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ワールドロード  作者: オメガ
四章・just believe in your eyes
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夢幻の存在

 『前回のあらすじ』

 オラシオン候補生・ヴァイスの右人差し指から伸びた触手が、パワードスーツの額に触れると不思議な空間へ。

 其処で見た記憶は無月闇納こと、本名ハーゼンベルギアの記憶。しかもこの記憶は、襲い掛かって来る。

 執拗に『彼』を狙うハーゼンベルギアに挑むサクヤは、連携によりなんとか撃破。

 闇納とは因縁があるそうだが、彼はその件に関して、何も問わないのであった。





 意識が戻ると其処は、ゼロライナーの倉庫。何処からが夢だったのか?

 それすらも分からない。もしくは、全て現実だったのかも知れない。


「起きた?現在時刻は八時二十一分。時間切れで動けなかった貴方を、琴音さんが此処まで運んだ」


「……そうか。了解した」


 向かい側で椅子に座り、医学書を読むニーアは此方の首が動いた事に気付くと。

 本に視線を向けたまま淡々と説明を始める。……まだ、ライチの一件を根に持ってるのだろうか?

 何はともあれ。現時点で分かっていて、即座にやらなければならない事は──


「何処へ行く気?」


「外へ出る。自分自身の眼で、現状を把握したい」


 思考を走らせ、スーツを通して待機&整備用固定器具のロックを全て解除。

 その音に気付き、言葉を投げ掛けてくるが……やはり此方を向く気は無い様子。

 疑問に対して答えを述べ、各車両の両端にある梯子を登り、外へ。

 其処で見た光景は──紅の龍神に変貌したゼロ達が島の各地を焼き、建造物を破壊していた。


「まさに地獄絵図……だな」


 風に乗り、運ばれてくる数知れない阿鼻叫喚の声。

 断末魔や何故こんな目に?と言う疑問。ただ一つ、自分が一番不思議に思うのは……

 誰一人として『自身が悪いとは全く思わない』事位。


「偽りの平和が産み出した、汚いモノには蓋をしろ。その代償がコレか」


「……助けに、行かないの?」


「何故だ?何故他人の不始末や後始末を、他人の自分が引き受けねばならん」


 そんな声に反吐が出る。島の連中が後回しを続けた結果を見て、思わず納得する。

 登って来たニーアの言葉にすら、疑問を覚えた。言わば野次馬連中に救いを求めるも同然。

 だから皆の大好きな、正義と正論が出るんだろう。自分は正義や正論も、大ッ嫌いだがな。


「酷い人だね……貴方は」


「人間って奴らは自分が正しいと思えば思う程残酷になれる。そんな、都合の良い生き物さ」


「……確かに──そうだね。私も一人の医師として、そう思う」


 時折思う。他人の言う『酷い』とは、どう言う意味を含んでいるのかと。

 他者を傷付けたり、命を奪うから酷いのか?

それが、相手から求められた事であったとしても?

 そんな自身に都合の良い解釈をする人間が嫌いだ。お前達の方こそ残酷で、悪魔だと言いたい程に。

 ニーアも似た経験があるのか。自分の言葉を否定せず、命を救う医師として肯定した。


「…………」


 今暫しの沈黙。二人並んで眺める光景は、現在進行形で燃やされるフォー・シーズンズ。

 哀れみや悲しみ、怒りすらない。ただ……崩壊する『偽りの平和』を当然だと見ているだけ。


「ニーア。君に嫌われていると読んで、伝えたい事が幾つかある」


「……何?」


 お互いに顔は見ない。龍神と火山の噴火で崩壊する偽りの平和を見ながら、彼女に話し掛ける。

 愛想も何も無い返事を受け、自分に対する好意は無いと信じ、胸の内で伝えるべき言葉を紡ぐ。

 サクヤ達関係者は理解している。だが、後々仲間になった面々は極一部を除き、知らない確定事項。


「医療の引き継ぎノートには全て、目を通したな?」


「えぇ。隠されていた日記も含め、全部に目を通したわ」


 最低条件を訊ね、求める返答を返してくれた事に満足し、意を決して本命の言葉へと繋ぐ。


「そうか。自分達の旅が終わった後は──直ぐに君達の時代。過ちを繰り返すのも、君達の自由だ」


「…………」


「何時如何なる時に、命の灯火が消えるとも限らん。だから、伝えたかった」


 生命とは──次世代に命を繋いだり、自身の命が消えるまで走り続ける長距離マラソン。

 その旅が終わった後は、後ろで走るモノ達へバトンが渡され、走り続ける。

 引き継いだり、個人の道を行くも良い。それは各々に与えられた、不自由と言う名の自由。

 沈黙を決め込むニーアに向け、命の尊さと儚さ。そして……ある事実を伝えた。


「覚悟を決め、受け入れろ。命に生きる意味や価値など無い。だからこそ、生き方を決めるのは自分自身だけだと」


 昔は自分も幾度となく、ソレ(意味・価値)に苦しんだ。その末に理解した。必要無いと……

 求めれば求める程、ソレを利用せんとする者達に言葉巧みに利用され、壊れるのが大半。

 けど……利用されるにしろ、自身の道を進むにしろ。生き方を決めるのは自分自身。

 後悔も、喜びも……全て自己責任。それが生きると言う事。故に学び、善悪を痛感し己が心を磨け。


「だが、死者の様に化けて現れる連中にはなるな。幻想夢幻の如く、彷徨うハメになるからな」


「…………」


「この物語は自分達から、君達次世代に向けたメッセージだと思えばいい。君達が背負う必要もない」


 死者とは哀れなモノだ。死んだ事を認めず、生きている者を恨み憎んで引きずり込もうとする。

 生者は愚かなモノだ。好奇心と欲望に呑まれ、生者や死者を怒らせて命を散らすのだから。

 鍛冶屋の双子娘の妹・ウズナちゃんに本を描いて貰ってるのは、記録に残して貰う為。

 同行する面々は直接知れるが、他の者達には自分達の名前を伏せ、本を通して知って貰う。


「それが……悪い方向に取られるとしても?」


「あぁ。言ったろ?過ちを繰り返すのも、君達の自由だ……と」


 例え世に出回ったこの物語を真実だと思うのも、妄想だと馬鹿にするのも──各々の自由。

 平和と言う光は人を腐らせ、武力を取り上げる。戦争と言う闇は人に武力を与え、沢山のモノを奪う。

 光や闇、我々が日常的に使う言葉も、所詮は与えて奪う側。

 勇者や聖女と言う言葉は、とても良く聞こえる。自分もそうありたいと願う程に。されど……


「勇者や聖女の誕生過程、その結末も。貴方が言う『私達の自由』に含まれてるんでしょ?」


「当然だ。レポートにある三章・三十二話に存在する出来事も該当するな」


 大衆が目にするのは、輝かしい部分がメイン。後は重大なミスを犯し、偽者と利用される場面か。

 召喚にしろ選別にしろ、幸せには対価が必要不可欠。何を対価とし、誰に憎み恨まれるかも自由。

 アイツ(ヴルトゥーム)の様に上手く隠す奴も居れば、宗教やパート・アルバイト募集の手もある。


「ねぇ、幸せって……本当に幸せなのかな?どんな幸せも、誰かの不幸の上に成り立ってるのに?」


「世界に平等は──永遠に訪れない。それが現実、不変の事実。夢や願いは、ゴミ箱へ棄てられる」


「ですが……他人から見ればゴミでも、当人達には掛け替えのない宝物なんです」


「そう──『自分は』棄てられ、叶わなかった夢・願い・空想から生まれた……夢幻(むげん)の存在だ」


 突如として正面に現れ、問い掛けてくる朱雀のお面を被った……声からして女の子。

 世界に平等は存在しない。命が欲望を持つ限り、それは絶対に叶わない妄言。

 隣に降り立つ絆の言う通り、何をゴミと評価するかは、その人次第。故に、化ける事も多々ある。

 そして人の形を持って化けた存在が──『自分』だ。数多の夢幻から生まれた泡……その一つとして。


「だからこそ、終焉の闇達の計画は自分達が……夢幻の住人が方を付ける」


「その後の時代は、皆様にお任せします。後に起こる出来事に、我々は関われませんので」


 魔神王の半身……正確には半魂か。ゼロの肉体も長期の戦いで融合し過ぎて、夢幻化してるしな。

 まあ、此処を自分達の故郷と同じ結末にはさせたくない。だから終焉達を止める。

 デトラがドゥームとの約束を守りたい様に、自分達も第二の故郷と友を守りたい。


「それって……この旅が終わったら……」


「そう。彼ら彼女ら、私達は夢から覚める。それは今を生きる君達との別れを意味するんだ」


「だから自分は、大半の好意に答える事は出来ない。夢から覚めた時が一番、辛く虚しいからな」


 此処までの話で察した様子。そんなニーアに嘘偽りの無い真実を告げる子供。

 その言葉に続き、好意に答えられない理由を話す。ただ注目すべき点は……『大半の』と言う部分。

 特定の場所、もしくは条件が揃った状態なら応じられる。だから自分との間に子供が生まれてる訳だ。


「こんな所に居たのね」


「サクヤ……」


「いつも通り全力でサポートするから、好きなように動いて大丈夫よ」


 梯子を使い、車両の上へ登って来たサクヤ。お互いに存在を確認すると。

 彼女は黒く細長い長方形の銃を右肩に担ぎ、此方に向けて握り拳を差し出す。

 それがフィスト・バンプと呼ばれる、ハイタッチに似た行為だと思い出し、拳を合わせる。


「今回も頼りにさせて貰うぜ?相棒」


「大船に乗った気で行きなさい。相棒」


 拳を合わせたまま、サクヤと最低限の言葉を交わす。不安は一寸も無い

 何故なら──この世でただ一人。最も信頼出来る相棒が、力を貸してくれているから。


「絆!」


「イエス・マイ・ロード!」


 呼び掛ければ此方の意図を理解した紅絆は、車上から飛び出し空中で龍神形態へ変化。

 そのまま背中に飛び乗れば、翼を力強く羽ばたかせて暴れ狂う紅き龍神(ゼロ達)の所へと飛翔。

 幾らか遠く離れている筈だが……予想以上にデカい。恐らく二、三十メートル級と見──おわっと!?

 此方の邪魔をせんと、夏・秋島の方からまた厨二病の混血仇が軍を一ヶ所に率いて現れた。


「此処であったが百年──めえぇぇ~?!」


「井の中の蛙大海を知らず……よ」


「これが次世代を継ぐ者達と考えると、不安しか覚えんな」


「本当に申し訳ないです……」


 が──サクヤの撃ち込んだ爆撃弾が直撃し、一纏まりになっていたレギオンの面々は墜落。

 所詮は勉強や特訓もしなかった、悪ガキの集まり。学ぶと言うのは生きる事。

 危機を可能な限り避け、命を救い、時代を進める力。必要最低限位は覚えてても損はないのにな。

 謝罪する絆は悪くない。まあ、後は自分で学ぶか誰かに教わるか……はたまた、無知のままか。



 

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