エリネ -Rufen-
『前回のあらすじ』
魔神王軍から国王とオメガゼロ・エックスの身柄を交換する提案を出される。
オラシオンと他の面々は各々決断を示し、拠点・仕えていたヴォール王国から離れ、正式に貴紀の仲間入りを果たす。
放棄する拠点からゼロライナーへ荷物を移し、必要な物資の買い出しをニーアと二人で行っている時。
預言者兼裁定者のアンパイアと再会し預言を受ける。立ち去る彼に恐怖を感じ、ニーアは動けなくなる。
昨日は色々とやる事、新しい発見もあった。一日を終え、翌朝になってしみじみとそう思う。
取り敢えずまあ、ゼロライナーの修理と積み込み作業は終わった。今は四両車でみんな揃って朝食。
「く、紅君……大丈夫?」
「そうだぜ。もっと食べなきゃ、三勢力の連中に力負けしちまうぞ?」
「えっ? そっち!?」
焼き魚に玄米と味噌汁、沢庵に漬け物──特盛和定食を三人前完食後、ゆかりにお腹を心配された。
正直、全然物足りないと思っていたら、ゼロから別方向の心配をされ、驚愕するゆかり達。
ヴァイスやエリネ、ライチとニーア……まあ、余り関わりの無い面々は驚いている様子。
「で──これから行く先なんだが」
話は朝食の量から今後の行き先へ。次に行くのは勿論……可能な限り行きたくない場所の一つ。
「次の目的地はスピラ火山。トリスティス大陸の鉱山とはまた違った、特殊な場所だ」
「別名、龍の聖地。人間は先ず入ろうともちない、四季が分断された場所でちゅ」
「な、なんか……凄い場所だね」
スピラ火山──とは言ったが、正確にはフォー・シーズンズの一部って言うのが正解。
それぞれ分かれた季節の場所に、一つの龍神族が住んでいる。そして……この体の父・紅心の故郷。
多分、其処に最後の融合パートナー・紅絆も居る筈。火山から天界へ昇って、大冒険もしたなぁ。
「改めて言うが、エリネ。突入する際、一番の要になるのは君だ」
「はいでしゅ! あたち、バトルはお役にたてまちぇんが、指示通りに頑張りまちゅ!」
突入するのに一番厄介なのが、領土へ一歩でも踏み込めば即座に探知される点だ。
これはフォー・シーズンズに結界が張られている為で、探知自体は出入りする時だけ。
その隙を突き、エリネのスキル・屈折で位置を誤認させ、紅か青の陣営まで強行突破する。
「それと、エリネ。みんなの前でもう一度頼む。リグレットがどうなったか、話してくれ」
「はいでしゅ……突然侵入して来た白兎しゃんからあたち達を逃す為に、山の方へ連れてかれて」
「っ……許せない」
一応昨日聞いたのだが、皆にも知っておいて貰おうと思い。エリネには申し訳ないが、話して貰った。
話を聞く限り、リグレットを拉致したのは白兎で間違いない。しかし……何の目的があって?
それとゆかりが怒りを表に出しているのも、何か珍しい。白兎と何かあったのだろうか?
「次の話は此処までだ。後は作戦会議室で、突入後の動きなどを話すぞ」
「だな。非戦闘員代表として、ニーア。悪いけど、参加して貰えるかな?」
「分かった。医療側としても、現地の情報は必要不可欠」
そんな空気を断つ様に手を叩く大きな音が二回程鳴り響き、注目を集める。
ルシファーは話を切り上げ、話題を突入作戦からその先へと移したかった様子。
自分もそれには賛成と言うのもあり、医療関係者としてニーアにも同席を頼むと、すんなりと了承。
そのまま二両車目に移動。フォー・シーズンズの地図が置かれた円卓を囲み、会議が始まる。
「先ず突入時の探知回避は不能。極めて低いが何もなければスピラ火山へ直行、反応があれば対応する」
始まりはしたが……毎度毎度、これが心臓に悪くて敵わん。取り敢えず、何もなかった時の目的地。
来るなら対処。だけど……こんなもん、大抵の人が思い付く最低限レベルのスタート。そして──
「仮に攻撃を受けるとして。エリネのスキル・屈折は広範囲系に弱いけど、その点はどう補う気?」
「それは」
「それは龍の色次第だな。紅なら貴紀、黒なら俺。各々色に対応させ、臨機応変に対応すべきだろう」
可能性が高い出来事から、順次処理して行くんだけどさ。みんな頭の回転が早くて早くて……
アイから見解を求められ、内心パニックになりつつも答えようとするが──ルシファーに先を越され。
「かちぇちゅ拠点としては、何処を選ぶべきでちゅかね?」
「綺麗な水がある夏エリアが第一候補。時点で秋・春・冬の順に優先すべき」
最終的には発言する前に的確な答えが出て、意見を出すに出せない状態になる。
なら発言しなきゃ良いじゃん? って思うけど、そうしてると名指しで指名してくるんよね。
常に思考はフル回転させて、自分が思い付かない・不足してる意見を学ぶしかない。
そう言う意味でも、心臓に悪い。が、こうして他の人達と意見を交わすのは、学びがとても多くて助かる。
「貴紀。この状況を打破するのに、貴方から何か意見はある?」
そら来た、アイの質問。周囲の面々から視線を向けられ、地図の盤面──置かれた駒に目を向ける。
状況としてはゼロライナーは地上で、四方を支え棒の先に付いた龍神達。恐らく飛行状態だろう。
これらに囲まれ、言わば詰み状態。戦力は非戦闘員のみ……となれば、助かる道は思い付く限りは一つ。
「エリネのスキル・天使の唄を龍神達に使用。発動する効果は──混乱。その間に煙幕を使い逃走が良いかと」
「なら、逃走する先は?」
「友好的な青の住む冬エリア。もしくは理解力のある緑が住む春エリアを選択する」
アイが会議などで自分に質問を投げ掛ける時は、ちゃんと理解しているかの確認。
仲間や同行者のスキルや得手不得手、人間関係などを把握してるか否かのテスト。
とは言え……戦場ってのは生き物だ。常に顔を変える為、策も何重にも練らなきゃ飲み込まれて終わりだ。
「それじゃ、これにて今回の作戦会議は終了。次回は突入作戦の完了後、セーフティーポイントにて」
漸く終了……体感的に何時間も経過した感覚だよ。重圧って言う概念は何度体験しても慣れん。
他の面々が退室する中。疲れ果て、机に伏せている自分に近付く二人。
「お疲れ様」
「お疲れ様でちゅ」
「お、お疲れ……さま」
労いの言葉を頂くも元気が出ず、体を起こしてニーアとエリネの二人に、挨拶を返すのが精一杯。
それを見て、ニーアが机に置いたのは緑茶と……胡桃味噌田楽の二つ。
緑茶は体、胡桃味噌田楽は脳の疲労回復に良い物。こう言う差し入れは本当に有り難い。
「疲労回復には丁度良いから、食べておいて」
「お、おう」
緑茶は水筒さえ有れば……だけど、スッと出されたこの食べ物は、携帯してるんだろうか?
そんな事を思いながら田楽に爪楊枝を刺して食べる。うん、砕いた胡桃と生味噌が田楽に合うね。
「ニーアはこう言う情報も知ってるんだな」
「当然」
「えっ!?」
「毎日の健康は適度な食事・運動・睡眠。特に食事は食べ合わせも重要、媚薬や毒にも成りえる」
女医と言うだけに医学系は知ってる的な認識だけど、まさか食材の組み合わせまで知ってるとは……
極々当たり前に当然。と言い放つニーアに対し、エリネはそれって当たり前なの?! 的な感じに驚く。
食べ合わせ云々や、毒に成りえるのは自分も少しは知ってる。でも、媚薬にも成るってのは……初耳。
「で、でもご主人ちゃま! まだ話ちてないあたちのスキル、よく知ってまちたね!」
「ん? あぁ。昨日、ニーアから教えて貰ったんだ」
話題を逸らす様に、自身のまだ教えてないスキルを知ってた事が、嬉しかったんだと思う。
けど、言っちゃあ悪いが──君を危険視してるニーアから、スキルを事細かに聞いたんよ。
そりゃあ……嫌な事やトラウマとかを消し去るのに対価で良い記憶を失うとか。
傷を癒す歌の種類に、腹空かせたり全裸で踊らせたりとかさ……そう言うのは確かに、危険視されるな。
「それじゃ、私は仮設医務スペースを作る準備に取り掛かるから」
「悪いな、車両が足りなくて。仮設スペースなら、この二両車の左半分を使ってくれ」
そう言い、後部車両の倉庫へと向かうニーアに言葉を投げ掛ける。……聞こえてれば良いが。
振り返ればエリネがムスッと頬を膨らませ、此方を見上げていた。また、このパターンか……
「お兄ちゃま……いつまで分かってない振りをしてるんでちゅか!!」
「エリ……ネ?」
「おらちおんのみんなや、周りに居る人達も! 少なからず、お兄ちゃまに好意を寄ちぇているんでちゅよ!?」
拗ねているのかと思いきや。突然言い寄る形で叫び、怒られ、思わずたじろいでしまった。
天使と言う種族故か。普段は誰かの不幸を泣き、幸せに笑顔を向け、時には子供らしく拗ねたり。
そんな一面しか知らないエリネに事実を訴え掛けられ、頭が少し……フリーズしていた。
「本当に気付いてないなら兎も角。お兄ちゃまがやってるのは、明確な悪い事でちゅ!」
叫ぶ言葉や内容も──全部分かっている、理解出来ている。その結果や結末も、全て。
それでも、だからこそ。その好意全てに、応えてやる事は出来ない。仮に応えたとしたら、それは……
それはもう──桔梗達と絆を紡ぎ、冒険したあの日々と同じ過ちを繰り返すだけなんだよ。
「正直……悪いと思ってる。けど、夢に思いを馳せるのも良いが、皆には現実と向き合って欲しいんだ」
「お兄……ちゃま? 何を──言ってるん、でちゅか?」
「何、若い内の苦労は後々為になる。って話さ」
結果の見えている勝負程、面白くないモノはそうない。結果が不透明だからこそ、やる気が湧き。
勝とうとする意気込みすら出る訳だ。夢を追い掛けるのを悪い──とは言わないけどな。
一部を除き、悲しませてしまう結果が見えてるのもあり。自分は……皆の気持ちに応えられずにいる。
何はともあれ。若い内に苦労するからこそ、その痛みや苦しみ、回避すべき道筋が見えるってのもあるな。
「さて。そろそろ出発の準備も含めて、倉庫に行きますかね」
話を区切り、終わらせてから緑茶を一気に飲み干し、席を立つ。
これ以上追求されるのも、変にボロを出しそうで怖いしな。その足で後部車両・三両車へ移動。
以前、峰平進が隠れていたコンテナを覗くと──あった。ゲートの鍵穴に差し込む大きな緑色の鍵。
「アンパイアの奴……何処まで見えてるんだか」
「何はともあれ。これでケーフィヒ地方の冒険は終わりだな、宿主様」
「さてはて、緑の鍵はいつの時代・どの地方へ飛ばしてくれるのやら。王よ、今の内に気を引き締めろ」
必要物資のチェックと移動を行っていたゼロとルシファーも、自分が拾った鍵が気になるらしく。
今回の旅の終わりと、新しい旅の始まりにワクワクしている様子。かく言う自分も、少し。
二両目へ続く通路の横壁に張り付けたゲートに近付き、鍵を掲げてみたら──
「四時の方に刺さった」
「光が向かう方向は……八時か」
鍵は自ら意思を持つかの如く浮かび上がり、吸い込まれる様に四時の鍵穴へと入り、ロックを外す。
一本目の赤い鍵は十二時から三時、二本目の青が二時から四時へ。三本目の黄色が十時から二時。
そして今回が四時から八時へと、光の線が伸びている。これには何か、法則性があるのか?
そしてゲートの中央が黄色へ。すると眩しい閃光と強い衝撃波を放ち、自分達は吹っ飛ばされた。
「君がやるべき事は、本当は何だろう? 言われた事をやるだけが、やるべき事なんだろうか?」
薄れ行く意識の中。白虎のお面を被った子供が自分にそう問い掛ける。
副王の言う魔神王を倒せ──は指示を受け、成し遂げる事。それとは違い、自身が本当にやるべき事……
親友との約束を果たし、故郷へ帰る。うん……忘れてないよ。必ず、助け出してみせるから。
『特盛和定食』
超大食い専用メニューの一つ。
五十センチの魚を丸焼きにした焼き魚、丼に山の如く盛り上げた玄米、丼器に注がれた味噌汁、太い大根を丸々一つ沢庵にした漬け物。
焼き魚は仕入れ次第で種類に変更あり、米・漬け物は種類や量の変更が可能。また、味噌汁は豚汁に変更も出来る。
因みにこれを平らげられるのは、紅貴紀とその融合パートナーである紅絆、賢狼愛、天皇恋、天野川静久。それとゼロ、ルシファー、霊華。
勇者候補生のルージュ・スターチス、真夜、紅瑠美、無月終焉、心情ゆかり、マキナ・オブ・シュナイダー・エックスの十四名だけ。
今回のお話で三章・alternative answerの物語は終わりになり、四章へと続きます。
次回は恒例の閑話を二話、お届け致します。四章の物語は今暫し、お待ちください。




