り添う白き龍。その声はまさしく青空遥本人。
水蒸気煙の中を泳ぐ様に進み、黒龍に挑む遥……正直言って、勝てる見込みは限り無く低い。
「援護するわ」
「駄目だ。地に足が着いてるならまだしも、空中じゃ反動で着地ポイントが狂う!」
「紅絆は出せる?アンタの側近で自在に飛べるの、あの子だけでしょ?」
援護をしようと矢を取り、弓を引くシオリに制止を呼び掛け、手短に理由を話す。
すると桔梗から問い掛けられ、焦りから忘れていた事をハッと思い出し、左腕に触れる。
「絆。かなり無茶だが……頼めるか!?」
「承知致しました。マイマスター!」
いつもながら無理や無茶を頼んでしまっているが……頼るしか手がない。
左腕から赤い光が飛び出し、東洋式の紅龍となって黒龍に挑みに向かう紅絆。
そんな時、直感がある未来を見せる。真下から迫る大きな口に、四人纏めて喰われる未来を。
「馬~鹿~め~!俺が控えてる事にも気付かねぇとは!」
天空島から迫る赤黒い龍──混血仇の龍神形態!しまった、やられた!
そんな言葉が頭を過る中、ある事を思った。もっと手や腕が伸びれば……いや、巨人の腕があれば!
そんな夢物語の空想、無理難題故に思う夢想。なら──現実に引っ張り出してやればいいだけの事!
「馬鹿なのはアンタの方よ。赤黒い龍」
「宿主様!俺はいつでも準備出来てるぜ?」
「やるぞ、ゼロ!夢想を、空想を──現実に引っ張り出す!!」
「私達が惚れたコイツは……無理や無茶もへし曲げて、空想や夢想を武器に戦う常識外れよ?」
勝利を確信した混血仇に、桔梗が言う言葉は命乞いではなく……逆にその行動を馬鹿にする言葉。
桔梗は知ってる。自分が終焉や神々や悪魔の軍勢、魑魅魍魎達に勝利した理由を。
そして自分も漸く思い出した。そのやり方を──夢や空想を形にする力の出し方を。
そうだった……あの頃は死闘の中で、空想していた。勝つ為に何が必要で、心の想いを形にしていたと。
「喰えるもんなら──喰ってみな!!ファンタズム・リーゼ!」
「そ、そんな力……聞いてな──」
右腕から少し上に、同じ動きをする巨人の右腕を幻想として作り出す。
そのまま下品にもデカく開いた龍の口目掛け、握り拳を繰り出せば──
前歯から奥歯まで、全ての歯を砕きながら顎で止まるまで拳が入り込み。
想像を絶する痛みに気絶した混血仇諸共、湾曲空間に叩き付け……無理矢理一部分を破壊。
「これが夢を見て、空想を続ける力だ!」
幻想たる巨人の右腕を消し、四人揃って砕けた部分から天空島内部へ侵入。
第一作戦はこれで終わりだが……まだまだ始まったばかり。絆や遥の事も心配だしな。
そう思った矢先、誰かが自分達の後を追って降下して来るのを確認し、両手で受け止めると。
「私も付いて行く。一人の医師として」
想定外も想定外。ニーアが自分達とは違い、パラシュートも無しに飛び降りて来た。
送り返そうにも空間湾曲の防壁は復元され、戻すに戻せない。
やむを得ないが……連れて行こう。此処で単独行動をさせたら、餓鬼共の餌食だ。




