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ワールドロード  作者: オメガ
四章・just believe in your eyes
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ブラックサレナ

 『前回のあらすじ』

 スピラ火山の内部を探索し、サクヤと少し良い雰囲気になったのも束の間。

 仕掛けられた罠が作動!仲間を巻き込まんと突き飛ばし火口へ飛び出せば、熱と負の力を強制吸収させられ。

 肉体は巨大な紅の龍神へと変貌。ゼロ達の協力で外へ追い出されるも、三騎士の襲撃を受ける。

 危機に駆け付けた仲間達と、状況打破の為に動く絆達。彼は留守番組と合流すべく、冬島へと向かう。



 猛烈に吹雪く冬島へ突入し、ドームの内側へと逃げ込む。

 仮拠点の在る神殿に辿り着くと、あちこちに手酷い損傷のあるゼロライナーを発見。

 マキが見たら頭を抱え……って。アイツはもう、終焉側に行ったんじゃねぇか。

 未練がましく、女々しい。そんな事を思いつつ扉を開け……開け……狼の姿じゃ開けれねぇ!!


「ぬし様よ。わっちらが人の姿に戻れば良いのでは?」


「阿呆……雪の降る場所で全裸とか、世間体より先に命が尽きる……」


 愛の言う通りではある。が……このドーム状の結界内と言えど、気温はざっと二度か三度。

 外のマイナスよりはマシだが、此処での全裸は色んな意味で死ぬので、仕方なしに汽車の扉を叩く。

 ……少し間が空き、汽車が揺れる程の騒ぎが聞こえた後──四両車(食堂)の扉が開いた。


「ど、どうぞ」


「先程の大きな揺れを見る辺り、何やら入るのを躊躇ってしまうのぅ……」


「さっさと入れ……これ以上は、私が凍る」


 招いてくれたのは、メイドのヴァイス・アイリス。しっかしまあ──あの揺れは何さ?

 確かに搭乗を躊躇ってしまうものの、自分達の中でも一番寒さに弱い静久は凍る危険性が高い。

 虎穴に入らずんば虎子を得ず……だ。意を決して搭乗すれば、暖かい空気に迎えられ、思わず一息。


「R──予想通りの事態だな」


 そんな自分達に声を掛けたのは、第五の遺跡で遭遇したDr.リバーサル。

 此方の目線に合う様に屈み、そう答えた。ふむ……それは正常か反転か、どっちなんかね?


「パワードスーツに入りたまえ。調整は済んでいる」


「……そう言えば、時を渡って遺跡に飛ばされた時も、動かせてたっけか」


「アレは君が肉体を失った時でも使える様に、設計されているからね」


 軽い説明を受け、言われてみれば……と思い出す。早速言われた通りにする為。

 三両車(倉庫)へ向かい、スーツに入り込めば問題無く動かせたので、四両車へ戻ると。


「ッ!!」


「琴音!貴女、何をしているの!?」


 無言のまま近付いて来た琴音に左頬を強く叩かれ、頭部パーツが外れて床に転がる。

 アイが遅れてそれに気付き、自分を叩いた右手を掴んで問い掛ける。まあ、察しはつく……

 故に、ノーガードで受けた。それで少しでも気が晴れるのなら──と。


「コイツはデトラを……私が愛したデストラクションを見捨てて……」


「今は感情に振り回されてる時じゃない。だから、向こうで休んでなさい?」


 経過がどうあれ、第三者から見れば自分はデトラ達を見捨てた。と言われても仕方がない。

 謝ろうにも、胴体に首や顔も無い。声を発するにも伝える部位が無く。

 アイに連れられ、五両車へと向かう琴音に謝る姿勢を取りながら思う。許されなくてもいい。

 今はただ、失ったモノを取り戻す為の準備が最優先。言葉より結果で示すのが一番だろう。


「女性にしろ男性にしろ、ヒステリックとは怖いものだな」


「わざわざそんな事を言う為に来た訳でもあるまい?」


「うむ。では、本題を話そう」


 確かに男女関係なく、ヒステリックとは怖いものだ。が……本題はそうではない筈。

 リバーサルも納得した様子で頷く。ヴァイスが拾ってくれた頭を直しつつ、聞いた話を纏めると──

 五番目の第三装甲が完成。ネバーランドから漏れ出す影響が強まった為、位置を把握……らしい。


「そんな事よりも、自分は──」


「失ったモノを取り戻したい。それは理解しているし、多大な危険を孕むが……方法もある」


「リスク上等。早速実行に移したい」


「承知した。が……如何に早くしても、明日の朝まで準備時間が必要だ。今は心を休めてはどうだい?」


 言い出した言葉を理解し、話しはスムーズに進む。話しだけは……な。

 仕事も料理も、準備八割作業二割と言うが……管轄外の準備や作業は待つ他ないのが現実。

 確かに今日は色々とあり過ぎた。マキが闇の欠片のマキナ、ルージュがサクヤで無月闇納も復活。

 そんな事を思い出しながら、夜を迎えた冬島での仮拠点。神殿の周りを気晴らしに見回っている。


「やはり──待つしかない。と言うのは、とても辛い……ですね」


「何度味わっても、慣れない感覚だよ。この気持ちは」


 その道中。淡く光る桜の木へ祈る様に屈み、ポツリと呟く……青の龍神族の長・大空遥。

 その呟きは何故か、自分に言っているんじゃないだろうか?そんな感覚に襲われ。

 思わず返答してしまう此方に気付いたのか。ゆっくり立ち上がっては自分を優しく見つめる。


「ブラックサレナ」


「えっ?」


「この花の名前です」


 更に呟くので思わず聞き返すと──左腕で抱えた花束から一本の花を取り出し、そう言った。

 ブラックサレナ……黒百合の別名、だった筈。花言葉は確か、恋と呪い。

 花束をよく見てみると花の種類は全て疎らで、統一されていない。


「命とは、恋し愛して子孫を残すモノ。その過程で嫉妬や怨みから、他者を呪うモノもいる」


 隣の芝生が青かったり、暴走した妄想から誰かを恨む事も多々ある話。

 その話とブラックサレナに、どう言った関係性があるのだろうか?


「その鎧に巻き付く鎖の正式名称は──ブラックサレナ。貴方に恋をし、呪いで黒に染め直す禁具」


「この鎖が……ブラック、サレナ」


「貴方を縛る恋心でもあり、貴方の命を繋ぐ呪いでもある。私の高祖父(こうそふ)から聞きました」


 パワードスーツに巻き付いている鎖の正式名称を言われ、思わず触ってしまう。

 呪いで黒に染め直される前、このスーツはどんな色をしていたのだろうか?

 どうやら遥は、この話を三代前の父方から聞いたそうな。龍神族で三代前となると……相当昔だな。

 そんなこんなを考えていたら、満月の月夜から雪が降ってきた。


「雪が降ってきたか」


「これもまた、運命……ですかね?」


 聞かれても何がなんだか分からない為、何も答えられなかったのもあるが。

 月明かりに照らされ、舞い散る桜の花弁と降り注ぐ雪と言う、幻想的な遥の姿に釘付け。


「私は此処に告白します。私、青空遥は──王族の冠を脱ぎ捨て、貴方様に付いて行く事を」


 静かな深呼吸の後。花の種類が異なる花束を此方に差し出し、胸の内を告白して来た。

 嬉しさもあれば、申し訳なさもある。けれど……外の世界を知らない鳥籠の中の鳥が求めるならば。

 連れ出してやるのが、ワールドロードとしての務め。例え今は、ごく少数ずつだとしても。


「君がこの異変を戦い抜き、その上で求めるのであれば──受け入れるよ」


「必ずや戦い抜いて見せますわ。遥か先に生きる、龍神族の為にも」


「そうか。なら、自分がこれ以上言う事はない」


 試す意味も含め、仲間入りの条件を伝えるが……青い瞳に宿る決意は揺るがず、前を向いている。

 その理由は彼女が言う通り、同族が迎える未来の為だと痛感し。花束を受け取った。

 過激派として外に出すのではなく、他種族と手を取り合う友人として外に出す為だとも。

 その為に王族たる自身が(身分)を捨て、一つの命として世界を知り、情報を持ち帰るのだと。


「改めて言わせて頂きます。|Close To You《貴方の近くに》……と」


「……そうは言ってもさ。自分は──」


 懐に飛び込まれ、離しません。と言わんばかりに抱き締められたんだが……

 自分が使っていた体は、本来はゼロの体。つまり、遥が惚れているのも──あの体と顔。

 幾ら好意を向けられても、その好意は自分には向いていない。

 故に自分は彼女を両肩を掴み、本当の事を伝え引き離そうとした時……


「知っております。貴方の魂と、肉体が別人である事も含めて」


「それなら尚更」


「私が惚れたのは──貴方様のあり方、魂が持つ輝き!肉体云々の話ではありませんわ……」


 隠していた秘密を知ってなお、惚れたのは肉体ではなく、内面だと言われ……涙ぐみ。

 引き離すのでは無く、遥を強く抱き締めていた。自分と言う存在を受け入れてくれた喜び。

 今までの行動が、報われたかと思う幸福感が心を潤し、満たしていた。


「琴音様も、気持ちのやり場が無かったが故、あの様な行動に出たのだと思います」


「頑張りは認めてる。けど、惚れた人を置いて来た事への怒りが……か」


 愛するが故に──って話か。助けに行けなかった後悔、置いて来た相手への怒り。

 愛すると一言に言えど、愛し方を間違えればプラスもマイナスになる。それが当たり前。

 例えば子供や恋人を失えば、奪った相手やモノへ対し憎しみや恨みを持つ。それと同じだ。


「ありがとう、遥。お陰で明日の作戦は、心置き無くやれそうだ」


 感謝の言葉を向けると──「命は一つじゃ、生きて行けませんから」そう返され。

 融合神・イリスを思い出す。アイツは完全無欠の生命体になる可能性を持っていたが……

 同じ思考、同じ情報体だけで、全てを吸い尽くした世界で生きて行く気だったのだろうか?

 そんなつまらない世界を生きて、悲しくないのだろうか?そんな疑問が浮かんだ。


「夜分遅く、失礼致しました。それでは、私はこれで」


「あぁ。可能性は低くとも、過激派の侵攻には注意しろよ?」


 お互いに離れた後、遥は頭を下げて来た道であろう方向へと帰っていった。

 自分も明日に備え、遥とは別の来た道を戻って行く最中……深く俯き、立ち尽くすヴァイスを発見。

 その右手には、黄色と紫の花束があった。恐らく花の種類は──クロッカス。

 全体的な意味は青春の喜びと切望。紫が愛の後悔、黄色は私を信じて……だったかな?


「ウチ、何の役にも立ててへん……」


「ヴァイス……ッ!?落ち着け、ヴァイス!!」


 その言葉から、先程のやり取りや一部始終を見られていたのでは!?と、脳内予測が飛び交う。

 いや、今は脳味噌も無いけど!!って、言うてる場合か!慰めようと肩に触れた時、見てしまった。

 立派に咲いていた花束が急激に萎れ、枯れて行く光景を。もしかしたら、これがヴァイスの能力?!

 危険を感じた自分は彼女の肩を掴んで揺すったり、何度も呼び掛けるも──彼女は俯いたまま。


「……ヤッベ。もしかしたら、肉体を取り戻す前に消滅するかも」


 死のイメージが見え、慌てて大きく距離を取る。すると、ヴァイスの義手。

 その人指し指が割れ、中から見覚えのある触手が姿を現した。いやいや……マジっすか?





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