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ワールドロード  作者: オメガ
四章・just believe in your eyes
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Rの理由/託されし願い

 『前回のあらすじ』

 トリックの町内放送、左眼が見せる映像、静久の気遣い。それと、邪神達は相も変わらず。

 案内を受け、教会の暗い地下へ進めば……その先は第五の遺跡へと繋がっていた。

 コロコロと変わり反転する意味に、貴紀は頭を悩ませ、会話にすらまともに混ざれない。

 そんな滅茶苦茶な会話をルージュのお供君と聞いていると、遺跡の前へと到着するのであった。



 古い遺跡の内部の通路には、当然と言わんばかりに、何枚もの壁画が彫られている。

 彫られている内容はどれも、感情や心の反転に関するモノ。


「今まで超古代の遺跡を巡って来たけど」


「何処もかしくも、壁画が彫られている……」


 何の意味があるのか、何を伝えたいのか? 正直、ちんぷんかんぷん。

 そもそも、何故この場所・空間は言葉の意味が反転しているのかさえ、疑問。すると──

 リバーサルはハートが彫られた人と、反転を意味する曲がった矢印が二つある壁画に近付き……


「R──この壁画は『暴走した力』に溺れた者、畏怖した者を表している」


「暴走?」


 聞き返す言葉にゆっくりと頷き、話すか否か言葉に詰まりつつも……口を開く。


「俺は当時、終焉の闇と君を利用しようと企む側だったが……悪夢の扉を開いてしまい、今の立場にいる」


「成る程……強大な力を前に、怯えた訳か……」


「はい。でもその一件があったからこそ、俺は気付けたんです。力の魅力と恐ろしさに」


 おおざっぱに纏めると──リバーサルは自分達を利用せんと企む側だったが。

 ヤバい扉を開けてしまい、無謀と現実を知り阻止する側に移った……と。

 まあ、そのまま力に魅入られてたら、相当ヤバい状態だっただろうな。


「この先が俺の研究室です。貴方のお仲間達も、此処に匿っています」


「漸くか……」


 横のパネルを操作し、扉が開いた先では……寧達が何やら忙しなく動いている。

 けど、マキとゆかりの姿は何処にもない。ベビドに二人の行方を聞くと。


「どうにも体調が悪そうでな、別室で寝かせてるわ。今は孫娘が付き添っておる」


「そうか。それで、寧達は何を作ってるんだ? 第三装甲にしては、やけに馬鹿デカいが」


「スマヌが、あの娘らが弄る機械はサッパリでな。儂には何がなんだか」


 姿が見えない二人は別室に居るそうだ。後で様子を見に行こう。

 忙しない寧達が何を作っているのか?と聞くも……ご老体に機械関連を聞くのは無理か。

  ──「重ねて申し訳ない」と謝るベビドに「気にしなくて良い」と返す。


「貴紀さんが強敵達に力負けしない、そんな装備を作っているそうだ」


「そうか……って、喋ってくれるんだな。てっきり、嫌われてるモンだと思ってたが」


「本当に嫌ってたら、助言やら手助けなんてしてないって」


 横に並び立ち、代わりに話してくれたのは──名前も知らない、ルージュのお供。

 まあ話す機会がなかったり、此方が話せる状態じゃなかったのもあるけど。

 よくよく考えれば、助言やら助力をして貰っていた。

 顔の下半分しか見えないが、口元や声の感じから察するに、怒ってはいない様子。


「寧さんって……本当に凄い人だなぁ。好きな人の為に、あそこまでやれるって言うのは」


 ポツリと出たその言葉を聞き、改めて作業やら指示を出す寧に視線を向ける。

 頭に布を巻き、眼鏡を付けて頑張っている。長く綺麗な茶髪は所々が跳ね、ボサボサ。

 栄養ゼリー的な飲料系を咥えてまで、時間を惜しんで……本当、自分には勿体無い娘だよ。


「リバーサル、厨房はあるか?」


「一応、シェルターとして調理場はあるが……」


 だから──自分も今、出来る事をやる。誰かに凭れたままは、嫌だからな。

 厨房へ案内して貰い、お供君と一緒にみんなへ料理を作っていると……


「過激派の龍神族達とは──会ったか?」


「あぁ、なんと言うか。心や感情のブレーキが無くなって、暴走してる感じだった」


「俺達、例の勇者候補生を追い掛けて来たんだが……過激派の連中に邪魔されてさ」


 過激派に会ったかの有無を聞かれ、率直な感想を伝えたら。

 話は此処へ来た理由へ。話と現状から、大体は察した。候補生は見失い、ルージュとは離れ離れ。

 今は此処で匿って貰ってるそうだ。力無き勇は無謀であり、勇無き力は暴力と変わらない。

 昔、ユウキに教えて貰った注意事項だ。故に知恵と力と勇気を育てろ……と。


「過激派はレイジング、此処がリバーサル。そしてトリックが……貴紀さんに対するリベンジ」


「お前……アイツを知ってるのか?」


 次々と完成して行く料理、後ろの台に並べられて行く品々。

 作り終えた時、お供君がポツリと呟いた言葉には何故か、トリックの名前があった。

 質問に対し彼はゆっくりと頷き、フライパンを置いて此方に向き直り、口を開く。


「ネバーランド計画。それは『子供の頃に戻りたい』と言う願いを叶える、人類規模の計画」


 それは……人生が辛く、あの頃は良かった。と思う人へ向けた、救済計画。

 大人になる程理解が高まり、子供は何故?と不思議に思う、面白いまでに対極的なreturn(リターン)


「きっと……貴紀さんがこの計画を阻止しようとしたら、かなりの人類に恨まれて、妨害される」


「構わんさ。元々、自分は悪人だ。嫌われるのは慣れてる」


「貴紀さんが戦う相手って──勧善懲悪では済まないんだな」


 計画の阻止に繋がる結果。それを心配してくれるが……それはもう、慣れっこだ。

 例え恨まれ、妨害されたとしても、それは反抗期を迎えた子が親を嫌う様なモノ。

 耳が痛い正論より、偽りの嘘を信じる者がいる以上、勧善懲悪とは行かん。

 とは言え、お盆に乗せた料理を運びながらする話じゃ、ないけどな。


「リライトだけは、何としても防がなきゃならん」


「うむ……んっ、その通りだ。オメガゼロ・エックス」


 話していると、向かい側からリバーサルが現れて話に割り込み。

 序でと言わん流れで、料理も摘まみ食いしやがった。てか、マイ箸持ち歩きしてんのかよ。


「俺が使うR──の意味は反転。R──と言えば意味は砂時計の如く反転する」


「何でまた、そんな七面倒臭い方法を……」


「スパイを炙り出す為にな。ホイヒェライ博士の発案だ」


 スパイ……誰もが抱え易い爆弾の一つ。それを炙り出す為のR(反転)……か。

 確かに知らない相手が聞けば、了解。の意味と捉え、自ら墓穴を掘るだろう。

 ──「我々も慣れるまでは苦労したがな」と言う顔は、突発的な提案に振り回された様子。


「さて──リバイバーは先に料理を他の面々に渡して来てくれ。俺は彼と話がある」


「分かった」


 指示されるがまま、寧達がいる部屋へと料理を運んでいった 。

 それを見届けた後、リバーサルは改めて此方に向き直り、真剣な表情で口を開く。


「ライチ、ニーアと言う娘達から相談を受け、事情は把握している」


「あの二人が……それで、狼の森を救う手立てはあるのか?」


「勿論ある。寧ろ、very(ベリー) easy(イージー)過ぎて欠伸が出る」


 どうやら、巫女と女医の二人が相談していたらしい。自ら進んで聞けるのは、良い事だ。

 解決策もあるようで、ホッと胸を撫で下ろした直後。リバーサルは言葉を続け……

 ──「オメガゼロ・エックス、ライチとの関係は?」と訊ねられ、頭の中は?マークだらけ。

 関係と言っても友人。恋心などは抱いていないと言ったら、その内容を伝えてきて……


「彼女達への説明は、是非とも君の口から伝えてくれたまえ」


 点と点を線で結ぶ事実だけを言い、手に持ったお盆ごと料理を持ち去って行くリバーサル。

 驚きはあったが、内心──「あぁ、そう修正が働くか」と思ったのもある。

 過去を改変しても、結局は何らかの形で戻ろうとする。自分の力は、それを断ち切るが……

 その対象を自分が『破壊』するのが条件。けど、それが常に良い方向に働く訳でもない。


「あっ……オメガゼロ・エックスさ~ん!」


「此処に居た。みんな、探してる」


 入れ代わる様にライチとニーアの声が聞こえ、 後ろから此方へと走る音が響く。

 振り返り、二人を見て、ふとある考えが過る……森を救う手段を、伝えるべきか否か。

 しかし、後々にたられば──と言われるのも癪な話だ。勇気を持って、伝えよう。


「二人に、話がある。狼の森を救う方法が見付かった」


 優しい嘘も必要だが、時には厳しくも残酷な現実も必要。

 比較する対象があるからこそ、様々な言動にも本来、該当する意味が生まれる。

 自分の言葉を聞き、二人が抱き合う程に喜び合う姿を見て……ズキッと良心が痛む。


「解決策を使っても、あの森を救うには何百、何千年と年月が必要になる事を……事前に伝えておく」


「それでも構いません。教えてください!」


「それじゃあ、覚悟して聞いてくれ」


 狼の森を救う方法。それは──霊力を結晶にした代物・聖光石でライチを包み、大樹へ埋め込む。

 『森の巫女』の祈りと霊力で聖光石は育ち、魔を退け活動を抑制する効果も広がる。

 でもライチ一人だけじゃ、陣の抑制と除去に霊力や時間も全く足りない。

 志桜里は嫌悪するだろうが、交代制を採用するしかない。言い方を悪くすれば、電池交換か。


「何それ。ライチや他の無関係な人達を、消耗品として使うって事!?」


「……そう──だっ!?」


 解決策を聞き、いの一番に突っ掛かって来たのは……先程ライチと喜びを分かち合っていたニーア。

 怒気を孕んだ言葉に対し、悔しいながらも肯定した──次の瞬間、左頬を強くひっぱたかれ。

 そのままニーアは来た道を逆走し、立ち去って行く。まあ、気持ちは分からんでもないがな……


「大丈夫……ですか?」


「あぁ、大丈夫だ。痛みには慣れてる」


「体の痛みには……ですよね?」


 恐る恐る訊ねるライチに言葉を返すも、予想外な言葉と行動を返された。

 一生懸命に背伸びをし、右腕を伸ばし、手にした白いハンカチで左頬の何かを拭ってくれてる。

 そっと右手で頬に触れてみると……涙を流している事に、今更気付く。体の痛みには──か。


「私なら大丈夫です。元々、あの森に骨を埋めるつもりでしたから」


「他の人達がどう思うかは、二重の意味で別問題だけどな」


 本来の歴史でライチは、ヴルトゥームとの戦いで自らの命を犠牲に、勝利の切っ掛けを作ってくれた。

 けど、目の前に居る彼女は違う。生き残ってしまった。歴史からすれば、歪み。

 時間に誤差は生じるものの、歪みは自然と修正される。だから、この結果もある意味……


「じゃあ──君にこの願いを、託しても良いかい?」


「はい。受け取ります、その願いを」


 せめてもの償いに、右手に霊力を集め凝縮。結晶化したのを確認し、聖光石をライチに手渡す。

 彼女は両手で包む様に受け取り、鞄の中へ直した。聖光石に込め、託した願いは──

 遠い未来で、幸せに暮らせます様に……それ位は、神様の有無関係なしに、願わせてくれ。




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