暴走する左眼
『前回のあらすじ』
自らを紅と黒の一族の混血児、混血仇と名乗る過激派組織レギオンのリーダーの出現。
その目的は下等と呼ぶ他種族を滅ぼし、領地を増やす事だと、世界中を敵に回す発言を行う。
それを阻止せんと現れる紅の姫・紅絆。明かされる貴紀と魔神王の関係、エックスの意味。
白兎に避難させられた仲間達と合流すべく、意図せずも絆寄りの融合を果たし、春島へ。
取り敢えず春島こと、フリューリングアイランドへ到着。心地よい春風と気温がお出迎え。
この地域は常に春の暖かい気温で、眠りを誘う。光闇戦争時に名前と存在は知ってたが……
頑なに協力しなかった事位しか、知らない。絆曰く、永住は死んでも嫌……とか。
「正直此処へは──来たくなかったです」
「こんなにも……穏やか、なのに……?」
降り立った地は春島の端っこ。パッと見、島の中央にドーム状の大きな建造物が見える。
何故こんなにも過ごし易い場所を嫌うのか、自分には理解出来なかった。
「これはこれは……どえれ~数の魔力回路ですね」
「本当……全部、あの建造物に集中してる」
「今はあちこちで龍神族が暴走してますが、此処だけは昔から、平和と秩序が暴走してるんですよ」
探知してみて漸く分かる。緑色をした無数の線が、あのドーム状の建造物に集中しているのが。
暴走してる龍神族は十中八九、若い連中限定だろう。にしても、平和と秩序が暴走?
そんな疑問を感じていた時、遥か上空から嫌な気配が急速に、確実に近付いて来るのを感じた。
「ふふっ、ふひひひひ!! 早速試させて貰いますよぉ!!」
「アレは!?」
耳障りな声、嫌なプレッシャーを持つコトハが白い布に乗り、此方へ急降下。
かと思えば急に降下を止め、石を複数個ばら蒔く。重力に従い、地面に落ちた瞬間──
突然連鎖爆発を起こし、黒煙に包まれた。視界確保の為、煙の外へ出ると……
「出て来ましたわね。凍てつく大地、標的定める氷柱。我が敵を撃ち貫き、魂さえも凍らせ!」
「氷結系の詠唱!?」
「アイシクルショット!!」
ミミツの足下が詠唱に反応して凍り、突き出した二本の氷柱が此方に狙いを定め。
詠唱を唱え切ると同時に青白い魔力砲を発射。一直線故に避け易く、横にズレて避ける。
「ひひっ、封殺!」
「その首、貰い受ける」
上空でコトハが投げ棄てたロープが視界に入ると、意思を持つかの如く上半身に強く巻き付き。
虚を突かれた所を狙い、首を跳ねんと即座に横から飛び込んでくるシナナメ。
駄目だ駄目だ。こんな第三者視点で視てるだけじゃ、絆に力を貸してやる事も出来ない。
もっと同じ視点で動きを合わせ、思考や感覚を同調させなくては──殺られる!
「──ッ!!」
その時、不思議と焦りが消えて──三騎士の動きが遅くなり、次に取る行動が見えた。
驚きは無く、この現象を自然と受け入れている。この感覚に身を委ね、足の力を抜く。
「これを避ける……か」
「こんな動き、あり得ませんわ!」
背後へ倒れ込むと同時に避け、右足で踏ん張り、そのまま後方へ低空跳躍。
龍神の力と姿を少しだけ解放。縄を引き千切り、背中から紅い翼・腰から尻尾を生やし踏ん張り直す。
反撃の準備はこれで良い。次に来る動きと対処すべきパターンと順番は……
「踊れ踊れ、舞い踊れ。大気を凍らしつぶてとなりて、空の舞台を舞い踊れ──アイシクルダンス!」
「もう一丁、爆撃ぃ~!」
「首が無理なら……」
左斜め正面から氷柱の弾幕、上空からは再度爆撃、正面はシナナメの突撃。
一つずつ対処するのは、余程の達人がする事。今取るべき対処法は勿論。
「すぅ──っ、龍轟咆!!」
息を大きく吸い、一気に吐き出し大気をも震わす龍の轟く咆哮、略して龍轟咆。
その振動は魔法の氷柱を砕き、爆弾を空中で爆発させ、範囲内の存在に轟音と振動を叩き付ける技。
技の性質上、コトハは地に落ち、シナナメも耳を塞ぐのに足を止めている。
「ッ……任務完了。撤退、する」
「了解、しましたわ」
「え? 何も聞こえないんだけど?」
「威力偵察任務完了! 撤退ですわ!」
任務完遂と同時に転移の符を取り出し、一人足早に撤退。続けて残る二人も同じく撤退。
威力偵察……ブレイブの命令? 可能性は無くはないが、何か引っ掛かる。
取り敢えず、普段とは逆の融合を解き、誰の命令だったのかと思考を張り巡らす。
「一番可能性が高いと言ったら……トリックか」
「マイマスター……あの変態ロリショタペドロン、まだ生きてるんですか?」
いや、何だよ。その輝くトラペゾヘドロンみたいな言い方は……
まあ、トリックの事は自分含め、仲間の大半が毛嫌いしてるからなぁ……仕方ないか。
実際にロリやショタ、ペドが守備範囲だし。でもその癖に、ロリショタ以上の高年齢者とか。
サラリーマンからの支持とかすげぇ高いんよな。一度仕留めれる時、大人達に邪魔された位だし。
「知的生命体とは、実に見苦しい生き物ですよね~」
「実にそう……子供の頃は早く大人になりたいと言い、大人は子供に戻りたいと言う……」
「そらぁ子供には子供の、大人には大人の苦労が……ちょっと待てよ?」
過激派に属する若者の龍神族が増える……龍族は孵化や成長が著しく遅く、出産数も少ない。
過去にトリックはネバーランドを作ろうとした。もしや、今回も?
だとするなら、何故三騎士をぶつけて来た? 邪魔者は先に潰す的な考えか?
「思考を張り巡らすのは良い事です。認知症予防にもなりますし」
「相手の立場で考えると……探偵の気分も味わえる」
魔神王軍絡みや龍神族の襲撃を受けたポイント──突入ポイントの春島と冬島の境。
次に冬島、スピラ火山、そんで今回の春島。まだ夏島と秋島に行ってないから。
此処って言う断定は出来んが……自分が敵の立場なら、スピラ火山を拠点に置きたいか。
「絆、スピラ火山の内部は──調査出来そうか?」
「出来ると言えば出来ますが……まいまちゅたーたちでは、ちゅう秒がけんかいかちょ」
「ってなると、寧達と合流してか──絆?」
途中から言葉と声に違和感を覚え、振り向くも絆は居らず、見下ろせば──幼女化していた。
大き過ぎる執事服を掴み上げ、懸命に体を隠しながらも恥じらっている……いや、可愛過ぎひん?
庇護欲とかそう言うのが湧いてくる。いやいや、先ずは戻してからこの現象に就いて考えるんだ。
「戻って休んでくれ、絆」
左手を向け、左腕に戻す。七色の内、緋色だった線が赤色に変化。
これで全員が集まり、魔力経路も赤・橙・黃・緑・青・藍・紫と七色が揃った。
今後は疑似的なフルパワーで戦えそうだ。後はオルタナティブメモリーを回収しないとな。
そのまま春島こと、フリューリングアイランドのドーム状の都へと入る。
「ようこそ、リミットタウンへ。此処では、幾つかの制限を受けて貰います」
「ほほぉ~。制限とな?」
「コロシアム以外での戦闘・暴力行為の禁止。一部の建物内では武器を全て預からせて頂きます」
緩い制限に見えるが……意識してみると、なかなかに厳しい制限だな。
短期的・酔っ払い・戦闘狂・虐めっ子は完全にシャットダウン、序でに酒も駄目。
最悪、漫才のツッコミやバトル漫画の真似、スキンシップも暴力扱いを受けるやも知れん。
制限・規制の先に守られた自由と平和があるんだろうが、縛り過ぎるのもまた、命には毒。
「制限はそれだけです。それでは守られた自由と平和の町を、お楽しみ下さいませ」
受付ロボの説明を受け、漸くリミットタウンへの入り口が開かれる。
赤黒い龍神、混血仇がブレイブを下等云々言ってた理由はこれか? 誰が作ったかは知らんが……
「緑の領域にしては……随分と機械的ですねぇ」
「紅が結束で青は守護……緑は秩序、黄色が発展で黒が破滅。でも……これは、発展し過ぎ」
冬島の建造物は、魔法で加工や効果を付与した物だったのに対し……
春島のは、何処をどう見ても機械的と言うか──機械文明だった人類に酷似している。
これが絆の言っていた、平和と秩序が暴走している結果。なのか?
「っ!?」
「どうしました?!」
「また、左眼が……暴走、して」
此処のところ、左眼が望む・望まざるに限らず、勝手に別の何かを映す事が増えた。
いや……何かの記憶を誰から、何処からか読み取っているのかも知れない。
砂嵐の様なノイズが走っていたと思えば、徐々に視界は晴れ、何処かの部屋で話す二人組を映す。
『人の心から、闇が消える事は永遠に無い。それ程に人は他を恐れ、嫉妬し、押し付ける様に憎む』
『ディストラクション……』
これは──過去の記憶? 話しているのはデトラだった頃の自分と、古き友・ドゥーム。
懐かしき拠点・ウムケーレン城、その一室。そうだ……自分は人間に絶望し、闇に堕ち。
そんな自分をドゥームは受け入れ、受け入れると言う、全てを呑み込む闇の力を与えてくれた。
『闇を知り、光を知る我が唯一無二の友……ディストラクション。君に、頼みがある』
『頼み? ドゥーム、君が俺に頼みをするとは珍しい』
そうだ、この時──頼まれた事があった。自分にしか頼めず、達成する事の出来ない依頼。
『他言無用で極秘裏にこの組織を裏切り、暴走する僕達を倒し、止めて欲しい』
『了解。時期を見計らって裏切り、お前達を必ず倒す。親友と交わした約束として──な』
『あ……あぁ、ありがとう!!』
『少なくとも、俺にはその訳と理由を話せよ? 親友』
ドゥーム達を倒す依頼。親友と初めて交わした、必ず果たすべき大切な約束。
それから何かしら理由を聞いて、組織を裏切り抜け出した先で琴音と出会い、匿って貰った。
それから別れて……欠片の一つ、孤独の創造主を倒し、ゲートに入ってからその後は……
「貴紀さん!!」
「──っ!!」
視界が前後に激しく揺れ、強く呼び掛けられる声が聞こえた途端……映されていた記憶は消え。
代わりに今にも泣き出しそうな……そう、瀕死の重傷患者に寄り添う様に。
涙を溜めた真夜と知らない天井、大きな十字架の置物が見えた。多分、教会だと思う。
「っ……スマン。どれ程気を失ってた?」
「少年が倒れたのが……午後四時頃。今は六時」
大分、意識を失ってたらしい。肝心な部分は思い出せなかった──けど。
闇の欠片・孤独の創造主。奴の名前と能力は分かったのは、想定外の収穫。
「孤独の創造、ブレイブ・デウス・エクス・マキナ……か」
機械仕掛けの神を真似た名前、世界すらも玩具にしてしまう、恐るべき能力者。
奴の前では、対抗策を持たない存在は着せ替え人形や玩具も同然。
言わば、二次元と三次元。レベルやランクなんて生易しいモノでは無く、もはや別次元。
可能なら、目覚める前に倒すべき相手。下手すれば、ホライズンより手強いだろう。




