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ワールドロード  作者: オメガ
四章・just believe in your eyes
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優しい悪夢

 『前回のあらすじ』

 目を覚ますと、其処は移動式拠点用汽車・ゼロライナーの倉庫。ハンガーに掛けられ、充電は完了。

 目覚めるまで傍に居たニーアと車上へ登り、外の景色を見てみると……地獄絵図も同然な状態だった。

 紅き龍神となったゼロ達が島の各地を焼き、火山は噴火。断末魔と悲鳴が轟く中で、二人は話す。

 自身が夢幻の存在であり、この旅以降の未来はニーア達、次世代に託すと伝えて彼は相棒の援護を受け飛び立つ。



 ただ愚直に、真っ直ぐ紅き龍神形態のゼロ達へと向かって飛ぶ。

 すると、バイザーに携帯電話で見慣れた電話のマークが現れ、通話状態に設定したら。


『勝手に突っ走るな!』


「……申し訳ない」


 通信が繋がり、リバーサルの怒る表情と共に叱られた。まあ……当然と言えば当然か。

 開口一番が叱責だった為、思わず気圧されてしまったが──何はともあれ、一先ず謝罪。

 その言葉に不満はありつつも納得したのか。不服そうな顔を見せつつも、それ以上は言わない。


『作戦を手短に伝える。アレに飛び込み、ブラックサレナを起動させろ。呼び掛ければ十分だ』


「飛び込めって……組み付く感じで良いのか?」


「アレはマイナスエネルギーの幻影だ。気になるなら、口内へ飛び込め」


 それは作戦と言うには余りにも、知的とすら言えない粗末な内容。

 更に話を纏めるなら……口内から奴の体内へ入り、鎖の機能を使え。一言二言で足る。

 取り敢えず通信は切り、真っ直ぐ一直線に飛んで貰う。ゼロ達も此方に気付いたらしく。

 口に紫色の炎を蓄え、此方に吐き出す。恐らくマイナスエネルギーの息吹だ。直撃は避けたい。


「来い、黒刃!絆、このまま奴の口内へ飛び込め!」


「了解です、マイマスター」


「紅き雷よ。闇を穿ち我が道を照らせ!」


 呼び掛けに応じて分厚い暗雲を突き破り、右手に招来。絆に指示を出し、騎馬ならぬ。

 竜騎士みたく黒刃を正面に突き出し、紅い雷を前方に円錐形の形で作り、突撃。

 紫の炎擬きに包まれるも、雷がソレを即時に分解。運良く口内へ飛び込み、そのまま体内へ侵入。


「よっ……と。幻影とは聞いたが、これは……?」


 喉を通り胃袋に該当する場所へ着地。されど足下には地面らしきモノがあり、落下する様子は無い。

 バイザーに映る景色も内臓と言うよりはまるで、四方八方で演劇を行う舞台劇場。

 自分達が降り立った舞台は──幾つもの桜の木が咲き誇り、スポットライトが太陽の代役を行う場所。

 幼い霊華が縁側で座る巫女衣装のマネキンに膝枕をされ、幸せそうに眠り。

 薄気味悪くも、両親役と思わしきマネキンが微笑んで霊華を見守る光景。


「多分ですが……このマネキンは霊華様のご両親役ですね」


「これも、幻影なのか?」


「恐らく。ですが……周りの舞台も『誰か』の願望が幻影として、投影されているものかと」


 他人の心を覗き見ては再現する、随分と趣味の悪い投影だな。

 自分の予想では、これは霊華が子供の頃で一番幸せだった頃の記憶だと思う。

 それと同時に──歳を重ね、過去の『あの頃』を求める者だけが知る『懐かしい』記憶。


「優しい悪夢……ですね」


「二度と現実(現在)には戻りたくない。そう思える程に、恐ろしい悪夢だな」


 正面では霊華の、両親との幸せだった幼少時代。それは、振り返るからこそ分かる幸福。

 歳を重ねて漸く知る、あの頃と言う悪夢(幸せ)。二度と取り戻せない、過去に置き去りにした日常。

 そんな悪夢から目を背け、後ろ周りの舞台に視線を向けてみれば──


「今晩は何が食べたいか?そうだな……琴音の手料理とか、どうだ?」


「リリス、俺は紅き光に選ばれた。人の為に神へ反逆した事は、間違ってなかったんだ」


 デトラは──友の約束を果たす為に組織を裏切り、琴音に匿われていた期間の出来事。

 黒いフードコートを着て椅子に座り、分厚い本を片手に、琴音(マネキン)に話し掛けている。

 ルシファーはどうやら、神に地獄へ追放された後らしい。自分の欠片は、彼の精神に引かれた様だ。


「歳を重ねれば重ねる程。辛い現実と向き合い続ける程に、この闇は我々を捕らえて離さない様です」


「強制ではない分、尚の事質が悪いな。あの頃と言う幸せを、自ら手放さなければならないんだから」


「もしや……マイマスターの科学時代が終わり、時代が逆行していたのも。これと関係性が?」


 現実は辛い。あの頃に戻れたら、こうしていれば……そんな妄想や哀愁に襲われもするし。

 精神的に追い詰められ、他の選択肢が見えなくなり、自殺と言う最悪の逃げを選ぶかも知れない。

 そんな心の弱さ・疲労に優しく付け込み、懐かしい・幸せと言う悪夢で対象から心の闇を吸う。

 もしかしたら……自分が立ち去った後の無限郷時代の現代は、懐かしい幸せに滅ぼされたのかもな。


「だろうな。より良い未来を求め、夢見て日々過ごしてた。そんな時代を過ぎたからこそ、かもよ?」


「おや……貴方は」


 聞きなれた声が聞こえ、声がした方向へ視線を向けると、其処には──ゼロが居た。

 特に変わった様子はなく、まさしくいつも通り。いや……霊華達を羨ましくも、哀れんだ表情だな。


「ゼロ。君は無事だったか」


「おいおい。いつも通り、お前って言えよ~。俺には……宿主様達との思い出しかねぇんだからよ」


 少し優しめな言い方をしたら、何やら随分と弱気な声で返され、正直予想外──でもない。

 妊娠六ヶ月頃。必死に生きたいと願う死ぬ寸前の彼を見付け、自分が融合し、命を繋いだ。

 苦楽を共にした反面……幾ら懐かしいと思っても、分け与えた紅き光の力がこの舞台劇場を拒む。

 自分と紅貴紀は一蓮托生の存在。様々な修行や死闘も共に潜り抜け、喜びを分かち合った仲。


「そんな情けねぇ声出すなって。ゼロ──お前の能力で、霊華達を救うぞ」


「あ──あぁ、応ともよ!ふふ、へへっ……」


 だからこそ分かる。見せ付けられるのが、とても苦しくて辛くて、悔しくて……

 泣きたかったんだと。いつもはそんな事があっても、自分と二人で馬鹿やって笑い合ってたな。

 けど、もう泣かなくていい。悲しまなくていい。自分が来た……ここからは、笑い飛ばす番だ!


「周囲の警戒は私が担当しますので、どうぞ全力でやってください」


 絆からの言葉を受け、自分達はお互いの顔を見合い、無言のまま短く頷く。

 言わなくても分かる。そう言わんばかりに、腹部の高さに合わせて手を差し出すゼロ。

 その真っ白な右手に重ねる形で、自分も右手を乗せる。すると二人分の魔力を感知したらしく。

 ゼロの能力が発動条件を満たし、重ね合わせた手から眩しいまでの青と緋色の光を放つ。


「さあさあ、懐かしくも幸せな悪夢から目覚める時間だぜ?」


「自分達の旅はこんな所で足踏みしてる暇はない。そうだろ?みんな!!」


「マイマスター!お体に巻き付いている鎖──ブラックサレナを起動させてください!」


 二色の光が霊華・ルシファー・デトラ、真っ暗な四つ目の舞台劇場や、闇すらも包み込む。

 青色と緋色。二つの光の中で絆の声が掻き消される事なく聞こえ。

 フュージョン・フォンを取り外し、バイザーに映る番号を入力。そのまま再装着すると……

 鎖が自らパワードスーツから外れ、円を描いて回転し始めて──




「この魔力……帰って、来た……」


「この感じから察するに、ただ単に帰って来た訳けじゃないみたいね」


「あぁ。これは計算外の──喜ばしい誤算だ」


 詠土弥、桔梗、ベーゼレブル。三人の声が聞こえる……此方に射出され、風を切り裂く物体の音も。

 ソレが幻影の紅き龍神の内部へ入った時、理解した。寧達が作っていた謎の大型機械の正体を。

 内側から幻影の龍神を球体に凝縮。右手の平に集めた闇を握り潰し──吸収。

 そのまま降下し、フュージョン・フォンで第三装甲・五号を召喚&三位一体融合。


「先ずは、火山の噴火を止めなくてはね」


「それは……油断と言うものですわ!」


「クソッ!アイツ、蜥蜴みたいに影を切り離したの!?」


 今尚溶岩を噴き続ける火山を止めるべく、この姿になった訳だが……成る程ね。

 僕を仲間に引き入れる計画、失敗した時の事は余り考えていないと見た。

 風が教えてくれる。旅をしようにも、歪める力が邪魔をする場所があると。


「これは油断じゃないよ」


「え……?!」


 勿論、君の動きや位置は読めている……いや、教えて貰っているとも。

 気まぐれな風は見聞きした事を、海と大地はそれぞれの流れを教えてくれるからね。

 それに──影縫いは一度見た。ならば、この姿であれば再現や応用は容易だよ。


「設置型罠の影縫い。名付けてシャドースパイク──なんてどうかな?」


 背後から影を山なりに伸ばし、襲い掛かろうとする影の魔女・ミミツ。

 けれど……残念。火山付近から少し離れていても、此処には地面がある。

 早い話、着地した時から足下を中心に罠を設置してたのさ。

 黄色い霊力の棘が、影を下から次々と突き上げて身動きを封じた。残る二人は来る気配は無し、良し!


「陰陽五行に我らが力を込めて厄災を沈めん。(よう)()(ゆう)・愛・(ばん)・知・(とも)(しん)!」


 大地に右手を当て、僕達が持つ八つの力を出来る限り解き放つ。

 勇気・野生・優しさ・愛情・絆・知識・友情・真実──この星に住む命が持つ力。

 その一部を右手から溢れ出す八つの光が大地に染み渡り、薄暗い空と雲を貫く。


「くっ……やっぱり不完全な姿じゃ、紅き光の頃より……影響力は劣ってしまうよね」


「そうでもないみたいだぜ?ほれ、見てみろよ」


 だけど……空も火山も、鎮まならない。不完全体故の力不足。

 それに付け加えて力を放出し過ぎた為、立っていられなくなり倒れそうな時。

 桔梗とベーゼレブルが左右から肩を貸してくれた上、見てみろと指を差された先を見てみたら……


「無限郷時代にこの星が自己防衛の為、人類を滅ぼす為に送り込んだ使者と戦ったのに……ね」


「使者と言うか、この星そのモノだ。故にオメガゼロ・エックスに全てを託し、今も耳を傾けている」


 噴火は収まり、溢れ出した溶岩は異常な速度で冷えて硬化。雲は白く青空を泳いでいる。

 そう。僕は過去にこの星そのモノと戦い、無理矢理勝った。泥臭く、醜い勝ち方で。

 僕が新たなる旅立ちをする前、ギルドで話し掛けていたのが──この星。

 ルージュは「風邪とか酷いと、余り話せないでしょ?」と言っていたが……恐らくそれは。


「何はともあれ、だ。三騎士も撤退したみたいだし、アンタも休んで回復しないとね」


「全くだ。俺が戦いたいお前にはまだ遠く及ばん」


「ははは……君も、結構なバトルマニアだよね……」


 それだけを言い残し、ベーゼレブル・ツヴァイは飛び去ってしまった。

 まだ、君にお礼を言えてないんだけどな。でも、君の事だから。

 ──「礼を言ってる暇があるなら、今以上にもっともっと強くなりやがれ!」とか言いそうだよ。




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