紅貴紀
『前回のあらすじ』
デトラは過去の記憶を見ていた。自身ら七名、終焉の闇が人類を救済する為、計画を練っていた。
最悪な道を辿る人類。それを覆すべく親友・ドゥームとの約束を果たす為、組織を裏切った頃の記憶。
────も、同じく過去の記憶を見ていた。それは、ゼロと初めて遭遇した時のモノ。
失ったモノを取り戻せ!やら、色々な言葉を投げ掛けるも、当時の彼は言葉の意味を何も理解していなかった。
「それで……何十年も昔の記憶を掘り返す程、お前さんはセンチメンタルな性格だっけ?」
青空側にある荒野のゴミ置き場で、思い出に老けながらゆっくりと振り返り、問い掛ける。
誰に?この世界を、記憶を、自分に見せている張本人に対して。
振り返った其処に居るのは──這い寄る混沌の精神寄生体にして、自分と瓜二つで白い姿のゼロ。
「なぁ~~に、このまま戦っても宿主様は負けちまう。そうなると、俺までおっちんじまうからな!」
「……そうか、すまないな。『お前の体なのに』、毎度毎度無茶ばっかりやってしまって」
茜空側で自分に対して腕を組み、二つの空の境界を眺めながら理由を話す相棒。
自分達は一心同体。もしも器が命を落としてしまえば、中身も一緒に命を落とす。
だからこそ、自分は『この肉体の所有者にして器であるゼロ』に、頭を下げて謝る。
「本当だぜ。でもまあ、毎回スリリングで楽しませて貰ってるけど……って、宿主様?」
「いつまでも、寄生体の真似はしなくても良いんだぞ?正真正銘、本物の──『紅貴紀』」
「はぁ~……いつ頃気付いたよ?」
「いつ頃も何も、ついさっきだ。確信を持ったのも──な」
違和感も感じず、自然に話す中で疑問がふと沸き上がったのだろう。此方に聞き返す。
最後の仕上げに、本名をフルネームで呼ぶ。すると観念したのか、ガックリと肩を落とし。
頭を少し上げ、気付いた時期を訊いてきた。いつから?と言われても、本当に今さっきの出来事。
そう伝えると、自身の顔を右手で顔を覆い隠し、静かに溜め息を吐いた。
「相変わらず確信が持てない限り、あれやこれやとする奴だぜ」
「十中八九。今の記憶や意識が沈没してた頃、過去の記憶を見せてくれたのも──君の仕業だろ?」
次々と理解し、答え合わせを始める自分達。変に状況を混乱させたくない為、下手に喋らない自分。
過去の記憶を色々と見せてくれるゼロ……改め、本物の紅貴紀。
すると、そっぽを向いて左頬を掻き──「オメェが死んだら、俺が外を堪能出来ねぇだろ」
……と、何かツンデレっぽい台詞を吐いた。君、そんなキャラだっけ?
「まあ何にしても。過去を知り、野生を取り戻す事も大事だぜ?諦めずに生きる為にゃあな」
「……何だ。また野草とツクシのスープ生活に戻りたいのか?」
「いや、アレは本気で勘弁だ。まぁ~ッだ、タンポポ珈琲の方がスッと飲める」
野生を取り戻す事も大事だと言うので……水葉先輩に合う前の、サバイバル食事に戻りたいのか?
そう聞き返すも、あの頃の食生活に戻るのは相当に嫌らしい。
「俺の言う挽回とは封印の有無・失った・奪われた力を取り戻す行為」
「それが……あの時の、闇納との戦いで使えた力なのか」
「あぁ。過保護過ぎる大人が子供から奪った遊具、遊び心、過去や未来。特に──アンタは呪いが力となる」
曰く──大人になる過程で失い、捨ててしまうモノ。夢でもあるが、恨みや無念でもあるらしい。
自分が受けた呪いも挽回する事で、夢想の力に変化するそうだ。夢想……無限郷の旅では。
最強フォームの名前で、あの力が無ければ勝てなかった戦いも多い。今回は……使えるだろうか?
子供の命や未来を奪う大人──か。MALICE MIZERの出来事を、嫌でも思い出してしまう。
「俺には相性が悪かったが、アンタなら使える技を教えてやる」
「技?」
唐突に技を教えてやる。と言われ、プロレス技か?と疑問に思ったが……
相性が悪いと言ったのを思い出し、違うと結論。となれば、中距離か遠距離技だろう。
余計な口は挟まず、実践して見せようとする彼の動き、魔力の流れを見る。
「一点に魔力や霊力を集め、ぶっ放す。その名も──虚無!」
「っ!?」
十秒程茜空に向けていた右拳を突然此方に向け、藍色の魔力を撃ち放って来た!!
回避……間に合わん!防御して防ぎ切れるかも怪しい。となれば、一か八かの賭け。
行動を実行し、左手を向けた直後……虚無と言う技が爆発。ワンテンポ遅れ、爆風で外に弾かれた。
「咄嗟に同じ技をぶつけて相殺したか。全く、飲み込みの早い奴だぜ」
相殺した?いや、違う。あの虚無とか言う技……機雷と同じ様に、接触すると爆発する性質がある。
気を付けるのは直撃もそうだが、爆発や爆風による熱量と風圧も相当にヤバい。
「先の戦いでは運良く挽回を使えたが、本来は解除する言葉……解言が必要だ。例えば」
「な、なんだ……この感覚は」
「野生を解き放て!ザ・ビースト!!」
挽回と言う扉、開ける為の解言。それを実際にやって見せてくれるも──
心の奥底から沸き上がる恐怖心。そんな事もお構い無しに、貴紀を中心に嵐と砂埃が渦巻き。
嵐が収まった。かと思えば、その姿は灰色に毛深く、頭には獣耳……まさに獣人そのもの。
恐らく解言で言った、野生を解き放て!がポイントなのだろう。
「って……速い!!」
じっくり観察していたら、獣人化した貴紀の姿が瞬く間に消えた。
感知を使い視線で追い掛けるも──姿が一瞬映ったかと思えば、次の瞬間にはもう居ない。
知覚も反応速度も追い付かない。打撃や斬撃の痛みに気付いた時には、既に次の攻撃が来る始末。
「野生の世界は毎日が生きるか死ぬかの二択!理性で本能を縛ってりゃ、殺して下さいってなモンよ!!」
「っ!!言いたい放題、言いやがって!」
「ほう。あの二人……ハデにやってるな」
「────……一方的に押されてない?」
四方八方から来る攻撃と言葉。魔力で反応速度や視力を底上げしても追い付けず……
一方的に押されている。コートはボロボロ、肌も鉤爪の痕が生々しく残っている。
チラッと声が聞こえたが……ルシファーと霊華も此処へ来てるのか。別の場所で待機してると思ったが。
「アンタも使えよ。挽回をよぉ!但し、解言をキチンと言えなきゃ、挽回は使えねぇがな!!」
「その解言がっ、分かんねぇっつうのに!」
挽回の使用を勧めて来るが……一番肝心な解言が分からんのだ。鍵が無くては解除も出来ん。
左足に鉤爪の一撃を貰ってしまい、力が入らず地に膝を着けた時。
観戦する二人の言葉を思い出した。夢に想い描き、想像に創造を重ねて現実を凌駕し、顕現させる。
恐らく……俺だけの解言は、きっとアレに違いない。右手を前に向け──叫ぶ。
「挽・回!!」
同じく砂嵐が吹き荒れ、弾け散る様に収まった。自分の姿や手に持っている物を改めて見ると……
服装は道化師、右手にはフラフープが一つ。頭には小さな冠。
いや……どう言う事?これが自分が失い、取り戻すべきモノ──と言うのだろうか?
別にピエロになりたいとか、一度も思った事は無いんだがな。
「霊華。あの姿……どう見る?」
「どう見るも何も。ただのピエロだし、武器と言う武器も無いわね」
「油断はしねぇ。何せ、アンタは俺の目標だからな!!」
せめて、盾位は欲しかった。飛び込んで来た貴紀に、フラフープの面を向けて回避しよう。
そう思い実行に移した結果……彼はフラフープの面に呑み込まれ、姿が消えてしまったではないか!
予想外も予想外な出来事が起きてしまい、自分自身でも困惑中。
自分で面を触って見るも、すり抜けるだけ。右ポケットの中で暴れる何かを探すと、小さな玩具の樽を発見。
「これ……黒ひげ危機一髪の樽か?」
もう一度探って見たら、玩具の紅い剣が出て来たので樽に差し込む。
すると樽はドンドン大きく膨れ上がり、慌てて足下に置き離れると──小刻みに震え、何かを噴射。
空へと打ち上げられた何かは、花火の如く弾けた。……のだが、真っ黒な煙と共に何かが落下。
「こ……攻撃が、全く見えなかった、ぜ……」
「恐らくその挽回は道化師の夢、なのだろう。攻撃じゃなく手品だから、読めないのは明白だ」
「ルシファー。これが……自分が受け入れた、誰かの叶えられなかった──夢」
「攻撃系もあれば、こう言った攻撃以外もあると。上手くコントロール出来れば、役立ちそうね」
攻撃では無く、手品──成る程な。武道の達人は攻撃は見切れても、こう言った手品は対象外と。
上手くコントロール出来るかは兎も角。この呪いを使いこなせれば、戦術も増えるかも!
まあ、ただ……自分でも予期せぬ事に繋がるのは、ちょっとどうかなぁ~?とは思うけどね。
「何はともあれ……だ。挽回は誰でも使える訳じゃねぇ。一定以上の経験を積み、力を兼ね備えた奴だけだ」
「本当はもっと早く教えたかったんだけどね。安全性も考慮して、沢山経験を積んで欲しかったから」
「まだまだ未知数だからな。今はまだ、一時間に一回だけ使って慣れるべきだ」
黒い炭が剥がれ落ち、貴紀が立ち上がる……今まで自分がそう呼ばれてたからか、違和感が凄い。
取り敢えず、挽回の力は誰でも使える訳ではない。使える様になるには、沢山の経験が必要。
そりゃまあ、爆弾の使い方も知らないのに、爆発物を持たせるのは……なんかありそう。それは兎も角。
少しずつ、確認しつつも慣れて行こう。トリック達を止める為に、使えるかも知れないし。
「修行と話は済んだな?それじゃあ、そろそろ目を覚ます頃合いだ」
「忘れんなよ?俺達は、失ったモノを取り戻さなきゃならねぇンだからよ!」
話している内に、少しずつ意識が遠退いて行くのを感じた。眠気に負けて、寝てしまう感覚に近い。
自分達が失ったモノ──それは一体、どんな物なんだろう?それとも、記憶や人物なのか?
あぁ……それはそうと。今現在、ゼロと名乗っている本物の紅貴紀は……これで良いのかな?




