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ワールドロード  作者: オメガ
序章・our first step
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仕組まれた罠

 緑と言う自然がまったく無い灰色の大地の小さな孤島を囲むは、酷く汚染されているのか知らないが、何処までも黒い海。

 空は闇と蝗達で覆い尽くされ、魔法や奇跡等を使わなければ微かな光も無く、抵抗無く闇に汚染された建物や無機物は悲鳴をあげる人間の表情と瓜二つ。

 終焉の地に浸食された機都は薄気味悪い場所と化し、今……一部で連続的な爆発音が鳴り響いていた。


「詠唱無しで火球(ファイヤーボール)の連射とか、ふざけんな!」


「フン。高位の魔法使いともなれば無詠唱、二重魔法(ツイン・マジック)スキルは持っていて当然だ」


(ほう、成る程。ある程度弱い振りをして逃げ回ってるが、色々と喋ってくれるのな)


 魔力を血液の如く体内へ流し込み強化する事で、漸く本来動ける程度には戻るも。

 反撃の隙も与えぬ程に撃ち込まれる火球(ファイヤーボール)から懸命に逃げ回る内、高位魔法使いの必須スキルをポロポロと話してくれる悪魔。


(とは言え、初歩魔法も高位魔法使いが使えば、軽視出来ん威力だな)


「フハハハハ!! 最上位闇魔法・終焉の地が在れば、再び世界を闇で覆う事など容易い!」


(能力大幅低下とゼロは言うが……どちらかと言えば、無理矢理な封印に近い。しっかし、調子に乗った発言がいい加減にウザい)


 本来は拳一つ分しかない火球が、直径一メートルはあるサイズ。火力も高く、初歩、初心者用魔法ではあり得ない火柱を立てる。

 抵抗や反撃も許さぬ現状に、上機嫌な悪魔は次々と喋る反面。自身の体へ感じる違和感に意識を向け、走りながらも。

 スーツ越しに身を縛る上半身の鎖を一つ掴み、聞く調子に乗った発言が酷く耳障りで、苛立ち矢先――眼前へ火球が迫り、眩い閃光と共に爆発。


「直撃したか……っ!?」


「間一髪。約束通り、戻って来たぜ。宿主様」


 舞い上がる爆煙を眺め、手応えを感じていると中から黒く鋭い無数の針が飛び出し、尖った左耳を穿つ。

 繋がりを無くした左耳は地に落ち、青い血が痛々しい傷口から零れ出る。戻って行く針を見れば、其処には黒い壁が貴紀を護っていた。


「ゼロ、ルシファーはどうした」


「機都突入後に別れたままだ。連絡はねぇが、大丈夫だろ」


 今居ない仲間の行方を球体へ戻った壁へ問えば、確信と信頼から今は音信不通でも大丈夫。そう言い切り。

「それに奴が本物のアバドンだとすんなら、アイツも関係あるしな」もしゼロに表情があるとすれば、ニヤリと笑っている事だろう。


「行くぜ、宿主様。反撃開始だ」


「あぁ。やられっぱなしは性に合わねぇからな」


 自身の影へゼロが入り込んだ後、真っ直ぐ悪魔目掛けて走り出す。迎撃にと放たれる紫電を、片手で払い除けながら。


「例え接近出来たとしても、貴様の物理攻撃位障壁で……ぐごっ、があぁっ!?」


 繰り出される右拳を防ぐ自信は十分あった。二重障壁で防ぎ、掴まえて特大の魔法を叩き込むつもりが……

 展開した障壁は二枚とも黒い拳に易々と砕かれた上、顔を力強く殴られて少し怯んだ瞬間。

 腹部への鋭い蹴りが続けて決まり、痛むお腹を押さえつつ、苦痛に顔を歪めて後退る。


「見たか! 俺達は魑魅魍魎(ちみもうりょう)やら幻想種を倒して来たんだ。今更悪魔やら魔王がなんだ!!」


「良し、解析したデータも送られて来た。後は倒すだけだな」


「ぬおぉぉっ!! 今、助太刀するぞぉぉ!」


「機都の兵士長。いいぞ、状況は此方に向いてきている……」


 身体能力大幅低下と言えど、貴紀だけであり、尚且つ現在までの経験は引き継いでいる。

 大半の仲間達は全力が出せる為、連携を組めれば能力差で負けても、ある程度は対抗出来る。

 タイミング良く解析データが協力者・FMより届き、心情ベビドも専用武器・鎖付き大鉄球を片手に駆け付ける。

 戦力的にも勝利を確信した。次の瞬間――――力強く真っ直ぐ投げられた鉄球は貴紀の左腕を直撃し、真横へ吹っ飛ばす。


「チッ。やいやい! 狙う相手が違うだろ!」


「っ……左腕が、動かない……」


 予想外過ぎる出来事に腹を立てて影が人の姿を真似、腕を上げて文句を言う。しかしベビドは武器を構え、此方へ敵意を向けている。

 鉄球が直撃した貴紀は地面を三バウンド。酷く痛めた左腕は糸の切れた人形同様、力無く垂れ下がっていた。


「何も間違ってなどおらん。儂は……孫娘の為、お主と戦うんじゃからな!」


「フハハハハッ!! オメガゼロ・エックス。未だ我が罠に掛かった事に気付かんとは」


「罠だと? どう言う事だテメェ」


(心情ベビド……兵士長、孫娘、終焉、悪魔。そして罠……まさか!)


 狙いは間違えておらず、正体を知らないとは言え武器を構え、貴紀を睨み付け戦う意志を見せる。

 味方だと思っていた存在が敵意を向け、悪魔は未だ罠だと気付かぬ事を笑う。

 何故ベビドが敵対するのか、考える。機都での職業、口にした言葉、誰が相手なのか。そして罠……其処から答えを見出だす。


(ゼロ……“戻ってくるまで”耐え凌ぐぞ)


(何か考えがあるんだな? 判った。俺も一口乗らせて貰うぜ)


 何が、とは言わず“戻ってくるまで”耐え凌ぐ。それに何かしら考えがあると信じ、ゼロは分の悪い賭けに乗る。

 敗ければ滅亡、勝てば大団円。何時、誰が戻ってくるかも判らない。されど貴紀の眼は、信じていた。


「お主に恨みは無いが、これも孫娘の為。せめて一撃で叩き潰してやるわ!」


(鉄球にブースターが複数!? なんてモン使いやがる)


(おいおい、何だよコイツ。自分の手を明かすとは)


 頭上で振り回す鉄球は火を噴き、叩き潰そう振り下ろすも、貴紀は素早く後ろへ大きく下がって回避。

 地面へ激突した鉄球はめり込み、一撃の破壊力と付属品を理解させる……と、同時に疑問も抱かせた。

 何故、わざわざ自ら手の内を明かすのか? 大振りではなく接近し、頭部へ渾身の一撃を叩き込めば良い筈だと。


「これっ、なら、どうじゃ!」


(この感じ……当てる気が無い?)


(おい、宿主様! 上か来るぞ!!)


 回収した鉄球を片手に担ぎ、大振りで何度も殴り込んでくる。

 実戦経験は豊富そうな老兵士長が容易く避けられ、空振りの連続。わざと外している。そんな気配を感じた矢先――

 忠告後、黒い空から自身目掛けて落ちて来た黒いモノ。纏わり付くソレは液体ではなく、気体でもない。

 紅いバイザーが黒くなった後。大慌てで四肢や体から汚物を拭い落とそうとしたり、自ら倒れては何度も右へ左へと転がり回る。


「一体、どうしたんじゃ」


「えぇい……鬱陶、しい!!」


 知らぬ者から見れば、奇行でしかない行為が続いた後。

 千鳥足で立ち上がり体内に魔力を集め、苛立つ声と共に右腕を振るい、外へ勢い良く放出。弾け、ベビドの足下付近へ飛び散ったモノは……空を覆っている異形蝗達の死骸。

 つまり今尚、指揮者の如く腕を振るう悪魔が操る存在こそが、異形蝗達である。


(宿主様。苛立ちの余り声を出してたが、バレたかもな)


(あぁ~……やっちった。って、今度は何だ)


 やってしまったミス。正体がバレたかも、そんな心配を無視する様に。

 パワードスーツへ無数の小さい物が衝突、何かを弾く軽い音が鳴り続ける。飛んで来る方向を向けば――


「兵士長。現時刻を持って、我らも“作戦”へ参加します」


「クッ、フハハハハッ!! 遂には救うべき人間共からも銃口を向けられるとはな!」


「っ……“作戦通り”撃ち続けるんじゃ」


 増援で駆け付けた、機都の銃兵達が銃口を悪魔と戦う此方へ向け、発砲していた。

 とは言え魔法は込められていない、装甲貫通弾でもない為、鬱陶しい以外の外的被害は無い。

 あると言えば……心的被害。悪魔の笑い声が耳障りで、兵士長が叫ぶ声は何処か、心苦しそうに感じる。


(宿主様。耐え凌ぐのもそうだが、何か情報が欲しい。悪魔野郎に仕掛けてみねぇか?)


(そう、だな。手札と情報は多い方がいい)


「仕掛けてくるか。だが、所詮は無意味」


(このタイミングで、情報屋・Mからメールだと?)


 倒すにしても相手の情報が欲しく、攻撃を仕掛けて引き出す為、撃ち続けられる銃弾の雨を真正面から受けつつ駆け出す。

 そんな時、バイザーがメールの受信を確認。同時に文章が頭へ直接流れた途端、四方から蝗達が襲い掛かり、再び纏わり付く。


「無詠唱は詠唱破棄出来る反面、威力は下がる。故に使い分けが必要」


「撃ち方止めい! 一刻も速く離れるんじゃ」


 何重にも纏わり付かれ、大きな球状となり貴紀は身動き一つ取れなくなってしまう。

 悪魔の発言から兵士長は危険を感じ、銃兵達へ発砲の停止を告げ、距離を取るよう大急ぎで伝え自身も距離を取る。


「偉大なる魔王より産まれし神よ、全てを嘲笑い冷笑するモノよ。汝の力の一滴で我を汚染し絶大なる力を与えたまえ……」


「全員、魔力防御壁を全力展開せい。急ぐんじゃ、遅れれば死ぬぞ!!」


「スキル・魔力解放。混沌に消えよ、オメガゼロ・エックス! ボルテックス・カオス!!」


 呪文を唱える“詠唱の長さ”から魔力の宿る盾を構えさせ、迫り来るであろう衝撃に全身全霊で身構える兵士達。

 更に魔法・魔力攻撃の威力を高めるスキル、魔力解放を発動。身体中から黒紫の魔力が溢れ出し、完成した呪文を解き放つ。

 ドロッとして粘着性が高く、様々な色が渦巻く球体の魔力は敵対対象を渦の中心に捉え続け……暴れ狂う魔力は行き場を無くし、大爆発。


(な……なんと言う破壊力じゃ。これが、全魔法を極めし者だけが使える、神域魔法)


「くっ、うぅ……タッた一滴、の、汚染……デ、こレ程、精神ガ穢れル……トハ」


 爆発後には大きなクレーターが出来ており、其処に貴紀や纏わり付いていた蝗の姿は何処にも無い。

 爆発熱に負け、蒸発したと。この場に残る者達は誰しもがそう思い、疑わなかった。

 逃げ場を奪い、確実な死を与える神域魔法の威力に恐れる者。支払った対価と結果に酷く苦しむ悪魔は、戦いは終わったと一息吐く。






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