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ワールドロード  作者: オメガ
四章・just believe in your eyes
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ハーゼンベルギア

 『前回のあらすじ』

 冬島に在る仮拠点へ戻り、パワードスーツに入る事で自由に動ける体を一時的に得るも。

 ヒステリックを起こした琴音や、何故か居るリバーサルから幾つかの情報と、ゼロ達の救出作戦を聞き出す。

 青き龍神族の王族・大空遥は自ら冠を捨て、付いて行く事を宣言。

 戻る最中、暗い様子のヴァイスを発見。されどその様子はおかしく、指先から触手が生えていた……



 ヴァイスの右人差し指から現れた、見覚えのある触手……それは、融合神・イリスのモノ。

 されど、此方に襲い掛かって来る様子は一向に見受けられない。寧ろ──

 人懐っこい犬や猫の様に、伸ばした触手で此方の匂いを嗅ぐ仕草をし、額の眼に触れ……っ!?


『何故だ……?どうして、お前が……!!』


 触れられた触手を通し、直接流れ込んでくる──誰かの記憶。

 手を伸ばして泣き叫ぶ程に悲しく、胸を張り裂かん程の苦痛が幾度も走る。

 惚れた人に置いて行かれた深い絶望と孤独。何の相談も無く行った事へ対する、破壊を促す憤怒。

 愛した人に親しく寄り添う、黒い影。それが嫉妬を産み、深い愛情と激しい嫉妬で狂気に染まる心。


『何故だ……何故私を置いて行く?!────!!私も、私もお前と一緒に……!』


 去り行く紅い影に付いて行く、黒い影。待って欲しい、一緒に連れて行って欲しい。

 そう手を伸ばす彼女は取り残され、後ろに居る七つの黒い影により、強制的に連れて戻された。


『見付けたわよ。────!!』


『君は、誰だ?』


『ッ……!!そう、それなら……アタシの愛で、思い出させてあげるわ!』


 気が遠くなる時を越え、再び出会えた愛しき人。されど見付けた相手は、その人を覚えていない。

 噴火寸前にまで上昇する怒り。あの時に見た影が、何かしたのではないのか?

 だからこそ──あの方を想う深い愛で、思い出させてあげたかった。そんな想いが、溢れてくる。


「自分達の記憶……ではないな。誰の記憶だろうか?」


「これは多分、ハーゼンベルギアの記憶ね」


「は、ハーゼン……ベルギア?」


 誰の記憶か分からず、胸元で腕を組み考えてたら──突然後ろから声を掛けられ、振り向けば。

 其処にはサクヤの姿が。身近に居ないのに、どうやって心層世界に入って来たのやら……

 その上、ハーゼンベルギア──とか言う全く知らない名前を出されても、正直リアクションに困る。


「ハーゼンベルギア、無月闇納の本名よ。彼女は運命の人を探してるの」


「運命の人?それって……自身が結婚に求める条件を全て満たした人の事?」


「それは結婚出来ない愚か者が求める、身の丈に合わない相手の事よ」


 話を聞く限りだと、闇納の本名はハーゼンベルギア。運命の人を探し求めているそうな。

 と言う事は十中八九……先程見た記憶にある、紅い影を意味しているんだろう。

 じゃあ、闇納を連れ戻していた七つの黒い影は……飛び散った闇の欠片?

 でも──紅い影とそれに付いて行った黒い影を含めたら、欠片の数は九つになるんだが?


『其処か!!────!』


「ハウッ?!」


 疑問を解決しようと悩み始めた途端。氷の如く冷たい何かが、首に素早く巻き付いた。

 確かにそれは凍える程に低温だが……ソレを掴み触れた感触は、何処にでもある薄い布と同じ。

 けれど……持ち主の意思に従うかの如く、一向に引き剥がせない!このままじゃ、精神が……壊される。


「っ!!ハァ、ハァ、ハァ……た、助かった」


「……成る程。貴女は、そう言う事なのね」


「いやいや──自分にも分かる様、説明してくれんか?」


 眼前を黒い刀身が通り過ぎた途端。呼吸が楽になり、首の骨が折れそうな痛みも収まった。

 前方には黒い刀を持つサクヤが、仇でも視るような……殺気に満ちた鋭い眼で、相手を睨む。

 助けてくれたのは嬉しいし、有り難い。でも、説明の一つもないのは──ちょっと……


「簡単に言えば、私が倒すべき宿敵──って事よ。貴方とベーゼレブルが宿敵同士なのと、同じくね」


 その言葉だけで、大体分かった。乗り越えるべき壁、悪夢の一つなのだと。

 だからこそ。邪魔にならないよう、二歩三歩と大きく後ろへ下がり、二人の戦いを観戦する。

 勿論、必ず手助けが必要と判断すれば、反則だろうがなんだろうと、割って入る気だ。


「来なさい。私の悪夢。何度蘇ろうと、思い出に送り返してあげるから」


『何故だ……何故お前はゴミ共が謳う偽りの奇跡()を信じ、身命を賭してまで……!!』


「……やっぱり、私は眼中にすら無いと。そう認識している訳ね!!」


 とても、不思議な光景だ。過去の闇納……ハーゼンベルギアにサクヤの言葉は届かず。

 彼女は自分を一点に見つめては何故だ?と訴え掛け続け、サクヤのヘイトを買うばかり。

 本当に……不思議だ。ハーゼンベルギアの言葉には、恋人を案じる慈しみが感じられる。


「それならっ!!」


『その結果!!闇であるお前は光を手に入れ、私達と敵対した!』


 先手必勝。飛び込んで斬り込む──も、斬ったのは(くう)。ならば、何処へ行ったのか?

 辺りを見渡す自分達を嘲笑う……違うな。己が主張を訴え掛ける為。

 灰色の雲が幾つも漂う空から此方に飛来し、股がる形で押し倒され、両手で首……をっ!?


『何故……お前は偽りの奇跡、偽りの愛で強くなれる?!愛を求めた末に裏切られ、絶望するのに!』


 首を絞める力が突然緩み、頬に当たる感触を確かめるべく目を見開けば……

 ──ボロボロと泣いていた。人間の言い謳う愛や恋、絆。

 それを後押しする静を力に、自分は何度も助けられ、強くなった。

 確かに裏切られもした。その理由は、仲間達によって疎らだがな……


「恋や愛も冷めるし、絆だって何時かは切れる……」


『だから私も──』


「だから己の魂を光と闇、人間の三つに分けた。人類は本当に……守る価値があるかどうかを知る為に」


 恋は三年、愛は四年。それが二つの賞味期限。絆だって……ちょっとした喧嘩で途切れてしまう。

 この声が君に届いているかは知らない。だから、これはただの独り言に思ってくれても構わない。

 光がアダム、闇にディストラクション。未知の人間を自分が担当し、各々世界を見て回った結果。


『人類は人外も含め、根絶すると決めたの!何度やり直させても、破滅へ向かう人類を!!』


「人類は人外を含め、破壊すると決めたんだ!破滅へ向かう人類を救う為に!!」


「このっ、退きなさい!」


 奇しくも自分とハーゼンベルギアの言葉は、途中までは似ていた。

 人類は自分が守る程の価値は無い。だからこそ、人類は自らの手で守り抜かなければならない。

 星も命も、何時かは尽きる。だからこそ……あれ?だからこそ……何だ?自分は何を口走っている?

 彼女の背後から振るうサクヤの刃が首を捉えた──筈が、ハーゼンベルギアは既にサクヤの背後に。


『そう……それじゃあ、()し合うしかないわね!』


「違う………っ?!お前達は他者を恐れ、何よりッ!自分自身から逃げ出しているだけだ!!」


 不思議と口が動き、言葉を発する。彼女が振り返ると、その右手には青白く光る布を持ち。

 鞭の代わりにと執拗に振り回しては、言葉を遮るように打ち付けてくる。


「どうして、私の攻撃が当たらないの?!」


『裏切りの愛、我が儘な恋、途切れ易い絆。そんなモノ──信じるに値しない!』


「サクヤ!!」


 自身の刀を見ながら、何故当たらないのか?酷く焦った様子で、その答えを思考する中。

 ハーゼンベルギアが、今まで眼中にも無かったサクヤの方に振り向けば。

 青白く光る布を刀身の様に真っ直ぐ伸ばし、振り向き様に心臓を突き刺す勢いで腕を伸ばす。


『──!?』


「どう……し、て?」


 走っては間に合わない。援護や防御も追い付かない。ならば……と。

 瞬間移動で二人の間……一メートルに割って入り、必殺の一撃を左胸で受け止めた。

 互いの身長差もあり、心臓には刺さっていない。傷口から光が漏れているが、関係ない!

 驚愕する二人を他所に、自分の左胸を刺している右腕を力強く掴む。


「光であり……っ、闇。良いも悪いも全部引っくるめた総称が──人間だ!」


 そう。不完全であるからこそ、進化の道がある。個で完全なモノ程、進化は存在しない。

 Nobody's(完璧な) Perfect(人間はいない)。行動理由や根元なんぞ、純粋な欲望だ。

 其処に心や思考が入り交じり、身勝手に作った善悪が生まれる。命とはそう言うもの。


「サクヤ!!やるなら今だ!」


「──!!……分かったわ。月影流剣術!」


 残る腕も離れない様に掴み、動きを固定。呼び掛ければ此方の意図を理解。

 一度目の跳躍で此方の右肩を踏み、二度目で自分達を飛び越す形で更に跳び。

 ハーゼンベルギアを、頭部から股下まで一刀両断。直ぐに立ち上がり、白い鞘に刀をゆっくり戻す。


「右翼……半月」


『──ッ!?』


「最後に……言うんだ」


 刀が鞘に収まり切った音が響いた直後、ハーゼンベルギアに縦一閃が走り。

 自分から見て左側が半月の紋様に消え、右側は暗闇に消えた。……どう言う技なんだろう?

 それはそうと、サクヤは技を決めた後に言う形らしい。これはこれでカッコいい。


『私も…………欲し、かった……』


「考え方一つ、たった一つの行動で──世界は光と闇にさえなるのに」


 後悔して誰かを恨み、行動に移すのも。人助けを良しとして、行動に移すのも。

 たった一つの認識・考え方・言動。それっぽっちで変わってしまう上、後々に後悔する事もある。

 だから──『自分は』人類を守らない。自ら気付き、成長する事を願って突き放す。


「……何も、訊かないのね」


「訳有りなんだろ?別に自分は追求しないよ」


 言う・言わないも自由だ。それが愛の告白にしろ、愛したが故の裏切りを告白するのだとしても。

 自分自身に都合が良いよう解釈し、勝手に口煩く騒ぐ輩も無数にいるんだ。

 秘密は明かさず、秘密のままにして置くのが幸せな事だって、世の中には山程ある。

 そう話していると、天井のスポットライト一つに照らされた舞台から、意識が遠退いて行く……




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