闇の罠
『前回のあらすじ』
遂に始まる、融合四天王・トリックのネバーランド計画。
それを知らせる様に、大きな地震が四季の大陸を揺らす。仲間を三人連れ、スピラ火山へ。
ベーゼレブルは最悪の展開を危惧するも、それ以上の大切なモノがあると言い、不安を払拭する。
再び揺れが一行を襲い、火口へ転落したルージュを追って自ら飛び込み、ガジェットで一命を得た。
火口に落ちたルージュを助け、火山内部から脱出すべく探索する自分達。
流石に活火山なだけあり。空気を吸うだけで喉が焼ける様に熱く、熱気で肌もチリチリと痛い。
頬を滴り落ちる汗は足下に落ちるや否や、直ぐに蒸発。十中八九、予想以上に時間は無い。
「……ゴメンね?ボクがもっと後ろに居たら、火口になんて落ちなければ……」
「気にしな~い気にしな~い。下手に話すより、出口なり手掛かりを見付けよ?」
たられば……と謝るので、気にしない様促しつつ、当初の目的を探るべく、歩を進める。
自分だって、飛び降りなくても済む方法は幾らでもあった筈なのに、飛び降りてしまった。
そう言う意味ではお互い様だ。にしても……本当に暑い。今静久を呼び出しても、焼け石に水。
自分一人が助かっても意味がないので、霊力で四角形の結界を張り、外と温度を遮断。
「……ねぇ、一つ聞いても良いかな?」
「何だ?」
「どうして、怒らないの?」
空気が変わった事を察してか、疑問を投げ付けて来た。何故怒らないのか?
その意味はきっと、先程の件だろう。軽く溜め息を一つ吐き、歩きながら答える。
「間違いを自分で責めてるのに、他人が追加で責め立てる必要はないからだ」
追撃を行う程怒ってもいなければ、ストレス発散の意味で責め立てる気もない。
それに、そうなる程感情が暴走してる訳でもない。変に責め立てると、心は疲弊し、壊れてしまう。
「君やサクヤがどう思ってるかは……分からないけど──おわっ!?」
「ま、また……地震?!」
頻度が早くなっているのか?三度目の地震が発生。
地形的に四つある四季島の中央にスピラ火山が在る為、震度は何処の島に居ても一緒。
前回と今回は震源地と言う事もあり、揺れが他よりも激しく、二人揃って転けてしまった。
「……普通、こう言うのは男女逆じゃないか?」
「うん。普通は──ね?」
転けた際に自分が下、ルージュが四つん這いの体勢で上と言う形に。
ちょっとした疑問を言ってみると、彼女は微笑んで肯定した後、光に包まれ弾けた次の瞬間。
「私としては、こう言うのも好きよ?」
「あ~……うんまあ、サクヤは受けより攻め派だからな。そうだろうよ」
「チャンスは掴む主義なの。私はね」
ルージュからサクヤに交代。それに伴い、控えめな双子山から、豊満な山へ早変わり。
顔も幼さは消え、整った顔立ち。黒を基調とした動き易いドレスは、彼女の抜群なスタイルを強調。
近付いてくる顔。美しくも黒い瞳に覗き込まれ、鼓動がより一層力強く、激しく動く。
(抱け、抱け、抱けぇー!!抱いて抱いて抱いてセニョリータ!だぜ、宿主様)
(それを言うなら、シングルベッドで夢とお前、抱いてた頃じゃないの?)
(オ前ラ……二人ノムードヲ壊シテヤルンジャナイ)
ゼロや霊華もネタと選曲が古い。そんでルシファーの言う通り、ムードを壊すんじゃない。
此方の状況を知ってか知らずか、クスクスッと小さく笑い──「続きは、またべつの機会にね?」
サクヤはそう言うと自らの唇に人差し指を当て、その指で此方の唇をタッチしてから立ち上がる。
起き上がり易い様に右手を差し伸べてくれ、手を取り起き上がるが……さっきので鼓動が異様に早い。
「っ!?」
「ど、どうしたの?!」
手を繋いだ途端に鼓動が早くなった理由を、即座に理解する。確かに好意はある──が。
これは、それだけじゃない。心身にある別々の力が何かに強く反応し……上手く、制御、出来ない!!
熱くて息苦しくて、立っていられない。足下に座るも、サクヤは状況を理解してないのか。
手を離す様子がない。理解した……自分の心に、外から無理矢理干渉し乱す──っ!!
「サクヤっ……すまん!」
それだけを伝えて突き放し、コートを脱ぎ捨て火口へと向かって駆け出せば、溶岩の上へ飛び出す。
直後──スピラ火山に蓄えられた、大量の熱と負のエネルギーがこの体目掛けて侵入してくる。
暴食・苦痛・絶望・憤怒・孤独・嫉妬・狂気……満たされず、哀しく、怒り、悔しく、心砕けて狂う。
(シマッタ……!!コノ火山ソノ物ガ、王ヲ誘イ込ム為ノ罠ダッタノカ!)
(それ、どう言う事よ!?)
(早イ話、スピラ火山ヲ負ノエネルギータンク化。誘キ寄セ、王ヲ闇ノ勢力ニ塗リ替エル作戦ダ!)
意識が呑み込まれて行く中。ルシファーの話を聞き終えた直後……体の自由が全て奪われた。
呑み込まれても意識はある、声も聞こえるし周りも見える──が。
(ゼロ!霊華!ルシファー!!)
(貴紀とのコンタクトが途絶えた以上、私達で何とかするしかないって事ね)
幾ら叫んでも、手や声は届かない。それが余計に孤独と絶望を生み、寂しさが……苦痛な程に辛い。
故に触れ合える存在に憤怒を覚え、餓えと渇きを満たそうとする激しい気持ちが心を狂気で蝕み。
羨む想いが嫉妬を生んで、自身が持ち得ないモノを持つ他者を暴食のままに喰らい、満たしたい!
(バァ~~ッカ。テメェの名前と意味を、そんな事で汚すんじゃねぇよ!宿主様)
(その通り。これは今まで、お前に受け止めさせた来たモノ。今度は俺達が受け止める番だ)
(ゼロ……デストラクション!!一体何を──)
青空へ急上昇しながら、体が人の形状を捨てて巨大化して行く。皮膚は紅く分厚い鱗に覆われ……
腰から太い尻尾、背中からは大きな翼。西洋の竜を思わせる──紅の龍神族の竜形態へ。
負の感情に全てを呑み込まれる瞬間、二人に背を押され……自分は、紅き龍神の外へ追い出された。
「────!!!」
大陸中……いや、世界中にも轟かんとする咆哮に吹き飛ばされ、宙を飛ぶ。
器から追い出され、今や虹の紫・黄・青を除いた四色に光る球の状態。
龍神形態の方にゼロ達と、デストラクションの系四人を持って行かれた。
「ンはははははは!!!まんまと罠にハマって……ふひひひひひひ!!」
「トリック様の計画通り、私達の仲間へと迎え入れる事が出来そうですね」
「……つまらん」
アレは……魔神王軍の三騎士!!まだ此方には気付いてない様子。
この姿では龍神化に呑み込まれてしまった四人や、サクヤ達を助ける事も出来ない。
大爆笑をするコトハ、満足げなミミツ、何処か不満げなシナナメから気付かれぬ様、離れる。
「後は──完全に侵食が終わるまで待つだけ、ですわ」
「ふひひっ!龍神と友好関係を築いたエルフ族やその宝も、この隔離された大陸には存在しないし~!!」
スピラ火山から離れても、風が三騎士達の言葉を教えてくれるので、本当に有り難い。
侵食が終わるまでの時間は?それに──龍神族と友好関係を築いたエルフ族とその宝?
分からない事は沢山あるし、サクヤの事も心配だが、今は……
留守番組と合流して、器を探さなくちゃ──そう焦ってたら光球から四つの光が飛び出した。
「そう言う事であれば、火山の方は私にお任せ下さい。マイマスター」
「なら、僕は使えそうな器を探して来ようか。アレを止めるなら、幾らか大きめが良いね」
「蛟。わっちらはぬし様を連れ、汽車で待っておる留守番組と合流するぞ」
「異論はない……さっさと行け」
赤・橙・藍・緑の光は紅絆、天皇恋、賢狼愛、天野川静久……各々種族時の姿を取り。
自分の願いを叶えようと、それぞれ動き出してくれた。信じるんだ、彼女達を!
待っている愛に入り込むと、冬島へと駆け出す。あの地は寒いが、狼形態なら行けるだろう。
「おい、聞こえるだろ?テメェの宿敵、ベーゼレブルだ」
風が運ぶ声に、ベーゼレブルの呼び掛けが混ざる。けど……これはどっちに言ってるんだろうか?
大空で今にも暴れだしそうな龍神形態の方……だよな?アイツ、今の自分は知らない筈だし。
「悪い。コイツは俺の計算ミスだ」
「これは……私達に話し掛けている」
「故に、テメェが戻ってくるまで──三騎士の妨害と、龍神形態のテメェを食い止めてやる」
直後、軽い謝罪の言葉と共に償いとして、戻るまで持ち堪えてくれると言う。
かなり……いや、凄い無茶を言い出した。だけど、今は──信じ、頼る他ない。
太陽に蹴り込んでも死なない野郎だ。その根性と不死だけが頼りだ。任せたぞ、ダチ公!
「くひひっ!アンタの力に」
「私達が気付かないとでも」
「思ったか……?」
マズイ、此方の位置がバレてた!気付けば奴らは全力ではないとは言え、愛の背後に近付き。
大筆、影の鎌、刀が迫って来た!今から全速力で飛ばすには、タッチの差で僅かに足りん!!
「おぉっと……それは俺の立場でも言える事だぜ?」
そんな時、三騎士の背後から首に鎌を当てる死神、泥の大蛇、笑う黒い顔を感じた。
横槍ならぬ泥水の噴射を受け、コトハは大筆諸共押し飛ばされ、隣の二人へ。
ミミツに当たるも、やはり影故にすり抜けてシナナメへ筆先が向かう。も──これを刀で弾く。
「静久の邪魔……させ、ない」
「アンタは、トリスティス大陸に居た──詠土弥!」
「影の魔女。そんなに影が好きなら、アンタを影に縫い付けてやる!!」
「そんなモノ……う、動けませんわ!?」
危機に駆け付けてくれた、宿敵と仲間達。行方不明になってた詠土弥はコトハと対峙。
闇を操る人喰い妖怪の桔梗はミミツに匕首を三本投擲。影縫いで身動きを完封。
は、ははは……自分が苦戦した三騎士の内二人に、優位に対抗してるよ。
そう言えばユウキも──「戦闘は相性と条件で優位不利は覆せる」と言ってたな。
「逃がさない……っ!!」
「良い眼をしてるぜ。俺の獲物にして、唯一無二のダチ公に目を付けるとはな」
最後の一人にベーゼレブルが立ち塞がり、足止めをしてくれた。よし、これで引き離せる!
首に巻き付く静久を連れ、全速力でこの場を駆け抜ける愛。ものの数秒で冬島側へと近付けたか。
「アイツを鍛えるのは良い。だが──奴の命は誰にもやらん。約束の時を迎える為にもな」




