Close To You
『前回のあらすじ』
ヴィンターアイランドへと到着。青の龍神族に用件を伝え、長と対面して話が出来る事に。
案内された先で青い龍神族の長、青空遥と再会。お互いに知り合いと言うのもあり、昔話に脱線するが、元に戻す。
若い龍神のリーダーが過激派組織を結成し、問題を起こしていると知る貴紀とヴァイスの二名。
突如現れ、貴紀の誘拐を行うもヴァイスに金縛りは効かず、急遽撤退。遥の協力依頼を受け、手伝う事に。
青の龍神族・青空遥に証拠品を渡し、少し経ってから他の面々が部屋に入って来た。
全員礼儀正しく挨拶をしてくれるから、内心安堵してる。外界に疎いライチの場合、見様見真似だけど。
「専属メイド隊・オラシオンのリーダー、アイ・アインスです。お話はヴァイスより伺っております」
「あら、お久し振り。貴女達にも頼む事になるけど、良いのかしら?」
「それは──内容次第ですね」
仕事モードで接してくれてるけど、遥には正体がバレてるっぽい。
それとニコニコ笑顔で話つつ火花を散らすの、止めてくんない? 下手したら自分の胃に穴空くから。
「内容は、若い龍神達・過激派組織を捕獲する我々の援護。もしくは遊撃隊を頼みたいの」
「王族の癖に、若造連中に足下を掬われてる訳ですか」
「部屋を用意する予定でしたけど、貴女は生ける炎さんとお外の檻で相部屋をお求めみたいねぇ?」
「礼儀と対話を大切にする青の一族とは言え、所詮は神を名乗る爬虫人類。レベルが知れますね」
やめろやめろ!! 仕事の話してるのに、種火を直接ガソリンタンクに入れる行為は止めてくれ!
てか、遥もムキになって対抗するんじゃないよ。と言うか誰か止めろ! 大惨事になるぞ。
「と・も・か・く! 過激派の捕獲、その援護や遊撃行動で良いとして。ソイツらの特徴とかは?」
「……コホン。過激派組織は平和な現状に嫌気が差した龍神族の混合部隊です」
二人の間に割っては入り、何とか女の戦いを止めた。可能なら、男性の比率を上げたい……
頭に上った血が引いたらしく、話を元に戻そうとして、分かり易い咳を一つ。
その後の説明から組織は集った連中の色が混合の部隊である事、自分達の役割は分かった。
「アイ・アインス。自分が留守の間、拠点を守るハウスキーパーの役割を頼みたかったが……無理そう」
「先程は多大な無礼を働き、誠に申し訳ございませんでした」
……言い切る前に、マッハで深々と謝りやがった。取り敢えずそんなこんなで無事に終わった話し合い。
男性陣・オラシオン・女性陣の三組に部屋を用意して貰えたので、今後は此処を仮拠点として動く予定。
ゼロライナーの修理は寧達に任せるとして……いやはや、毎度毎度申し訳ない。
「遊撃隊って、結局はどんな部隊なんだ?」
「遊撃隊と言うのはのぅ。簡単に言えば本隊を奇襲から守ったり、各々の判断で戦場を駆け回るんじゃよ」
「成る程。今の自分達と大差変わらないって訳か……?」
部屋で部隊を束ねていたベビトから、遊撃隊の活動内容や特徴を教えて貰っていると。
突然扉がノックされ、誰かと思い出てみれば──青の一族の長にして王族、青空遥本人だった。
昔の件で面識があり、自分も一応は紅一族の王族。彼女からすれば、対等に話せる相手なんだろう。
「何か御用で? それとも、何かしらの作戦を始めるのでしょうか」
「少し、二人で外を歩きませんか?」
「はぁ、それは別に構いませんが……分かりました。そのお誘い、お受け致します」
別に大した用事でもなく、作戦開始やら情報提供でもない様子なのに、このお誘い。
どうしようか迷い、ベビトに視線を送ってみるが……「女性の勇気あるお誘いを無下にしてはならん」
的にも取れる真剣な眼差し、深い頷きを返されたのもあり、誘いを受ける選択肢を選ぶ。
歩くと言っても、本当に神殿の周りや他の建物を案内され、見て回るって感じ。
「こうしてると、あの頃に戻った気分になりますわ」
「光闇戦争時代の頃か。あの頃は本当、世話になったよ」
光闇戦争を一言で言い表すなら、パラレルワールドを巻き込んだドンチャン騒ぎの大戦争。
まあ、そのお陰で本来は出会う事の無い相手に出会って、好いた惚れたがあった訳なんですけどね。
呼べば駆け付けてくれる、自我を持つ武器の白刃と黒刃もそう。
麒麟のお姫様姉妹に貰った、大切な想い出。ぶっ放す度に地形を溶解させる威力は──予想外過ぎです。
「私、勇気を出して貴方に告白したのに。貴方は振り向きもせずに振ってくれたものね」
「あれは……うん。悪かった」
「構いませんわ。だってあの時の私は、融合神との戦いで心身共に傷付いた貴方へ言いましたもの」
遥の言う通り、あの頃の自分は彼女の告白に見向きもしなかった。酷い男と言われても仕方ない程に。
今更謝るも、本人は気にしてない様子。確かに融合神を倒した後、少し休んで離れる予定だったし。
と言うかな。愛の告白にも反応出来ない程の傷心状態で言われてもさ、返答は返せねぇのよ。
「何故──我々命ある者は争うのでしょうか。その原因や理由は、何なのでしょう……」
「人口や種の増加。欲望や不安と言った、心から来る問題もあるんだろうな」
命は死に怯え、少しでも離れようとしたり、不老不死を求める者も少なくはない。
その種が増えれば必要となる食糧や水は増え、自分達では金銭的・領土的に賄い切れず。
結果、戦争や領土支配に繋がる。自分はこれを、心の貧乏と勝手に命名し、呼んでいる。
「私も紅心様や貴紀みたく冠を投げ棄てて、貴方の近くに居ようかしら?」
「それは──彼女達になりたくなけりゃ、止めときな?」
自分達みたく……それは王族やその立場と言う冠を全て棄て、初めて手に入れる庶民の自由。
長い目で見て、棄てた者の代償に見合った・満足する結果なら、そうすれば良い。
けどまあ、建物の角から此方を覗くオラシオンや寧達、非戦闘員の面々。
彼女達の仲間入りを果たしたくないなら~と、釘を刺してみた。そしたら……
「今の日常よりずっと楽しそうね!」
この返答。さいですか……まあ各々の人生、貧困や裕福でも幸せや求め望むものは違う。
隣の芝生は青く、幸せの青い鳥は直ぐ側にある様に。何かを求めるが故に足下や周りが見えない。
それに気付くのはいつの時代も、失ってからが多い。それを一体、何度見て来た事か。
「貴紀の仲間達は、貴方の近くに居たい……違うわね。目指す目標の先に、貴紀が居るから」
「どう言うこっちゃ」
「ゴールへの道標って事よ」
曰く──自分は道案内板であり、暗闇の先に在るゴールで道を照らす灯台だと言う。
だとするなら、今まで戦って来た敵達や出会った面々のゴールは、自分だと言う事なんだろうか?
「行きましょ」
短いその言葉に頷き、二人並んでみんなの元へと歩いて行く。この旅は、いつまで続けられるだろう?
いつまで、みんなと一緒に居てあげられるだろうか。|貴方の近くに《Close To You》……と言ってくれる、みんなと。
「スマヌ……孫娘に問い詰められ、喋ってしもうたわい」
「構わんよ。昔話に、花を咲かせてた程度だし」
「そうそう。大雑把に言えば、今から千四百年程度昔の話だから」
口を割ってしまった事を、武人として申し訳なさそうに頭を下げて謝るベビトに、フォローを入れ。
遥もそれに続いてくれた。各々が認識する大切なモノは人それぞれだ。他人に取っては無価値でもな。
「孫娘を大切にしてやりな。さてゆかり、自分と遥の関係が気になって問い詰めちゃったか?」
「そ、そりゃあ……」
「何、昔にちょいっと世話になった関係だよ」
ベビトの右肩に手を置き、人としての助言を伝えつつ奥へと進み、ゆかりの前へ。
ちょっと悪い顔をして、鎌を掛けてみればまあ、頬を赤らめてそっぽ向く仕草が本当に可愛らしい。
別に言葉責めをしようって訳じゃないから、胸に刺さってる小骨を取り除く為、関係を話す。
「そろそろお昼時ですし、皆さんも一緒に昼食にしませんか?」
手を鳴らして言った昼食に反応して、自分のお腹が空腹を訴え、緊張感の無さに皆が笑う。
これで良い。平和な世界は脆く儚くも、幸せな笑顔がある。争いや戦争にあるのは、武器商人の不適な笑み。
その後、みんなで話ながら昼食を頂いた。マナーとしては悪いが、沈黙の食卓に比べればずっと良い。
その日は遥も自分達と言う来客の為、休日を取って仲間達と会話を楽しんでいた。そして夜……
「さて──」
「みんなは寝てるだろうし、個人修行を始めますか。ってね」
「ゆかり」
午後十一時。神殿の外へ出て、屈伸などの準備運動をしていたら──言おうとしていた言葉を先に言われ。
声がした方を向くと、心情ゆかりが神殿から現れ、自身も準備運動をしながら此方へ歩いて来た。
「言ったでしょ。今より速く走れる方法を、教えてあげるって」
確かに言ってた。寧ろ此方から頼み込んだ。でもこんな時間よ? 昼夜逆転してないなら寝なさい。
自分はもう、肌荒れとかそんなの関係無い体になってるから別に良いんだけどさ。
逆にメンタルは的確な一撃で崩れ易くなってるけど。……もう少し、睡眠時間増やそうかな?
「それはそうだけど……寝なくて大丈夫なのか?」
「睡眠時間は大切だけど、質と生活面で補う。今は、私が紅君を独り占めにする時間だから」
「はいはい。そんじゃ、始めよっか」
年若い女の子が、こんな時間に男と二人っきりって言うのは……ベビト的にどうなんかね?
軽いジョギングから始まった特訓。陸上部のエースと言っていた通り、なかなかに速い。
魔力強化無しじゃ、置いてかれてしまう程。鼓動が必要以上に高鳴り、呼吸が乱れ、雑念が湧く。
ゆかりが、自分を独り占めにする時間。と言った時の笑顔が、脳内再生されて……落ち着け自分!
「ペース、落とした方が良い?」
「ダイジョウブです!」
結局雑念は払い切れず、夜の一時間限定特訓はジョギングと休憩で終わってしまった。
ゆかりは終始近い距離を維持していたのもあり、余計に意識してしまったのかも知れん。
「貴方の近くに──か」
それは幸せであり、何気ない日常であり、至極当たり前の事でもある。
人生とは長距離マラソンである……誰の言葉だったかな。今は思い出せそうにない。
そんな長距離を走る中で、忘れてしまうのかもな。自分自身の近くに、常にある何かを。
(何黄昏てるのよ)
(ダガ、王ノ言ウ通リダ。病魔ノ様ニ、俺達ハ常日頃カラ爆弾ヲ抱エテイル可能性ハアル)
(俺達の場合、仲間入りした内の誰かが爆弾だったりしてな。……いや、笑えねぇ冗談だったわ)
(本当だよ。ヤケクソでしか笑えねぇ冗談だ)
部屋に戻って考え事をしていたら、心配してくれたのかどうかは兎も角、話し掛けてくれる霊華達。
健康だからこそ気付かない爆弾。平和故に抱える原爆、友達が多いが為に起こる予想外。
事実は小説より奇なり。本当にその通りだよ、こんちくしょうめが!




