悪魔再誕
今回の話も長い(のかなぁ……?)と思いますが、宜しくお願いします。
序章・前編もそろそろ終わりますので、後編が始まるまで今暫くお待ちください。
まだ戦闘中だった頃。場所は結界で守られた花一華学園へと移る。
若い兵士は同僚の終焉から心情ゆかりを預けられ、取り敢えず背負い保健室へと向かう途中……意識を失い、倒れる。
「私を背負うつもりなら、せめて勇士である事が最低条件よ。さて、後を追うとしましょう」
其処で立っていたのは心情ゆかり……と容姿体型は瓜二つな白髪の少女は言葉使いこそは女性らしいが、何処か目付きが冷たい。
先に駆けて行った終焉の後を追う前に、倒れた兵士から通信機を奪い、声を真似て誰かと通話しながら歩いて行く。
「兵士長からの作戦だ」と内容を伝え、今度は別の相手に「これが作戦だ」等々話す。一方先に魔法研究室へと足を運んでいた終焉は……
「此処か……!!」
「うん? 貴様は……確か、オメガゼロ・エックスに引っ付く虫、だったか」
四天王・マジックに仕える従者が一人と出会う。相手はフード付き灰色ローブで顔を隠し、水晶を眺めていた赤い単眼が此方を捉える。
思わず身構える。が……思わぬ言葉に構えを解いてしまう。そう、“オメガゼロ・エックスに引っ付く虫”と言う言葉に。
「俺が、あの伝説に引っ付く……虫?」
「なんじゃ、知らんのか。現世に留まる際の奴の名は……」
「あなた。口は災いの元って言葉、知らないのかしら?」
恐る恐る聞き返せば、正体をバラし迷惑を与えようとする従者。しかし名前を言おうとした瞬間──首が宙を舞い、床に落ちる。
落ちた首は胴体から離れて尚、喋ろうと口が動く為、愚痴りつつ頭を右足で遠慮無く踏み潰した。
「彼は私の獲物。誰にも渡さないわ」
「お前も、オメガゼロ・エックスの敵……なのか?」
「そんな事はどうでもいいの。彼は私の心にある餓えと渇きを満たす唯一の存在。ただそれだけよ」
耳にする声は口調こそ違えど、自身が知る心情ゆかり。されど敵の首を手刀で落とし、踏み潰す遠慮無さが。
ゆかり本人ではないと認識させ、第三者の敵対者かと思い尋ねると、敵味方ではない。心を満たす獲物だと発言。
従者が持っていた水晶に目が向くと……話題に出る存在、オメガゼロ・エックスが悪魔や上司、同僚達に攻撃されていた。
「ちょ、兵士長にアイツら! どうして……」
「どうせ、罠に嵌めた気でいるんでしょ。罠に嵌まったのは、自分自身も同じ癖にね」
「それは、どう言う事だ」
「こう言う事よ」
何故上司や同僚達が? 浮かぶ疑問へ悪魔の罠だと見抜く。そして自らが逆に悪魔を罠へ嵌めたとも。
いきなり罠へ嵌まった、嵌め返したと言われても話が頭に入って来ない。
論より証拠と儀式道具の一つ、黒棺を取り出しては蓋を開ければ中には──黄色い心臓が脈打ち、被害者達の助けを求める悲鳴が聞こえる。
「これが、悪魔の心臓」
「そうよ。私や悪魔の存在を知る、知った連中を餌にコレを引きずり出した」
彼女曰く、自身が此処で儀式を行っていた姿を見た者、悪魔・アバドンを知る者を儀式で生け贄とし、魔神王の配下を使い復活の餌とさせた。
同時に魔力源かつ犠牲者達を捕らえる檻であり、弱点でもある心臓を体内から分離、儀式用黒棺へ封じ込めた事へ対し。
「こんな回りくどい事、なんでしてんだ?」不思議がる終焉から訊かれ、説明するのも面倒臭そうな表情で溜め息を吐き、ポケットに右手を入れ──
「これが、“心情ゆかりの本心”だからに決まってるでしょ!!」
「おい、やめ……!!」
鬼気迫る形相へ一変。ポケットから刃の出たカッターナイフを取り出し、逆手持ちで悪魔の心臓目掛け振り下ろす。
今悪魔の心臓を刺せば、囚われた犠牲者達が死んでしまう。知らぬ者からのメールでそれを知っていた終焉は止めに入るも、僅かに間に合わない。
「ッ……貴方、私の邪魔をする気?」
後少しと言う所で横から腕を掴まれ、カッターナイフも没収されてしまう。
怒りの矛先は脈打つ心臓から邪魔者へ向き、鋭い目付きで黒い長髪長身、青いジーンズとジージャンを着た男を睨み付ける。
「マイナスエネルギーが天使や神を悪魔へと変貌させるとは。何時の世も変わらんな」
「貴方に何が判るのよ!?」
「判るさ。俺も昔は神々を恨み妬んだ、大天使だったんだからな」
(今の内に、心臓の中心へ鏡を……)
何時の世も善を悪へ変貌させる程に強い負の感情へ思う事がある男は、彼女の怒る叫びに答え、元々は大天使だったと話す。
男が抑えてくれている今がチャンスと判断、部屋を見渡せば小さめな長方形の鏡を見付け。
時間がないと駆け出して掴めば、大急ぎで悪魔の心臓へ押し込む。すると鏡から犠牲者達が一斉に飛び出す。
「怒りは晴れないか? なら、俺の認めた王が相手をしてやる。あそこでな」
「……成る程。彼の仲間ね。いいわ、餓えと渇き、満たして貰おうじゃない」
邪魔をされ、彼女の怒りが晴れていないと目付きと表情から悟り、自らが王と認め付き従う存在が相手をする。
場所は水晶が映す先へ指差せば、彼女は相手が誰かを理解。男の胸ぐらを掴んだ後、二人は瞬く間に姿を消した。
「そんなっ、オメガゼロ・エックスが……敗けた!?」
二人が消えた後。もう一度水晶を覗き込んでみると、クレーターが出来る程の大爆発が起きており、自身を助けてくれた恩人の敗北かと考える。
力の源へ鏡を置かれ、もしもの際に使おうとした人質も解放された頃。最上位闇魔法・終焉の地の発生源では……
(こ、この感じッ。誰かが、我が心臓へ鏡を……)
神域魔法を使い、反動で酷く疲労した悪魔・アバドンが胸元を押さえ、苦しんでいる時。
クレーター中心部から黒くて太く、長い異形種の腕が地面を突き破る。続けて地中よりゾンビ同様這いずり出て来たのは──
「間一髪。もう少し潜るのが遅かったら、直撃は免れなかったか」
「大丈夫大丈夫。“俺相手に混沌”を撃つなんざ、エネルギー譲渡も同然だからよ」
「ばっ、馬鹿ナ! 無傷、ダと!?」
全身が土で汚れつつも無傷な貴紀。突き付けられる現実を前に後退りする程驚き、疲れ切った脚は震え立っているのもやっと。
撃てる最大魔法をエネルギー譲渡扱い。本来は回避不能魔法を避けられ、自身は心身共に疲労気味。
「さてさて。俺達は色々と情報を得たし、情報屋曰く奴から人質も解放出来た。どうするよ、宿主様」
「当然、後始末だ」
「ま、マズイ。魔力が、モウ……なんテ言ウトでも思っタカ、馬鹿ガ!」
得るものを得て、裏で行われた出来事も神域魔法発動前に情報屋・Mからメールで知った。
手加減や時間稼ぎはもう不要。
自身へと歩いて来る瞬間を最後のチャンスと考え、残る精神力を使い火・雷・土の魔法を撃つ。
大きく回り込み、背後から迫る火球。不規則に曲がりくねる雷、真っ直ぐ飛ぶ尖った土塊。全てが命中し、爆煙と土煙が舞う。
「油断しタ貴様なド……ナ、ど……」
初級、中級魔法とは言え全弾命中。
風に吹かれ払われた煙後。無傷のまま、自身がいる方向へ歩いてくる。魔力は尽き、決まった敗北と言う結末を受け入れる様に、暗雲を見上げる。
だが……見上げた時、異変が起きた。
突然、体が異常を知らせる様震え、仰向けで倒れたと思いきや動かなくなってしまった。
(なあ、宿主様。スキャン機能があるらしいから、使ってみようぜ)
(あぁ、直感も警告してるしな。突然深紅頭とか、流石に勘弁だ)
(そのゲームネタ、本体だったら食い付いてたな。副王は伝説級のクソゲーハンターだし)
突然倒れ、全く動かない事を不思議に思い、ヘルメットに備わった機能の一つ、スキャンを起動。
赤いバイザーは緑色へ変わり、視認する対象を事細かく調べる。何故調べれるのか、何処でデータを照合するかは、使う本人さえ知らない。
昔遊んだゲームネタを会話に混ぜていたら、スキャンは完了。調べられた情報が赤色へ戻ったバイザーへ表示され、読もうとした矢先──
悪魔・アバドンの体は腹部を残して萎み、蛹さながら蠢き肥大した後……
「よぉ。久し振りじゃねぇか……今はオメガゼロ・エックス。と呼べばいいんだったな」
「ベーゼレブル……」
腹部が弾け、中から汚水とも言える色のゲル状スライムが這いずり出て来ては、話し掛けて来た。
しかも貴紀側の事情を知っている様子で、敢えて名前で呼ばず伝説に残る名を呼び。呼ばれた側も相手を知っているらしく。
仮面の下は嫌そうな顔で、“また追い掛けて来たのか……これで倒すのも何度目だよ”──と小さく呟いた。
「お前が色々と魔物や魔族を倒してくれたお陰さ。死体やあの悪魔を内側から貪り、今や此処まで進化したぞ?」
スライムは二足歩行の容姿を作る。
それは茶色と灰色の体に鋭利な五本指、先端が二又に裂けた長い尻尾。二メートルある身長より、二倍も大きく長い翼。
人間で言えば耳元まで裂けた大きな口、獲物を捉えるつり上がった黄色い目。肩には小鬼とアバドンの顔が生えている。
アバドンが魔術師的な悪魔だったのに対しコイツは──
この化け物は……他者を喰らい、進化して行く。文字通り、悪魔と呼ぶのが相応しい存在。
「斬撃に刺突、焼却と抹消! 何度倒しても復活して来やがって」
「ハハッ。これが俺の呪われし『複合型固有スキル・ベーゼレブル』だからなぁ!!」
「っ……伝説の再来と悪魔再誕、じゃな」
お互い少し話したかと思えば宙に浮かび、空高く一直線に飛び上がって行く。
緋色と青い光が二人から空を覆う蝗達へ放たれたと思いきや、直ぐ様雲の上へと昇って行った。
そんな光景を目の当たりにし、兵士長は思った事を口にして今や見えぬ二人を見上げる。
「ほう。弱体化してなお、空だけは飛べるか」
「当たり前だ。この空は……この宇宙だけは。幼い頃から憧れ、夢見続けた幻想なんだ!」
暗雲を突き抜ければ眩しい太陽が暖かく照らし、白く大きな雲が幾つも浮かんでいる中。
追い掛けて来る相手目掛け、口から青い光弾を何度も撃ち出す。貴紀は両腕を足へ向けて伸ばし、加速。
光弾が軽く追尾してくるも、幼き日より夢見て憧れた空を縦横無尽に飛び回り、避け続けながら吼える。
「ハハッ。久しいなぁ、懐かしいなぁ! お互い今の姿で再会した時、初めて殺し合った時! こうしたっけかぁぁ!!」
「俺は此方へ戻る気はなかった。なのに、お前がダチの家族を喰いやがるから!!」
「関係ネェ。どの道、俺達は此方側へ巻き込まれる。何せ……俺達三人は、禁断の果実を喰ったからな!」
緋色の光刃と青い光弾が飛び交い、互いに避けながら更に高く上昇。
高速で飛び上がる体験から当時を思い返し、懐かしみつつ話し掛ける。
「宿主様、そろそろ成層圏が近い。スーツも限界だ、凍り付いて来やがる!」
宇宙へ近付く程空気が薄く、成層圏より下の為、気温はマイナス五十六度に低下。
黒いパワードスーツの様々な箇所が急速に氷付き始め、バイザーも北極より寒い急激な温度変化と状態異常を表示して知らせる。
寒さと吹き付ける風に伸ばす手は震えるも。ベーゼレブルの左足を力強く掴み、一本背負いのやり方で地上へ投げ込む。
「こうなりゃあ、テメエもッ……道連れだ!」
(畜生っ。スーツが凍り付いて……動け、ない)
長い尻尾が首へ素早く巻き付いた瞬間、ベーゼレブルとパワードスーツが完全氷結。
浮力を失い、重力に引かれて二人は地上へ急速降下。
超高々度から地面へ激突後、音が響き少し遅れて衝波が兵士達へ吹き付ける。舞い上がる土煙の中から這いずり出てきたのは──
「ヤベェな……これ以上の戦闘は宿主様と俺、二人分の魔力じゃ持たねぇ」
「てかなんだ、このパワードスーツは。消費魔力の燃費悪過ぎんだろ」
パワードスーツの燃費に文句を述べる貴紀達。
勝った。あの悪魔を、オメガゼロ・エックスが勝利し倒したんだと、兵士達の表情にも喜びの笑顔が広がる。
だが……土煙の中から勢い良く飛び上がり、力強く羽ばたき相手を見下ろすベーゼレブルが見えた時、希望は一転して絶望へ変わった。
「凍り付いた時、一瞬ヒヤッとしたが──残念だったな」
なんと……悪魔は生きていた。
激突時に砕け、欠損した左足や右腕も根元からイモリやヒトデの如く生え、右半分が無くなった顔も徐々に再生し始めている。
兵士達は今、やっと理解した。
この悪魔を放って置けば、いずれ誰も倒す事の出来ない究極生命体となり、世界中へ牙を剥くと。
「一応言っておくぞ、人間共。俺はテメエ等がこの先引き起こすであろう大厄災、その一つに過ぎん。そして今まで影で被害拡大を防ぎ、解決して来たのがソイツ……オメガゼロ・エックスだ」
兵士達は驚愕の事実に、大層驚く。
この悪魔が自分達、人類がこれから引き起こす大厄災の一旦に過ぎない事。自分達が知らぬ存ぜぬを決め込んでいる最中、解決していた存在の事実。
更には守護してくれていた者を欺き、蔑み、裏切り、家族の命を奪った先祖達の事を知る。
「これで終わりだ。最大の好敵手にして宿敵。そして|my dear frien《親愛なる友》」
「ヤベェぞ、宿主様。今、あの攻撃をマトモに食らったらお陀仏確定だ!! それに今敗ければ、また故郷を失っちまう!」
「故郷……!!」
喋りつつも口を大きく開き、青色と赤色が入り交じる火炎球へ力を注げば、別れの言葉と共に未だ這いつくばる貴紀へ狙いをつける。
威力はおおよそ敗北するには十分。
今回敗北すれば、再び故郷を失ってしまうと言う言葉に反応し、今は亡き故郷を思い出し立ち上がるも。
連続して放たれた火炎球は、狙いから少し外れて周囲へ命中。
燃え盛る爆炎が退路を少しずつ塞ぎ、遂には中央部分へ何度も命中し、大爆発を引き起こした。
次回の更新予定は早ければ、6月3日を予想しております。
遅くとも6月10日には更新しますので、お待ちください。
更新時刻は何時もながら日曜日から月曜日へ日付が変わった0時~2時までには、チェック等を終わらせれていると思います。……まあ、後日に誤字脱字を見付け、訂正する事もあるのですが……
 




