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ワールドロード  作者: オメガ
三章・alternative answer
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峰平歩 -Let's stay together-

 『前回のあらすじ』

 ジャックされたゼロライナーにライチと潜入するも、中はもぬけの殻。されど何も盗まれてはいない模様。

 倉庫に戻り物音の発生源を調べて、峰平進と再会。ヴォール王国に行った弟の歩を助けてくれと頼まれるも、これを拒否。

 いつの間にか乗車していた預言者・アンパイアの言葉に乗せられ、ヴォール王国へと向かうも。

 終焉の黒龍から襲撃を受け、不時着。王国へ入る前に預言を受け、盾銀貨を左胸ポケットに入れ突入する。


 王国の中へ突入したが……十三年前、魔神王軍(レヴェリー)アイツ(ベーゼレブル)が此処、ヴォール王国へ襲撃した時と同じく。

 民家は崩れて半壊に。木造の建物には火が燃え移り、この王国の空を黒煙で多い尽くしている程。


「阿鼻叫喚の地獄絵図だな……っ!」


 今も戦闘が続いているのか、高く鳴り響く金属音と魔物や兵達の断末魔が聞こえてくる。

 そんな中。今にも掻き消されそうな、助けを求める声を聞き、瓦礫を退かすと……母親が赤ん坊を抱き締め。

 目と口パクで、自身より子を救って欲しい。そう訴え掛ける母親に心突き動かされ。

 下半身に乗った分厚い屋根を退かし、応急手当てとして親子に緋色の魔力を照射。


「早く避難を」


 予想以上の恐怖体験をして、声が出せないのだろう。母親は涙を滲ませながら、何度も頭を下げた後。

 地獄絵図の中へと走って行く先には確か、協会が在る。恐らく、其処をシェルターにしてるんだろう。


(あゆむ)! 何処だ!? 何処に居るんだ歩!」


「おい馬鹿止めろ! こんな所で大声なんか出したら……」


(来ルゾ! ソノ数……百!)


 未だ戦闘中の真っ只中、迂闊を通り越して馬鹿な程の大声で弟の名前を呼ぶ峰平進。

 左足を怪我してる癖に無茶を……その馬鹿デカイ大声に反応して、小鬼(ゴブリン)とオークの団体が集まる。

 無駄に生命力の高い連中だ。頭潰さなきゃ生き残る時もあり、復讐(リベンジ)の元にもなりかねん。


「しゃあない……シーミシッサ(やってやるぜ)!」


(敵ノ種類ト数ガ問題ダ。一撃デ仕留メルゾ!)


「コード・ゲイボルグ!」


 ルシファーの提案を受け入れ、彼自身を左手に集中。頭の中で形状と効果を強くイメージ。

 稲妻の様な切れ込みのある独特な槍。敵の心臓を確実に貫く呪いの朱槍に形状を変化させ──軍団へ投擲。

 すると朱槍は時に一直線、軌道変更時には滅茶苦茶な軌道を描き、次々と敵の左胸を貫き、手元へ帰還。


「心臓を確実に貫く呪いと、刺さった直後に棘が飛び出す能力。不死や特殊な奴以外は即死だな」


(ソウ言ウ槍ダカラナ)


「……戦闘音が鳴り止んだな。侵入した奴らを全部倒し──あの異様な炎上はなんだ?!」


 呪いの朱槍を使った感想を述べている内に、鳴り響いていた戦闘音はいつも何やら終わっており。

 その代わり、他の火災場よりも目立つ程に燃え上がる火災現場を発見。鎮火も含めて駆け寄ると──

 赤い長髪の男装した人物の背中が見え、燃え盛る何かの山の前で両手を上げ、何やら行っている様子。


「エロイムエッサイム……さあ呪文を」


「唱えとる場合かーー!!」


 駆け寄った勢いのまま、ハリセンに変化したルシファーを手に後頭部を叩いた。しまった……つい癖で。

 よくよく視ると炎の燃料になっているのは、自分達が倒した軍団とは違う、別動隊らしい魔物化した昆虫達。

 いわゆる火葬の真っ只中だった様子。いや、儀式召喚の可能性も否定出来んな。


「少年。ツッコミを入れる時は、基本的に相方の左側に立つべき」


「そうそう。ツッコミを入れる時は相方との立ち位置が重要……ってなんでやねん! それは利き手の関係上やろ!」


 此方を振り向きながら言う、ある意味そうじゃない的な発言に。

 思わずノリツッコミをしてしまったが……まあ、こう言う事が出来る内は、まだ元気が残ってる証拠か?


「と言うか……おはよう。で、いいのか?」


「ん──それであってる。少年が居なくなってから、ちょっぴり寝てたから」


 目の前に居る赤い長髪の少女……を真似た、サラリーマン姿の存在は、生ける炎・クトゥグアの紅瑠美。

 特攻技・コロナバーンを教えてくれた先生でもあり、同時に頭のネジが幾つか外れた常識外れな奴。

 と言うより、約五千年をちょっぴり寝てたと言う辺り。明確な寿命の違いを感じるな。


「うお座の瞳が輝いたから、赤い炎をくぐって馳せ参じた……」


「そこは獅子じゃないんかい! で、避難民は何処に居るんだ?」


「教会の中。でも、ちょっと空気が悪い……」


 ちょっとしたボケとツッコミを交わし、避難した人達の避難場所を聞くと──やはり教会。

 空気が悪いのはまあ、こう言う状態だからな。ストレスが急激に溜まり易く、ガス抜きがし難い。

 仮に今教会へ入れば、矛先は自分に向くだろう。預言者が言ってた忠告は、そう言う意味かも知れん。


「居たぞ! 此方だー!」


「おぉ、貴紀殿! よくぞ無事で──」


 深緑の装備を着込んだヴォール王国の歩兵が残骸で隠れた角から現れ、此方を見付けた途端大声を上げ。

 別行動で王国防衛に専念していたベビド兵士長も現れ、少しの安心感と事情を説明する不安を覚えた時。


「撃てーっ!!」


 一人の歩兵の、発砲を許可する発言が──炎と暗雲に包まれた空に響いた途端。

 追加の歩兵が三人程ベビド兵士長の前に現れ、四人が此方に向けて鉄砲を連続発射。

 慌てて腕を交差させ、魔力障壁を張るも……銃弾はいとも簡単に貫き、右腕や腹部、左足に命中。

 左膝を着くと、歩兵四人は大層喜んでいるらしい。これは……一体、どう言う事だ?


「少年!」


「貴様ら、一体何をして──ぬぅ……いつの間に」


 駆け寄る久留美。ベビド兵士長が歩兵達に叱咤で強く叩けば、転けると共にヘルメットが脱げ。

 撃つ様指示を出した歩兵の後頭部が左右に開き──丸見えの脳味噌に絡み付く植物の蔓が見えた。

 コイツら……ストレンジ王国の、ヴルトゥームや調律者姉妹に改造された国民か。ならあの銃も、十中八九……


「オメガゼロ・エックス!! 貴様さえ居なければ、我らは最高の暮らしを永遠に続けられたモノ──をぉぉ!?」


「炎上はネットや発言ではなく、戦闘で傷付いたロボットであるのが一番のロマン……」


「青い……炎、じゃと!?」


 己が主張を声高に言うも、言い切る前に成り済ましたストレンジ王国の民は、青い炎に包まれて焼死。

 その余波が周囲に放たれるが……それだけで汗が止まらず、周りの赤い炎が生温く感じてしまう程の熱量。


「夢を夢で終わらせない……それが私だ、クトゥグアマーーン」


「何でもネタを混ぜれば良いってもんじゃないぞ……」


「おぉ、貴紀殿。無理はせん方がいい、肩を貸そう」


 CMやらアニメのOPだの、色々混ぜたら分からんと思ったのか。そんな事を言い放つ中。

 右足に力を込め、立ち上がろうとするもなかなか立てず、駆け寄るベビド兵士長に肩を借りて立ち上がる。


「そう言えば……カメラを持った子が、魔物達や今の連中に追い掛けられてた」


 何かを思い出したように、ポツリと呟いた言葉の中に、気になるワードがあった。

 カメラを持った子……峰平進は弟に自身のカメラを渡してあり、自分達よりも早く、此処へ来ている。

 追い掛けられていた。と言う事は、まだ生きている可能性が高く、魔神王軍か調律者勢力に取って。

 何か重要な秘密を偶然にも、カメラに収めてしまったのかも。うん……探してみるか。


「紅瑠美。その人物が通った場所を案内してくれるか?」


「勿論。でも……」


「はいはい。リクエストした料理を一品、だろ?」


 唯一の目撃者である紅瑠美に、見掛けた現場へ案内を頼むが……等価交換と言いたげに言い渋り。

 求める言葉を言えば、好物を目の当たりにしたお子様よろしく、目を輝かせて首を縦に降った。

 肩を借りたまま、目撃現場へ案内して貰うと──左目だけの光景がまた、変化する。


『はぁ、はぁ……っ。ぐ、偶然とは言え、物凄い特ダネを録音出来た上、証拠写真も撮れた』


『居たぞー!! アルファ様の為だ、生死は問わん! あの者を討ち取れ!』


『融合四天王・ブレイブ様のご命令だ!! 小鬼共、あの者を生け捕りにしろ!』


 自分から見てT字の左側から息を切らしつつ走って来ては、満足げな表情で喜ぶ峰平歩。

 首から紐でぶら下げた黒くゴツいカメラを右手で、左手には小型ボイスレコーダーを持っている。

 大声を上げ後を追って来るのは、ヴォール王国の兵士に変装したストレンジ王国の国民十人と。

 隊長オークが率いる十六匹の小鬼部隊。たった一人にそれ程の人員を投入する辺り、本気なのが分かる。


『兄さんはいつも、こんな目に逢ってるんだろうか? それは兎も角、一刻も早く何処かへ逃げなきゃ!』


「……追い掛けてみるか」


 右側へ逃亡し追い掛けられるのを見て、自分も負傷したままの足で追い掛ける。

 先ずは右、その先の十字路を左。大通りの噴水広場を真っ直ぐ通り抜け、ゴミ収集置き場へ。

 此処は各種ゴミを分別して置いているのだが……袋は破けて火も燃え移り、異臭と炎が邪魔で探知し辛い。


『見失った……周りを探せ! 焼死体でも良い。証拠を見付け、確認せよ!』


『何? 顔の判別は出来ないが、奴の焼死らしき衣服や持ち物を見付けた? よし、戻るぞ』


 捜索してる間は加速されているが、近くの時計台を視るに三十分は経っているのだろう。

 全身が焼け、判別も出来ぬ焼死を担ぎ、鞄やゴツいカメラ等を持って来る小鬼達の報告に満足したのか。

 隊長オークと小鬼部隊、ストレンジ王国の民達は撤収して行く。燃え盛る炎の幻影をすり抜けて行くと……


『上手く行った……みたいだね。上着と鞄、予備のカメラは痛い損失だったけど』


 裏路地で壁に凭れ、座り込む彼を発見。どうやら、此処で働いてた方の焼死体を利用した様子。

 だが……それは『左目』が見ている過去の出来事。現実を見ている右目は、峰平歩の死体を映している。


「死因は刀剣による心臓への一撃……っ!?」


 口や左胸から血を流し、血の水溜まりの中心で壁に凭れる彼に近付いて屈み。

 左手で傷口に触れる瞬間──意識が何かに引き寄せられる感覚に襲われ、我を取り戻せば。


『正直に言う。ストレンジ王国で見掛けた時は、障害にならぬ弱者と認識し……見逃していた』


『な、なら──今回も、私を見逃してくれるのかい?』


『否。男子三日会わざれば刮目して見よ……その通り、貴様の心と眼に燃え上がる炎。今消さねば、我らが障害となる……』


 弱者は眼中に無く、見逃していたと自白するシナナメ。彼女が彼の正面に立つ為、逃げ場は無い。

 仮に逃げても左右の通路は狭く、出入り口は燃え盛る炎に塞がれ、八方塞がり。

 けれど峰平歩の眼は死んでおらず、言葉巧みに切り抜けようとするも──それを見抜き、刀を引き抜く。


『最後に……貴殿の名を聞こう』


『ストレンジ王国の兄弟新聞記者にして、記事担当──峰平っ、すす……む』


「止めろ!! シナナメ!」


 刀を逆手持ちにし、頭上に上げたまま名を尋ねる。気圧されて意識が薄れつつあるのか、声は小さい。

 そんな峰平歩の心臓目掛け、上から刀を突き降ろす間に割って入り込むも……体を突き抜け、一刺し。


『峰平歩──強者の心を持ちしその名、しかと覚えた。去らばだ』


 そう言って刺した刀を抜くと同時に、噴水の如き血飛沫を浴びながら無表情のまま離れ。

 進路を遮る炎さえ刀で真っ二つに裂き、一度振り返ってから悠々と立ち去って行った。


『よ……かっ、た。おお、ゴミ……箱……証拠、隠し……』


「あの緑色の、人が隠れられそうな、大型ゴミ箱を言ってるのか?」


 油が切れたロボットの様に、ぎこちなく首を動かした視線の先には──野外用ゴミ箱がある。

 途切れ途切れな発言から、あの中に証拠を隠してあるらしい。急いで駆け寄り、中を開くと……

 大きなゴミ袋が三つもある。その左隅っこに彼が持っていたカメラと、ボイスレコーダーを発見。

 取り出すや否や、現実に引き戻されてしまった。が、彼が残した証拠はこの手にキチンとある。


「命懸けのバトン……か。峰平歩、君は魔神王軍が一人。三騎士・シナナメに勝ったんだ……凄まじい成果だ」


 武力もない一般人が、生涯を費やしても勝てない相手に、知恵と勇気でバトンを繋ぐ勝利をもぎ取った。

 素敵だ、素晴らしい!! 化物を倒すのは人間であるべきだ。そう『人間』はでなくてはならない!

 勇敢なる戦士へ黙祷を捧げ、その体に左手で触れ、感じる……彼の魂を。


「君の素晴らしい勇気を自分に──いや、俺に貸してくれ。そして共に行こう、戦いの先へ」




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