赤黒い龍神
『前回のあらすじ』
誘拐された仲間と最後の融合パートナーを探すべく、次なる目的地をフォー・シーズンズと決めた一行。
全滅を防ぐべく会議を開き、自由に意見や主張を言い対策を決め合う。
会議を終え、差し入れをくれるニーア。エリネは貴紀の異性に対する態度に吼える。
三車両・倉庫に設置されたゲートに、コンテナの中で見付けた緑色の鍵を差し込むと──眩い光と衝撃波に呑まれた。
ゲートの発する閃光と衝撃波を受けて、どれ程意識を失っていたんだろうか?
重い瞼を開けど、視界に映る光景は変わらない。ゼロライナーの食糧や武装を収納する倉庫の三両車だ。
「みんな……無事か?」
(アァ──俺達ハ無事ダ)
(何はともあれ、現状確認が最優先だな)
寝ていた体を起こし、呼び掛けるといつも通りの返事が帰って来て内心、安堵の溜め息を吐く。
車内を調べ、約一名を除き全員居る事を確認した後。汽車から降り、外の景色を見回す。
「余り……変わった様子は無いな」
「えぇ。スピラ火山へ集中する、不自然な魔力の流れを除いてね」
ポツリと呟いた言葉に補足をする形で隣に立ち、同じくスピラ火山を眺めて喋るアイ・アインス。
螺旋を描く様に、火山へと何かをゆっくり集めている。魔力や霊力ではない……けど。
極僅かに、されど確実に、自分からも何かが吸い出され始めている。
「アイ、感じるか?」
「勿論。どうやら今回も、相当厄介な異変が起きてるみたいね」
此処で突っ立って居ても、何も解決しない。
フュージョン・フォンを取り出し、現在地を確認。
どうやら幸いな事に、フォー・シーズンズの近くらしい。まあ、近くと一言に言っても。
足の早い乗り物を使えば──の話。当初の予定通り、ゼロライナーで突入する他ないんだがな。
「行くんでしょ?」
「当然」
「なら、早く動かしなさい。説明は私がしておくから」
此方の考えを察知したのか。話し掛けられるも他に選択肢は無く、言葉を返す。
そっと背中を押す様に言い、面倒を引き受けてくれたアイ。もとい……這い寄る混沌に頷く。
操縦席へ座り、各種スイッチを入れ、レバーを引いて出発。煙突から蒸気を噴出し、汽車が走る。
「加速完了。フォー・シーズンズまで七百……四百……百、突入開始!」
加速を始めたゼロライナーは目的地への距離を一気に詰め、侵入者探知用結界を突破。
これで各龍神族の長に、出入りした者が居ると報告が飛んだ筈。問題は此処から──っ!?
突然大きく汽車が揺れ、小型流星群でも降り注いでるのか!? と言いたくなる程の連続した爆発。
「たっ……貴君。て、敵襲!!」
「琴音、志桜里、防御展開! エリネ、蒸気の煙幕を出ると共に屈折の準備!! ヴァイス、敵は何処だ!」
「敵数は一つ。この反応……真上!?」
操縦室のマイクから聞こえる、揺れ動く車内からヴァイスの報告。それは、予想通りの襲撃。
急いでマイクを取り、車内放送で各々に指示を出す。幾ら何でも、龍族の攻撃はそう何発も受けれん。
何処から攻撃を受けているのか、敵は何処か聞いた直後。先程より強い振動が汽車を揺れ動かす。
(一体だけなら俺とルシファーが出る。宿主様、良いだろ?)
「あぁ、頼む。俯瞰視点、起動……高度千二百メートルから降下中。色は──赤黒?!」
(なンにせよ。叩き落としてやンぜ!)
ウォッチから発せられるゼロの言葉に頼もしさを覚え、右目で俯瞰視点を発動。
フォー・シーズンズ全体を斜め上から俯瞰。相手の高等と行動、色を確認。
……ちょっと待て。何故高度が分かった? それは兎も角、汽笛を鳴らす紐を強く引き、音を鳴らす。
同時に蒸気を最大噴出。煙幕を作り、紫と青の光が左腕から飛び出す援護と、エリネへ向けた合図。
「煙幕か。だが、その速度では直ぐに煙幕を突き抜け──!!」
「やれやれ。これだから無駄に年若い龍神族は……」
俯瞰視点を絞り、東洋と言うより西洋の竜らしき赤黒い龍神と、ルシファーを視認。
突然の出現に虚を突かれた様で、身動きを止めたその上空から、クロスチョップの構えで降下するゼロ。
一瞬反応が遅れ、首に直撃。姿勢を変え龍神の首へ両足を巻き付け、空中大回転しながら地上へ落下。
汽車すら揺れる程の振動を起こし、フィニッシュを決めた様子。右人差し指を天に伸ばし大満足な様子。
「一・二・三、ダァー!!」
「今の試合、どう思いますか。解説のルシファーさん」
「不意打ちで怯ませ、大技で決める。仮に立ち上がれても、特に首は相当キツいだろうな」
勝利宣言なのか。満足げに某プロレスラーを真似て吠える姿を眺めつつ、ルシファーの隣へ立ち。
実況紛いをしてる辺り、いつ頃から慣れてしまったのかな? なんて思ってしまう。
「しかし……赤黒い龍神族とは。混血の新種、もしくは病魔に犯された個体か?」
「ンな事より、宿主様。さっさと離れようぜ」
確かに、赤黒い龍神族を昔は見なかった。知る限りじゃ紅・青・緑・黄・黒の五色だけ。
でも紅は……二千年より前に絶滅している。確認出来てる限りだと、純血は紅絆ただ一人。
考えられるのは──まあ何はともあれ、さっさと移動すべく、ゼロライナーへ乗車&出発。
「にしても……予想より損害や敵の数が異常に少なかったわね」
「偵察の可能性も、捨て切れないけどな」
操縦室にアイとヴァイスが入って来たから、ちょっとした意見交換を行っている。
予想では最低でも四体、最大で一師団だったが故に、拍子抜けって気持ちもあるけれど。
もしかしたら会わない内に、戦術とかを変えた可能性も否定出来ない。
「なぁ。龍神はんって、みんなあんな感じなん?」
「短気や狂暴な奴がいる様に、龍神族も一枚岩じゃないのよ」
「同じ種族でも、問題は起き続ける。そう言う意味では、何処も一緒さ」
種族間は違えども、起きる問題は大抵何処も似たり寄ったりが多い。
まあ、異文化コミュニケーションとかになると、お互いにカルチャーショックはあるし。
それが原因で戦争やら何やらってのも、割りとあるある過ぎて笑い話にもならん。
「取り敢えず予定通り、青が住む冬エリアへ向かってるけど……ヴァイス」
「なんや?」
「乗組員全員に防寒装備着用と徹底した戸締まりを伝えた上、貴女の目で確認を」
「はいな!」
名前を呼ばれて首を傾げたり、指示を受ければ姿勢正しく元気の良い返事を返す辺り。
子供っぽくも素直で良い子だよ。願わくば、君の人生が輝かしく素晴らしいモノであって欲しい。
ヴァイスが出て行ったのを見送り、少し間が空いた。別に幽霊が通ったとかじゃ、ないんだがな。
「龍神族の件、貴紀はどう見る?」
「数の低下、もしくは現在進行形で何か起きてる……が妥当じゃないのか?」
龍族はエルフの上位・ハイエルフよりも長生きで、出産数もエルフ系統よりは上。
でも人間に限らず、魔族も龍種の卵を狙う傾向にある。食用やペット、乗り物として育てたり──な。
そう言う意味でも、龍が一部の命を除いて嫌ったり襲ったりするのも、納得が行く話ではある。
「もし前者なら、人類の大多数には滅びて貰うとして……後者の場合は、どうするの?」
「首を突っ込む他あるまい。少なくとも龍神・紅一族の関係者だしな」
「それは構わないけどね。仮に龍神族と戦う場合、貴方達の対抗策が少ない事。重々理解しておいてね」
何気なく物騒な発言はあれど、これも種族間や認識などの違いから来るモノ──否定はしないけどな。
それはさて置き。今の自分達は龍神族と対峙した場合、対抗出来る面々がほぼ居ない。
蜥蜴人を超える硬度の鱗、属性を宿した厄介なブレス。飛行能力に様々な魔法。
数えれば切りがなく、英雄譚などに出るのも納得。人間やそこら辺の種族が勝てるって方がおかしい。
「まあそん時ゃあ、序章で終わった改造兵士・レベルⅢが如くやりゃあ良いんですよ」
「あぁ、脊髄引っこ抜きか。確かにアレなら効果はありそうだ」
マニア向けの話をする中。仕事中の姿からオフの姿に戻ってる事は……敢えて突っ込まない。
そんな話をしていたら、急に冷えて来た。そろそろ青い龍神族の領域・ヴィンターへ近付いてる様だ。
正直な話、ガッデムコールド。寒いのは苦手だ……メンタルも不安定になるし。
「報告と戸締まりの確認完了や! 貴君にもな、オーバーコートっちゅうのを持って来たったで~!」
「ナイスタイミング。そら、見えて来たぞ。青き龍神族の都・ヴィンターアイランドだ」
猛吹雪が窓に叩き付けられる度、ワイパーが動いては雪を退かす先に。
遠目ながらも僅かに見える広大な湖と、其処に存在する三つの島々。
持って来てくれた防寒着に急いで着替え、雪が積もった土地と言うのも含め、早めにブレーキを掛ける。
「ちょちょちょっ!? 止まるの早ない?!」
「寧ろ遅い方ですよ。この先、下り坂ですから」
「仮に止まれても、下り坂の先は道が無いんたが──な!!」
真夜の言う通り、少しブレーキが遅かった。三車両目までもが急な下り坂を降りていて。
重量に引っ張られる形で急流滑りの如く降りて行く。この猛吹雪で飛行は無理、坂の先は湖。
ゼロライナーに水中潜行装備は無い。仲間達の命を優先し、脱出を指示しようとした時……
突然車両が浮かび上がり、ヴィンターアイランドへと運ばれて行く。
「も、もしかして……ウチら、侵入者として捕まったンやろうか?!」
「ハッハッハ。まあ、そん時ゃあそん時ですよ」
「仮にそうだとしたら自分。人類、ドワーフに続き三回目なんだがな」
未知なる体験と不安から目を回し、ややパニック状態になってるヴァイスと。
対極的にカンラカンラと笑う真夜。自分も愚痴を言う辺り、腹括って観念してるのかもな。




