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ワールドロード  作者: オメガ
四章・just believe in your eyes
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ヴァイス・アイリス

 『前回のあらすじ』

 ゲートの力でまだどの時代か分からない先に転移。フォー・シーズンズへとゼロライナーで向かう一行。

 突入した彼らに突然襲い掛かる、一体の赤黒い龍神。蒸気の煙幕や仲間達の協力もあり、迎撃に成功。

 青の住むエリア、ヴィンターアイランドへと進路を進めるも、下り坂手前でブレーキのタイミングをミスる。

 湖へ転落かと思われた矢先……今度は青い龍神族に掴まれ、青い龍神族の都へと連れ去られてしまう。



 耳に聞こえるのは、風の強さを知らしめる猛吹雪と──力強く羽ばたく翼の音だけ。

 島々を覆う、ドーム状の半透明な空間を通り抜けると猛吹雪は止み、音も聞こえない。

 それに少し、温かい。内と外で気温に大きな差があるらしい。これも龍神族の使う魔法か?


「あっ……外より幾らか温かい」


「そろそろ、地上へ降りそうだな」


 ゆっくりと車両を降ろされ、先頭車両の窓越しに降り立ち此方を覗き込む、白い顔の龍神。

 歓迎にしろ忠告や退去命令にしろ、取り敢えずは外に出るのが先決だ。

 相手が下手に出てくれてる内にな。少し温かいとは言え、自分に取ってはまだ少し寒い。

 フードを被り、ヴァイスと共にゼロライナーの外へ。地面に雪は無く、緑色の芝が生い茂っている。


「外界よりの侵入者達よ。此度は何の用事があって此処へ参られたか、訳を述べよ」


「仲間の龍神族を探しに来ました。此処の(おさ)と対面出来ずとも、受け答えの対談を所望したい」


「……今暫し待たれよ。長に確認を取る」


 顔から胸部や腹部が白く、他が青い鱗に覆われた龍神が口を開き、侵入した訳を尋ねて来た。

 流石は礼儀と対話を大切にする青の一族。此方も礼儀正しく、言葉を選びながら対応を返せば──

 確認の為、少し目を瞑る。その間、後部車両を持ち上げてた青の龍神達が此方を警戒してる訳だけど。


「変に緊張してると、余計に警戒されるぞ?」


「そ、そそそそんな事言うても、うううウチ、こんな体験初めてやし!」


 分かってたけど、文字通りガチガチに緊張してるヴァイスに言葉を投げ掛けるも。

 寒いのか度を超す緊張で上手く喋れないのか判断が付き難い程の声。

 今後の為と思えば、少しでも多くの経験を積ませて、土壇場でも活躍出来る様になって欲しいな。


「お待たせした。長との謁見、及び対談の許可が出ました。我らの案内に続いて下さい」


 許可が出たらしく、龍神達は人間態へと姿を変え、盾と槍を構えた女性に。

 案内に続け……とは言え、四方を囲まれた陣形な辺り、警戒は解かれてないっぽい。

 琴音やトワイを同行させるべきだったか? そう思ってる内に純白の神殿へ入り、長い通路を抜け──


「長。連れて参りました」


「重ね重ね御苦労様。では、警備に戻って下さい」


「畏まりました」


 部屋の扉を開け、机の前で書類と睨めっこをする白銀の長髪の女性へ礼儀正しくお辞儀と報告。

 労いの言葉と次の指示を受け、彼女らは部屋から出て行く。正直、警戒とか嫌みはあると思ってた。


「拝謁させて頂き、誠に有り難く存じます」


「まっ、誠に有り難く存じます!」


 深々と頭を下げ、謁見を許可してくれた事への言葉を一つ。ヴァイスも自分を真似て、頭を下げる。


「構いませんわ。だって……私と(わたくし)貴方の仲、同じ龍神族の王族ではありませんか」


「お、同じ龍神族の王族ぅ!?」


「己の力が暴走し、滅びた一族の……だがな」


 足音から察するに、此方へ移動してるのは知ってたし、同じ種族の王族と言われても。

 此方は生存数二名。貴女の方は現在も繁栄中ともなれば、自分のは没落とさえ言える。

 てかヴァイス。頭を下げたまま驚かれたりしても、ツッコミ難いんだが?


「ですが、天界で起きた件は貴方達の協力無くして、解決は叶いませんでした」


マリス(悪意)・ライムと融合神・イリスの件か。確かにアレはヤバかったな」


「融合神……イリ、ス?」


「完全無欠の可能性を秘め、生命を滅亡に導くか……哀しき存在です」


 天界云々の異変も、二千年代初期の話。天界や龍神達の悪意を全て、頑強な門内部のスライム達に吸わす。

 ってのを、遥か遠い時代から続けて平和を維持して来たツケが、爆発して紅一族の力が暴走し滅亡。

 融合神・イリスは終焉や融合四天王を除き、史上最強の相手。三騎士でも相手になるかどうか……

 あらゆる生物の能力を備え持つ完全無欠の遺伝子で、単為生殖可能。餌は己以外──と話した。


「……そう、なんや」


「あぁ。お陰でミイラにされそうになったしな」


 子供が思い付く様な能力・設定。まあ、融合神・イリスは頭パーツの子供と、体パーツの異形。

 二つで一つの存在。決戦時には触手で血を吸われて、技や能力とか完全コピーされたしな。


「昔話は置いといて。(はるか)、今現在、此処で何が起こっている?」


「やっぱりね。貴方なら間違いなく、現状に食い付くと思ってた」


「気になるだろ。尊敬する親父の故郷で、何が起きてるのか位は」


 流れに乗った昔話を止め、現状を聞けば、思った通りと言いたげに椅子の背凭れに身を預けてこの返答。

 大人姿で再会した際の異変で、色々助けてくれたからな。少なくとも、恩返し位はしたい。


「ヴィンターアイランドは今──敵の襲撃を受け、避難民を保護する場所となってるわ」


「敵の襲撃? 龍神族に喧嘩を売る様な連中、外界にはそう居ないだろ」


「そーやで。ほんで、その連中はどんな格好してたん?」


 話を聞く限りでは、龍神族に喧嘩を売る連中が現れたそうな。

 魔族でも余程の事がない限り、手を出さないのに。どんだけ気が狂った連中なんだか。

 相手の容赦や姿、何か特徴はないのかと尋ねた結果。教えて貰えた情報は……


「報告で聞く限りだと──大きな筆、影の様な人物、身の丈もある刀。と聞いてるわね」


 めっちゃ心当たりがある特徴でした。アイツら、此処にも来てるのか。

 いや、ある意味丁度良い。アナメとウズナ、ムピテ、峰平歩。あん時のリベンジも出来るしな。


「それと、もう一つ」


「まだあるのか」


「龍神族の若手が一人、過激派のリーダーとして立ち上がってね。そっちもそっちで問題なのよ」


 気だるげに机に伏したと思ったら、右人差し指を立て、もう一つの問題。

 過激派の設立・活動にも頭を痛めてる様子。恐らく机の上にある書類の山は、その件だろう。

 王様とか領主になると、こう言うのが日常になるから自分は敢えて、距離を空けて逃げている。


「まだ五千歳未満の子供達が主流でね。それも問題として上がってて、ちょっと休憩が欲しかったのよ」


 欲しかったのは休憩の他に、愚痴を言える対等な相手って言うのも、あるんだろうなぁ。

 部下や同僚に弱音を吐けない。でも愚痴を聞いてくれる相手は欲しい……的な。

 まあ、此方としても情報を得れるのは得だし、有りか無しかで言えば断然有り。


「なぁなぁ。龍神族の五千歳って、ウチらで言うたら何歳なん?」


「人間換算で十四歳。丁度思春期真っ盛りだな」


 これも、種族間の違いだな。ドラゴンは元々長寿だけど、龍神族は更に長生き。

 身近な生き物で例えれば、猫や犬がそれに該当する。長寿や短命も、それぞれ一長一短がある。

 愛する者との別れ、残され続ける立場。未来で生まれる娯楽や出会いも、良し悪しありだ。

 龍神族のは単に認めたくない若さ故の過ち、大人と認めて欲しい欲求、力の誇示だろう。


「本当、人間と会うのは久し振り。私は青空遥、貴女の本名は?」


「ヴァイス……ヴァイス・アイリス、です」


「アイリスね。今後は友達としてよろしく!」


 相変わらず、興味ある人間を見る度に友達になろうとする癖は変わらないな。

 それは置いといて。ヴァイスの本名、初めて聞いたな。

 アイリス──はて? 何か引っ掛かる様な。あぁ、昔やったゲームのキャラ名が同じだったか。


「よろしく、お願い致します……ですわよ?」


「──!?」


 部屋に、会話に入って来た濃い青色の髪と紅い眼をした謎の少女。

 身長はエリネ位だろうか。いや、気にするべき点はそこじゃない。この声、鳥肌が立つ程の寒気は……


「お嬢ちゃん。貴女、何処か──?!」


「か、体が……動かないッ!」


 遥も知らない、呼んでいない客らしく、何処から入って来たのか問い掛けようと屈んだ……次の瞬間。

 睨まれた、眼を向けられただけで全身が硬直。口や目は動くものの、それが精一杯。

 まるで全身に鉛の鎧を着せられた様な、金縛りにでもあったのかと錯覚する程に動けない!!


「一緒に、来て貰いますのよ?」


「テメェ……ナイトメアゼノ・アニマか!」


「ご名答」


 この部屋にはアニマを除き三人しか居らず、警備員が邪魔で援軍も入って来れない状況。

 逃走や妨害が無い様、金縛りの類いで拘束。恋達も左腕から出られないみたいだし……詰んだか?!

 骸骨の鎧を捨て、幼い少女の姿で可愛らしく微笑みやがる。クソッ、奴の方が一枚上手だったとは!


「な、なぁ……無理矢理連れて行くんはウチ、良くないと思うで?」


 自分自身の迂闊さを悔やんだ矢先の事。目の前に立つアニマに横から近付き、諭している。

 いや、何平然と動けてるんだよ。もしくは何か、無効化する条件でも持ってるのか?!


「ッ!?」


「ヴァイス、ソイツは自分を連れ去ろうとする敵だ!」


「私達の天敵、漂白された虹……成る程。親孝行と言う訳ですか」


「貴君を誘拐するんならウチ、容赦せぇーへんで!」


 予想外な展開に、振り向いたアニマすら驚きの表情を見せ、指示を出す程の隙が生まれた。

 同時に相変わらず、本人や理解した者にしか訳の分からん言い方で、何やら考え始め。

 寧特製の義手で、アニマの頬を引っ叩こうとした瞬間……また転移を使っての撤退。

 金縛りだか何だかを掛けた本人が消えた、術の効果範囲から離れたお陰か、自分達も再び動ける様に。


「助かったよ、ヴァイス」


「えぇ、本当に。ありがとう」


 お礼を言うも、当の本人は何やら空振りした右手を見つめており、此方の声が届いてない様に思える。


「あの子……家族か兄弟でも失ったんやろうか? 凄く寂しそうな眼で、ウチや貴君を羨ましそうに見とった」


 そう呟くヴァイスの顔は……とても悲しげで、あの時間でアニマをそう視ていたのは正直、驚いた。

 何度か接触し、神出鬼没に現れ、戦ったけれど。そう感じた事は一度もなかった。素顔を見てないから?

 それもあるだろう。でも──自分は悪寒と恐怖しか感じなかった辺り、ヴァイスは恐れを感じてないのかも。


「……報酬は出すから、少し手伝って貰えるかしら?」


「だとよ。ヴァイス、君の意見を聞きたい」


「用件次第やけど……手伝ってもえぇと思うよ。悪い人やなさそうやし」


「と、言う訳だ。首を突っ込むに辺り、知り得る情報は包み隠さず共有してくれると助かる」


 少し何かを考え、報酬と引き換えに協力を申し込まれた。個人的には元々、首を突っ込む予定だったが。

 仲間の考える力や発言力も鍛えて上げたい。そんな老婆心から、決定権を彼女へ受け渡す。

 結果としては予想通りだが、満足する内容の発言。そこに少し、補足を付け足して。


「了解。それじゃあ──ヴァイスちゃん。他のお仲間さん達を此処へ招いてくれるかしら?」


「少し、遥と話す内容があってな。頼めるか?」


「任せとき! ウチ、ちゃんと連れてくるさかい!」


 二人でお願い……もとい頼むと、託された任務に目を輝かせ、元気の良い返事と共にお辞儀をし、退室。

 まだ十八歳故か、本当に元気な事で。……表面だけの、見せ掛けの元気じゃなけりゃ、良いんだけどな。


「それで、私との話って?」


「ちょいっと気になるモンを手に入れてな。龍神族の遥から、コイツに関して意見を聞きたい」


 見送ってから話し掛ける頃合いを見計らい、遥の方から話題を振って来たので。

 オーバーコートの内側から、ヴォール王国で入手した代物を全て取り出し、机の上に置く。

 これは峰平歩が残した証拠品。写真が三枚、録音したカセットテープ入りのデジカセが一つ。


「複数コピーした内の一つだ。後々でも良いから、感想を聞きたい」


「ふふっ、その真剣な顔。貴方が此処へ初めて来た出来事を思い出すわね」


 自分としては、普段通りのつもりなんだがな。どうやら真剣な顔をしているらしい。

 微笑む遥とあの頃の話を持ち出され、少し顔を背ける。此処へ初めて来た理由、それは──

 紅絆の政略結婚を阻止する為。それだけの筈が、天界やら何やらと面倒事に巻き込まれたんだよなぁ。




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