対峙
倒れ伏した終焉を護る様に前へ出た人物は電灯の真下で立ち止まり、復活した悪魔・アバドンと向かい合う。
「この魔力。貴様、オメガゼロ・エックスか」
「あれが……オメガゼロ、エックス?」
紅い逆三角形バイザーのヘルメット、黒い装甲に銀の鎖が巻き付けられた、パワードスーツを着た存在へ対し。
鋭い目付きで睨み付け、自身を封じた憎き名を口にしローブを脱ぎ捨てれば、言われた本人は腕が小刻みに震える。
(で、どうすんだ? 感情的に飛び出したが勝算は不明、恐怖心で腕が震えてんじゃねぇか)
(毎度の事ながら、怖いよな。嫌な事へ立ち向かうって言うのは……)
(……何時も通り勇気を胸に、死に物狂いで行くぞ。何処までも付き合ってやるからよ)
武者震いかと思えば、単に怯えているだけ。
慣れる事の無い恐怖に弱音がポロッと漏れると付き合うから、勇気を持ち死も恐れず挑もう。
自身の影が動き背を押す言葉に「何時もありがとな」と、他者には聞こえぬ心の声で感謝を述べ、素手のまま身構える。
「完全復活とは言えんが、今の弱体化した貴様を葬るには十分だ」
(さぁ~って……本当にどうすっかねぇ)
(今まで使ってた装備はごく一部を除き紛失、身体能力も大幅低下。残ったのはアホみたいな魔力と経験値)
(詰んでない? これ、どうやっても死亡確定じゃね? 何十度目の死亡だろう……)
溢れ噴き出す黒と青白い膨大な魔力が触れた、小石やら大型ゴミ箱までが浮かび上がり宙を舞う。
普通はあり得ない現象、魔力量。光闇戦争で使った装備は九割が紛失、全盛期の半分にも満たない今、勝算が低く過ぎて勝ち目が見えず。
何度目の死亡体験を味わうのだろうか。不安が悪い予感、思考が気持ちを弱気にさせる。
「むうぅん……はっ!」
「おい、俺に構わず戦え!」
浮かせた物を飛ばしてくる悪魔。後ろの終焉を護る為、彼は四肢に魔力を纏い、迫り来る物を拳と足で次々と弾く。
動けぬ自身を狙えば庇いながら戦うしかないと知り、悪魔との戦いを優先する様叫ぶ。
(このままじゃ敗北は確定、終焉の言う通りにする方が良いのは確か。どうする、どうしたらいい!?)
(だが問題は終焉だけじゃねぇ。そっちの娘っ子も助けなきゃな)
バイザーの機能で順番を決め、必死に迫る物を叩き落とす中。チラッと横へ目を向ければ、倒れ伏して動かないゆかりが映る。
二人と取り込まれたであろう者達を助け、町も救い悪魔を倒す。それは、子供の我が儘とも言える思考。
「えぇい!! そこの二人諸共串刺しにしてくれるわ!」
(宿主様、やるぞ!)
(おう。頼りにしてるぜ。ゼロ)
今度は無数ある鳥避けの鉄棘を引き抜き、魔力で操り三人へと降り注ぐ。
左手をゆかりへ伸ばし引き戻せば、影が対象を掴み引き寄せ、半ドーム型の黒い壁が鉄棘を弾く。
「意思を持った魔力?! 違う、アレから感じる力は……」
「宿主様。この二人を避難させて戻るまで、持ち堪えろよ?」
何やら驚きと思考を張り巡らせる中。壁は棺に形を変え、一方的な約束を押し付けるや否や低空で飛び去って行った。
「さて……と。此処からは一対一でやり合うとするか」
「その声、少し前に蹴散らした小僧。ほう、貴様がオメガゼロだったとはな」
「お互い様だろ。あの時、正体云々関係無く倒すべきだったと後悔してるよ」
(後は頼むぞ。残った切り札を切る為にも)
わざと自身の正体を教え、憎き存在が今や格下だと認識させローブを脱がさせたのには、理由がある。
協力者へバイザー越しの情報を常に送り、戦闘スタイルやデータを纏め上げ、倒すのに必要な攻略情報を探して貰う為。
残された勝算で勝つ為には、必殺の切り札を的確なタイミングで切らなければならない。文字通り、分の悪い賭け。
「光を喰らう原初の闇よ」
「詠唱!? マズイ、間に合えっ!」
「我と汝の力持て、全ての惑星と命に等しく滅亡の闇を与えん。浸食し、顕現せよ。終焉の地!!」
先程みたいな詠唱無しの猛攻が来ると予想していただけに、呪文を唱え始めた事に危険を感じ、妨害しようと動き出したが……時既に遅し。
呪文詠唱は済み、魔法の発動を許してしまった。次の瞬間――大穴から闇が噴き出し、機都を闇で覆い尽くす。
「また……この厄介なフィールドを見る事になるとはな」
「我が手に集いて敵を撃て、ライトニング! 紅き光、此処で闇に消えろ!」
「しま……っ!!」
光闇戦争時、散々苦しめられた経験を感傷深く思い出す最中。隙ありと言わん手際、詠唱で稲妻を呼び寄せ、両手で放つ。
声に気付けば既に胸元へ直撃しており、炸裂すると同時に後方へ弾き飛ばされて転げる。
「終焉の地。それは滅亡の闇、初代無月終焉様が御作りになられた闇の最果てにして、魔を強化する空間」
(う……くっ。それだけじゃ、ない。此処での敗北や死は、完全な消滅をも意味、する)
身体中に走る痛みと電流。パワードスーツのお陰で即死は免れたが、早く現状を打破しなければ死ぬのが早いか遅いかの違いしかない。
過去の経験から今居る場所、終焉の地にて単独で戦う行為は危険だと再確認。
痛む体へ鞭を打ち、やや足下がふらつきながらも立ち上がる。
「まだ抗うか」
「当たり前……だろ。俺は落ちこぼれの人間だ。諦めも……愚かな程悪いんだよ!」
「愚かな。終焉の地が光の住人へ及ぼす呪いを受けたそんな体で、まだ諦めぬとは」
油が切れたロボットかと思う程、ぎこちない動きで身構え、まだ戦う意志がある事を示しながら吼える。
「小学校中学校、共に成績は最低。テストは必ず赤点、脱走登校拒否は毎度の事。それでも、譲れないモノだけは死ぬ気でやった……お前に挑むのもそうだ」
自らの過去を暴露しつつ体内へ魔力を流し、心が命ずるままに悪魔へと駆け出す。
「よぉ~し。この辺りで降ろすか」
半透明でドーム状の結界を見付け、手前ギリギリで二人を棺と化した自身からゆっくり降ろし、後は手で結界の範囲内へと押し込む。
「ゼロ……と、言ったな。オメガゼロを助けれるかもっ、知れない。情報を、知ってるんだが」
「ほう。それは確かに魅力的だ。が、確証はあるのか?」
「それは、判らない。未来寧や其処で気を失ってる兵士長の孫娘が調べたらしくてな」
「ふむ。その二人なら信用出来るな……」
立ち去ろうとした光へ向け、仰向けのまま話し掛け情報を提供するも、確固たる確証があるかどうか、終焉自身は知らない。
それでも発見した女性陣の名前を聞き、信用出来ない情報から半信半疑程度は信用出来る情報へアップ。
「判った、ソレはお前さんに任せる。だが、俺達も何時まで持ち堪えれるか判らん。速急にしろよ」
「あぁ。任せろ」
女性陣を信用し、何が手助けとなるか判らないながらも手助け案件を託し、自身はいち速く戦闘現場へと戻って行く。
残された終焉はゆかりを背負い、学園に在るであろう保健室へと走って行く。
「任せろ……か。本には全く興味無かったから、断片的にしか覚えてねぇぞ」
勢いと場の空気に押され、安易に引き受けてしまった事を後悔。他の連中が居るから平気だと言う思い込みも手伝ってか。
堕ちしモノ、マコト、心の臓位しか覚えていない。ゆかりを起こそうと頬を軽く叩いてみるも、全く起きない。
「そうだ、未来! アイツなら何か知ってる筈だ。あの悪魔に関する巻物を図書館から持って来てたしな」
「お使いの電話は電源が入っていないか、電波の……」
「クッソ。電波が通じないのは、あの蝗共の所為か!?」
今欲しい情報を知るもう一人を思い出し、慌てて起き上がりズボンのポケットから携帯電話を取り出して連絡を入れるが――
肝心の電波は空を飛び交い覆う蝗達が羽音で妨害して通じず、打つ手無しかと思い、アスファルトの地面を両拳で強く叩く。
「……ん? メール機能が勝手に」
携帯の画面がスリープモードへ移った直後、もう一度画面に光が点き、勝手にメールアプリが起動。
「君が知りたい情報、及び現場を教えよう」タイミング的に良過ぎて怪しさが増し半信半疑気味。
続いて知らない動画が再生されたが、その内容は心情ゆかりが魔法研究室から出て来て、花一華学園の女校長と話している光景。
最後に断片的に覚えていた情報、何をすれば良いか、自身は何者かを書き、その後は勝手に動かなくなった。
「信じるか否かは、俺に任せる……ってか」
「おぉ~い、終焉! お前さんも避難して来たのか」
「あぁ、そうだ。それとこの子を頼む。俺はやる事があるんでな」
「お、おい、終焉!!」
味方かどうか判らない自身を、ゼロと言う光は信じてくれた。ならば、自身もこの書き込まれた内容を信じよう。
携帯をポケットへ入れると、同僚の兵士に声を掛けられ、未だに目を覚まさぬゆかりを預け、呼び止めも無視して学園内へ入って行った。




